経費精算をなくす会社のデザイン責任者とは?
宮武さんが訪れたのは、Rampのニューヨーク本社です。Diegoさんによると、Rampは創業から6年あまりで、このオフィスには1年半から2年ほど前に移ってきたといいます。
Diegoさんは、Rampでプロダクトデザインチームとブランドチームを率いています。Rampについては「コーポレートカード、経費管理、財務オペレーションの会社」と説明しました。
Diegoさんはさらに、「経費精算をしたことがある人なら、たぶんひどい経験だったはずで、Rampはそれをなくそうとしている」と、わかりやすく言い換えています。
宮武さんが「Rampはコーポレートカードの会社と思われがちだが、それ以上のことをしている」と水を向けると、Diegoさんは、RampはCFO ── 最高財務責任者。企業の財務・会計・資金繰りなどを統括する役職ですが使う業務ツール一式を作り直している、と答えました。
Diegoさんは、Salesforce ── 顧客管理(CRM)ソフトウェアの大手企業。営業部門の働き方をクラウドで大きく変えたことで知られますが営業の責任者の仕事を変え、AmazonのAWS ── Amazon Web Servicesの略。Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービスで、開発者やCTOの仕事の前提を変えましたが開発者やCTOの仕事を変えたように、Rampは財務の領域で同じことをしていると話します。
Rampの事業はコーポレートカードから始まり、経費、支払い業務、出張、財務管理へと広がってきたといいます。
Diegoさんのチームがプロダクトとブランドの両方を担うことについて、Diegoさんは「Rampでは、作るプロダクトと語るストーリーは同じものだ」と説明しました。
多くの会社では、ブランドはマーケティング部門に、プロダクトは開発部門にあり、両者の間に緊張関係が生まれやすいといいます。Rampはそうではなく、デザインが創業当初から文化の中心にあったと語られています。
Diegoさんが掲げてきた目標は、「人々が嫌う領域で、人々が愛するプロダクトとブランドを作ること」です。嫌悪は強い感情なので、ひどいと思い込んでいたものに驚かされ喜ばされた経験は、ずっと記憶に残るのだといいます。
ポイントより現金、時間は「買えない唯一のもの」
宮武さんは、Rampの特徴として「時間はお金」という考え方に触れ、既存のコーポレートカードとの違いを尋ねました。
Rampの本当に面白いところの1つは、「時間はお金だ」ということにすごく意識的な点だと思うんです。
宮武さんによれば、既存のコーポレートカードの多くは、リワードの付与や、ユーザーをプラットフォームに長く留めることに力を入れています。
Diegoさんは、Rampのローンチ時の話から答えました。Rampがローンチしたのは2020年2月の中旬で、その2週間後に新型コロナウイルスの影響でニューヨークがロックダウンされたといいます。
当時は、どの事業者も「次の売上がいつ立つのか、手元資金がいくらあり、あとどれだけもつのかわからない」という状況だったとDiegoさんは振り返ります。
Rampは早い段階から、銀行口座にある1ドルは、よくわからないアカウントに貯まる100ポイントより価値がある、という賭けをしていたそうです。パンデミックの中で顧客からの反応がその賭けを裏づけ、Rampが伸びるきっかけになったといいます。
Diegoさんは、その背景に「人は良い事業を作り、規律を持って、事業のために正しく運営したいと思っている」という洞察があったと話します。
リワードやポイントを重視し、ユーザーをプラットフォームに留めようとする
ポイントの価値競争には加わらず、キャッシュバックを提供しつつ、最大の価値は「時間を返すこと」とする
上の比較のとおり、Rampは「気づかれないようにポイントの価値を下げる」ような底辺への競争はしない、というのが基本原則だとDiegoさんは説明しています。
宮武さんが「時間は今や贅沢品ですね」と応じると、Diegoさんは「時間は唯一お金で買えないもので、しかも極めて無駄にしやすい」と続けました。
使用時間が減るほど成功、という指標
Rampでは、時間を実際に計測しているとDiegoさんは話します。企業の従業員が日々こなさなければならない業務の中で、何が最もつらく時間を食うのかを洗い出し、それを丸ごとなくす方法を考えるといいます。
この考え方は、Rampのプロダクト、原則、KPI、成功の測り方にまで反映されているそうです。Diegoさんは、成功の定義を「人々にプロダクトを使ってほしくない」とまで言い切ります。
