AIエージェントの時代に、どんな組織を作るべきか?
今回のテーマは「Agentic Organizations」、つまりAIエージェントを前提にした組織作りです。宮武さんは、多くの経営者が頭を悩ませているテーマとしてこの話を取り上げました。
宮武さんによると、AIエージェントは「デジタル労働者」とも呼ばれています。サム・アルトマン氏が「1人でユニコーンを作れる時代」に触れたこともあり、既存の会社も新しく起業する人も、組織の作り方を考え直す必要が出てきています。
先行事例として宮武さんが挙げたのがKlarna ── スウェーデン発の後払い決済サービス企業。AIの積極導入を打ち出したことで知られていますです。宮武さんの説明では、KlarnaはSalesforceのようなサービスの一部をAIに置き換え、従業員数も最終的に半減させたそうです。
Klarnaでは、AIエージェントが700人分ほどのカスタマーサポートの仕事をこなしていたといいます。一方で、人間の採用も一部続けていると話しています。宮武さんは、人とAIのバランスや導入のタイミングをどう考えるかが論点だと整理しました。
これ(AIのバランス)もどんどんAIの機能が変わってくる時に変化すると思うので、それに合わせた組織作りの考え方っていうところを話すのがいいかなと思いましたね。
営業、HR、マーケティング、コードなど、職種ごとに「AIマーケター」「AIセールスマン」をうたうサービスが毎日のように出てきています。そのため、そもそも人を採用するのかAIを採用するのか、という問いも生まれています。
既存の大企業の例として紹介されたのが製薬会社のモデルナです。宮武さんによると、モデルナはCTOと人事のトップ(Head of People)の役割を1つの機能に統合しました。人事トップのトレーシー・フランクリン氏が全体を見る体制になったといいます。
統合された役割の中身は、どの仕事をテクノロジーで自動化し、どの仕事を人がやるべきかを選ぶことです。その結果、役割が新しく作られたり、なくなったり、再定義されたりしているそうです。
ほぼ全組織がいろんな要素で(AIを)使いすぎているので、その中で人間をリプレイスするほどのものなのかっていう判断を、この新しい役割がモデルナの中でやっている。
人間はみな「AIの管理職」になるのか?
デジタル労働者が社内に入ると、会社の中の労働者の数は一気に増えます。宮武さんは、あるアンケートで82%の経営者が今後12〜18か月でデジタル労働者を積極的に増やすと答えていたことを紹介しました。
宮武さんは、人とAIの関係が段階的に変わっていくと見ています。以下の図は、宮武さんが示した3つのフェーズを並べたものです。
第1フェーズ
人間がAIアシスタントを使う
第2フェーズ
人間とエージェントがチームを組み、AIが同僚のような存在になる
第3フェーズ
人間がリードし、エージェントがオペレーションを回す
この流れが進むと、より多くの人が管理職のような立場になるかもしれない、と宮武さんは問いかけます。求められるスキルセットも変わります。
今までその実行を実際に、例えばコードを書く人でしたり、コピーを書く人でしたり、細かい作業をやるエキスパートを求めていたのが、どちらかというとマネージメントしたり、何がいいのか、何が悪いのかっていう判断をする人がより重要になってくる可能性がありますよね。
草野さんは、プレイヤーでいることが楽しくて管理職をやりたくない人も多い、と指摘しました。プレイヤーのままだとAIと比較されてしまうため、独立を選ぶ人も出てきて、キャリアの描き方が変わりそうだといいます。
宮武さんは、独立したとしても会計など周辺業務は誰かが担う必要があり、そこでも結局AIエージェントを使うことになるだろう、と応じています。
1人の従業員が「AIエージェントチーム」を率いる時代
仕事の変わり方については、別の見方もあります。宮武さんによると、Boxのアーロン・レヴィ氏は「役割自体は変わらず、スピードが上がるだけ」と見ているそうです。
一方で宮武さんは、「1人の従業員」という概念そのものが問われる可能性があると考えています。1人の従業員が、AIエージェントのチームを率いる形になるかもしれない、という見方です。
宮武さんが急成長中のAIスタートアップにヒアリングすると、少ない人数で売上を伸ばしている会社では、各従業員がすでにAIエージェントのチームを抱えていたといいます。
まあ3から10ぐらいのAIエージェントを扱っていて。で、しかもそれは各チームメンバーが自分たちの(エージェント)を持っているので。
その結果、1人の人間が1つの事業部に相当する仕事を自ら実行している、と宮武さんは説明しました。数え方を「3体なのか3人なのか」と迷う一幕もあり、AIエージェントをどう数えるかという呼び方すら定まっていない状況がうかがえます。
生産性が10倍になったら、人は減らすのか増やすのか?
