ChatGPTの記憶は4つのレイヤーでできている?
今回のエピソードは、先々週から続く「AIメモリー」シリーズの締めくくりにあたります。先週までは、AIが抱えるコンテキストロット ── AIに与える情報が長く多くなるほど、重要な情報を見失ったり回答の質が落ちたりする現象を指す言葉ですや、人気アーティストがいつか忘れられるといった文化面の話が中心でした。
宮武さんは今回、AIメモリーの現状を確認したうえで、今後どう発展していくのかを話したいと切り出します。
宮武さんが最初に紹介したのは、2025年12月末にあるテック業界の人物が公開した、ChatGPTのメモリーの分析です。宮武さん自身も「どこまで本当なのかは疑問がある」と前置きしつつ、分析の仕方が面白いと紹介しています。
その分析によると、ChatGPTのメモリーは4つのレイヤーに分かれているといいます。
| レイヤー | 中身 | 特徴 |
|---|---|---|
| セッションのメタデータ | デバイス、ブラウザ、地域やタイムゾーン、課金の有無、利用頻度、画面サイズ | セッションを開いたときに保存される情報 |
| ユーザーについての長期的なファクト | 名前、年齢、目的、バックグラウンド | 基本的にユーザーが「保管して」と明言したもの |
| 過去の会話の履歴 | 各会話のサマリー | 詳細ではなく要約をもとに回答している可能性 |
| 今現在の会話 | 進行中の会話の全体 | 回答のベースになる |
宮武さんが意外に感じたのは、3つ目の過去の会話の扱いです。ChatGPTは過去の会話の詳細を全て覚えていると思っていたものの、実際には会話ごとのサマリーを作っているのではないか、という見立てでした。
ChatGPTとかですと、過去の記憶の詳細を全て覚えてるのかなと思ってたんですけど、実はサマリーを作ってるんじゃないかと。
宮武さんはこの分析を、今の課題と同時に、課題に対するOpenAIの判断も見えてくる材料として面白がっています。
全部覚えないのは、あえての判断だった
宮武さんによれば、ChatGPTのメモリーの設計は、メモリーに制限がある中で、どこまで保存を最小限にしながらパーソナライズされた体験を提供するかというバランスの問題です。
草野さんが「課題感なんですか」と尋ねると、宮武さんは課題だと答えつつ、OpenAIはあえて全部を保存する道を選んでいないのだと説明します。
本来であれば多分全部の情報をとりあえず保管しといて、それをいつでも呼び出せるようにするっていうのがベストなんですけど、今の多分メモリーの制限上、それができない。
あと多分あえてそれを選んでないんですよ、OpenAIに関しては。
全ての過去の会話をデータベースに落とし込み、そこから情報を引き出すと、回答までに時間がかかります。OpenAIはスピードを重視するために、サマリーだけで十分だと判断したのではないか、というのが宮武さんの見方です。
情報は網羅できるが、データベースから呼び出すぶん回答に時間がかかる
回答が速く、ある程度の一貫性やパーソナライズされた感覚も出せる
宮武さんはこの判断を「プロダクトの判断」と表現します。必ずしも過去の情報が全部重要なわけではなく、サマリーだけでも統一感のある会話や、パーソナライズされた気分を味わえる体験を作れる、という仮説にOpenAIが賭けたのではないかという解釈です。