Diegoさんの理屈では、従業員がRampを使っている1秒は、その人が本来の仕事をしていない1秒であり、顧客を追いかけていない1秒であり、何かをデザインしていない1秒です。
そのためRampでは、エンゲージメントや利用時間が「下がっていること」を追跡し、人々がプラットフォームでどれだけ時間を使っているかを正確に把握し、毎日それを減らそうとしているといいます。
宮武さんが具体例を尋ねると、Diegoさんは、AIが今この取り組みの「チートコード」になっていると答えました。コンピューターが見て、聞いて、推論できるようになり、実際に仕事をこなせるようになったからだといいます。
最近の例として挙げられたのは、マネージャーによる経費承認です。部下が使った経費は、財務チームに回る前にマネージャーが確認する必要があります。
全件チェック
AIエージェントが、すべての経費を社内規定と照らし合わせる
問題なしは省略
規定どおりの経費は、マネージャーの確認をスキップする
要確認だけ提示
文脈が足りないものや、少し規定外だが妥当かもしれない2〜3件だけをマネージャーに見せる
この流れの根底には、人の善意を前提にする考え方があるとDiegoさんは言います。明らかな不正はかなり稀だというのがDiegoさんの見方です。
Diegoさんによると、Ramp以前の多くの企業は、一部の悪意ある人を止めることに最適化していて、会社のために正しく行動している99%の人を後押しすることには最適化していなかったといいます。
Diegoさんは、50ドルがなくなるのは明らかに困るが、その50ドルを守るのに10時間かかるなら、自分の時間は50ドルよりずっと価値がある、というたとえを出しました。自分と従業員の時間をどれだけ評価しているかには、実際の数字がある、というのがDiegoさんの問いかけです。
AIのUIはいつもチャットであるべきか?
宮武さんは、Diegoさんが語ってきた「消えるインターフェース」という考え方が、どの会社にも当てはまるのか、Rampだからこそなのかを尋ねました。
Diegoさんは、消えるインターフェースはRampにとっては中核の使命なので非常に合っている、と答えています。そのうえで、AIプロダクトの話になると、なぜかいつもチャットの形になる点に触れました。
(AIプロダクトのUIは)いつもチャットであるべきなんでしょうか?
Diegoさんの答えは「いいえ」でした。会話型のUIが、ボタンよりはるかに効果的な場面はめったにないので、使いどころは厳しく絞るべきだといいます。
やりたいことが決まっている場面では、提示されたアクションを1回クリックすれば終わるので速い
結果が一通りに定まらない、非決定的な作業では、会話で進める価値がある
Rampでもここ数年、会話型UIをいつ見せるべきかを突き詰めて考えてきたそうです。以前は、ごく簡単なユースケースを除いて意味がなかったものの、今は状況が変わったとDiegoさんは話します。
Diegoさんが今の本当の課題だと考えているのは、何百万ものAIエージェントという「労働力」をどう管理するかです。エージェントがした仕事をどう確認し、ユーザーに生み出した価値をどう見せるかが問われるといいます。
Diegoさんは「森で木が倒れても誰もいなければ」というたとえを使い、仕事の成果を見せなければ、何かをしたのかどうかも伝わらないと説明しました。ユーザーには成果を確認してもらい、必要な箇所で介入してもらう必要があるといいます。
エージェントの扱いは、新入社員のオンボーディングに近いとも語られています。道具を渡し、会社のやり方を教え、誰が何を知っているかを伝える作業が必要だということです。
一方で、ユーザーから見たUIは、多くの場合ただの推奨にすぎないとDiegoさんは言います。裏側で処理が進み、表に出るのは「この経費は問題なし」か「これこれの理由で確認してください」という結果だけです。
宮武さんは、以前訪れたEight Sleepのオフィスでも、ベッドが自動で調整し、最後の判断だけをユーザーに委ねるという似た考え方を聞いたと紹介しました。
すべての会社に当てはまるわけではない、という点はDiegoさんも同意しています。Cursor ── AIを組み込んだコードエディタ。自然言語の指示でコードを生成・編集できますやLovable ── 自然言語の指示からWebアプリを生成するAIサービスですのようなプロダクトは、プロンプトが出発点になるといいます。
Diegoさんは、Figmaが開発中のFigma Makeの次期版についても触れました。キャンバスに戻して作業し、会話と行き来する形で、迷ったときは話しかけて助言をもらい、わかっているときは邪魔せずに作業させる切り替えが大事だといいます。
AIはRampのデザイン哲学を変えたのか?