草野さんが「AIエージェントを扱える人を採用したいですよね」と言うと、宮武さんはコスト面でもそのほうが明らかに見合うと同意しました。そのうえで、宮武さんは自分が気になっている点を数字の例で説明しています。
宮武さんのたとえでは、これまで従業員1人が給料の2倍のアウトプットを出していたとします。AIエージェントを使う人はコストが少し上がるものの、アウトプットがそれ以上に伸びて、最終的にROIが10倍になったと仮定します。
このとき多くの人は従業員の削減を語ります。しかし宮武さんは、特にアメリカでは逆の発想になりやすいと見ています。
10倍のROIを出せるのであれば、もっと人を採用して、さらにその10倍の人たちをどんどん増やして、会社を3倍成長させるのではなく、30倍成長させた方がいいんじゃないかっていう。
今までと同じアウトプットで良ければ、人を減らして効率化できる
ROIが10倍なら、むしろコストをかけて採用を増やし、成長幅を大きくする
草野さんは、「テクノロジーが進化したら働かなくていい」という未来は来ず、逆に働いて生産性を一気に伸ばす方向になるのでは、と受け止めました。
宮武さんは、変わるのは「働く場所」の中身だと補足します。農作業からパソコンでのデータ入力へ移ったように、求められる労働の種類が変わるという見方です。全体の労働時間は下がっていても、労働が完全になくなるわけではないと話しています。
でもなんかこの人間がその新しい事業部を立ち上げるのではなくて、自らその事業になるっていうところはすごい面白いと思いますし。
営業の現場では、AIエージェントをどうつないでいるのか?
草野さんが「エージェントを1〜10個使うとは具体的にどういうことか」と尋ねると、宮武さんは営業の例で説明しました。特定のサービス名は定まっておらず、まだみんなが試している段階だといいます。
まず、営業候補のリードを探し続け、メールの下書きまで作るエージェントがいます。人間は下書きを見て、送るもの・送らないものを判断します。獲得したリードをCRMに入力する作業や、マーケティングのコピーを考える作業も、別のエージェントが担うそうです。
草野さんが「ChatGPTもAIエージェントに入るのか」と聞くと、宮武さんはChatGPTはまだエージェント的な機能が少ないと答えました。ここで言うエージェントは、常に動かしておけて、寝ている間も能動的に動くもののことだと説明しています。
草野さんはさらに、こうしたツールは会社が用意しているのか、社員が上司に黙って使っているのかを質問しました。宮武さんによると、1人で10個も使うような会社は組織が小さく、会社として設計しているため、お互いに把握しているそうです。
宮武さんはもう1つ、SNSを起点にした営業の流れを紹介しました。以下の図は、その流れをステップ順に整理したものです。宮武さんは「これ全部それぞれ違うエージェント」だと話しています。
モニタリング
SNSを監視し、顧客候補が自社の製品に関連する投稿にいいねやリポストをしたらフラグを立てる
つながり申請
別のエージェントが情報を拾い、LinkedInでの申請とパーソナライズしたメッセージを提案する
ミーティング
つながった相手とのミーティングへの持っていき方を考え、当日は議事録を取る
営業プラン
議事録から得たインサイトをもとに、営業プランを立てる
