AIがうまくいく会社の共通点
「AIを入れるのにリテラシーはいるんですか?」とよく聞かれるそうですが、赤堀さんはそれを否定します。一番大事なのは業務の分解力だといいます。マネージャーや経営者など、事業を構造的に見られる人がAIを触りながら進めていくと、導入は驚くほど早く進むそうです。
経営には、まず会社の目的(ミッション、ビジョン、バリュー企業の存在意義・目指す姿・大切にする価値観を示す経営の基本概念。事業の方向性を定める土台になります。)があり、それを実現するための事業があります。その事業はマーケティング、営業、サービス提供、アフターフォローへと分解でき、さらに営業を支える採用やバックオフィスが存在します。
この構造をそのままAIに伝えられれば、AIはその流れに沿って作業してくれる状態を作れます。あとは各スタッフが実行するだけで仕事が回っていく、という考え方です。
会社を分解できる人がいる
経営者やマネージャーが事業を構造的に把握する
構造をAIに伝える
AIがその流れに沿って作業してくれる状態をつくる
各スタッフが実行するだけ
情報がまとまっていれば仕事が回っていく
ただし、こうした構造が最初から整った会社はほとんどないと赤堀さんは言います。中小企業の多くは、社内がごちゃごちゃで「どこをAIに任せればいいのかわからない」状態が普通だそうです。だからこそ、まず事業の構造化から一緒に始めるのだといいます。
一番大事なのはやっぱ業務の分解力。事業を構造的に見れる人が導入して触っていくと、めちゃくちゃ早く進みます。
職人の暗黙知を次の世代へ
中小企業には「この仕事はこの人しかできない」という業務が数多くあります。しかも本人が言語化して人に伝えることも難しい。これがいわゆる暗黙知経験や勘に基づく、言葉やマニュアルにしづらい知識・技術のこと。職人技や熟練者のノウハウが典型例です。で、引き継ぎもマニュアル化も難しい「職人肌」の仕事です。
赤堀さんは、こうした職人の仕事も丁寧に解きほぐしていくと、多くは構造化できると言います。そして構造化する過程で、やっている本人自身が自分の仕事の解像度を上げ、クオリティが上がるという副次効果が生まれるそうです。
まず社長と一緒に業務を棚卸しして整備し、AIを一緒に触っていく。すると社長自身のビジネス力が上がり、事業の品質が上がり、指示出しも楽になる。それを事業責任者や現場スタッフへ落としていくと、働く人たちも事業の全体像が見え、自立して動ける範囲が広がっていく——という好循環が生まれるといいます。
AIはあくまで手段。棚卸しから入って整理して、AIと一緒に見れる状態を作っていく、この過程がめちゃくちゃ美味しい。
もちろん、木の桶を作るような、人間の手にしかできない工程は残ります。しかしそれは全体のごく一部。ほかの部分をAIに任せることで、職人が本当に集中すべきところに集中できる環境が作れると赤堀さんは説明します。
職人といえども、その技術だけでは生きていけません。仕入れ、道具の手配やメンテナンス、販売、弟子を束ねる組織運営など、周辺の作業が発生します。それらをAIに任せられれば、価値を生む時間を最大化できるのです。
日本には素晴らしい技術や作品が数多くありますが、職人がその技術だけに集中していては残していけない。それは大きな損失です。AI導入は、その技術を次の世代へ残すダイレクトな手伝いになる——赤堀さんはそこに大きな意義を感じていると語りました。
進む会社、止まる会社
では、AI導入が「止まってしまう会社」にはどんな特徴があるのでしょうか。赤堀さんは大きく2つのパターンを挙げます。
余白がなさすぎる。忙しすぎて導入の時間が取れず、付け入る隙がない。まずは採用から、という話になることも。
ある程度自走できて「こんなもんか」と満足し、アップデートを止めてしまう。本来はもっとできるのに、そこで止まる。
特に2つ目について、赤堀さんはAIの進化スピードの速さを強調します。AIは日々進化しており、気づけばできることが広がっています。アップデートを止めると、本来もっとできるのにそこで止まってしまう状態になるといいます。
一ヶ月経つともう全然違うものになってるのがAI。だから継続的な顧問という形で、どんどんアップデートしていく。
だからこそ、継続的な顧問という形で現場に足を運び、「こういうのに使えそうですね」と提案しながらできる幅を広げていくことに、赤堀さんはかなり注力しているそうです。逆に言えば、ちゃんと触って楽しめる姿勢さえあれば、それだけで十分に前進できるということでもあります。
成果はかけ算で決まる
赤堀さんは、AIの成果を決める要素を「かけ算」で説明します。渡せる情報の量、お願いしたいことの質、そしてAIの性能——この3つの掛け算で成果が決まるといいます。