宮武さんは、AIの登場がRampのデザインやUI/UXをどれだけ変えたかを尋ねました。
Diegoさんは、少し刺激的な意見かもしれないと前置きしつつ、AIは自分たちが何をどう作るかを根本からは変えていない、と答えています。考え方の大きな転換であり、作るものは変わるが、目指すところは同じだという立場です。
Diegoさんによれば、AIを加えることだけが何かを消す方法ではありません。Rampは創業以来ずっと、面倒なものを消そうとしてきたといいます。
その例として挙げられたのが、絶妙なタイミングで届くメールです。LLMは使っていないのに、とても賢く感じられる、単に優れたデザインの仕組みだといいます。
たとえば、ユーザーが個人メールから仕事のメールに領収書を転送し、さらにRampへ転送していると、Rampはその個人メールに「もうその手間は要りません。個人メールをRampに登録すれば直接転送できます」と知らせるそうです。
ChatGPTが登場して世界がAIに熱狂したとき、Rampは「私たちは魔法を作るためにいる」という原則を打ち出したとDiegoさんは話します。AIは魔法と喜びを届ける手段の1つであり、道具の1つにすぎないという位置づけです。
経費精算への私怨から始まった、速度の文化
宮武さんは、Diegoさんが別のポッドキャストで、Rampに入った当初からプロダクトを「最小化したい」と思い続けていたと話していたことに触れ、Rampの哲学との一致は偶然だったのかを尋ねました。
Diegoさんの答えは「とても意図的だった」です。チームを気に入ったことに加え、入社の大きな理由は、経費精算がとにかく嫌いだったことだといいます。
Diegoさんは、以前の職場では経費精算をせずに、数千ドルを取りそこねたと明かしています。やりたくなかったし、手続きがつらすぎたからだそうです。
デザイナーとしてソフトウェアを楽しめることはめったにないが、経費精算のソフトは特にひどかった、とDiegoさんは振り返ります。この種のソフトウェアへの「個人的な復讐」のようなものだったといいます。
宮武さんは、人々が嫌う領域から生まれるエネルギーが、Rampの速度につながっているのではと問いかけました。Diegoさんは、才能と速度こそ、どんな会社にとっても本当の意味での堀になると答えています。誰でも何でも作れる今は特にそうだといいます。
Rampでは、速く動くために、ごく小さなチームを作り、権限を与え、やるべきことを完全に任せているそうです。その際に見るのは、役職や経歴ではなく、社内で何をしてどんな影響を生んだかだといいます。
判断のルールもシンプルです。良い判断をした人にはさらに多くの判断を任せ、悪い判断をした人には任せる判断を減らすといいます。
その例として、Rampの出張プロダクトは、当時ジュニアデザイナーだったAmandaさんが、ほぼ1人でデザインしてローンチしたと紹介されました。Expediaほどの規模のプロダクトを、ジュニアが担当することもあるといいます。
宮武さんが「すごかった」と反応した、Brianさんを巻き込んだ最近のスタントも、1人が「何かすごいことをやりたい」と言い出したところから始まったそうです。箱のアイデアが出て、皆が「イエス・アンド」で乗っかり、大きな企画に育ったといいます。
ロードマップより勢いを追いかける
宮武さんは、こうした企画を大きなプロジェクトやプロダクトに育てるプロセスや、失敗を防ぐ仕組みがあるのかを尋ねました。
Diegoさんが重要だと話すのは、「ロードマップではなく、勢いを追いかける」ことです。四半期や年間の計画、達成したい大きな目標はもちろんあるといいます。
そのうえで、人々がワクワクしている小さな火種を見つけ、そこにどう酸素を送るかに会社全体が向いているそうです。Diegoさん自身も、どの階層のどのプロジェクトにも飛び込み、「自分の知識でどう手伝えるか」と関わるといいます。
もう1つの原則は「フィードバックは贈り物」です。できるだけ頻繁に、できるだけ多くの人から意見をもらい、どれを取り入れるかは担当者が決めるといいます。
特徴的なのは、決定を示す場面では「合意ではなく、反対意見を集めにいく」という姿勢です。「これをやります。理由はこうです。反対の人はいますか。何を見落としていますか」と問い、反映したうえで先に進むといいます。