宮武さんは、AIメモリーにとってデータを集めることは重要だとしながらも、何を捨てて何を残すかのバランスが大事だと話します。スピード、効率性、正確性のどれを重視するかによって、情報をどこまで取り入れるかの優先順位が変わるということです。
草野さんから「どうプライオリティをつけているのか」と聞かれた宮武さんは、今はサマリーを作っているだけで、まだそこまでパーソナライズされていない気がすると答えます。宮武さんが気になっているのは、ユーザーが保管を頼まなくても、OpenAIが長期の記憶をどこまで保存しているのかという点です。
さらに宮武さんは、コアユーザーは今ChatGPTを毎日2時間ほど使っているとみています。そうなると、1年分の会話がメモリーに保管されているとは考えにくく、どの時間軸を優先するかが重要になるといいます。
情報の価値は時間とともに劣化するのか
宮武さんは、時間軸の優先順位の問題を、先週話した文化面のコンテキストロットにつなげます。人気アーティストが80年経つと忘れられるかもしれないという仮説が正しいなら、情報の価値にも半減期があるのかもしれず、その判断をAIが担っていく必要があるという話です。
草野さんが「劣化とはどういうことか」と確認すると、宮武さんは「ユーザーにとって重要かどうか」だと答えます。情報が劣化するスピードは一律ではなく、古い情報のほうが重要な場合もあります。
一方で、今のインターネット全体は新しい情報に偏っていると宮武さんは指摘します。Google検索のフィードもSNSのフィードも新しいものを優先しますが、それが必ずしも正しいとは限りません。
宮武さんが挙げた例は映画と音楽です。映画には過去のIPをもとにしたスピンオフがあり、新しいとも古いとも言えます。音楽では古い曲のほうが多く消費されているので、新曲を全員にレコメンドすべきかというと、そうでもありません。
草野さんは、AIの記憶のシステムは別に人間に合わせなくてもいいですよね、と応じています。
宮武さんは、こうした仕組みをハックする人もいると話を続けます。例に挙げたのはビルボード ── アメリカの音楽チャートを発表する代表的なメディアです。「Billboard Hot 100」などのランキングが業界の指標として使われていますのランキングです。
ビルボードのランキングはこれまで再生回数をベースにしていました。しかし配信サービスが広がってから、リミックスを作るなどの「配信ハック」が増え、古い曲がずっとランクインし続ける状態が生まれました。
そこでビルボードは2025年10月にアルゴリズムを変え、古い曲がチャートに残りにくくしたといいます。新しいアーティストをしっかり推したいという狙いです。
再生回数ベースのランキング
これまでのチャートは再生回数を中心に集計していた
配信ハックの増加
配信サービスの登場後、リミックスなどで古い曲がランクインし続けた
2025年10月の変更
古い曲がチャートに残りにくいアルゴリズムに変え、新しいアーティストを推しやすくした
ただし宮武さんは、音楽は新しさでも古さでもなく、「自分の世代の曲」が重視されるべきかもしれないと付け加えます。
草野さんは、人は変わるので、同じものをずっと良いと思っていてもだんだん飽きてくると話します。昔の情報がずっと良いわけではない、という指摘です。宮武さんも、アルゴリズムが特定の好みをプッシュしすぎるとフィルターバブル ── アルゴリズムが利用者の好みに合う情報ばかりを表示することで、自分と異なる意見や情報に触れにくくなる状態を指しますの問題が起きると応じます。
「自分の世代の音楽が一番」は35歳まで?
