TBPNとは何者か? 記者ではなく「コメンテーター」という自己定義
宮武テツローさんは、TBPNのスタジオ「Ultradome」を訪れました。番組側が「テクノロジーの神殿」「資本の首都」と冗談めかして呼ぶ場所で、収録は軽い掛け合いから始まります。
ジョン・クーガンさんは2012年に大学で経済学を学んで卒業し、いくつものスタートアップを経験したアントレプレナーです。YouTubeでの動画制作を経て、テクノロジーとビジネスを扱う毎日のライブ番組TBPNを始めました。
TBPNは共同ホストのジョーディ・ヘイズさんとの2人体制で、平日の太平洋時間午前11時から生配信しています。扱うテーマはAI、防衛テック、暗号資産など、The Wall Street JournalやXに載るテクノロジーとビジネスの話題全般です。
宮武さんは、TBPNは記者とも次世代メディアとも呼ばれるが、自分たちをどう表現するのかと尋ねました。クーガンさんの答えは「トークショーのホスト」が最も近い、というものです。
クーガンさんはジャーナリズムの経歴がなく、自分をジャーナリストではなくコメンテーターだと考えているといいます。メディアに出る人を、次のように分類して説明しました。
| タイプ | 主にしていること |
|---|---|
| インフルエンサー | 自分のライフスタイルを共有する |
| ジャーナリスト | 事実を掘り起こし、それをもとに物語を伝える |
| アナリスト | データを見て、株などについて推奨を出す |
| コメンテーター | 既存の情報をもとに、ナラティブを読み解いて語る |
クーガンさんによれば、TBPNは昔のテレビの論客に近く、軽いノリでホットな意見を交わす番組です。情報源は基本的に二次的で、新しい事実を番組に持ち込むことはめったにないといいます。
TBPNで扱う新しい事実は、企業の発表や既存メディアの記事から生まれます。TBPNはそこに、取材相手や知人との会話から得た文脈を足していく立ち位置です。
宮武さんは、米国では「エンタメとしての論評」が大きなビジネスになっていると応じました。ケーブルニュースや、スポーツのSportsCenter ── 米ESPNの看板スポーツニュース番組。試合結果に解説や論評を加える形式で長く親しまれています、The Daily Show、さらにはSouth Parkまで、角度は違っても論評の一種だという見方です。
1日の始まりは朝5時半。紙の新聞と「100ページ」の準備
TBPNの放送のうち、どこまでが事前準備でどこからがアドリブなのか。この問いに対して、クーガンさんはまず自分の1日の流れを説明しました。
クーガンさんの1日は朝5時半に始まります。ジムへ車で向かい、トレーニングをしながら、共同ホストのジョーディさんと気になる話題を話し合うといいます。
TBPNでは、The Wall Street JournalとFinancial Timesを紙で印刷して読みます。さらにXをスクロールして面白い投稿を見つけ、スクリーンショットで共有します。
番組が始まる頃には、クーガンさんの手元には約100ページの素材がそろっています。1分も割けない短い投稿もあれば、読むだけで20分、反応するのにさらに20分かかる5,000語の長文記事もあります。
素材はすぐに何時間分にも積み上がるため、TBPNでは基本的にすべてを消化しきれないそうです。そこにゲストが加わり、番組の流れに変化をつけながら新しいニュースを持ち込みます。
TBPNのゲストは、アナリストやジャーナリストに加え、ニュースになる取引を手がける創業者や投資家といった直接の当事者です。ほとんどは準備されたものですが、ライブのチャット欄には予定外の要素もあります。
視聴者が速報をチャットに書き込み、ホストが「今起きてるなんて知らなかった、番組で取り上げよう」と反応することがあります。片方が記事を読んでいる間に、もう片方が新しいニュースを探しにいき、リアルタイムで反応することもあるそうです。
