ビッグバンからアリストテレスまで!記憶に干渉して科学史の流れを感じよう
サイエントークのレンとエマが、これまで約58回にわたって語ってきた「科学史と人生史」シリーズの流れを一気に振り返る総復習回です。ビッグバンから古代ギリシャの哲学者まで、138億年をざっと俯瞰しながら、なぜ人は忘れるのか・なぜ繰り返しが大事なのかという記憶の話も交えて展開されました。その内容をまとめます。
なぜ忘れる? 記憶の「上書き干渉」と振り返りの意義
人間が物事を忘れる大きな原因のひとつに、似た情報が干渉して上書きしてしまうという現象があるとレンは紹介しています。ドラマの一話目を見た直後に二話目を見ると、一話目の内容が曖昧になってしまう──あの感覚です。ポッドキャストもまさに同じ声・同じ形式で毎回届くため、この「上書き」が起きやすいのではないかとのこと。
一方で、意識的に繰り返すと記憶は定着するというのも研究で明らかになっています。同じドラマでも一話目を5回見てから二話目に進めば、一話目の内容はしっかり残るでしょう。そこで今回は、科学史シリーズ約58回ぶんの流れを俯瞰する「上書きおしゃべり」を行うことになりました。
古代ギリシャとかさ、人多すぎて。毎回描く絵も髭のおっちゃんばっかじゃん。誰が誰やったか忘れたわ。
ビッグバンから地球誕生へ──138億年と46億年
シリーズの出発点は、そもそも「なぜ科学史を語るのか」というイントロでした。この世界は原子でできているとされていますが、原子を直接見たことがある人はいません。それでも信じられるのは、人類が長い科学の積み重ねで「間違いないだろう」という知識を確立してきたからだ──という前提の共有からスタートしています。
宇宙の始まり、ビッグバン約138億年前に起きたとされる宇宙の膨張開始イベント。現在も宇宙は膨張し続けている。は約138億年前。何もないところから「ポッ」と何かが生まれ、膨張し続けているという話です。そして地球の誕生が約46億年前。エマは「宇宙の歴史の3分の1くらいの時点で地球がもういるんだ」と驚いたそうです。
生命の誕生と細胞の大合併
地球ができた後、話題は「生命はいつ・どうやって生まれたのか」へ移ります。熱水噴出孔にいた細菌が起源ではないか、彗星が水を運んできたのではないか、あるいは雷を再現した実験で生命の材料ができたのではないか──いまだ完全な答えはありませんが、さまざまな仮説が紹介されました。
約38億年前に生まれたとされる最初の単細胞生物は、大きく2種類──アーキア(古細菌)細菌(バクテリア)とは異なる原核生物のグループ。極端な環境に棲むものが多いが、一般的な環境にもいる。とバクテリア(真正細菌)もっとも種類の多い原核生物。私たちの腸内にいるものから病原菌まで多様。に分かれていました。レンはアーキアを「孫正義」に例えています。アーキアがバクテリアを取り込み、そのバクテリアが私たちの細胞に今も残るミトコンドリア細胞内のエネルギー生産を担う小器官。かつて独立した細菌だったものが取り込まれたとする「細胞内共生説」が有力。になったのではないか──これが細胞共生説です。
アーキア(古細菌)
自分でエネルギーを作る力は弱い
バクテリアを取り込む
取り込まれたバクテリア → ミトコンドリアに
真核細胞の誕生
核を持った細胞 → 動物・植物の共通祖先へ
さらに葉緑体も取り込んだもの → 植物へ
取り込まなかったもの → 動物へ
エマが「バクテリアはなぜそのまま進化しなかったの?」と疑問を投げかけると、レンは「アーキアがバクテリアを取り込んで真核生物になるステップが決定的だった」と説明。バクテリアは基本的に単独で生き続け、劇的な多細胞化はしなかったようです。
カンブリア爆発・大量絶滅・恐竜の時代
真核細胞が生まれた後、有性生殖オスとメスがそれぞれ半分ずつ遺伝子を提供し、新しい個体を作る仕組み。無性生殖(自分のコピー)に比べ遺伝的多様性が格段に高まる。の仕組みが登場すると、遺伝子の多様性が爆発的に増大しました。一番古い多細胞生物の化石は約5億4000万年前のもの。生命誕生から約25億年は微生物だけの世界だったのに、そこから約10億年で一気に多細胞生物へジャンプしたと考えられています。