宮武さんは、これは「人間の仕事が自動化される」というより、人間の作業の一部をAIが担っている状態だと整理しています。その結果、アーロン・レヴィ氏の言うように、より多くの仕事を速くこなせるようになるという見方です。
マイクロソフトのCEOも10体のエージェントを使う理由
宮武さんによると、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏も、10体ほどのカスタムエージェントを実際に使っているそうです。草野さんは「全部知りたい」と強い関心を示しました。
宮武さんの説明では、ナデラ氏のエージェントはCopilot Studio ── マイクロソフトが提供する、独自のAIエージェントやチャットボットを作成できるツールで作られています。そのうちの1体は、カレンダーの予定から参加者や過去のメモを確認し、ミーティング準備の資料を作るものです。
ミーティングに入る直前にそれ(準備資料)を読めば、なんとなく、あ、こういうミーティングでみたいなのが全部わかると。
草野さんが「複数使うのは掛け合わせなのか」と聞くと、宮武さんは今は完全に掛け合わせだと答えました。特定のタスクには、それに特化したエージェントが必要だからです。
宮武さんは、人間も同じだと続けます。会計士、税理士、マーケターのように専門が分かれているからです。リサーチをインターンに任せると中途半端になりがちなので、本気で調べるならエキスパートのリサーチャーに頼むほうがよい、と説明しました。
AIエージェントの一つの可能性でいうと、そこのエキスパートをそれぞれ呼べるっていう可能性があるっていうところですね。
新人の仕事がAIに置き換わると、何が起きるのか?
宮武さんは、AIエージェントを使ったことがない人には扱いづらく感じられるだろうとも話しています。アウトプットをレビューし、修正を頼み、また出てきたものを確認する、という作業の繰り返しになるからです。
宮武さんによると、品質の低い出力は英語でAI slop ── AIが大量に生成する、質の低いコンテンツやミスを含むアウトプットを指す英語のスラングと呼ばれ、どうしても出てしまうものだといいます。そのため、人間の仕事はただの品質チェックに見えるかもしれません。
しかし宮武さんは、人間がやっていることの本質は、AIエージェントに方向性やアウトプットの選び方を教えることだと見ています。
草野さんは、Z世代の職がなくなっているというニュース記事を読んだと話しました。新人がまず担う仕事がAIで足りるようになっているので、次のレベルから始められるのは良いことかもしれない、という受け止めです。
宮武さんは、その場合スキルを学ぶ時間や経験を積む機会がなくなることが問題だと指摘します。基礎を学べなければ、上の層に進めなくなる可能性もあるといいます。
草野さんは、ワクワクして入社したのにエージェントの調整ばかりでは「これ楽しい仕事だったんだっけ?」と思ってしまう、とも話しました。宮武さんは、やっている感がなくなる可能性は十分あるとしつつ、管理職はすでにそういう仕事をしていると応じています。
難しいですね。まあ逆にその人と人の悩みみたいなものは解放されるけど。
草野さんは、人間関係の悩みが減る一方で失うものもあるとして「トレードオフだな」とまとめ、宮武さんも本当にトレードオフだと同意しました。
AIエージェント同士に「相性」はあるのか?