宮武さん自身も、Figmaのカンファレンス「Config」の最中にクーガンさんからDMを受け取った経験を挙げます。ホストは論評するだけでなく、配信中も次の話題を探して動いているわけです。
クーガンさんは、ゲストが全員来られずWi-Fiが落ちても、3〜4時間は回せる直線的な台本があると話します。そのうえで、ライブならではの双方向性こそが魅力だといいます。
番組でクーガンさんがある人物の話をしたところ、本人がそれを知ってチャットに現れたことがありました。クーガンさんはその場でリンクを送り、本人がゲストとして出演したそうです。
こうした循環やフィードバックループはライブ配信に特有のものです。政治ではHasan PikerやDestiny、ゲームではLudwigやShroud、xQcなどの配信者がいます。しかし、テックやプライベート市場に絞ったライブ配信者は、クーガンさんの知る限りまだいなかったといいます。
ライブ配信は「偶然」だった。速さという武器と、Acquiredとの両極戦略
宮武さんは、TBPNの最初のエピソードは収録型のPodcastだったはずだと振り返ります。MrBeastの時代から、Kai CenatやSpeedといった配信者が頂点に立つ時代へ移るなかで、どうライブに目をつけたのかを尋ねました。
クーガンさんは、自分はメディアの「ホワイトスペース」、つまり誰もやっていない領域や形式に強い関心があると答えます。他のジャンルではうまくいっているのに、テックとビジネスではまだ誰もやっていないものを探すことに、肥沃な土壌があったといいます。
TBPNを始めた当時のテック系番組は、ホスト1人とゲスト1人が毎週入れ替わるインタビュー形式が主流でした。そこでTBPNは「ゲストなし、2人だけで毎日か毎週」という違う形を選びました。
一方で、ライブ配信に踏み切った判断は「ほとんど運」だったとクーガンさんは言います。テックとビジネスでライブ配信は伸びると考えていたものの、時間がかかるとも見ていました。
クーガンさんがそう見ていた理由は機会費用です。一日中ゲームをしていてもゲーム会社で大金を稼げるとは限りません。一方で、テックとビジネスに精通した人なら大手テック企業で働けます。
例として挙がったのが、テック分析で知られるベン・トンプソン ── テック業界の分析ニュースレター「Stratechery」の著者。マイクロソフトなどでの勤務を経て独立し、有料購読モデルで成功しましたさんです。もともとプロダクトマネージャーで機会費用が高かったものの、Stratecheryを事業として成り立たせたといいます。
クーガンさんによれば、ライブ配信は最初の伸びが遅く、決まった時間に見てチャットする習慣を視聴者に根付かせるのが難しい形式です。そのため、ほかの仕事を持たずフルタイムで取り組む必要があります。
Kai CenatやSpeedのような成功した配信者は、ほかに仕事を持たず、1日8時間配信しています。対照的に、テックメディアの主流は、ファンドや会社を持ちながら週1回Podcastを出すパートタイム型でした。
TBPNがライブ配信を始めた直接のきっかけは、YouTubeチャンネルの見た目の問題でした。3時間の動画を毎回アップすると、メインの動画フィードが埋まってしまいます。そこで、ライブ配信なら「ライブ」タブに入り、メインフィードに表示されないことに気づいたといいます。
偶然始めたライブ配信でしたが、TBPNはやがて速さが大きな強みだと気づきます。毎日フルタイムで取り組むことで、他のどの番組よりも早くニュースを扱えるからです。
収録型だと、撮り終えた直後に大ニュースが出て、公開時には「なぜあの話をしないのか」と思われてしまいます。宮武さんも「状況が変わってしまうこともある」と応じました。