レンは「地球24時間時計」で説明しています。地球誕生が0時、現在が24時だとすると、生物が生まれたのは16時頃、動物が大量に見つかるのは21時頃。大半の時間は微生物だけの地球だったわけです。
しかしその後、大量絶滅が5回起きています。火山の大噴火、海水温の急上昇、そして最後の5回目が約6500万年前の恐竜絶滅。恐竜は約1億8000万年も地上を支配していましたが、隕石衝突で体長1メートル以上の生物は軒並み死んでいったとされています。
今人間に怯えて暮らしてるゴキブリとかネズミが、数億年後に支配してるかもしんないよね。
逆に、当時の恐竜の陰でひっそり木の上にいた小さなネズミのような生き物が、哺乳類の祖先でした。小さかったからこそ少ない食料で生き延びられた。恐竜絶滅後わずか500万年ほどで、犬や馬の祖先にあたる動物が生まれ始めたといいます。大陸の分裂による環境変化も、生物の多様化を加速させました。
人類の進化──二足歩行からホモサピエンスへ
猿と人間のDNAは99%ほど同じ。では何が違ったのか──シリーズではまずDNAの基礎として、PCRPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)。ごく微量のDNAを大量に複製する技術。コロナ検査で広く知られるようになった。や次世代シーケンサーDNAの塩基配列を高速・大量に読み取る装置。古代のDNA解析や個人ゲノム解析にも使われる。の仕組みを解説し、それによって化石のDNA分析が可能になった経緯を紹介しています。
人類進化の大きなターニングポイントは直立二足歩行でした。完全に直立して歩く動物は実は人間だけ(ペンギンは膝を曲げている)。二足歩行によって脳が大きくなり、手が自由になってものを運び、火を使えるようになった。さらに喉の構造が変わり、多様な音を発声できるようになったことが言語の基盤になったのではないかとも語られています。
DNA分析からは、人類がアフリカで生まれ、各地に広がっていった足取りもわかってきました。世界中の人のDNAを比較すると「みんなアフリカの要素を持っている」ことが見えてくる。遺伝子の変異の数と変異が入る速度を計算すれば、「何年前に分岐したか」の推定もできるのだそうです。
言語・文字・文明──科学の土台が整うまで
ホモサピエンスの中での歴史に入ると、芸術への目覚め、言語の誕生、そして文字の発明が語られます。発話によるコミュニケーションは比較的自然に生まれたと考えられますが、文字の発明は「意図的な作業」だとエマは指摘しています。記号を作り、共通認識として広め、教育する──それには都市や国のような組織が必要でした。
文字を持つ言語は約400にすぎず、残りは口承のみ。長い間、人は「言葉だけ」で知識を伝えてきたのです。レンは「宗教施設のようなところに人が集まり、街ができ、社会が成り立つようになったからこそ文字も普及した」と説明しています。ここまでがシリーズの約38〜39話ぶんに相当し、「科学の土台」が整った段階です。
古代ギリシャの哲学者たち──タレスからアリストテレスへ
文字とコミュニケーションが整い、都市に「暇な人」が生まれると、あらゆるものに疑問を持つ人たちが登場します。それまで「神のお告げ」で説明されていた世界に「本当にそうなの?」と問いかけた──古代ギリシャの哲学者たちです。
タレス──「万物の根源」を初めて問うた人
タレス紀元前624年頃〜546年頃。ミレトス出身の哲学者・数学者。「最初の哲学者」と呼ばれる。エジプトでピラミッドの高さを影の比例計算で求めたエピソードが有名。は「この世界は何でできているのか」を最初に考えた人物とされています(アリストテレスの記述による)。タレスの答えは「水」。エジプトに渡って数学や建築の知識を学び、ピラミッドの高さを影の長さと比例計算で導き出したりもしました。
ピタゴラス──「万物は数である」
タレスから学んだピタゴラス紀元前570年頃〜495年頃。サモス島出身の数学者・哲学者。ピタゴラスの定理(三平方の定理)や音階の数学的研究で知られる。宗教的教団を組織した。は、万物の根源を「数」だと主張しました。世界中を旅して当時の数学知識をすべて吸収し、自ら学校(実態は教団)を設立。ピタゴラスの定理や音階の研究など、数学の基礎を築いた人物です。
ソクラテス──論理的思考の追求者