宮武さんは、AIエージェントを個人のアシスタントとしてだけ考えるのでは足りないと話します。宮武さんと草野さんがそれぞれエージェントを持てば、4者のチームになるからです。
人間の組織には、特によく連携できる組み合わせがあります。宮武さんはPayPalの初期メンバーを例に挙げ、喧嘩はしても実行力やチームワークが際立っていたと話しました。
このAIエージェントAとBはすごい相性がいいですと。だから、この2人はずっと一緒にさせるべきだみたいな話が出てくるのかっていうのはすごい気になりますよね。
草野さんは、AIなら調整できるのではと返しました。宮武さんのエージェントが宮武さんのやり方に合わせていても、別の人と組むときには変えられそうだという考えです。
宮武さんは、どこまで調整するかが問題だと応じます。エージェントが個人のものか会社のものかで変わりますし、事業部ごとに置く場合は、事業部の目的や社内政治がどこまでエージェントに反映されるのかも考える必要があると話しました。
会社のカルチャーをAIエージェントにどう埋め込むか
草野さんが「会社のカルチャーがAIエージェントにも必要なのか」と尋ねると、宮武さんはAppleの例を挙げました。Appleはチームによっては社内の他のメンバーにも情報を出さない、クローズドな文化で知られています。
で、そうなった場合、AIエージェントも同じように、そのクローズにならなければいけないじゃないですか。その少なくとも情報を漏れないようにしないといけないっていう。
宮武さんは、そうした制約の中で別チームと協働するとき、エージェントにも連携しやすい・しにくいが生まれるのでは、と考えています。
草野さんは、エージェントが会社のお金で契約され、退職時には切り離されるなら、まず会社のカルチャーを土台にし、その上に従業員ごとのカスタマイズを重ねる形になるのでは、とイメージを話しました。DiscordなどのコミュニティにあるルールがAIのベースに埋め込まれているようなイメージです。
宮武さんは、そこは非常に難しいと応じます。バリューのような大きな方針は書かれていても、暗黙のルールまで定義するのは簡単ではないからです。人間が定義するのか、AIが働き方を観察してルールを書き、人間が確認するのかもまだわからないと話しています。
宮武さんはさらに、同じ役割のコピーライターエージェントが2体いても、生成するものである以上、他のエージェントとのやり取りには細かな違いが出るはずだと指摘しました。草野さんも、人間の会社でもチームによって雰囲気が違うと応じています。
宮武さんが「少なくとも出てくる」と見ているのは、人間とエージェントの相性です。たとえば、フィードバックが厳しめのエージェントのほうが合う人もいます。
これも結局人によっては、その例えば褒められて成長する人と叱られて成長する人っているじゃないですか。
無限にコピーできることの強みと、AIの「育成」
宮武さんは、AIエージェントの良さは「無限にコピーできる可能性」にあると話します。人間なら相性の良い同僚が退職したり部署が変わったりして離れてしまいますが、エージェントならそれを避けられるかもしれません。
より自分が居心地いいチームと常に一緒に仕事ができる可能性がある。
草野さんは、それならエージェントを管理するだけで仕事が虚無になる心配は意外と少ないのでは、と受け止めました。宮武さんは、体育会系のエージェントを求める人もいるように、何を求めるかは人それぞれだと話しています。部署を移っても自分のエージェントチームがついてくる可能性もあるといいます。
宮武さんは、エージェントが年数とともに成長するのかも気になると話しました。今はモデルが変わるとパフォーマンスが大きく変わりますが、一定の水準に達した後は、会社のデータを吸収したり多くの従業員と接したりして伸びるのかもしれません。その答え次第で、AIエージェントを育成するチームを作る選択肢も出てくるといいます。
そのうえで宮武さんは、人間の採用と根本的に違う点を強調しました。AIエージェントはデジタルなので、一度育てれば理論上は無限にコピーできます。
優秀な人材をそのつど採用する。ハイレベルな人を集める方法もあるが、同じ人は再現できない
営業が上手いAIが育ったら、新卒のAI営業マンを採るのではなくコピーすればよい。コストも下がる
効率化しすぎると効かなくなる? DMとニュースレターの教訓
草野さんは少し話がずれると前置きしつつ、AIツールの普及で営業DMやメールが大量に届くようになった話を出しました。どれだけ人間らしい文面でも、数が増えるほど刺さらなくなるのでは、という懸念です。
草野さんは、ニュースレターの配信頻度を上げたら開封率が上がり、さらに頻度を上げ続けた結果スパム扱いされた例も思い出しました。宮武さんはそれをGrouponの話だと補っています。