ライブなら、誤った情報に反応して後から間違いがわかることはあっても、古い情報に反応することはありません。クーガンさんは「午前11時の時点では取引は1000億ドルで10%と思われていた。実際は12%だったが、それは明日扱おう」と言える、と例を挙げます。
宮武さんも、自身のPodcastで速報回を出した経験から、1日遅れるだけで状況が変わる今の時代の難しさに共感しました。
ここでクーガンさんが持ち出したのが「バーベル戦略」です。比較対象は、テック企業の歴史を掘り下げるPodcast「Acquired」でした。
月1回ほどのペース。徹底的にリサーチし、高度に編集した、時間が経っても色あせないコンテンツ
毎日配信。編集はまったくせず、時事性が高く、その場限りで消えていくコンテンツ
クーガンさんによれば、両者は正反対の位置にありながら、どちらも良いビジネスになっています。互いに競合せず、むしろ補い合う関係です。
逆に、Acquiredと深さで張り合いながら毎日出そうとすると、うまくいかないといいます。最大化したいスライダーを決めたら振り切り、それ以外は徹底的に最小化する。これがクーガンさんの考え方です。
「いいね」2つの動画が1年後も覚えられていた。切り抜きと引用投稿の力
宮武さんは、見つけてもらいにくいライブ配信にとって、非同期で届く切り抜き動画も成功に寄与したのではないかと尋ねました。クーガンさんは、切り抜きは楽しい宣伝手段で、あくまでマーケティングと位置づけていると答えます。
TBPNの切り抜きは、他人の投稿に反応する動画から始まりました。クーガンさんはこれを、Y Combinatorのポール・グレアムの言葉「スケールしないことをやれ」の体現だったと振り返ります。
番組1周年を投稿した際、ある人が、昔TBPNが自分の投稿に反応した動画を送ってきました。その動画の「いいね」はたった2つでしたが、その人は1年後も覚えていたのです。
クーガンさんは、単に「いいね」やリポストをするのではなく、投稿を印刷して4Kカメラの前で読み上げ、2分間語って公開し、引用投稿で本人に届けることの強さを強調します。いわば小さな「ラブレター」だったといいます。
宮武さんは、インフルエンサーには「いいね」の通知が大量に届くので、いいねでは気づかれないことが多いと指摘しました。リプライもボットが増え、次に引用投稿があり、TBPNはさらにその上を行ったという整理です。
(動画付きの引用投稿は)記憶に残るかどうかで言えば、すごく記憶に残りますよね。
現在のTBPNは規模が大きくなり、クーガンさんが本人に送らなくても、番組で言及すれば誰かが本人に伝えてくれる段階にあるそうです。
クーガンさんは、ここにも両極化が表れていると話します。注意力は短くなり、60秒のTikTokしか見ないと言われる一方で、3時間の動画を数日おきに出すジョー・ローガンはかつてないほど人気です。だからこそ、TBPNは長尺と短尺の両方を提供するといいます。
映像エッセイからライブ番組へ。なぜ作り込んだ動画をやめたのか
宮武さんは、クーガンさんがFounders FundでEIR ── Entrepreneur in Residenceの略。ベンチャーキャピタルなどに籍を置き、次の起業や投資先の支援を準備する起業家のことを務めていた頃の動画に触れます。宇宙製造スタートアップVardaや、エル・セグンドを題材にした作り込まれた映像エッセイです。
クーガンさんは、映像エッセイのチャンネルはビジネスにはしておらず、ブログのような趣味だったと答えます。その道の頂上がどんな景色なのかもよくわからなかったそうです。
ジャーナリストのアシュリー・ヴァンスさんと話すなかで、続ければNetflixやHBOに番組を売れる世界もあるように思えました。しかしクーガンさんにとって、それはやりたいことリストに入っていませんでした。企業から依頼されてドキュメンタリーを作る道にも、あまり興味が持てなかったといいます。
