コンテンツセントリック企業とは何か?
今回のテーマは「コンテンツセントリック企業」です。宮武さんは、コンテンツを軸にした会社が今後来るのではないかと考えており、Off Topic株式会社自身もまさにそうした会社を目指していると話します。
宮武さんの定義では、コンテンツセントリック企業とは、コンテンツが事業の軸にあり、スケールやマネタイズのために他のプロダクトがその配下に並ぶ会社です。Off Topicもポッドキャストから始まり、今はコンサルなどのサービス業が中心ですが、将来はソフトウェアやプロダクトも作っていきたいといいます。
まあなんかこれって別に(コンテンツセントリックは)新しい概念ではないじゃないですか。
具体例として、草野さんはディズニーやNetflixを挙げますが、宮武さんはそれらをむしろIPやコンテンツそのものの会社と位置づけます。宮武さんが近い例として挙げたのは、ブログから始めて自社プロダクトまで作ったGrooveXでした。
草野さんは日本の例として、メディアから始まり手帳やアパレル、本へと展開したほぼ日を挙げています。
コンテンツ
ポッドキャストやブログなど、まずコンテンツから始める
認知と信頼
コンテンツを通じてファンや信頼を獲得する
配下のプロダクト
サービス、ソフトウェア、物販などでスケール・マネタイズする
なぜ今、起業家に発信力が求められるのか
宮武さんは、昔はプロダクトファーストでいけたところも、今は競争環境が激しくなったことでコンテンツが必要になってきたと見ています。起業前からフォロワーを抱えたり、Twitter運用がうまかったりする起業家が増えているという、草野さんが以前話したトレンドもその流れの一つだといいます。
もうすでにフォロワーがいるとか、自分でコンテンツを作れる。それ(発信)を自ら作らなくても、社内でそういう体制ができてるかどうかみたいなのも結構問われてますよね。
宮武さんはその背景を、今まで以上に認知と信頼を獲得するのが難しくなっているからだと整理します。そこで鍵になるのが、小さな市場から始めて広げていく入り口であるウェッジ ── くさびの意味。スタートアップが最初に攻める小さく尖った市場や切り口を指し、そこを足がかりに事業を広げていく戦略で使われますで、Uberがブラックカーから始めたのもその例です。
宮武さんによれば、コンテンツは誰でも作れるためウェッジになりやすい一方、継続には努力が必要です。草野さんは、OpenAIの画像生成によるジブリ風画像の流行のように、トレンドやモメンタムに乗ることもコンテンツだと付け加えます。
ただし難しさもあります。宮武さんは、バズを狙ってただのミームアカウントになった場合、後でプロダクトを出してもファンがコンバージョンするのかという問題があり、炎上寄りの発信は人を遠ざけることも引き寄せることもあると話します。
自社で作らない?TikTokで伸びるアプリのUGC戦略
草野さんは、ソフトウェア企業がローンチ時にギフティングするのもある意味コンテンツだが、普通になりすぎて難しいと話します。宮武さんは、マーケ施策はみんな真似し合うと応じたうえで、ギフティングの本質は自社で作るのではなく、ユーザーにコンテンツを作ってもらうことだと指摘します。
宮武さんが例に挙げたのが、パートナーや友達の写真をホーム画面のウィジェットに表示するアプリのLocketです。LocketやCal.aiなど最近伸びているソーシャルアプリは、TikTokで伸びているものの、自社ではほとんどコンテンツを作っていないといいます。
えっと、確かRocket(Locket)は26人のクリエイターと提携していて、で、彼らが毎日多分1、2本動画出してるんですよ。
宮武さんによると、動画のフォーマットはLocket側が指示しており、「今友達と欠かせないアプリ」のようなフックで紹介してもらいます。提携相手はフォロワーの少ないナノインフルエンサー ── フォロワー数が数千〜1万人程度の小規模なインフルエンサー。影響範囲は小さい一方、身近さや信頼感があり、低コストで依頼しやすいとされますなので低コストで多くの人数と組め、見た目、オーセンティックさ、感情的に話せるかを重視しているようです。
Locketが取り組んでいるのは、宮武さんの言葉でいう「ボリュームの戦い」です。常時40人ほどと提携し、パフォーマンスが悪ければ入れ替えながら、1日50本ほどの動画をTikTok上にばらまいているといいます。
大量提携
ナノインフルエンサーと低コストで多数提携する
フック指定
フォーマットや動画の入りをLocket側が指示する
大量投稿
1日50本ほどの動画がTikTokに出る
複数回の接触
ユーザー候補が複数人からLocketの話を見かける
草野さんが、1人に多く作ってもらうのと多くの人に作ってもらうのはどちらがよいかと聞くと、宮武さんは1人1日1〜3本が限界なので、属性をそろえつつ多様なクリエイターと組むしかないと答えます。
「オーセンティックに聞こえる」投稿の裏側
草野さんは、ブックトッカーの投稿などで「Goodreadsの代わりは今はこれ」「写真フィルターは最近はこれ」といった紹介をよく見かけ、それがオーセンティックに感じられると話します。
そうですよね。で、オーセンティックに聞こえるだけのやつもあるっていうことなんですよね。
宮武さんによると、Locketの動画では競合のSnapchatの名前をフックに使い、「スナチャを消してまでこのアプリを使うようになりました」と語らせています。TikTokでは最初の2秒間でスワイプさせないことが何より大事だからです。
草野さんは「本当か?」と疑いつつも、乗り遅れたくないという気持ちを刺激すると認めます。宮武さんは、こうした手法がサイエンス化しているとしたうえで、自社でやるかUGCでやるかはビジネス次第で、信頼性を高めるために一部を自社で作る選択肢もあると話します。
リース・ウィザースプーンのブッククラブはどう稼ぐのか?