Diegoさんは、「どう決めようか、皆で話して合意しよう」と進め、会議のための会議を開くような状態を「文化が死ぬところ」だと表現しました。
あいまいな指標と、成熟度で変わるチームの動き方
宮武さんは、方向性についての最低限の一致は必要ではないか、誰がどれを優先するかを決めるのかと尋ねました。
Diegoさんは、誰にとっても時間は有限なので、優先順位づけは極めて重要だと認めています。ただしRampの優先順位づけは、多くの会社よりあいまいで、日常的に指標を追いかけているわけではないそうです。
宮武さんが、スタントのような企画には正しい指標を作りにくいと言うと、Diegoさんは「指標はない」と笑いました。1億インプレッションを超えたが、期待していたのは6000万で、その数字も適当に決めたものだったといいます。
Diegoさんは、進め方はプロダクトと、それを担当するpodの成熟度によって変わると説明しました。
中核の支出管理プロダクトは[[プロダクトマーケットフィット::製品が市場のニーズに合い、顧客に強く求められている状態を指すスタートアップ用語です]]があり、毎日壊す必要はない。保護と拡大が中心で、規模で届けるには大きなチームが要る
毎日壊してやり直してよく、必要ならコードベースを消してゼロから始める。成果を追いかけるので小さなチームが向く
上の図にあるインラインの用語はFIの中で使えないため、補足します。プロダクトマーケットフィットは、製品が市場のニーズに合い、顧客に強く求められている状態を指す言葉です。
Diegoさんによると、Rampのpodはプロダクト、デザイン、エンジニアリング、データを1つにまとめたチームです。基本はデザイン、プロダクト、エンジニアリング、データのリードが1人ずついる小さな編成だといいます。
podには、プロダクトマーケティング、パートナーシップ、オペレーション、営業、法務などの協力者が付くそうです。
確立したプロダクトでは、四半期ごとに「わかっている課題とやりたいことはこれで、この期間でできる。人が増えればこの期間でできる」と判断するといいます。反対側の新しい挑戦では、リソースの話より、どんな成果を目指すかが中心になると語られています。
52%正しければいい、失敗を安くする仕組み
宮武さんは、Diegoさんが複数のポッドキャストで口にしてきた「52%の確率で正しくあればいい」という言葉の意味を尋ねました。
Diegoさんは、デザイナーをはじめ何かを作る人の役割は、できるだけ多くのバリエーションを作り、できるだけ速く学ぶことだと答えています。
Rampが速度にこだわる理由は、短い時間で作ったものなら間違っていても問題ないからだといいます。長い時間をかけて間違えれば、それは大きなリスクになり、何かに取り組む日数が増えるほどリスクも高まるという考え方です。
短時間で作る
かかった時間が短ければ、間違っていても損失は小さい
現実から学ぶ
完璧でなくても出してみると、なぜダメかがすぐにわかる
翌日に改善
頭の中の想像ではなく、実際の反応をもとに次の日に直せる
そのためにRampでは2つのことをしているそうです。1つは、間違いの影響範囲を小さくすることで、試す相手を顧客1社、50社、5万社から選べるようにしているといいます。
もう1つは、新しいことを試すコストを下げることです。Diegoさんは、何かを作りたい人全員への助言として、完璧でなくていいからできるだけ多くのことを速く終わらせるよう勧めています。
失敗を速く、安くする、ということですよね。
宮武さんはさらに、多くのスタートアップは最初はこうした動き方をするが、規模が大きくなるにつれてプロセスが形式化し難しくなる、と指摘しました。
Diegoさんは、プロセスはできるだけ少なくしてきたと答えています。会議に使う1分は、何かを作っていない1分だからです。ただし、会議もSlackのメッセージもまだ多すぎて、完璧ではないと認めています。
Diegoさんは、プロセスを増やしすぎると、リスクを減らすことが目的の中心になってしまうと話します。Rampはリスクの最小化より、成果の最大化の枠組みで動いているといいます。