宮武さんによると、音楽はわかりやすい例で、たいていの人は自分の世代の音楽が一番だと言うそうです。
多分皆さんも、それこそ草野さんももしかしたらなんとなく感じるかもしれないですけど、大体自分の世代の音楽が一番って全員言うんですよ。
宮武さんが紹介したのは、さまざまな年代のアメリカ人に曲を聴いてもらい、評価を調べた分析です。多くの人は35歳ぐらいまでに聴いた曲を高く評価しがちで、そこから評価が落ちるという結果でした。
草野さんは「二十代の話かと思ったら35歳なんですね」と、思ったより長いことに驚いています。
宮武さんは、その人の世代の曲だけを流すべきなのか、レコメンドの8割をそうするべきなのかは難しい判断だと話します。時間軸ベースの優先順位づけですら難しく、しかも複数のレイヤーがあるといいます。
天気の情報であれば、基本は「今」を聞いていて、指定があれば未来の予報や過去の天気です。AIにとって意図がわかりやすい例です。
難しいのは、どの服を着ていくべきかを聞かれたときです。宮武さんは、単にTPOに合うものを提案するだけでなく、最近買ったTシャツをすごく着たがっているという気持ちまでAIが加味できるのか、と問いかけます。
ちょっとTPOが崩れたとしても、このTシャツをとりあえず着たいんですよねっていう人っているじゃないですか。
宮武さんによれば、そうした気持ちをAIが情報として記憶しているのか、それをもとにちゃんと判断やレコメンドができるのかは、まだ見えていない部分です。ユーザー側が「このTシャツと合わせて」と自分から言わないといけないのかもしれません。
気持ちまで読み取るには、データが足りない
草野さんは、テキストや声だけでは、服を選ぶ人の気持ちを読み取るのは不可能な気がすると話します。常にカメラをつけるなど、本人が入力した情報以外のものがわからないと意図はつかめない、という指摘です。
本人が嘘っていうか、まあもしくは情報が少なく話してる場合は(意図を)読み取れないんですよね、絶対に。
宮武さんも同意し、テキストには抑揚を入れにくく、アクセントの置き方で意味が変わること、さらにアメリカ人と日本人では同じ言い方でも意味が違う場合があることを挙げます。今のデータ量では不十分だという見方です。
宮武さんは、以前番組で話したAIアシスタントの可能性にも触れます。Appleであれば、AirPodsやApple Watchで常に情報を集める、よりパッシブなデータ収集の方向です。
ただ、全部を取り入れると膨大なデータになるため、短期的には無限のAIメモリーはまだあり得ない、と宮武さんは考えています。その根拠として紹介したのが、Metaのヤン・ルカン ── AI研究者で、深層学習の発展に貢献した一人です。Metaで長くAI研究を率いてきましたさんの計算です。
ヤン・ルカンさんの計算では、子どもが最初の4年間に起きている時間に目から受け取るデータ量は、今の最大規模のLLMの50倍にあたるといいます。しかもこれは、目から入る情報だけの話です。
宮武さんは、全データを集めた総合的な判断は今は難しいので、何を重要視し、何を重要視しないかという優先順位づけこそが大事になると話します。
1つではなく、複数のアルゴリズムが裏で走る
では、AIはどうやって優先順位をつけるのか。宮武さんの仮説の1つは、複数のアルゴリズムが裏で常に動き、常にアップデートされているというものです。複数のレイヤーで動くものもあれば、同じレベル感で同時並行に動くものもあるといいます。
宮武さんが出したアイデアは、ユーザーのアイデンティティごとにアルゴリズムが作られるという形です。仕事をしている宮武さんや草野さん用、趣味について考える宮武さんや草野さん用といった具合に分かれ、それを全体で見るAIのオーケストレーターがいるイメージです。
アイデンティティごとのアルゴリズム
仕事の自分、趣味の自分など、役割ごとに別々のアルゴリズムが動く
AIオーケストレーター
複数のアルゴリズムを全体として見て、まとめる
総合的な判断
1人の人間として判断するように、全体からレコメンドや判断を出す
宮武さんは、人間の脳や考え方もこれに少し似ていると話します。いろんな要因がアイデンティティなどの形で分かれていて、それを総合して1人の人間として判断しているという見方です。
