ZEALSとOmakase AIを1枚絵で描くストーリー
清水さんは10年前に株式会社ZEALSを創業し、チャットボットやチャットコマースの領域で業界ナンバーワンのシェアまで成長させました。しかし会社の志は一貫して「日本をぶち上げる」こと。そのためには「フロムジャパンで世界を取らないといけない」と考え、3年前にアメリカ進出を始めます。
そこでゼロからプロダクトを作り、生まれたのが音声AIエージェント「Omakase.ai」です。現在、清水さん自身はリソースの8〜9割をこのアメリカ事業とOmakase AIに割いており、日本の事業は仲間に背中を預けて引っ張ってもらっているといいます。
「会社を完全に分けて別物にするのではないか」という問いに対し、清水さんは「正解はない」と前置きしつつ、あえて一本のストーリーでつなげる意義を語ります。ZEALSが磨いてきたのは「人が持つ対話の力を機械に授ける」というコミュニケーションテクノロジーそのもの。チャットから音声、そしてロボットへとチャネルは変わっても、幹は変わらないという考えです。
コミュニケーションテクノロジー
「人が持つ対話の力を機械に授ける」という本質
チャット → 音声 → ロボット
チャットボット、Omakase AI(音声)、Omakase Roboticsへと進化
2026年には巨大な資金調達を計画中で、そこでも「ZEALSもOmakaseも、その先のOmakase Roboticsも含めた一連のストーリー」を通じて投資家に理解してもらうといいます。だからこそ会社を切り離すのではなく、子会社に分けつつも一本の物語として描くのが「ZEALSらしさ」だと語りました。
「おもてなし」を宿した接客AIとロボットの時代
Omakase AIを一言で表すなら「接客AI」。チャットでも音声でも、そしてロボットでも、接客というやり方をアップデートしていくのが狙いです。清水さんは日本の接客・おもてなし文化を「世界一」と評し、人手不足や少子高齢化が進むなかで、その素晴らしいカルチャーとテクノロジーを融合させて世界に展開すると語ります。
日本の素晴らしいおもてなしを宿した接客AI、これを日本、そして世界で展開していくんです。
清水さんが特に熱を込めて語るのが、10年前に夢見たロボットの進化です。かつて「コミュニケーションロボット」と呼ばれた製品は、実際にはコミュニケーションができなかったといいます。聞き取れない、聞き取っても誤認する、雑音があると話せない――。それが今では非常に自然な音声会話が実現できるようになりました。
加えてハードウェアのコスト低下も劇的です。二足歩行で動くBooster K1Booster社が開発するヒューマノイド型ロボット。清水さんによれば5,000ドルを切る価格で提供されているという。は5,000ドルを切り、Unitree G1中国のロボット企業Unitreeが開発する小型ヒューマノイドロボット。清水さんによれば最安モデルは数百万円で購入できるという。も最安モデルなら数百万円で買えるといいます。清水さんは「車が一億円では買えないが、数百万円になれば普及する」という例えで、価格低下が社会実装のカギだと指摘しました。
さらにモーションコントロール(ロボットの動作制御)のソフトウェアも進化しており、ペンシルベニア大学の博士たちが作ったオープンソースを組み込めば、シミュレーションから現実への学習が可能になるといいます。清水さんは、優秀なエンジニアと資金がフィジカルAIに「いびつに集まっている」と肌で感じており、2026年がその元年になる可能性を語りました。実際、ZEALSはシリコンバレーで開催されたヒューマノイドサミットに日本のスタートアップとして唯一出展し、世界初の接客OS「Omakase OS」のベータ版をローンチしたといいます。
目を持つマルチモーダル接客という進化
Omakase AIをウェブサイトに搭載するのと、ロボットに搭載するのは「次元が違う」と清水さんは言います。ウェブサイトではウィジェットを使えますが、ロボットはメーカーごとに規格がバラバラで、一つひとつに最適化しなければなりません。「Omakase OSさえ組み込めばどんなロボットでも接客できる」という汎用性を実現するため、地道な作業が求められます。
ロボット接客で特に重要になるのが「目(ビジョン)」です。目の前の人の表情や服装を認識しながら接客するため、音声とビジョンを組み合わせたマルチモーダルテキスト・音声・画像など複数の入力形式を同時に扱う技術のこと。ここでは音声会話と視覚認識を組み合わせた接客体験を指す。体験がマストになります。清水さんは、このOmakase OSで培ったマルチモーダル体験を、逆にウェブ版のOmakase AIにも搭載しようとしていると明かしました。