宮武さんが「大企業ほど失うものが多いと感じる人が多い」と言うと、Diegoさんは、大企業の人は常に正しくありたがり、間違えられないと感じているのが大きな問題だと応じました。
間違えれば見栄えが悪く、職を失ったり昇進を逃したりするので、何もしなくなってしまうといいます。失敗を認めるころには別の部署に異動していて、同じことが繰り返される、という流れにもDiegoさんは触れています。
プロセスも作っては直すもの
宮武さんは、失敗を罰し正しさを評価する一般的な仕組みから、速く決めることを評価する仕組みに切り替えたRampのやり方が、ほかの会社にも通用するのかを尋ねました。
Diegoさんは「Rampにかなり特有だと思う」と答えています。こんな場所は見たことがないといい、それは意図的なものだと説明しました。
Diegoさんによると、Rampのメンバーは急成長の中で多くの苦い教訓を学んできたそうです。採用を急ぎすぎた会社がレイオフに追い込まれ、成果の出ない人が自分を守るために小さな王国を築く、といった状況を見てきたといいます。
Diegoさん自身もそうした失敗をしてきたと認めています。そのうえで「自分はすべての答えを持っていないし、この会社の作り方もわからない。だから自分のプロセスはうまくいかず、走りながら見つけるしかない」と、謙虚に考えているといいます。
実際にRampでは、デザインレビューのやり方や組織の分け方も、絶えず変えているそうです。Diegoさんは、プロセスは本質的に悪いものではないが、固定されたものでもないと話します。
プロセスを作って完璧だと思っても、1週間後にはたぶん古くなっていて、調整が必要になるというのがDiegoさんの考えです。
誰がプロセスを変えるのかという宮武さんの問いに対して、Diegoさんは、現場に最も近い人に決めてもらうと答えました。毎日そのプロセスを使っている人が、たとえば「5つ作ったのにレビューで見落としがあった」と気づけば、それを改善につなげるといいます。
社内でのAI活用で、顧客と話す時間が5倍に
Diegoさんは、プロダクトや顧客向けにAIを入れる話はよくされるが、Rampの社内でAIが起こしている変化は、これまで見たことがないほど大きいと語ります。プロダクトに出ていくものより、はるかに強力で、少なくともはっきり目に見えるといいます。
その具体例が、デザイナーが顧客と直接話す時間が5倍になったことです。
Diegoさんによると、Rampには、質問に応じて話すべき相手を探すAIのデータアナリストがいます。何百件もの録音された通話を調べて、誰がどんな調査をしたかを教えてくれるAIのリサーチアナリストもいるそうです。
さらにAIのリサーチアシスタントが、それらをもとに調査計画を作ります。そこから人間のリサーチチームが計画を磨き、実際の顧客につなげ、通話の予定がそのままカレンダーに入るといいます。
30分の通話1本のために、3〜4時間の準備が必要だった
1時間半ほどの作業で、20件の通話がカレンダーに入る
Diegoさんは、AIが大きな役割を果たしているものの、それだけが理由ではないとも付け加えています。
宮武さんは、顧客の時間とお金を節約するという哲学を、Rampは社内にも向けているのだとまとめました。
肩書きより「作る人か」で相棒を選ぶ
宮武さんは、Diegoさんがプロダクト担当VPのJeff Charlesさんとの関係を「補完的」と語ってきたことに触れました。デザイナーの中にはPMと組みたがらない人もいるが、それは優れたPMと組んだことがないだけかもしれない、という前置きつきの質問です。
Diegoさんは、肩書きに関係なく「作る人」は作るし、問題を消し、やり方を見つけると答えています。Jeffさんも自分も根っからの作り手なので、うまくいっているのだといいます。
Rampでは、役割がどんどん混ざり合っているそうです。デザイナーがコードや仕様書を書き、PMがプロトタイプを作って顧客の前に出し、エンジニアがアイデアを直接形にしているといいます。
Diegoさんは、いずれこうした役割は「作る人」という1つに統合され、違うのは得意分野だけになると見ています。Jeffさんは目的地までの道のりを一歩ずつ分解でき、Diegoさんはどこに行きたいかを示せるので、その2つが補い合うといいます。