2020年に映像エッセイを始めた当時、テックやプライベート市場の分野では、この形式はほとんど開拓されていませんでした。初期段階のVardaの動画を作る人はほかにおらず、ハードテックや初期スタートアップに関心のある人たちから多くの再生を集めたそうです。
一方で、品質を上げるには常に移動し続ける必要がありました。家族がいるクーガンさんにとって、その働き方は両立が難しかったといいます。
さらに、映像により本気で取り組む人もいました。代表例が、子どもの頃から映画制作者を夢見てきたジェイソン・カーマンさんです。クーガンさんは「彼の領域を、彼より下手にやる理由はない」と考えました。
クーガンさん自身は映画を作りたかったわけではなく、企業について論評したかったといいます。初めてYouTubeに出した動画もClubhouseの分析でした。
YouTubeのアルゴリズムに合わせるうちに、SpaceXやTeslaのような大企業の話題に引き寄せられていたそうです。TBPNは、テック業界の内側やプライベート市場、Xでの議論といった、本来の関心に戻れる場になっています。
メディア企業にはしない。「番組だけ」に絞る理由
宮武さんは、クーガンさんとジョーディさんがTBPNをどこへ向かわせたいのかを尋ねました。過去のインタビューでは、ファンドなど別の事業にはしないと話していたからです。
クーガンさんの答えは「緩い意味ではメディア企業、でも基本は番組そのもの」でした。SpeedやKai Cenatのように、番組そのものが大きく良いものになれると考えているといいます。
機会はたくさん舞い込んでくるものの、クーガンさんは一つに集中することに大きなROIがあると見ています。トップCEOへの取材など成果は出ていますが、長く続く定番になるにはまだやれることが多いそうです。
クーガンさんは、プラットフォームやメディア企業へと拡大していったメディアの多くを、反面教師として見ています。自分の番組を育てるはずが、有望な新人をスカウトするタレントマネジメントの仕事になってしまうからです。
例として挙がったのはVox、BuzzFeed、Viceです。BuzzFeedはジョナ・ペレッティさんのブログのような形で始まりましたが、やがて本人は書かなくなり、看板ではなくなりました。
対照的なのがジョー・ローガンさんです。ローガンさんは常にローガンのままで、ヒューバーマンさんやレックス・フリードマンさんのような新しいクリエイターが登場すると、互いの番組に出演し合います。
自分の番組に専念し、他のクリエイターとは互いに出演し合う。広告主も紹介し合う友好的な関係
人を雇って番組を増やす。独立されれば価値が残らず、雇用主と対立的な関係になりやすい
雇われた側は、YouTubeチャンネルをクリックひとつで作れると気づけば独立してしまいます。稼いだ分を100%支払うことになり、雇う側には価値が残らない。クーガンさんは、そんな奇妙な対立関係より友好的な関係のほうが楽しい人生だと話します。
宮武さんは、プレジデントのディランさんらによる新しいコンテンツを見て、新しいホストを増やすのだと思っていたと伝えました。クーガンさんの返事は「いや、番組だけ」でした。
YCデモデーとFigmaのIPO。テックイベントとライブ配信の相性
宮武さんは、テック業界にはイベントが多く、ライブ配信の自然な延長になると指摘します。二人が出会ったのもFigmaのConfigで、Y Combinatorのデモデーでの配信は、誰もが見た瞬間に「なるほど」と思う企画でした。
(デモデーで)ピッチを終えたばかりなら、そのまま番組に出ればいいじゃないか、ということですよね。
イベントとの連携は、最初から計画していたわけではないとクーガンさんは言います。2人で部屋にこもるPodcastの予定が、ライブ番組になり、ゲストが加わり、ライブイベントへと広がっていきました。