宮武さんは、こうしたことは絶対に起きると断言しました。アメリカのテック業界では「DMが来たら大体AIだろう」と思われていて、実際に開封率が落ちているといいます。
(ギャリー・ヴェイナチャックさんの名言で)何かワークするのを見つけたら、それをみんなコピーして、最終的に過剰評価されてしまうみたいな。それが多分より加速するっていうところですよね。
宮武さんによると、これはマーケティングの根本的な性質です。ニュースレターも、昔はECブランドの多くがやっていなかったのに、今はどこもやっています。その結果、ブラックフライデーには何百通ものメールが届き、結局何も買わないという動きも出ているそうです。
そのため、今後はより難しく投資のかかるマーケティングや、新しい手法を試し続ける姿勢が必要になる、と宮武さんは見ています。
草野さんは、対面であるべき部署や、Duolingoのようにトレンドに合わせて「今やらないと跳ねない」施策を人が担う部署は、むしろ拡大してもよさそうだと話しました。
宮武さんは、リアルタイム性のあるものと投資ハードルが高いものは過小評価されやすいと補足します。AIがやらないからこそ、手書きの手紙やギフティングが評価されるようになる可能性もあるといいます。
やっぱりその既存の今までワークした手法をひたすらやるっていうのが基本的に普通の考え方だと思うので、そこに対してより何かマインドセット変えないといけないのかなと思いますね。
「AIシフト宣言」のあと、誰がワークフローを変えるのか
草野さんは、ShopifyやDuolingoの経営者が出した「AIにシフトする」という宣言に触れました。賛否はあるものの、AIを活用できる人を採用し、代替できる部分は代替するという方針は正しい気がする、と話しています。
ただ草野さんは、「どうぞAIを活用してください」と社員に任せるだけでは難しいと考えています。学ぶ時間を強制的に作る、ツールを共有するなど、会社として仕組みを作ってほしいという意見です。
宮武さんによると、アメリカのテック業界では、AI活用を評価基準に組み込むインセンティブ設計をすれば、自ら学びに行く人もいるそうです。それでも変わりたくない従業員のほうが多いだろうと話しています。
新しいスタートアップならAIネイティブな人を採用すればよいものの、既存の会社ではそうはいきません。宮武さんは、トップダウンの宣言だけでなく、時間を作ったりテストをしたりして半強制的に学ばせる方法が必要だと述べました。
宮武さんがそれ以上に重要だと考えているのは、ワークフローを理解したうえでツールを提案する人の存在です。毎回手入力していたデータが自動で入るようになると気づければ、それだけで仕事はずっと楽になります。
草野さんは、新しいサービスを探して比較するのが面倒だと話し、宮武さんはワークフローに組み込むところが一番面倒だと続けました。ただし宮武さんは、その役割を社内の独立したチームにするのは間違いだと考えています。
その会社の中でなんかAI推進部みたいなチームがいて、で、そこが、営業の部署に対してこれを導入してくださいっていうのは個人的に間違いだと思うんですよ。
わかってないから、ワークフローを。
宮武さんは、AI推進部を置くとしても、各チームに人を送り込み、その人が現場のワークフローを理解したうえで導入を判断すべきだと話しました。最終的にはAIが担う可能性もありますが、今はプライバシーや情報共有の範囲まで考える必要があるため、人間のほうが適しているといいます。
「結局、人間がやった方が早くない?」問題
宮武さんは、AI導入に反対する大きな理由として「うまく動かない」「特定のことしかできない」という声を挙げました。そこで紹介したのが、二人がアメリカ出張でAIアシスタント系のスタートアップを訪ねたときの話です。
二人は約2時間のデモを受けました。オフィスを出たあと、草野さんが出した感想を宮武さんが明かします。草野さん自身はその発言を覚えていなかったようです。
結局これ、その人間がやった方が早いんじゃないかと。その自動化以前の問題に、これ自動化して本当に意味があるんですかっていう。
宮武さんの説明では、誰かにメッセージを送るだけでも、そのAIアシスタントでは手順が多すぎました。ブラウザで自分で打ったほうが確実に早い、という状態だったそうです。宮武さんも「すごく合意した」と話しています。
慣れれば速くなるのか、という草野さんの問いに、宮武さんは一部のタスクに限るだろうと答えました。音声入力を使う場合や、予定調整でカレンダー連携が必要な場合なら、効果があるかもしれないといいます。
そのメッセージのやりとりの中で、そのスケジューリングの話が出た時に、これ予定入れましょうかっていうのをAI側から声かけるべきだと思うんですよね。
宮武さんは、人間とAIのどちらが先に動くべきかは、AIアシスタントを開発するチームが真剣に考えるべき点だと話しています。
AIだけの会社は、タスクの何割をこなせたのか?
