世界が不安定だからこそ、テックは「公共」のために働くべき──けんすうが3週間の読書で考えたこと
けんすう氏が3週間の休止を経てライブ配信を再開。冒頭の本編では、世界の不安定化を読み解く3冊の本を紹介しながら、「これからは国家や公共のために働くパターンが増えるのではないか」という見立てを語ります。その内容をまとめます。番組詳細はけんすうスピークをご覧ください。
世界はなぜ不安定化したのか──Gゼロとレコンキスタ
けんすう氏はまず、ここ最近読んだ複数の本から得た「世界が不安定になっている」という共通の感覚を共有します。19世紀的な多極化した状態に戻りつつあり、かつてG7、その後アメリカ一強のG1と呼ばれた時代から、今や強い極を持たないGゼロアメリカの政治学者イアン・ブレマーが提唱した概念。世界をリードする国家や枠組みが存在しない多極化した国際秩序を指す。の世界に入った、という見立てです。
その中で出てきたキーワードが「レコンキスタ(失地回復)」。プーチン氏は超大国ソ連時代の領土と影響力を、習近平氏はアヘン戦争以前の中華帝国を、白人ナショナリストは古き良き白人アメリカを、それぞれ「取り戻したい」と思っている。それらが組み合わさって世界の不安定化を加速させている、という整理です。
国家から離脱する企業と「破壊系資本主義」
2冊目に紹介されたのがクイン・スロボディアンカナダ出身の歴史学者。ネオリベラリズムやグローバル資本主義の歴史を専門にしている。の『破壊系資本主義』。民主主義を回避し、国家規制が及ばないゾーン──経済特区や海上都市など──を作って自由市場のユートピアを追求しようとする動きを批判的に描いた本だといいます。
けんすう氏が特に共感したのは、「国家より企業の力が強くなりすぎている」という指摘。税金を払いたくない企業や富裕層が公共から離脱しようとすると、公共財にお金が回らず、格差が拡大し、世界はさらに不安定になる──という連鎖の構造です。
企業・富裕層が国家から離脱
特別区や法の及ばないゾーンに逃げる
公共財に回るお金が減る
格差が広がる
世界がさらに不安定化
テックは「おもちゃの国」のままでいいのか
3冊目に挙げられたのは、Palantir Technologies2003年創業の米国データ分析企業。CIAなど政府機関や軍向けの分析プラットフォームで知られ、防衛スタートアップの代表格とされる。のCEOアレクサンダー・C・カープ氏による『テクノロジカル・リパブリック』。シリコンバレーのテック業界と国家がもっと関係を構築すべきだという主張の本だといいます。
カープ氏の問題提起は、この10〜15年のシリコンバレーは消費者向けアプリばかり作ってきた、というもの。動画、ゲーム、デリバリー──「おもちゃの国」と揶揄される領域に世界中の頭脳が集中していてよいのか、という問いです。かつて核開発、GPS、インターネットといったイノベーションは公共・国家のために生まれていた、という対比が引かれます。
この本は防衛スタートアップの文脈に近いため、「シリコンバレーがAI兵器を作ることを推奨している」と批判されることもあると、けんすう氏は補足します。ただ、中国などの権威主義国家が国家レベルでAI軍事技術を作り続ければ、対抗できる側がいなくなる──そう考えると、テック企業も公共のために頑張る必要があるのではないか、という読み方を示しました。
公共のために働くという選択肢
3冊を踏まえてけんすう氏は、ゲームや便利なツールを作ることも素晴らしい一方で、社会のために政府と民間が共同で考えて動かないと、世界がどんどん壊れていってしまう「瀬戸際」にいる気がする、と語ります。だからこそ、これからは「国家や公共のために働く」というキャリアパターンが増えるのではないか、というのが本編の結論です。
消費者向けアプリ中心。動画、ゲーム、デリバリー。便利だが「おもちゃの国」と揶揄される領域。
政府と民間が共同で社会課題に取り組む。防衛・公共インフラ・国家のためのイノベーション。
AI時代の自分戦略──格差・キャリア・学びどころ
本編後の質問パートで特に話題が深まったのが、AI時代の働き方とキャリアの話です。けんすう氏は、ホワイトカラーの仕事は今後10年で激変すると断言します。産業革命で「筋肉」が機械に置き換わったように、「考える力」「知識」「ロジカルさ」の希少価値が一気に下がるからです。
代わりに価値が残るのは、何かの起点になる「欲望系」のスキル、責任を取れること、人付き合いや営業など人間ならではの部分。新卒なら、AIに振り切った会社かフィジカル領域・変化の遅い大企業のどちらかが選択肢になる、という見立てです。
けんすう氏自身、AIの設計を受けて自分が動くようになる「レベル6」に到達した感覚を、最近使ったツールで初めて得たと振り返ります。今までは自分で業務設計をしていたのが、「絶対AIの方が業務設計うまい」と感じ、AIに何をすればいいか聞くようになる──そんな転換が起きているといいます。
さらに見逃せないのが「AIは普通に金がかかる」という指摘です。エンジニア一人が月30〜60万円のAI課金をしているケースもある中、お金を持つ人ほどAIを回せ、生産性が上がり、さらに稼げる──というループが回り始めている。けんすう氏はここを「社会がバグる」と表現し、その先には民主主義や資本主義の枠組みが揺らぐ「スーパー戦国時代」が来る可能性まで言及しました。
頑張って働いていれば安定する世代ではなかったんだな、という認知で動いたほうが幸せなんじゃないかな。
けんすう氏が新卒視点で挙げた現実的な選択肢は、AI前提のスタートアップに入って最初から組み込まれるか、営業のように「人付き合い・責任・リーダーシップ」が学べる場所に行くか。具体名としてはリクルートやサイバーエージェントが挙がりました。コードを書く仕事は2027年中にほぼなくなるのでは、というイーロン・マスク氏の予測にも近い感覚値だといいます。
まとめ
本編の主軸は「世界が不安定化する時代に、テックは公共のために働くべき」という問いかけでした。一方、質問パートで語られたAIの話も同じ文脈につながっています。AIが個人の生産性を爆発させ、お金を持つ人がさらに有利になる構造は、まさに「公共から離脱する企業・富裕層」の動きそのものだからです。
個人としてはAIを使い倒してキャリアを設計しつつ、社会としては公共のために知性とお金が回る仕組みを誰が作るのか。けんすう氏の話は、その両輪を考えるきっかけになる回でした。
- 世界はGゼロ・レコンキスタの時代に入り、不安定化が加速している
- 企業・富裕層が国家から離脱すると、公共財が痩せて格差が広がる悪循環が回る
- シリコンバレーは「おもちゃの国」を抜けて公共のために働くべき、という議論がテック内部から出ている
- けんすう氏は「AIが作業設計をするレベル6」に初めて到達した感覚を語った
- AIは金がかかるため、お金を持つ人がさらに有利になる「社会のバグ」が始まっている
- 新卒キャリアはAIに振り切った会社か、人付き合い・営業が学べる会社が現実解