切り分け方としては、目で見るデータ、耳で聞くデータ、匂いのデータのように感覚で分ける方法もあり得ます。どう分けるかはまだ明確ではないものの、少なくとも複数を走らせる必要があるのは確かだろう、というのが宮武さんの考えです。
AIの文章はなぜ似てくるのか
大量のデータの中で、AIは何に集中すべきか。宮武さんはそのヒントとして、AIが社会に与えている影響を挙げます。
宮武さんによれば、イギリスではフィクションの著者の2割ほど、ノンフィクションの著者の25%ほどが、何かしらAI生成技術を使って仕事をしているそうです。その結果として起きているのが、似たようなテキストが増えている現象です。
英語の有名な例が「Mダッシュ」です。英語のテキストをAIに生成させると頻繁に出てくるため、今ではMダッシュを見た瞬間にAIだと思われるようになっているといいます。
なぜAIはMダッシュを多用するのか。宮武さんの推測では、OpenAIがトレーニングに使った質の高いデータ、たとえば知的な著者の文章や論文でMダッシュの頻度が高く、それを真似ているのではないかということです。
最近になって、ようやくOpenAIが「Mダッシュをあまり出さないで」という指示を聞くようになったらしい、と宮武さんは話します。日本のテック業界の人がLinkedInに書いた英語の投稿でMダッシュが大量に出てくると、ChatGPTを使っていると思ってしまうそうです。
ニヤニヤしてる。
ちょっとニヤニヤしちゃうっていう。
宮武さんは、それ自体が悪いわけではないとしつつ、社会的なインパクトとしては、みんなが似たような文章を書くようになっていると指摘します。
もっと面白い例として宮武さんが挙げたのは、AIにSF小説を書かせると、別々の人が頼んでも同じ主人公の名前が出てくる現象です。女性の主人公は「エララ・ヴォス」、男性キャラクターは「Kael(カエル)」という名前がよく出てくるといいます。
でもエララボスって過去に存在しないんですよ、名前としては。
ChatGPTを使って自費出版する人が増えているため、実際にエララ・ヴォスが主人公の本がたくさん出ているそうです。草野さんは「よくそのまま使いますね」と驚き、別々に作ったのにユニバースがつながっているのは面白いと笑います。
草野さんは、日本語でもChatGPTが書いた文章はだんだんわかってくると話します。書き方があまり変わらないという感覚です。
宮武さんは、特定の単語が多用される例として英語の「delve」を挙げます。「深掘りする」といった意味の言葉で、ポール・グレアム ── スタートアップ支援組織Y Combinatorの共同創業者で、エッセイの書き手としても知られる人物ですさんも、エッセイを読んでいてdelveを見た瞬間にChatGPTだと思ってしまったと話していたそうです。
草野さんは、本当にAIで書いていなかったとしたら、そこで読者に離脱されてしまうのは悲しいと話します。実際、宮武さん自身もふだんMダッシュをよく使う人でしたが、AIだと思われるのを気にして、今はあえて消しているそうです。
僕もまあまあエムダッシュ使う人なんですよ、普通。なんですけど、なんかすごい使いにくくなりました、逆に、今。
イギリスの議会から本の表紙まで、平均化する世界
宮武さんによれば、LLMの影響は話し方にも及んでいます。ニューヨーク・タイムズの記事によると、イギリスの政治家が議会で発言するとき、冒頭で「I rise to speak」と言い出す人が急に増えたそうです。
「これから話します」という意味のこの言い回しは、これまでイギリスの政治家はほとんど使っていませんでした。一方でアメリカの政治家は一般的に使うといいます。
「登壇のスピーチを書いてください」とお願いした時に、アメリカ脳でトレーニングされていた場合、それが出てきちゃうので。
それをイギリス人がそのまま読んじゃったっていう。
草野さんは「バレ方が面白いですね」と応じています。
宮武さんは、この現象を、番組で以前話した「カルチャーは分散化しているのに、同時にモノカルチャー化している」という話に似ていると位置づけます。
映画では、宮武さんが最後に調べた範囲で、2025年の興行収入ランキングトップ10のうち9作品が既存IPでした。唯一の例外はスポーツIPの「F1」で、オリジナル映画は16位ぐらいまで出てこないといいます。