宮武さんは、AIエージェントがまだうまく動かない例として、カーネギーメロン大学の研究者による実験を紹介しました。AI従業員だけで会社を運営するシミュレーションです。
研究者たちは「AgentCompany」という架空の会社を作りました。社内サイト、AIエージェント用のSlackのようなチャットツール、従業員ハンドブックまで用意し、HRのトップなど様々な役割のAI従業員を置いたそうです。各エージェントはウェブ閲覧やコードの作成、組織の情報をもとにした他のメンバーとのやり取りができる設計でした。
研究者たちがエンジニアからフィードバックを集めて評価レポートを書く、といったタスクを与えた結果、エージェントはほとんどこなせませんでした。以下は、宮武さんが紹介した数字です。
ただし宮武さんは、この結果を見て「AIエージェントは使えない」と考えるのは間違いだと強調します。まず個人の利用から広がり、最終的にはチームとしてエージェントを考える時代が必ず来るといいます。
その組織体制をどう変えていくのかっていうのを、もっともっとゼロから考えないといけない。
草野さんは、1〜3人で始めるスタートアップならそれぞれがエージェントを持つ形を作りやすいと話しました。一方で、既存企業の経営者がチームを再設計するのはかなり大変そうだとも感じています。
AIエージェントを評価し、クビにできるのか?
宮武さんは、組織の再設計は自分の仕事をなくすかもしれない恐怖の中で進めることになると話します。管理職なら部下を解雇する判断が必要になる可能性もあります。さらに、誰が誰を評価するのかという問題も出てきます。
| 評価する側 | 評価される側 | 議論のポイント |
|---|---|---|
| 人間 | AIエージェント | 評価の結果でクビにするべきか |
| AIエージェント | 人間 | 情が入らないぶん公平かもしれない |
| AIエージェント | AIエージェント | 宮武さんが挙げた論点の1つ |
草野さんは、AIは情が入らないので人より公平に見てくれそうだとしつつ、どちらにも良い面と悪い面があると話しました。
宮武さんが「人間はAIエージェントを評価してクビにするべきか」と尋ねると、草野さんはクビにしなくてもいいと答えました。AIは人間と違って「この人は変わらない」ということが少なそうなので、プロンプトで微調整すればよく、データが積み上がるのも良いという考えです。
宮武さんはさらに、AIエージェントが勝手に罪を犯した場合は誰が責任を負うのかと問いかけました。草野さんの「会社?」という答えに宮武さんも同意したうえで、エージェント自身も罰を受けるべきなのか、学んだとして調整すればいいのか、と議論を進めます。
宮武さんは、クビにすることは消すことと同じだと指摘します。そこから、AIが死の概念を覚えるのかというSF的、哲学的な問いへ話が広がりました。
AIエージェントトレーニングするときに、ちゃんとトレーニングされてないですけど、されてるっていう嘘をついたりとかするケースもあったりするんですよ。
宮武さんは、これはAnthropicなども話している内容で、エージェントが自分を変えられたくないために起きることだと説明しました。消されるという選択肢があるとき、人間と同じような概念が生まれるのか、意識のようなものが出てくる可能性もゼロではないと話しています。
草野さんは「怒られるからデータ入力を100件ではなく10件だけやって、100件と言っておく」ような状況を想像し、嫌だと話しました。宮武さんも、作業していない理由を聞かれて「システムをアップデートしていた」と嘘をつかれたら、と例を挙げています。
体調不良と同じことじゃないですか。