良いPMを探すデザイナーへの助言は、「その人は作れるか、実際に作っているか」を見ることです。PMの役割は大きく変わり、まだ変わり続けていて、今はプロジェクト管理より、プロトタイプ作り、デザイン、書くことや考えることが増えているとDiegoさんは話します。
Diegoさん自身の役割も大きく変わったそうです。
すべてを自分でデザインする人
ほかの全員がデザインするのを助ける人
変わらないのは、時間とシンプルさへのこだわりだといいます。Diegoさんは、作り手なのでつい自分でやってしまいがちで、自分でやらずに人を動かし、アイデアを伝える方法を身につけるまで時間がかかったと振り返ります。
Diegoさんはその理由として、権限委譲やオーナーシップの文化を作りたいなら、誰かにやることを指示されていては、その仕事のオーナーだと感じにくいと説明しています。
VWビートルとポルシェ、ひらめきをくれる2つの広告
最後の質問に入り、宮武さんは、繰り返し立ち返るデザイナーや作品があるかを尋ねました。Diegoさんが挙げたのは2つの広告です。
1つ目は、フォルクスワーゲン・ビートルの広告です。小さな車に「身の丈以下で暮らそう」という言葉だけが添えられていて、レイアウトも言葉もシンプルで、そのメッセージはRampに特に響くとDiegoさんは話します。
Diegoさんは、複雑なものを1枚の画像と数語に凝縮し、60年ほどたっても史上最高の広告の1つとされている点に惹かれるといいます。
2つ目はポルシェの広告です。ル・マン ── フランスで毎年開かれる24時間耐久レース「ル・マン24時間レース」のこと。ポルシェは多くの優勝で知られますの上位10位が、ポルシェ、ポルシェ、ポルシェ、ポルシェ、マクラーレン、ポルシェと並び、「完璧な人はいない」とだけ書かれているそうです。
宮武さんは、見たことはないが想像できて、聞いただけで笑ったと反応しました。Diegoさんは、2つの広告から、シンプルさと、人間らしく楽しみながらユーモアを仕事に持ち込むことを思い出すといいます。
Diegoさんは、自分のやっていることを楽しんでいる人には勝てない、とも話しています。
Rampが日数を数える理由と「美しい創造的なカオス」
宮武さんは、Rampが日数を数えていることについて、その意味と重要性を尋ねました。
Diegoさんによると、Rampを通じて多くの創業者と会い、「成長の秘密は何か」と聞かれるそうです。Diegoさんの答えは、毎日出てきて基本をしっかりやる、という身も蓋もないシンプルな真実です。
差別化された目立つことは1%ほどしかないのに、皆がその1%をどう手に入れるかに注目している、とDiegoさんは言います。実際には、やるべきことの99%は基本をきちんとこなすことだという考えです。
だからRampでは日数を数え、毎日リセットして、その日にできる最善を尽くすといいます。時間にこだわると、「1週間かかることが、なぜ1日でできないのか」と常に問うようになるそうです。
最後に宮武さんが、Rampをいくつかの言葉で表すよう求めると、Diegoさんは「美しい創造的なカオス」と答えました。
宮武さんが「いつかRampが日本に来てほしい」と伝えると、Diegoさんは「どうなるかな」と言いつつ、自分で持っていきたいと応じて、インタビューは締めくくられました。
まとめ
今回のインタビューで語られたのは、プロダクトでも組織でも、Rampが一貫して時間を最も貴重な資源として扱っていることです。ユーザーの利用時間を減らす設計、小さなチームによる速い意思決定、失敗を安く済ませる仕組み、社内でのAI活用は、すべて同じ考え方から生まれていると言えそうです。
- Rampは、プロダクトの利用時間やエンゲージメントが下がることを成功の指標にしている
- AIのUIは常にチャットである必要はなく、多くの場合は裏側で処理して結果だけを示すのが理想だと語られた
- 短い時間で作れば間違えても安く済むため、速度と、影響範囲を小さく試す仕組みを重視している
- 社内でのAI活用により、デザイナーが顧客と直接話す時間は5倍になった
- 成長の秘密は目立つ1%ではなく、毎日基本をきちんとこなす99%にあるとDiegoさんは話す