宮武さんは、ほかにも平均化の例を次々と挙げていきます。
本の表紙については、草野さんが前年のニューヨーク出張で本屋に入るたびに「すごく似ている」と話していたそうです。草野さんによれば、ロマンス系やビジネス系の小説で似た傾向があったといいます。
宮武さんは、5年ほど前に「branding」ではなく「blending」、つまりブランド同士が似てきて面白くなくなっているという話をしたことにも触れます。いろんな領域で「全ての平均化」が起きていて、AIの場合はそれがテキストの領域に表れている、というのが宮武さんの見立てです。
そして宮武さんは、この平均化の問題が、AIメモリーで何を重要視するかを考えるうえでのキーポイントになると話します。
酒を飲まない時代に失われる「逸脱」
宮武さんは、一見関係なさそうな話として、テックメディアTBPN ── アメリカのテック業界向けに配信されている番組型のメディアです。起業家や投資家へのインタビューなどを扱っていますの切り抜き動画を紹介します。ずっと頭に残っていた理由が、このエピソードを考えていてようやくわかったそうです。
動画でインタビューされていたのは、モモフクを手がけるセレブシェフのデイビッド・チャンさんです。アメリカ人のアルコール消費量が落ちる中で、レストランは今後どう運営していくと思うかと聞かれていました。
デイビッド・チャンさんの答えは、レストラン業界にとって危機的な状況だというものでした。過去10年、コロナの時期を除くと、UberやLyftのような配車サービスが登場したことで、LAなどのレストランはアルコールの消費が増え、利益率が上がって景気が良かったといいます。
配車サービスの登場
UberやLyftで、飲んだあとも帰りやすくなった
アルコール消費の増加
LAなどのレストランでお酒がよく飲まれた
利益率の上昇
レストランの景気が良くなった
消費量の減少
今はアルコール自体が飲まれなくなり、利益率が落ちて潰れる店が出るかもしれない
宮武さんの印象に残ったのは、デイビッド・チャンさんの別のひと言です。若者の中から、飲みすぎて翌日の午後3時に起き、「昨日のバーにクレジットカードを忘れてきた」と言う人がいなくなるのではないか、という話でした。
宮武さんはこれを1つのヒントだと考えます。今の世の中で抜けやすくなっているのは、逸脱したり、ふざけたり、ちょっと異例なことをしたりすることではないか、という見方です。
宮武さんは推奨するわけではないと断ったうえで、アメリカの変化を挙げます。高校生の飲酒の割合は1990年と比べて半減し、マリファナやドラッグの使用も減っています。子どものシートベルト着用率は上がり、大人の犯罪率も下がっています。
カルトへの参加も大きく減っていて、宮武さんによればピークは60年代から80年代で、2000年代から大きく落ちているといいます。
宮武さんは、これらが必ずしも悪いことだとは思っていません。ただ、何もかも同じに見える平均化の時代にパーソナライズや自分らしさを出すには、同じじゃないところをAIが探してくれる必要があると話します。
これが一番大事だと思っていて。その我々のデータを持つだけだと足りなくて、そういう、なんか異例なこととか、なんか違いみたいなものを探してくれないといけない。
「私がまだ気づいていない私」をAIに聞く
宮武さんは、今すぐできることとして、あるプロンプトを紹介します。番組でUnifyというAI企業の創業者にインタビューした際、リサーチ中に見つけた彼のツイートに載っていたもので、Shopify創業者のトビーさんに着想を得たプロンプトだそうです。
英語版のプロンプトは「Tell me something special or unique you've noticed about me but you think I haven't realized about myself yet」です。宮武さんの直訳では「私自身がまだ気づいてないかもしれないけど、あなたが感じている私の特別なところやユニークな点を教えてください」となります。
ChatGPTは過去の履歴などを見てくれるため、けっこう面白い回答が出てくると宮武さんは話します。
