AIにより理解の格差は減少する──テキスト偏重の学びが変わるとき
けんすうスピークにて、けんすうアル株式会社代表取締役。学生時代からインターネットサービスに携わり、nanapi創業、KDDI傘下を経て現職。さんが「AIによって理解の格差が縮まる」というテーマを語りました。人類が長らくテキストに頼ってきた学びの歴史を振り返りつつ、AIが図解・音声・動画への変換を可能にしたことで、文章が苦手な人にも学びの門戸が開かれるという話です。後半のリスナーQ&Aでは、新人教育とAIの線引き、人員整理への備え、ポッドキャスト配信のコツなど幅広い質問に回答しています。その内容をまとめます。
テキスト偏重だった学びの歴史
けんすうさんはまず、人類の学びの歴史を振り返ります。奈良時代から江戸時代に至るまで、学ぶ手段は「人から習う」「自分で経験する」「テキストで読む」の3つしかなかったと指摘します。人から習うのは一対一か、せいぜい一対三十で効率が悪い。経験するのも時間がかかりすぎる。結果として、テキストが学びの中心であり続けました。
ラジオやテレビが登場し、NHKラジオ講座1925年の放送開始以降、語学や教養講座を届けてきたNHKの教育放送。テキスト以外で学ぶ先駆的な手段だった。や放送大学1983年開学。テレビ・ラジオを活用した通信制大学で、社会人にも高等教育を届ける仕組み。ができたのも、歴史的に見ればまだ百年も経っていません。さらにYouTubeなどで何かを学ぶ文化が広まったのはここ十年程度のこと。テキスト以外の学び方は、実はごく最近に登場したものなのです。
AIが変える「理解のかたち」
YouTubeで誰かが本を要約して教えてくれるスタイルは、講師の手間が膨大にかかっていました。中田敦彦お笑いコンビ・オリエンタルラジオのメンバー。YouTube大学で本の要約動画を配信し、大きな人気を得た。さんのYouTubeがヒットしたのも、本を読み込んで噛み砕いて喋るという労力があったからこそです。
しかし今やAIが、テキストを図解にしたり、音声に変換したり、動画や資料にしたりと、多様な形式への変換を瞬時にこなせるようになっています。けんすうさん自身が手がけているPodyけんすうさんが開発中のサービス。ポッドキャストの音声を記事化・図解化し、理解を助ける。でも、音声を聞いてから文章で読み、さらに図解で確認すると「凄まじい勢いで理解できる」と実感しているそうです。さらにAIでクイズを作ると学びのスピードが飛躍的に上がり、「人類の頭をめっちゃ良くする可能性がある」と語っています。
音声で聞いて文章で読むとめっちゃ理解できるし、それを図解するとかも試してるんですけど、凄まじい勢いで理解できるんですね
もちろんリスクもあると補足しています。AIが内容を過度に省略したり、間違った方向に要約してしまう可能性はあります。しかし、それは以前から存在していた問題でもあります。「めっちゃ分かりやすいマルクスの本」が専門家から見ると結構適当に書かれていたりするように、要約による情報の劣化は今に始まった話ではないという見方です。
テキストで理解できる人は実は少数派
けんすうさんによれば、テキストを読んで物事を理解できる人は実は二〜三割程度で、多くの人にとってテキストだけで学ぶのはかなり大変なことだそうです。東大に入った人が「教科書一回読めばわかるじゃん」と言っていたエピソードを紹介しつつ、それは特殊な才能であって、大多数の人は教科書を読んだだけでは理解しきれないと語ります。
学校の勉強ができなくて「自分頭悪いんだな」と思ってた人、実は文章が合ってないだけで、文章以外で理解するとめっちゃわかるみたいなことがこれからどんどん出てくると思う
リスナーからも「テキストの重要度のコントラストがわからなくてテスト勉強が大変だった」というコメントが寄せられました。その方はポッドキャストだと情報の深さと重要度のコントラストが両立できていて刺さるとのこと。けんすうさんは「あの方は音声の理解度がめっちゃ高いんでしょうね」と、人によって得意な理解チャネルが異なることを改めて強調しています。
教科書を読めばほぼ理解できる。「書いてあることを読めばいいじゃん」という感覚
音声・図解・動画・体験で理解が深まる。文章だけだと重要度の強弱がつかみにくい
算数の問題文を理解するのに苦戦しているお子さんについての相談もありました。けんすうさんは「教科書はすべて言語的なアプローチなので、ついていけない人がたくさん出る」と指摘し、ビジュアル化されたツールや身体感覚で教えるアプローチの有効性を語っています。AIでHTMLのビジュアル教材を作ってあげるのも一つの手だとのことです。
新人教育とAI──どこで線を引くか
新人にAIを使わせないのは教育としてありだと思うのですが、実務的には非効率じゃないですか?どこで線引きしますか?