具体的には、ウェブサイト上にカメラボタンを設け、部屋を映せば「この空間に合うソファは?」と相談でき、自分の服装を映せば「これに合うジャケットは?」とスタイリストのように提案してもらえるといいます。家具選びやファッション、肌や髪のパーソナライズ、さらには配線のセッティング相談まで、ユースケースが一気に広がります。
音声の会話をしながら、同時にその目を持っているっていう体験を、スマホの上でも提供できるんですよね。
清水さんは「音声なんて使わない」といった厳しい意見も受けたことに触れつつ、必ずしも全員が悩みをきれいに言語化してチャットで質問するのが楽とは限らないと指摘します。柔らかく話す中で合わせてくれる方が楽な人も多く、そうしたユースケースにこそ音声、そしてマルチモーダルという突破口があると考えています。10年チャットボットをやってきたからこそ、チャットの良さも限界も理解した上での判断だといいます。
原体験:父の自己破産と「日本をぶち上げる」決心
圧倒的なバイタリティを持つ「Masaさん」はいつ生まれたのか。清水さんは1992年、岡山県倉敷市の生まれ。転機となったのは中学生の時、経営者だった父の自己破産でした。全く違う学校、違う場所へ引っ越すことになり、お金も環境もすべてが変わってしまったといいます。
「なんでこんなことになってんだ」という悔しさのなか、「普通では終われん」というフラストレーションを抱えるようになります。ただ、そこから特別な行動を起こしたわけではなく、工業高校に進学。18歳から地元の水島コンビナート岡山県倉敷市にある日本有数の大規模な工業地帯(石油化学コンビナート)。清水さんはこの地域の工場で働いていた。の工場で、ものづくりの現場で働き始めます。
言われたことをやり、決まったことをやらされ、「仕事つまらんな」と。「はよ土日ならんかな」と。
先輩たちを見れば、自分の25歳、30歳、35歳が容易に想像できてしまう。そんな悶々とした日々を送っていた18歳の頃、就職1年目が終わるタイミングで東日本大震災が起こります。「いつ死ぬかわからない」という現実を目の当たりにし、清水さんは「このままじゃ終われん」と奮い立ちました。
残りの人生をかけて何か大きなことを成すと決心したとき、初めて「日本を変える」「日本をぶち上げる」という志を言葉にできたといいます。何をするかは何も見えていませんでしたが、「東京に行かんといけん」「学ばんといけん」と考え、必死にお金を貯めて勉強し、21歳で大学に入学しました。誰も応援してくれない孤独な勝負を、自分の全てをかけてやり抜いたこの経験が、起業家としての精神を育んだと振り返ります。
商材なしの飛び込み営業からロボット、そしてチャットボットへ
意気込んで上京したものの、大学に「日本をぶち上げる」志をぶつけられる場は見つからず、清水さんは絶望します。しかし、本を読み人と会ううちに転機が訪れます。藤田晋株式会社サイバーエージェント代表取締役。著書『渋谷ではたらく社長の告白』は多くの起業家に読まれてきた。さんの著書『渋谷ではたらく社長の告白』を読み、起業、そして学生起業という選択肢に出会って猛烈にワクワクしたのです。
やっと見つかったと。日本をぶち上げる会社を作ればいいんだって思って。
すぐに会社設立を決め、クラスで席が前だった島田さんを誘って立ち上げたのがZEALSでした。清水さんはそのまま大学を中退します。しかし、大きな志こそあれ、スキルも商材もありません。藤田さんも飛び込み営業から始めたというストーリーに倣い、清水さんは「商材なしの飛び込み営業」を始めました。
「日本をぶち上げたい株式会社ZEALSの清水です」「なんか変わってないですか?」と飛び込む日々。ガンギマった危なそうな若者の出現に、多くの人が困惑したといいます。ときには怪しい業者からサプリメントやソーラーパネルを渡され、何もわからないまま売り歩いたことも。副社長は「思ってたのと違う」と辞めていったそうです。
マジでほんと、新手のテロリストみたいなことをやってたんですよね。
しばらくして「これでは日本はぶち上がらん」と気づいた清水さんは、大きな社会課題に正面から挑むと決心。そこで選んだのがロボット開発でした。小学校の頃「ドラえもんを作る人になる」と書いていた夢と、少子高齢化・労働力減少という日本の課題が結びついたのです。ちょうど孫正義ソフトバンクグループ代表。当時、人型ロボット「Pepper」を発表し、ロボット革命を打ち出していた。さんがPepperを発表した時期と重なり、清水さんは「孫さんと同じところを見ている」と自信を持って挑みました。
結果的にロボット事業は技術・マーケット・資金のいずれの面でも早すぎ、成功には至りませんでした。しかし清水さんは「ロボットの本質はコミュニケーションだ」と学びます。ロボットが人のように喋れるようになった時に最も大きな価値が生まれる――そう考え、コミュニケーションの技術と可能性を事業化したのがチャットボットでした。