Y Combinatorのゲイリーさんとの会話で「YCのメディアパートナーになるべきだ」と言われたことがきっかけでした。初回のライブ配信では「SportsCenterをやってるなんて信じられない」というメッセージが大量に届いたそうです。
クーガンさんがデモデーを好むのは、起業の初期段階で本当に起きていることに地に足をつけていられるからです。巨大テック7社や大規模カンファレンスばかり追っていると、そこを見失いやすいといいます。
クーガンさんはこれをアメフトにたとえ、スーパーボウルとNFLコンバイン(新人選手の能力測定会)の両方が大切だと話します。ドラフト当日も、オールスター戦とは別の重要イベントだという考え方です。
とはいえ、スタジオごと移動するのはチームにとって大きな負担です。現在のペースは月1回ほどですが、テック企業はカンファレンスを近い時期に集中させがちで、1か月まるごと出張になる可能性もあるそうです。
それでも、撮影用の背景パネルをY Combinatorに保管しておくなど、設営のノウハウは蓄積されています。世界有数のCEOと話す一方で、AI企業を立ち上げた高校中退の若者にも同じくらい熱くなれる。この幅が、TBPNの市場の定義を変えているとクーガンさんは考えています。
大手CEOだけを追う番組は、テックの次に石油や医療も扱います。一方、TBPNにとってのシリコンバレーは、Meta Connectのマーク・ザッカーバーグさんでもありY Combinatorでもあります。両者は深くつながっていて、TBPNの視聴者はY Combinatorにも関心を持つといいます。
ゴングとスーツは冗談から。演出に込めた「系譜」
TBPNで印象に残る演出の一つが、ゴングや効果音です。宮武さんは、面白いだけでなく儀式的でもあり、意図的にやっているのではないかと尋ねました。
クーガンさんによれば、多くは「サウンドボードがあったら面白くない?」といった冗談から始まっています。ただ、掘り下げて考えると深い由来があるといいます。
スーツはもともと皮肉でした。テック業界の人はふつうスーツを着ないからです。ところが重要なCEOを取材するときは相手もスーツ姿のことがあり、プロとしての取材の場では、スーツ姿の相手のほうが話しやすい場合もあります。
スーツを着ていれば、冗談のモードはすぐにオフにできます。Tシャツ姿から急に「ここからは真面目に」と切り替えるより、ずっと簡単だとクーガンさんは言います。
サウンドボードも同じです。多くのトーク番組には生バンドがいて、誰かがジョークを言うと演奏で応えますが、TBPNではサウンドボードがその役を担います。配信者なら誰でもサウンドボードを持っています。
クーガンさんは、こうした演出はテックやプライベート市場の番組では新しく見えるだけだと話します。実際には、ゲーム配信や1980年代の深夜テレビ、さらには数百年前の城の文化にまでつながる系譜があるといいます。
ジョンとジョーディの役割分担。共同ホストはどう選ばれたか
番組中、クーガンさんは進行のペースをつくる役を担うことが多いといいます。事実関係を整理し、The Wall Street Journalの記事の導入を読み上げたあとは、ジョーディさんと意見をピンポンのようにやり取りします。
二人は関心の領域も少しずつ異なります。ジョーディさんは暗号資産業界での経験があり、クーガンさんはAI研究寄りの話題に強く、熱心に聴いているPodcastとしてDorkCashを挙げました。
初期にはジョーディさんが広告主対応を担っていましたが、今はプレジデントのディランさんに移りました。役割の違いは次のように整理できます。
| 項目 | ジョン・クーガン | ジョーディ・ヘイズ |
|---|---|---|
| 関心領域 | AI研究寄りの話題 | VCの力学、マーケティング、ブランディング、D2C、暗号資産 |