ピタゴラスとは違う流れから現れたのがソクラテス紀元前469年頃〜399年。アテナイの哲学者。対話法(問答法)で相手の無知を自覚させる手法を用いた。自著は残っておらず、弟子プラトンの著作を通じて知られる。。もともと「普通のおじさん」だったのが、神託をきっかけに「なぜ?なぜ?」と問い続け、自称専門家たちの無知を暴いていきました。しかし最後は政治的に処刑されてしまいます。
プラトン──文系と理系の合流点
ソクラテスの弟子プラトン紀元前427年〜347年。アテナイの哲学者。「プラトン」は「広い」を意味するあだ名で、レスラーでもあった。学園アカデメイアを創設。イデア論で知られる。は、師の思想を継承しつつ数学にも深い関心を持っていました。「正多面体は5つしかない」という発見や、イデア論プラトンの中心思想。現実世界のものは不完全な写しであり、完全な「イデア(理想形)」が別次元に存在すると考えた。を展開。ソクラテスの弁論的哲学とピタゴラスの数学的思考が、プラトンの中で合流したといえます。彼が設立したアカデメイアプラトンが紀元前387年頃にアテナイ郊外に開いた学園。「アカデミー」の語源。約900年間存続したとされる。は、知識を次世代に伝える拠点となりました。
アリストテレス──観察の天才
アカデメイアに入ってきた天才がアリストテレス紀元前384年〜322年。スタゲイラ出身の哲学者・博物学者。論理学・生物学・政治学など広範な分野で著作を残し、「万学の祖」と呼ばれる。です。プラトンとは対照的に数学にはあまり興味がなく、徹底的な観察と言葉による記述を重視しました。イルカが魚ではなく哺乳類であることを見抜いたり、卵から鶏になるプロセスに「何らかのパワーがあるのだろう」と理由を言葉で探ろうとしたり。
アリストテレスは世の中を水・火・空気・土の4つの元素で説明する四元素説万物は土(地)・水・空気・火の4つの元素からなるという考え。アリストテレスが体系化し、中世ヨーロッパまで約2000年にわたり支配的な自然観だった。を唱えました。今でいう原子論(すべては小さな粒でできている)とは異なり、「性質」で世界を捉えようとしたのです。ここが科学史における大きなターニングポイントだったとレンは語っています。
番外編としてお酒の起源や、古代ギリシャの哲学者たちが酒を飲みながら議論していたシュンポシオン古代ギリシャの「饗宴」。食事の後に酒を飲みながら議論や詩の朗読を行う社交の場。「シンポジウム」の語源。の話も紹介されました。レンとエマも実際にリスナーとシュンポシオンを開催したそうですが、「何も生み出してない」とのことです。
まとめ
138億年前のビッグバンから、46億年前の地球誕生、38億年前の生命誕生、5億年前のカンブリア爆発、恐竜の支配と絶滅、哺乳類の台頭、人類の進化、言語と文字の発明、そして古代ギリシャの哲学者たちによる「なぜ?」の探求まで。サイエントークが約58回かけて語ってきた壮大な流れが、この1回でざっと振り返られました。
レンは「一本筋を通しておくと、新しいニュースに触れた時に全体の中の位置づけがわかる」と土台作りの大切さを強調しています。今後は化学・物理・生物といった分野ごとのシリーズに進んでいくとのこと。エマは宇宙研究の歴史や医学の歴史に興味があると話しており、今後の展開にも期待が膨らみます。
- 似た情報は記憶を「上書き干渉」して忘れやすくなるが、意識的に繰り返すと定着する
- ビッグバン(138億年前)→ 地球誕生(46億年前)→ 生命誕生(38億年前)→ 多細胞生物の化石(5億4000万年前)→ 恐竜絶滅(6500万年前)が大きな時間軸
- アーキアがバクテリアを取り込んで真核細胞が生まれた(細胞共生説)のが、動物・植物進化の出発点
- 人類の進化では直立二足歩行・脳の大型化・言語の獲得が決定的だった
- DNA分析(PCR・次世代シーケンサー)によって古代の化石から進化の足取りが辿れるようになった
- 文字の発明には都市・組織の成立が不可欠で、約5000年前に始まった
- 古代ギリシャでタレス→ピタゴラス→ソクラテス→プラトン→アリストテレスと「なぜ?」の探求が展開され、科学の原型が形作られた
- 科学史の「一本筋」を知っておくと、新しい発見のニュースも全体の中で位置づけられる