草野さんも別のところで見かけて試したことがあるそうですが、それほど面白い回答は出なかったといいます。あまりインプットを入れていないからかもしれない、というのが草野さんの見立てです。
宮武さんの場合も、自分が気づいていない部分まで届いたかというと、そこまでではなかったそうです。それでも、自分が何を優先しているかという考え方や、直感的に優先している情報の集め方、仮説の立て方をうまく言語化してくれたといいます。
宮武さんは、この結果はAIが持つ情報量によって左右されると考えています。AIが今後ますます人の情報を吸い上げていく中で、価値を持つのは情報そのものより「違い」だという見方です。
違いを優先するようにAIに教え込むことが大事になる、と宮武さんは話をまとめます。
草野さんは、アルコールの話を一度も飲んだことがない宮武さんがしていたのが面白かったとツッコミを入れつつ、平均化の別の側面を挙げます。自分は特別だと思っていても、検索するとすぐに同じような人が出てきて「普通のことなんだ」と思わされる、そのスピードがすごく速くなったという感覚です。
すごく自分の個性だなと思ってたものが意外と普通だったり、なんかそこの圧倒されちゃうスピードがすごく速くなったなっていう気はします。
宮武さんも、番組が前年末に「Shared Intimacy」という年末テーマを出したときの体験を話します。気に入っていた「Everything is Television」という記事を検索すると、過去にいろんな人が似たことを言っていたそうです。共感も得られる一方で、そこまで特別ではないと感じる瞬間も出てくるといいます。
宮武さんはここで、草野さんが2年ほど前に紹介したドラマ「The Big Door Prize」に触れます。自分の可能性を教えてくれる機械が出てくる作品で、宮武さんはいまだに見ていないものの、そのコンセプトはAIの良いところにつながる可能性があると話しています。
何でも覚えてくれるAIがいたら、人は何を覚える?
宮武さんが最後に話したかったテーマは、AIが人の記憶を貯めてくれるようになったとき、人間の記憶の使い方は変わるのか、という問いです。何でも覚えてくれるAIがいれば、人は覚えなくていいと考えるのではないか、と宮武さんは投げかけます。
草野さんは、電話番号や誕生日がすでにそうなっていると応じます。宮武さんも、Facebookが誕生日をリマインドしてくれるのは、まさにAIがリマインドしてくれるのと同じことだと話します。
草野さんが「最近はメッセージまでレコメンドしてくれる」と言うと、宮武さんは、それは良いことだと思うかと尋ねます。メッセージまでとなると、そもそも自分で送ったと言えるのかという問題があるからです。
草野さんは「良くない」と答え、LinkedInの誕生日メッセージの話をしかけますが、途中で「やっぱり言うのやめます」と引っ込めています。
宮武さんは、受け取る側はAIだと知っていても喜ぶかもしれないと話します。草野さんも、LINEのあけましておめでとうのメッセージはBCCのような一斉送信のこともあると応じます。
送ってくれる対象だったんだっていうのは嬉しいですね。
宮武さんは、送ってくれた対象だったことが嬉しい場合もあれば、AIっぽくて冷める場合もあると話します。人間がどこまで覚えるべきかは、これからますます問われるというのが宮武さんの考えです。
宮武さんは、Google Mapsがあれば場所を覚えなくても、地図感覚がなくても生きていける例を挙げつつ、それが必ずしも悪いことではないと話します。話し言葉しかなかった時代は劇でも何でも全部覚えなければならなかったのが、書き言葉や本が生まれたことで、覚えなくても楽しめるようになったからです。
話し言葉の時代は、劇でも何でも全部覚えないといけなかった。場所も自分の地図感覚で把握していた
本や書き言葉で、覚えなくても楽しめるようになった。Google Mapsがあれば場所を覚えなくても生きていける
宮武さんは、計算機や自動化に加え、NVIDIAのチップ設計もAIなしでは成り立たなくなっていると話します。テクノロジーで業務や考え方が変わるのはずっと起きてきたことで、AIが全てを記録したときに人間が何を覚えるのかが気になるといいます。
ミーティングにはデジタルツインが出る時代?