| 番組づくり | 制作側(カメラ、マイク、レンズ選び) | 配信・流通側(字幕、切り抜きの形式、文脈の付け方) |
| その他 | 番組の進行やペースづくり | 番組準備や構成の設計、企画アイデアやグッズ、命名とブランド |
「Technology Brothers」や「TBPN」という名前を考えたのもジョーディさんです。クーガンさん自身は「ジョンとジョーディのショー」のような平凡なドメインでもかまわなかったそうです。しかしジョーディさんは良いハンドル名と.comドメインの価値を重視し、クーガンさんもそれが100%正しかったと認めています。
宮武さんは、ジョーディさんが組むべき相手だとどうしてわかったのかを尋ねました。クーガンさんは、2人のホストだけでゲストを呼ばず、台本なしで投稿やニュースに反応する形式は、テックではまだ活かされていないと考えていたといいます。
クーガンさんは、相手を探してテスト収録を重ねました。最初に誘ったPodcasterのデヴィッド・センラさんには「ニュースやテックの何を知ってるんだ」と断られたそうです。センラさんについて、クーガンさんは「すべてはこの人のおかげ」と話しています。
ジョーディさんとはRiversideや会議室で数本撮り、「これはずっと続けられる」と感じたといいます。二人とも、ほかに本気で抱えている仕事がない時期だったことも大きかったそうです。クーガンさんは「EIRは誰もキャリアにしない、いずれ次へ進む立場だ」と振り返っています。
暗くシネマティックな照明と「ラウド・オピュレンス」
宮武さんは、天井の巨大な照明や広い空間など、セットづくりのこだわりを尋ねました。クーガンさんは、セットデザインは一番の弱点だと認めつつ、カメラ、レンズ、音声、照明には強いこだわりがあると話します。
クーガンさんがこだわったのは、カメラの奥側から顔を照らす照明でした。頬に三角形の光ができるレンブラント・ライティング ── 画家レンブラントの肖像画に由来する照明法。顔の片側を照らし、反対側の頬に小さな光の三角形を作る立体的なライティングですと呼ばれる手法で、HBOの作品ではほぼすべてのショットがこの形だといいます。ただ、照明を隠す必要があり、手間がかかるそうです。
多くのPodcastは、パソコンの前に座って正面から照らす明るい照明です。白い余白は「暗く、ムーディーで、映画的」な見た目の側にあったため、番組の中身は明るく親しみやすいままでも、あえて違う見た目を選んだといいます。
セットの発想も逆張りでした。テック業界の服装はTシャツにジーンズ、グッズ、ランニングシューズが定番です。富裕層はドラマ「Succession」に見られるような、ブランドを見せない「クワイエット・ラグジュアリー」を好んでいました。
そこでTBPNは「ラウド・オピュレンス(騒がしい豪華さ)」を掲げ、金色の調度品で飾りました。スタジオには馬の像や古い木造船、エイブラハム・リンカーンの木像があり、レース風の帽子はF1を意識した今後の方向性も示しているそうです。
ジョーディさんもクーガンさんも中流家庭の出身で、出演者の誰よりも裕福ではないといいます。それでもラルフローレン的な乗馬やヨット、プライベートジェットの美学を取り入れるのは、テック業界とのずれが面白いからです。テックはラルフローレンを丸ごと買えるのに、誰もその現実を口にしない、という指摘です。
話はZ世代の起業家にも及びました。物質的なものに執着しない一方で、セカンダリーでの株式売却や会社の転売、アクハイアー、暗号資産での一発当てを考え、次々と渡り歩く傾向への懸念があるといいます。
クーガンさんは、巨大な城を築いたウィリアム・ランドルフ・ハーストのように、レガシーを残そうとする姿勢がテックに戻ってきてもよいと話します。物質主義に見えて、実は組織を築くための根本的な真実を語っているのかもしれない、という見方です。
メディアへの信頼は過去最低? それとも過去最高?