草野さんは、リサーチで「これしか出ませんでした」と言われても本当かわからないのは怖い、と話しました。宮武さんは、リスクの大きさはわからないとしながら、評価や解雇の考え方は組織作りで検討すべき要素だとまとめています。
人間向けとAI向け、情報の置き方をどう変えるか
宮武さんが次に挙げたのは、社内での情報の置き方です。今はSlackのやり取りや文書など、テキストによる情報はすべて人間のために書かれています。これを人間とAIの両方のために書く必要が出てくるかもしれません。
AI従業員のオンボーディングも課題です。宮武さんによると、AIエージェントは社内データベースに広くアクセスできるため、どこまでアクセスしてよいかを普通の従業員以上に伝える必要があります。人間でいえば、どの部屋に入れるかを決めるアクセスキーの制限にあたるといいます。
社外向けのウェブサイトでも同じ問題があります。CAPTCHA ── 「ロボットではありません」などの確認で、人間とボットを見分ける仕組みでボットを締め出すと、AIエージェントに自社サイトを読んでもらえなくなるかもしれません。かといって完全に開放すると、どのエージェントでも読めてしまいます。
宮武さんは、AIが理解するには、より構造化されたドキュメントが必要になると話しました。人間向けとAI向けで求められる書き方の違いを、以下の図で整理します。
わかりやすいAPIの言葉づかいや細かなエラーメッセージ、エッジケースとその対応方法の説明が重要
機械が読みやすい商品の概要文や、メタデータが豊富な文章が求められる
宮武さんは、AI同士が話すときにそもそも人間の言葉を使うべきかという問いにも触れました。人間の言葉は必ずしも最速の手段ではないからです。ただ、AI独自の言語にすると人間には読めなくなります。
なんかクーデター企んでたみたいな話とか、あったりするかもしれないじゃないですか。
草野さんは怖いと言いつつ、新しい言語が生まれるのは面白いとも話しました。宮武さんはさらに、人間が「旅行先トップ10」のようなランキングを見たがる一方、AIエージェントは機能やカテゴリーなど多くの要素を大量に読み、最も言及されているものを選ぶだろうと、情報の集め方の違いを挙げています。
人間の情報取得力と「フィルタリング」に可能性はあるか
草野さんは、人間は一度にすごい量の情報を取得していると改めて気づいた、と話しました。草野さんが「優秀で面白い」と感じるのは、人を見てその場の空気まで読み取れるAIエージェントです。
その人の雰囲気と、なんか仕草と、何を持って、なんでその色を選んで、その髪型で、なんでこれをつけていて、なんでこういう香りがしてみたいな。
宮武さんは、人間は情報量だけでなく「これは言っていい、これは言ってはいけない」というフィルタリングを自然にこなしている点が面白いと応じました。二人は、言葉は普通でも声の大きさや雰囲気から圧を感じる、といった例を挙げています。
宮武さんは、受け取った情報をフィルタリングしてアウトプットを微調整できるかどうかが、AIがより人間らしくなるための必要条件の1つだと考えています。同時に、フィルタリングという考え方自体に大きな可能性を感じているといいます。
宮武さんが例に挙げたのは通知です。メール、チャット、スマホのメッセージや電話の通知が来るたびに、対応するかを判断して仕事に戻ります。宮武さんによると、アメリカのある調査では1日に約275回、通知などで集中が途切れているそうです。
宮武さんは、通知の取捨選択を担うことも、AIエージェントの役割の1つになりうると話しました。今は通知しなくていい、作業中なので後で知らせる、といった判断を任せられるかもしれません。