たとえば情報にアクセスできない人が100点の指示と100点のAIを使えば「一万点」が出る。しかし情報アクセスが豊富な人が100点の情報を渡し、さらにビジネス力を掛けて100点のAIを使えば「十万点」に達する——赤堀さんはこう例えます。掛け算なので、どの要素が大きくても成果は跳ね上がるのです。
この考え方に立てば、情報にアクセスできる権限が大きい人ほど、そしてビジネスの戦闘力が高い人ほど、AIの威力を発揮しやすいことになります。だから経営者がトップダウンで進めるのが最も手っ取り早い、というわけです。
では、経営者と現場ではどう役割を分けるのでしょうか。赤堀さんは、会社のコアな情報ほど経営者が整えるべきだと言います。「会社は何のためにあり、この事業は何のためにやっているのか」といった方針をまず作る。その上で、実際の製造や店頭に並べるまでのデリバリーの部分は現場スタッフが整える。これは線引きというより役割分担だと語りました。
| 担当 | 整えるもの |
|---|---|
| 経営者 | 会社のコア・経営の課題・事業の方針(何のための会社か) |
| 現場スタッフ | 実際の作業やデリバリーのフロー(どう製造し届けるか) |
現場が整えた提供フローが、会社の方針に沿っているかを照合できれば、ビジョンに沿った素晴らしいフローが完成します。だからこそ、まず社長など上の人から入り、社内へ広げていく流れになるのだといいます。
異業種の知がつながる
熱海でもこうした事例が数多く生まれてきているそうです。今まで知らなかった職業や仕事を一緒に掘り下げ、「こうしたらもっと良くなる」と話していくと、いろいろな職業を体験しているような面白さがあるといいます。
さらに副次効果として、業界をまたいだ知見のシェアが生まれます。ある業界のやり方が別の業界にフィットすることがあり、赤堀さん自身が情報のハブのような役割になれるのです。
もともとIT系だったので、ITの仕事のやり方を現場仕事の方にインプットすると、「意外とフルリモートでできるもんなんだね」とつながったりする。
異業種の仕事のやり方を知れることは発見が多く、赤堀さん自身の学びにもなり、その学びを他社にシェアできる。いろいろな職業を体験した人のような知識量から生まれるアドバイスが、面白さの源泉になっているようです。
AI顧問の本質とは
「もうAIを超えたシンプルな顧問かもしれない」という問いかけに、赤堀さんは「それが本質だと思う」と答えます。AIができるのは、課題を渡されてそれを解決すること。だからこそ、その課題を見つけ、提案し、お願いできることが一番大事だといいます。
AIを導入すること自体が目的になっている
会社の課題を解決する能力が高い人が、AIを使って解決できる状況を作る
AIを導入して得たい未来は、自分の会社の課題をサクッと解決することです。しかしその課題がどうやって解決されるのかが見えていなければ、AIも活かせません。つまりAI顧問とは、会社の課題を解決する能力が高い人が、AIを使って解決できる状況を作る仕事だといえます。
赤堀さんは、この課題を見つける力は業務分解力を磨くことで養われたと語ります。分解力が高くなるほど事業を構造的に見られるようになり、会社が気づいていなかった前提——たとえば「経営や営業の前に、まずビジョンがある」といった一段上のレイヤー——から事業を捉え、提案できるようになるといいます。
そうすることで、一緒に働く人のレイヤーも引き上げられる。AIを使える人はたくさんいても、AI顧問ができるのは課題解決能力が高い人だ、という結論に話は収束していきました。
まとめ
AI導入で成功する会社と止まる会社を分けるのは、ツールでもリテラシーでもありませんでした。赤堀さんが繰り返し語ったのは「業務分解力」、つまり事業をどれだけ構造的に見て、実行できる人が社内にいるかという一点です。
職人の暗黙知を形にして次世代へ引き継ぐこと、情報・依頼の質・AI性能のかけ算で成果が決まること、そして課題を見つける力こそがAI顧問の本質であること。これらすべては、業務を分解し、事業の解像度を上げるという営みに根ざしていました。AIはあくまで手段であり、それを活かす人の力が成果を決めるのだといえそうです。
- AI導入が進むかどうかを分けるのは、リテラシーよりも「業務分解力」。事業を構造的に見られる人がいると導入は早く進む。
- 職人の暗黙知も解きほぐせば構造化でき、本人の解像度が上がり、技術を次世代へ引き継げるようになる。
- 止まる会社には「余白がなさすぎる」「ある程度できて満足しアップデートを止める」という2パターンがある。
- AIの成果は「情報 × 依頼の質 × AI性能」のかけ算で決まり、情報アクセスと戦闘力が高い人ほど威力を発揮する。
- AI顧問の本質は、会社の課題を見つけ、AIで解決できる状況を作ること。課題解決能力の高さがカギとなる。