宮武さんは話題を変え、Gallupの調査でメディアへの信頼が28%ほどと、前年よりさらに下がって30%を割ったという報告を紹介しました。その一方で、ジャーナリストのバリ・ワイスさんのメディアは成功し、最近買収もされています。
クーガンさんはまず、調査が「メディア」をどう定義しているかに注目します。New York Timesのようなマスメディアなら信頼は低い。しかし「ニュースを得ている場所を信頼しているか」と聞けば、信頼はほぼ過去最高ではないかといいます。
その理由は、今の人々がニュースをふるいにかけるコメンテーター経由で情報を得ていることです。クーガンさんは、毎日ランダムな新聞を渡されても信頼しないが、自分で選んだ情報源は信頼していると話します。
クーガンさんが選んだ情報源は、互いに反応し、文脈を補い、ファクトチェックし、ときにはこき下ろし合います。その全体によって真実をかなり把握できていると感じていて、多くの人も同じことができるといいます。
私たちはずっと選り好みするようになった。マスメディアも(選べば)信頼するチャネルの一つですが、たいていは選んでいないんですよね。
クーガンさんは、マスメディアと新しいメディアの二項対立はやや人工的だと応じます。引いて見れば、人間が情報を得ていることは何も変わっていないかもしれません。紙がウェブサイトになっただけで、クーガンさん自身は今も紙で読んでいるといいます。
プラットフォームこそが「バンドル」。中間は押しつぶされる
宮武さんは、メディアを含む多くの業界にバンドルとアンバンドルの周期があるとして、Substackに象徴されるアンバンドルの時代のあと、再バンドルが起こるかを尋ねました。
クーガンさんは、再バンドルはすでに起きていると答えます。Spotify、YouTube、Twitch、Xといったプラットフォームが広告主を束ね、広告収益をクリエイター全体に分配しているからです。
YouTubeなら、視聴者が見た広告の収益がそのままクリエイターの懐に入ります。そのためクーガンさんは、大きな再バンドルは起きず、アンバンドルが続くと見ています。
例外として、複数のジャーナリストが書く紙の雑誌Arena Magは、ある種の再バンドルと言えるかもしれないといいます。ただし、それは紙ならではの特別な商品だという位置づけです。
クーガンさんは、ここでもバーベル効果を指摘します。ノートパソコン1台でバズを起こし、YouTubeから自動で小切手が届く個人クリエイターが一方の端にいて、もう一方の端にプラットフォームがあります。
| 位置 | 具体例 | 状況 |
|---|---|---|
| 個人クリエイター | ジョニー・ハリス、クレオ・エイブラム、The Try Guys | 独立して成功し、年に数百万ドルを稼ぐ人も多い |
| 中間の仲介者 | 番組をまとめるネットワーク | 優秀な人材が独立し、常に押しつぶされる |
| プラットフォーム | Meta、Spotify、Netflix、YouTube | 保有していれば大きなリターン |
クーガンさんは、選ぶならどちらかの端にいるべきで、中間にいるべきではないと考えています。AIや技術の進歩で、この傾向はさらに強まるといいます。
かつてCNNで番組を持つ意味は、配信網だけでなく制作コストの共有にありました。プロデューサーが詰めるビル、共有の小道具部門、カメラ部門、番組間を行き来するスタッフがそろっていたからです。
今は配信網をYouTubeで手に入れられ、小道具はAmazonやレンタルで調達でき、カメラも安く扱いやすくなりました。1時間分のコンテンツを作るコストが下がり、個人クリエイターでも負担できるようになったと、クーガンさんは説明します。
毎日1ページのモノローグ。ニュースレターを始めた理由
宮武さんは、ライブ番組とは別にSubstackでニュースレターを始めた理由を尋ねました。クーガンさんの答えは「顧客への執着」です。
TBPNが届けたい視聴者は少数です。テクノロジーに興味がある人は多く、MKBHDのiPhoneレビューが数百万回再生されるのも当然だとクーガンさんは言います。しかし、弁護士向けAIを手がけるシリーズEの企業に関心を持つ人は、ごく限られます。
だからクーガンさんは、届けられる場所ならどこでも届けたいといいます。「自分で自分をアンバンドルしている」という表現を使い、3時間の番組を複数の形で届けています。
- ライブで視聴する