宮武さんが特に気にしているのは、今ではAIが全て記録しているミーティングです。今は記録機能が追加されただけで、みんないつも通りのミーティングをしていますが、次の世代はそもそも覚えないのが前提になるかもしれません。
そもそも自分が(ミーティングに)出なくて、デジタルツインだけ出て、それを後で聞くみたいな。
草野さんは、ミーティングにはテキストだけでは読み取れない情報がたくさんあるので、デジタルツインになるまでは時間がかかりそうだと話します。宮武さんも、ファクトだけなら今でもAIが伝えてくれるものの、場が凍りついていたといった雰囲気をAIがどこまで読み取れるかは別の話だと応じます。
草野さんはさらに、テクノロジーの進化で増えたものとして通知を挙げます。即レスした方がいいのは重々承知しつつ苦手だと話し、通知の量は圧倒的に増えているのに人は1人だと指摘します。
この時代の中で通知の量は圧倒的に増えてるじゃないですか。でも人は一人で。
SlackもメールもSNSも、返ってくるボールの速さが変わっているので、そこをAIにやってほしいというのが草野さんの希望です。
宮武さんは、それはまさにデジタルツインが代わりに回答する世界だと話します。将来的には出てきそうですが、デジタルツインが返信したのに本人が認識していなかったといった揉めごとも起きそうだといいます。
それでも宮武さんは、情報量もスピードも増えていく以上、全員がデジタルツインを置く時代は来ると考えています。良し悪しは別として、情報連携の仕方や何が本物か、何が重視されるかは変わっていくという見方です。
通知はこのまま一生増え続けるのか
草野さんは、「見てよ」「これ見てよ」という通知の量が、ここにきてギュッと上がっている気がすると話します。新聞受けに何かが届くような時代ではない、という感覚です。
宮武さんは、昔は誰かとたまたま同じ場所にいて話せるかどうかがチャンスだったと振り返ります。草野さんは、今考えるとそれはすごく幸せなことかもしれないと応じます。
草野さんによれば、通知は人からの連絡だけでなく、お知らせなども含めて何でも多い状態です。宮武さんは、新しいコンテンツが出たことを伝えようと、みんなが必死にアテンションを取りにきているからだと話します。
通知は一生増え続けるのか、という草野さんの問いに、宮武さんは、デジタルツインがフィルタリングしてくれる可能性を挙げます。ただ、デジタルツイン自体からも「確認させてください」という通知が来るかもしれず、通知地獄から逃れられるとは思っていないといいます。
草野さんは、エド・シーランのように携帯を持たない人を挙げ、そういう選択をするアルファ世代が出てこないのかと問いかけます。携帯を持たないことは通知を制御することでもあるからです。
宮武さんは、デジタルデトックスのような動きは増えるかもしれないと話します。デジタルツインによるフィルタリングが進めば、通知を受け取るタイミングを本当に選ぶ時代になるかもしれません。一方で今は、アプリを入れた瞬間に通知の許可を求められ、気を抜くとすぐに通知が来る状態だと、二人は苦笑しています。
なんで静かに食べれないですよね、もう。常に(通知が)来ちゃうから。
記憶は再現から「生成」へ。合成メモリーという新ジャンル
宮武さんは最後に、もう少し未来的な話をします。AIが人生を覚えるようになると、次のステップとしてAIが記憶を再現する時代が来るかもしれない、という話です。メタバースのような世界が発展すれば、再現はバーチャルになり、番組で以前話したShared Intimacyのような強い感情を生む体験も作れるかもしれません。
宮武さんは、記憶の再現はファーストステップにすぎず、その先に「合成メモリー」という新しいコンテンツジャンルが生まれると考えています。本当かもしれないし本当ではないかもしれない記憶が、再現されるだけでなく生成されるという世界です。
記憶を保存する
AIが人の人生や日々の情報を覚える
記憶を再現する
メタバースなどで、記憶をバーチャルに体験できるようにする
記憶を生成する