宮武さんが最初の事例として挙げたのが、ハリウッド女優リース・ウィザースプーンのブッククラブです。SNSやコミュニティアプリで本を推薦しており、メンバーは約300万人、Instagramも約300万人いるといいます。
元々このポジションを取っていたのはテレビでブッククラブをしていたオプラ・ウィンフリー ── アメリカの著名なテレビ司会者。トーク番組内のブッククラブで紹介した本がベストセラーになることで知られ、出版界に大きな影響力を持ってきましたで、宮武さんによれば、そのフォロワー約100万人をリース・ウィザースプーンが上回っている状況です。
メンバーシップは無料で、条件はアプリをダウンロードして登録することだけです。アプリでは毎月の選書が発表され、ディスカッション、フォーラム、投票、イベントが開かれています。
本が売れてもリース・ウィザースプーンにはお金が入りません。それでも宮武さんは、リーチを最大化でき、パッシブなユーザーもアクティブなユーザーも入れるため、無料でやるのは正しいと評価します。
ビジネス化の鍵は、選書を発表する前の交渉です。宮武さんによると、リース・ウィザースプーンは選書を終えた段階で出版社に行き、メンバーに紹介する代わりに、映画化やテレビ化の権利の一部を求めるといいます。
なんで、まあいわゆる彼女のメンバーシップは、えーと、こういいコンテンツでありながら、彼女にとってもうABテストのプラットフォームなんですよ。
アフィリエイト売上やコラボの交渉もあるそうです。宮武さんは成功の理由として、Instagramで早かったこと、ビジネス系ではなくフィクションに寄せてIP化しやすいポジションが空いていたこと、自身のメディア企業を通じてNetflixやApple TV+と関係があったことを挙げます。
ニッチなブッククラブは生まれるか?
宮武さんは、ホラー特化のような、もっとニッチなブッククラブが出てくるかを草野さんに尋ねます。草野さんは出てくると答え、大手のブッククラブは人気作家の新刊など、すでにヒットが決まった作品を選びがちだと話します。
草野さんが好むのは、デュア・リパのService95のように、新刊以外や他国のヒット作も紹介する、その人ならではの選書です。宮武さんも、ブッククラブ同士で選書が被ることは多く、ここ1〜2年は日本の本も人気になっていると応じます。
草野さんは小説のトレンドにも触れます。ロマンス小説が流行る一方で、恋愛や仕事ではない新しい友情や複雑な人間関係を描く文芸作品も人気だといいます。
一方で、リース・ウィザースプーンが黒人の視点から人種の複雑なニュアンスを描いた本を推薦した際には、白人である彼女がわかったふりをしているのではという批判もあったと草野さんは紹介します。
誰がおすすめしてるっていうのが、こういうところですごい大事になってくるっていうところなんですよね。
宮武さんは、SubstackのReading Rhythmsや、TikTokerがBookish Mediaというコンテンツハウス兼制作会社を作って本の映像化に取り組む例を挙げ、この領域が少しずつ進化していると話します。
なぜブッククラブは女性が多いのか
草野さんは、男性はあまりフィクションを読まないという記事を見かけ、なぜ女性のブッククラブが多いのか疑問に思ったと話します。宮武さんは、SFは読むものの、大人になるほど減り、マーベルなどはコミックや映画になるのかもしれないと答えます。
宮武さんは、アメリカのテレビでよくあるジョークとして、女性の友達同士はテレビを見ながら話し合うのに、男性は黙って見るだけという話を紹介し、それが影響しているのかもしれないと推測します。ただしオタク同士なら話し合うとも付け加えています。
草野さんは「読書する男性はイケてる」というトレンドや、女性の間でKindleをデコるのが流行っていることにも触れます。宮武さんは、その男性版はスポーツカードやスニーカー、フォートナイトのスキンといったコレクタブルの話かもしれないと応じます。
Jomboy Mediaは口の動きの分析から始まった
ブッククラブの次に宮武さんが紹介したのが、スポーツ系メディアのJomboy Mediaです。2018年にポッドキャストとして始まり、ニューヨーク・ヤンキースを中心に野球を解説しています。
創業者のジミー・オブライエンさんは元々ウェディングの写真や動画を撮る仕事をしていました。カリフォルニアに住みながらヤンキースファンとつながるため、Twitterで試合の実況やハイライト動画を出し始め、1000人ほどのフォロワーを集めてからポッドキャストを始めたといいます。