- SpotifyでPodcastとして聴く
- YouTube動画や切り抜きで見る
- 20分のインタビュー単体で見る
- テキストの要約やニュースレターで読む
ニュースレターでは、クーガンさんが番組のために毎日書くモノローグを届けています。AI人材争奪戦やOpenAIとOracleの提携、プラットフォームがAIコンテンツをどう扱うかなど、その日に考えていることを1ページ、500語ほどにまとめたものです。
クーガンさんは、番組から注意をそらす別プロジェクトをいつも警戒しています。しかしニュースレターは番組の冒頭の空気を決め、番組を良くしてくれたといいます。モノローグで始まり、ジョーディさんが反応し、関連する投稿を出して文脈を広げる流れです。
ニュースレターは、TBPNに出演するゲストにも役立っています。今年のゲストは1,000人を超えましたが、忙しい人ばかりで毎回は見られません。見出しだけでもクーガンさんの関心がわかり、「彼は間違っているから出演しよう」でも「正しいから出よう」でも、関わり続けてもらえればコミュニティの一員だといいます。
1周年で学んだ最大の教訓は「フルタイム」のリターン
宮武さんは、TBPNが1周年を迎えたことを祝い、この1年で最大の学びを尋ねました。クーガンさんは、フルタイムで取り組むことの投資対効果だと即答します。
クーガンさんは5年間、ほかの仕事と並行してYouTubeを続けてきました。月に数百万回再生され、登録者は50万人に達していましたが、コミュニティで重要な存在になったり、議論を起こしたりしたことはなかったといいます。パートタイムなので、本気に見えなかったのだそうです。
転機をくれたのはデヴィッド・センラさんでした。初期の回を聴いたセンラさんは、二人に「フルタイムでやれ、週80時間かけろ、スタートアップのように全力を注げ」と助言したといいます。
週1回1時間の番組を想定。ほかの予定があれば休む可能性もあった
毎日3時間の配信と多数のゲスト出演。事業として好循環が生まれ、テック業界の議論を起こす場になった
面白いのは、二人が週1時間の番組を80時間かけて磨いたわけではないことです。フルタイムになった結果として、毎日3時間の配信やゲストの出演が生まれました。クーガンさんは、本気で取り組んだからこそ番組が今の形で存在しているといいます。
スタートアップでは、事業に専念せよというのはY Combinatorの基本中の基本です。それなのにテックメディアでは、Podcastはマーケティング部門のものや副業だと見られてきました。実際にPodcastのチャートを調べると、フルタイムの番組はごくわずかだったそうです。
ジョー・ローガンさんは年に1億ドル稼ぐと言われますが、テック業界にはもっと稼げる人もいます。そうした人たちが「ジョー・ローガンになるより、ジョー・ローガンの番組に出たい」とパートタイムを選ぶのは理解できるとクーガンさんは言います。そのうえで、TBPNには「テクノロジーにはPodcastが必要だ」というキャッチコピーがあり、テック番組は多くてもフルタイムのテックPodcasterは本当に少なかったと振り返ります。
最後に、繰り返し立ち返るコンテンツを聞かれたクーガンさんは、子どもの頃に聴いたBlink-182のような音楽のプレイリストを挙げました。本ではピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』を選び、1〜2年ごとに読み返せば最良のビジネスの知恵を取り戻せると話しています。
まとめ
TBPNは、偶然始めたライブ配信を「速さ」という武器に変え、テック・ビジネス領域の空白を埋めてきました。クーガンさんの戦略の根っこには、ホワイトスペースを探すこと、両極に振り切ること、そして番組だけにフルタイムで集中することがあります。
- ジョン・クーガンさんは、自分をジャーナリストではなくコメンテーターと位置づけ、既存のニュースに文脈を与える番組としてTBPNを運営している
- ライブ配信はYouTubeのフィード整理という偶然から始まったが、古い情報に反応しない速さが強みになった
- Acquiredとは対極の、毎日・無編集・時事性という軸に振り切ることで、競合せず補い合う関係を築いている
- メディア企業化やタレント事務所化を避け、番組そのものを大きくすることに集中する方針を取っている
- 1年間の最大の学びは、パートタイムではなくフルタイムで取り組むことのリターンの大きさだった