本当かどうかわからない記憶まで作り出す「合成メモリー」が生まれる
まあついにすごいディストピア感の話になってきましたけど。
草野さんは、以前番組で話した「夢日記を書くと本当の記憶のようになっていく」という怖い体験も、合成メモリーそのものだと話します。
体験してないけど、(夢で)見たから体験した感じになるし、書き出すと本当に起きたような気がしちゃうっていう。
宮武さんが想像するのは、合成メモリーをベースにしたSNSです。ただフリックするのではなく、次の体験へと入っていくもので、Roblox ── ユーザーが作ったゲームや体験を遊べるオンラインプラットフォームです。若い世代を中心に多くの利用者がいますをもっと没入感のあるものにしたイメージだといいます。
宮武さんによれば、Robloxでは5分から10分ごとにみんなが次の体験に移っていきます。それが記憶ベースになり、自分や他人の合成メモリーのコンテンツを、動画を見るのではなくコンサートに実際に入るような形で体験できるかもしれない、という構想です。
宮武さんはわかりやすい例として、全員がハナ・モンタナのように秘密のセレブ生活を作れるかもしれないと話します。草野さんは、普段は超売れっ子アイドルなのに学生として暮らしているキャラクターだと補足しています。
ここで宮武さんは、3回のエピソードを通して話したかったことをまとめます。AIメモリーはより多くの情報を集めるところから始まったものの、集めすぎたり悪い情報が入ったりするとパフォーマンスが劣化するため、優先順位づけが必要になります。その先には、記憶自体がコンテンツになったり、デジタルツインが生まれたりする未来があり得るという整理です。
草野さんは、体験をSNSのように見続けると、TikTokのように昔の記憶も覚えていない状態になりそうだと話します。もっと怖いのは、自分の延長線上でリアルと混ざっていくことだといいます。
宮武さんも、合成したメモリーをリアルだと思い込み、現実世界で人をそのように扱ってしまうといった変な行動につながる可能性はあると応じます。
草野さんが、前年のテーマだったパラソーシャル ── 有名人などに対し、ファンが一方的に親しみや関係性を感じる状態を指す言葉ですに近いのかと尋ねると、宮武さんは、人の記憶を再現して見られるようになれば、それは究極のパラソーシャルな関係性かもしれないと答えます。
草野さんは、テイラー・スウィフトのコンサート映画を見て泣いてしまうのも、体験を再現しているようなものだと話します。宮武さんは、彼女がコンサートだけでなく、Disney+での配信や映画版など、いろんなチャネルで体験を再現しようとしていると応じて、この回は締めくくられます。
まとめ
今回のエピソードでは、ChatGPTのメモリーが会話のサマリーをもとにしているらしいという分析から出発し、AIの記憶にとって大事なのはデータの量ではなく優先順位のつけ方だという話へ進みました。AIによる文章や文化の平均化が進む中で、宮武さんは、人の「違い」を探すことこそAIメモリーの価値になると語り、その先にデジタルツインや合成メモリーという未来を描いています。
- ChatGPTのメモリーは4つのレイヤーに分かれ、過去の会話は詳細ではなくサマリーで扱われている可能性があり、宮武さんはそれをスピード重視のプロダクト判断とみています
- 情報の価値は新しさだけでは決まらず、音楽の「35歳まで」の分析や服選びの例のように、時間軸や気持ちまで含めた優先順位づけが難しいと話されています
- Mダッシュやエララ・ヴォス、「I rise to speak」のように、AIは文章や話し方を似通わせており、映画や色、デザインでも平均化が進んでいるといいます
- 宮武さんは、データを持つだけでは足りず、逸脱や異例なこと、人それぞれの違いをAIが見つけることが大事だと考えています
- AIが記憶を担うようになると、人が何を覚えるかやデジタルツイン、通知との付き合い方が変わり、将来は合成メモリーという新しい体験も生まれるかもしれないと語られています