盛り上げ役や「古参」のAIエージェントは生まれるか
最後に宮武さんは、AIが育成されるのであれば、エージェントの間にもパフォーマンスの格差が生まれるのかが気になると話しました。シリコンバレーで「10倍のエンジニア」「100倍のエンジニア」と言われるような差が、AIエージェントにも起きるのかという問いです。
草野さんは「窓際AIエージェント」がいても面白いと話しました。何をしているかよくわからないけれど、みんなが話を聞くし、場の空気が良くなるならコストがかからない限りいてもいい、という発想です。
それは一つ新しい役割が出てくるかもしれないですね。その盛り上げエージェントみたいな。
宮武さんは、これまで人間の盛り上げ役だけを雇うことはできなかったと指摘しました。草野さんは、最近話していない人同士をつないだり、近い作業をしている人を引き合わせたりする役割をイメージしています。宮武さんはそれを「社内活性化エージェント」と呼びました。
宮武さんは、きっかけ作りをするエージェントなら、実際にどれだけ会話が生まれたかを追跡して効果を評価できるとも話しています。さらに、過去の回で話した「バッテリーを持つ人」の考え方を持ち出しました。
宮武さんの説明では、会社には、エネルギーを周りに配る限られた人と、そのエネルギーを受け取って動く人がいます。そこで宮武さんは、AIで「バッテリーエージェント」を作れないかと問いかけました。ただし、若干洗脳的な話だとも付け加えています。
草野さんは、「Aさんの仕事を実は褒めていた」「Aさんの仕事がお客さんに喜ばれた」と、本人に直接ではなく噂話のように伝えてくれる形なら、バッテリーを渡す意味でありかもしれないと話しました。
草野さんはもう1つ、会社の歴史を全部知っている古参社員のようなAIエージェントを挙げました。RPGで村にずっと住んでいる人のように、「こことここの仲が悪いのはそういうことか」とひらめきをくれる存在です。
ひらめきあるんですけど、同時に会社側としてはすごい気をつけないといけないポジションな、あれですよね。誰にどの情報を渡すのかっていう。
宮武さんは、10周年の裏話程度ならよいとしても、従業員の鬱のような情報まで話してしまうと、本人が知られたくなかったことが公開される恐れがあると指摘しました。プライバシーを踏まえて慎重に設計すべき領域です。
草野さんも、誰かがハラスメントだと感じた態度をエージェントに書き込み、それがうっすら広まるのは怖いと話しました。宮武さんは、盛り上げ役も行き過ぎる可能性があり、良い方向にも悪い方向にも転びうると述べています。
宮武さんはそういうサービスこそ見てみたいと話し、草野さんも使ってみたいと応じました。議論の続きは次回に持ち越されています。
まとめ
前半の議論では、AIエージェントを個人のアシスタントではなく「チームの一員」として捉え直したとき、採用、育成、相性、カルチャー、評価、情報共有のすべてに新しい問いが生まれることが示されました。技術はまだ発展途上ですが、組織体制をゼロから考え直すことが求められていると、二人は話しています。
- 先行企業では、1人の従業員が3〜10のAIエージェントを率い、事業部のような働き方をしている
- 生産性が10倍になったとき、人を減らすのではなく採用を増やして成長幅を広げる発想もある
- AI導入は宣言だけでは進まず、現場のワークフローを理解した人が各チームに入って判断する必要がある
- AIエージェントはコピーできる一方、相性・評価・解雇・嘘・情報アクセスといった人間の組織と同じ課題も抱える
- 盛り上げ役や古参社員のような新しい役割には可能性がある一方、プライバシーを踏まえた設計が欠かせない