今ではポッドキャストが40番組ほど、YouTubeチャンネルが20個ほどあり、複数のスポーツと街をカバーしています。最初のヒットは、ジミーさんの「The Breakdown」という番組でした。
なので、えっと、彼が、えっと、全部の動画じゃないと思うんですけど、一部の動画でやってるのは、えっと、口の動きを見て。
試合中の選手や監督の声はマイクに入らないため、ジミーさんは口の動きから発言内容を推測します。ヤンキースの監督が退場したときの暴言を読み取った動画は280万回ほど再生され、監督本人がコメントしたり、後に番組へゲスト出演したりするほどになりました。
アストロズのサイン盗みを暴いた動画
ジミーさんが最も有名になったのは、MLBのヒューストン・アストロズが相手投手のサインを盗み、自軍の選手に伝えていた事件です。The Athleticの記事で、特定の球種のときにうるさい音が鳴るという選手の疑いが報じられていました。
ジミーさんはその音を映像から見つけに行き、特定の球を投げるときに「ガンガン」という音が明確に鳴っていることを動画で示しました。動画のエビデンスだったため全米に広まり、ブレイクのきっかけになったといいます。
リアルタイムに選手にそれ(盗んだサイン)を伝えるのは基本的にダメなので。
社長のジミーさんは今も週2〜3回投稿し、1本に6時間ほどかけてほぼ1人で作っています。複数のポッドキャストのMCや他番組へのゲスト出演もこなす、会社の顔でもあるといいます。
ポッドキャストから自社スポーツリーグへ
宮武さんによると、Jomboy Mediaは完全にメディアとして始まった会社ですが、最近はニュージャージー州の倉庫を毎月15Kほどで借り、オリジナルスポーツのコンテンツを作る場所にしています。
その一つが、野球とクリケットとインドアホッケーの間のような自作スポーツのスラップボールです。シーズン制で、4日間ほどのトーナメントをずっと撮影しています。
選手は社員やポッドキャストに出ているアスリート、実況や解説、試合後のプレスカンファレンス、審判までもチームメンバーが担います。草野さんはそれを、スポーツビジネスを0から100まで自分たちでやる形だと表現しました。
自分でもうスポーツも作って、それを取り巻く人たち全部自分たちで囲うみたいな。すごいですね。
動画はYouTubeやショート動画で拡散され、去年の夏からはローカル局でテレビ中継も始まりました。年4回撮影し、マウンテンデューがスポンサーについています。
きっかけは、ポッドキャストを3年ほど続けた頃、昼休みにビルの裏でブリッツボールを遊び半分でやって投稿したことでした。ファンが見てくれたため動画シリーズにしたものの、ドアマンに「これ以上やったらクビになっちゃう」と止められ、倉庫を借りることになったといいます。
口の動きを分析する野球のポッドキャスト・動画メディア
自社スポーツ「Warehouse Games」を作り、中継・スポンサーまで持つ会社
宮武さんは、この「Warehouse Games」というIPやスポーツ自体が、いずれマネタイズポイントとして成り立つ時が来るかもしれないと見ています。
Overtimeと甲子園のグローバル化
スポーツで最もわかりやすい例として宮武さんが挙げたのがOvertimeです。高校バスケのハイライト動画から始まり、2016年頃、全米で知られていた高校生ザイオン・ウィリアムソンのハイライト動画で大きく成長しました。
草野さんは、日本でも甲子園で同じことができるのではと問いかけます。大谷翔平選手のような日本人メジャーリーガーが多い今、「ネクスト大谷がここに眠っている」と考えれば、英語圏も注目するコンテンツになりうるという発想です。
絶対(甲子園のコンテンツは)作れると思うんですよね。
宮武さんは、スタンフォードでプレーする佐々木麟太郎選手のように、甲子園で活躍した選手のコンテンツはアメリカでも出始めているはずだと話します。ドジャースに日本人選手が3人いる今、甲子園をコンテンツ化すればグローバルでヒットすると考え、形式は半分ドキュメンタリー、半分ハイライト動画のようになるだろうといいます。
課題は撮影許可です。アメリカでもNFLやNBAの公式映像は基本的に使えませんが、高校生の試合には公式映像がないため、Overtimeの10分ほどのハイライト動画が600万回ほど再生されたといいます。
Overtimeはその後、16〜19歳でプロを目指す選手の育成プログラムとしてOvertime Eliteというバスケのリーグを立ち上げました。過去3回のドラフトで4人ほどがNBAのトップ10で指名され、女子バスケ、7対7のアメフト、ボクシングのリーグにも展開しています。
リーグを作るならどのスポーツが有利か?