けんすうさんの回答はシンプルです。「どの目線で見るか」がすべてだと言います。短期的に見れば、AIを使わせない期間は非効率に見えます。しかし二〜三年スパンで見ると、最初の数ヶ月を教育に費やした方が結果的に効率的になることは多い、と。
大企業であれば二〜三年単位で新人教育を設計するのが一般的で、ベンチャーなら半年〜一年。教育期間にどれだけ投資するかは企業の体力とフェーズ次第です。楽天三木谷浩史氏が創業したインターネットサービス大手。ECモール「楽天市場」を中心に金融・通信など多角的に展開。では新卒に一年近くプログラミング研修をさせていた時期もあったそうで、それを「あり」と判断するかどうかという話になります。
短期視点(数週間〜数ヶ月)
AIを使わせない=実務が遅い → 非効率に見える
中長期視点(半年〜3年)
基礎を身につけた人材がAIを活用 → 総合的に効率が上がる
AI時代のエンジニアの生存戦略
会社員エンジニアです。生成AIの急激な進化で人員整理が不安で、転職や独立ができるよう今から準備したいです。個人での発信や活動など、できる準備があれば教えてください。
けんすうさんは、海外ではすでにAIによる人員整理が進んでいるため「確実に来る」と見ています。人員を先に半分にした会社の方が圧倒的に利益が出るようになった瞬間、他の会社も追随せざるを得なくなるという構図です。
ただし、転職先も同じ状況になるため、「独立や転職よりも、今いる会社でどうやったら残れるかを考えた方がよさそう」というのがけんすうさんの見立てです。仮に全エンジニアの10%が人員削減された場合、その大量の人が独立しても仕事の取り合いになるだけだからです。
えげつないこと言うと、自分の社員を削るのは結構後。やるとしたら業務委託から。そこに対して今AIで何をするとそれができるのかを考えられる立場になるのがいい
具体的には、業務委託や派遣の人員整理が先に行われることを見越して、「AIでそこの業務を代替する方法」を社内で提案できるポジションを取ることを勧めています。社内勉強会を開いたり、「将来的にはこうなります」という発信を社内にしまくることで「あいつ詳しいな」と認知され、外注していたプロジェクトの内製化を任されるようになる──そういう流れを作るのが現実的だとのことです。
問いの立て方より「メタスキル」
理解の格差がAIで埋まるのは納得ですが、これからは問いの立て方が重要になると思います。上手い人とそうじゃない人は何が違いますか?
けんすうさんは「メタ的に見えるかどうか」が違いだと即答しつつ、「問いを上手くなろうとしてる時点で多分ダメ」と踏み込みます。たとえば「問いがうまい人の事例をAIに調べさせる → コツをファイルにまとめる → そのファイルを参照してAIに問いの設計をさせる」という一段上の視点で動くのがメタスキル個別のスキルを俯瞰し、スキルの使い方自体を設計・改善する上位の能力。「学び方を学ぶ」「問い方を設計する」などが該当する。だと説明しています。
そもそも「問いの立て方が重要」という議論自体が、プロンプトを手打ちしていた一年前の話ではないかという指摘も。今はAIエージェント人間の指示を受けて自律的にタスクを実行するAI。複数のツールを組み合わせて目標達成まで自走するのが特徴。の時代に入っており、AI同士がどうやっていい問いをするかの「設計」を作らないといけないフェーズだと語っています。
ポッドキャスト配信のコツは「関係性」
ポッドキャストを始めたいです。SNS発信はインフォメーション→オピニオン→ダイアリーとのことですが、ポッドキャストも例外ではないでしょうか?ポッドキャストならではのコツがあれば教えてください。
けんすうさんは、情報(インフォメーション)が重要なのはポッドキャストでも変わらないと前置きしつつ、「音声だと今何の情報が足りていないかを考えるのが重要」と語ります。文章だと読めないけど音声なら聞ける人たちが欲しい情報はまだたくさんあるとのことです。
そのうえでポッドキャスト特有のポイントとして挙げたのが「関係性」です。声で聞くからこそパーソナリティが見えやすく、二人でやるなら二人の仲の良さや掛け合いのテンポが伝わることが重要だと言います。毎回ゲストを呼ぶ形式は意外と人気が出づらい。それよりも固定の出演者同士の関係性がわかる中で聞いていて「この二人いいな」と思える方が、リスナーは定着するそうです。
インフォメーション
音声でしか届かない情報を提供して聴き始めてもらう
オピニオン
情報に独自の視点を加えて差別化する
リレーションシップ
出演者同士の関係性をファンが楽しむ段階へ
まとめ
今回のエピソードの核心は、「テキストで学ぶのが苦手=頭が悪い」ではないという点です。人類は数千年にわたってテキストに偏重した教育システムを続けてきましたが、AIの登場で図解・音声・動画・クイズなど多様な形式への変換がほぼ自動でできるようになりました。これは移動手段が徒歩から車や電車に変わったのと同じような革命で、「理解のチャネル」の格差がテクノロジーによって縮まっていくことを意味しています。
後半のQ&Aでは、AI時代の新人教育は「何年スパンで見るか」で判断すべきという実務的なアドバイスや、エンジニアの人員整理対策として「削る側に回る」という率直な戦略が語られました。問いの立て方についても、プロンプトの技術より「AI同士が問いを設計する仕組みを作る」メタスキルの方が重要だという見解は、AI活用の最前線にいる人ならではの視点でしょう。
- テキスト以外の学び方が普及したのはここ100年足らず。YouTubeでの学びもわずか10年の歴史
- テキストで理解できる人は二〜三割程度。多くの人は図解・音声・動画の方が理解しやすい
- AIがテキストを図解・音声・動画・クイズに自動変換することで、理解チャネルの格差が急速に縮まる
- 新人教育でAIを制限するかは「何年スパンで見るか」次第。短期の非効率より中長期の教育投資で判断すべき
- AI時代のエンジニアは転職・独立より、社内で「AI化を設計する側」に回る方が生存確率が高い
- 「問いの立て方」のスキルよりも、AI同士が問いを設計する仕組みを作る「メタスキル」が重要な時代へ
- ポッドキャストでは情報→意見→関係性の順が大事。声で聞くからこそ出演者の仲の良さが武器になる