上場延期の決断と米国進出のハードシングス
チャットボット事業が業界ナンバーワンに成長したのち、ZEALSは上場承認を得ます。しかし上場を通じて資金調達し世界に挑む計画だったところ、マーケットの状況が大きく変わり、思うような資金調達ができない上場になることが判明しました。清水さんは大きな岐路に立たされます。
お金は思ったほど集められないが、上場企業にはなれる。社員や家族、地元も祝ってくれている
上場を延期し、集めたい額を集めるチャレンジをして、その先のビジョンへの挑戦を可能にする
上場承認は公になっており、社員が報われ、地元や家族から温かい祝福が寄せられていました。それでも清水さんは「上場は目的ではなく、ビジョンがある」として後者を選択。上場を延期し、未上場のプライベートラウンドで50億円の資金調達を実行しました。
その資金を元手にグローバルへ挑戦した米国事業は、ハードシングスの連続でした。清水さんは3年間の歩みを次のように振り返ります。
快進撃の肝を問われた清水さんが挙げたのは、「Work Super Hard」のカルチャーでした。天才的で能力の高いエンジニアが寝る間を惜しんでプロダクトを磨くチームを作れたことが決定的だといいます。1月のベータ版はチャットのみでしたが、4月の本ローンチでは音声プロダクトへと進化させました。
2026年は全張り。幻滅期こそチャンス
2026年のキーワードを清水さんは即座に「全張り」と表現しました。「音声AISは全部取る」と語り、接客というコアユースケースに加え、特に日本では音声AIが使えるあらゆるシーンに広げていくといいます。
すでに面接用のAIをリリースしており、清水さんは溝口さんエピソード概要欄では「AI溝口からの挑戦状」ページとして紹介されている。清水さんはこの人物をモデルにした面接AIを開発したと語っている。をモデルにしたAIによる面接プロダクトを例に挙げました。電話のカスタマーサポートやスマートグラスなど、音声AIが活きる領域はどこにでも広げていく方針です。スモールビジネスからエンタープライズまで、産業もユースケースも問わず「全部やる」と語ります。
2026年には巨大な資金調達も計画しており、それがさらに大きな挑戦につながるといいます。番組終盤、ホストのおいなりさんが「日本のスタートアップシーンに幻滅期のような雰囲気がある」と問いかけると、清水さんは独自の視点で応えました。
トレンドを追うのが投資家。今ないトレンドを作るのが起業家のはずなんです。
清水さんは、多くの人が「幻滅期だ」としらけている今こそ「バカラッキー」だといいます。みんながざわついて期待していない時に「やべえの一撃」をかませば、景色は一変する。実際、自身がアメリカ進出を始めた時も、チャットボットに挑戦した10年前も、周囲は誰も賛成してくれなかったといいます。それでも新しいものを最初に形にして届ける――それがパイオニアの仕事だと語ります。
収録後、清水さんは「今日はすごく心地よく話させてもらえた」と語り、普段のピリッとした戦いの場とは違う自然な雰囲気を楽しんだ様子。ZEALS・Omakase AIは現在積極採用中で、「挑戦を面白いと思ってくれる方はぜひ応募を待っています」と締めくくりました。
まとめ
清水正大さんの物語は、中学時代の父の自己破産という原体験から始まり、東日本大震災を機に「日本をぶち上げる」という志を掲げて上京、商材なしの飛び込み営業やロボット開発の失敗を経て、チャットボット、そして音声AI「Omakase.ai」へと一本の線でつながっていました。ハードシングスの連続を軌道修正し続けたその姿勢は、幻滅期と言われる時代に挑む起業家への力強いメッセージでもあります。
- ZEALSとOmakase AIは、コミュニケーションテクノロジーという一本の幹でつながっており、チャット→音声→ロボットへと進化していく一連のストーリーとして資金調達に臨む
- ハードウェアの劇的な低価格化と優秀な人材・資金の集中により、2026年はフィジカルAIの元年になり得る。ZEALSは世界初の接客OS「Omakase OS」をローンチした
- 「目」を持つマルチモーダル接客がロボット接客のマストであり、その体験をウェブ版のOmakase AIにも搭載しようとしている
- 父の自己破産と東日本大震災を原体験に「日本をぶち上げる」と決心。商材なしの飛び込み営業からロボット、チャットボットへと事業は変遷した
- 上場承認を得ながらも延期を選び、未上場で50億円を調達。米国進出は組織・PMFの壁を乗り越え、3年目にゼロから作ったOmakase AIで勝負した
- 2026年は音声AIに「全張り」。幻滅期こそチャンスであり、今ないトレンドを作るのが起業家の仕事だと語る