草野さんは、リーグを作る側から見て最もコスパのよい競技は何かと尋ねます。競技人口が多いほうがよいのではという草野さんに、宮武さんは必ずしもそうではないと答えます。
宮武さんによれば、リーグの収入源は配信権を欲しがる相手やスポンサーで、Overtime EliteもAmazonと提携しています。そのため視聴者数を集められることが前提で、ゼロから立ち上げるならボクシングが悪くないといいます。
イベント回数の割には多分、えっと盛り上がりがめちゃくちゃ高くて。
ボクシングは誰が出場するかが肝で、選手を獲得しやすいのも利点です。対してNBAに対抗するリーグを作ればレブロン・ジェームズのような選手を取りに行く必要があり、若手を狙うにも既存リーグが多いと宮武さんは説明します。アメリカなら視聴率が圧倒的なアメフトも選択肢だといいます。
宮武さんは、リーグの作り方も重要だとして、NFLとNBAの試合数の違いを挙げます。
各チーム16試合、ホーム戦は8試合。全試合が重要で希少性がある
82試合。「この試合どうでもよくない?」となりやすい
試合が少なければ全試合が重要になる一方、チケット収入とのバランスが難しくなります。宮武さんは、NFLはその希少性をうまく生かしていると評価し、草野さんはテニスにも高貴なイメージがあると重ねました。
ハイライト動画はスポーツを変えるのか
宮武さんは、SNSやOvertimeのようなハイライト動画によって、試合のあり方やプレースタイル、スポーツ自体が変わっている部分もあると話します。
なんかハイライトに乗るためのプレースタイルってあるので。
バスケでいえば豪快なダンクや遠くからのスリーです。宮武さんは、それが必ずしもよい選手とは限らず、成功率が低くても決めた瞬間しか映らないためバイアスがかかると指摘します。
さらに「バスケは最後の2分だけ見ればいい」とよく言われるように、試合時間を短くするべきかという議論もあります。宮武さんは、SNSを踏まえてスポーツそのものを変えるべきかは別の回で話したいとしました。
草野さんは、アスリートにとってはキャリアや知名度がかかっているからこそ、どう見せるかを考え直すこともありそうだと応じます。宮武さんも、それは彼らのアピールポイントだと同意しました。
映画や漫画がスポーツを流行らせる
最後に草野さんは、テニス映画『チャレンジャーズ』のように、エンタメからスポーツが人気になる流れに触れ、ティモシー・シャラメが卓球の映画に出る話を紹介します。卓球はオフィスや家にもあり誰もがプレーしたことがあるため、それをきっかけに人気が出そうだといいます。
宮武さんは、アメリカは卓球がそれほど強くないのにあえて映画にするのが面白いと話し、日本では漫画がその役割を担ってきたと指摘します。『ハイキュー!!』のバレー、『弱虫ペダル』の自転車、1つのバスケ世代を作った『スラムダンク』がその例です。
宮武さんは、NetflixがF1をアメリカで流行らせたのも同じ流れだと話し、話の半分ほどしか進んでいないとして続きを次回に持ち越しました。
まとめ
今回の前半回では、コンテンツを入り口に認知と信頼を集め、その先に事業を積み上げる企業の姿が、アプリ、ブッククラブ、スポーツメディアの事例から語られました。どの事例でも、コンテンツそのものがマネタイズの土台になっています。
- コンテンツセントリック企業は、コンテンツを軸に置き、他のプロダクトでスケールやマネタイズを図る会社です
- LocketはナノインフルエンサーによるUGCを大量に出す「ボリュームの戦い」でTikTokを攻めています
- リース・ウィザースプーンは無料のブッククラブで影響力を築き、映像化権の交渉に生かしています
- Jomboy Mediaは口の動きを分析するポッドキャストから、自社スポーツの制作・中継まで広げました
- 甲子園のコンテンツ化やリーグ設計、ハイライト動画がスポーツに与える影響も論点として示されました





