コールドプレイから抹茶ラテまで、2025年のカルチャーは?
TOP10に入る前に、宮武さんは2025年をカルチャー面でも「いろいろ起きた年」と振り返ります。コールドプレイのコンサートの件、ラブブなどのバッグチャーム、テイラー・スウィフトの婚約、ジェフ・ベゾスの結婚などが話題に挙がりました。
コンテンツ面では、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』K-POP『デモンハンターズ』、『ストレンジャー・シングス』の新シーズン、『セヴェランス』、『ザ・スタジオ』など、名作が続いた年だったと宮武さんは話します。ルーブル美術館の盗難事件にも触れていました。
草野さんが印象に残ったと挙げたのは、抹茶ラテと「パフォーマティブ」をめぐるトレンドです。抹茶を持ち、本を読み、トートバッグを提げるような振る舞い自体は以前からあったものの、それが大きくフィーチャーされたことが印象的だったといいます。
抹茶持って本読んでトートバッグしてみたいなのって、属性的には元からあった気がするんですけど。それがすごくフィーチャーされるって、印象的な出来事だったなっていう気もします。
こうした話題の多い1年を踏まえ、例年は2回に分けていたテックニュースのTOP10を、今回は1回にまとめて紹介する流れになりました。
10位 人型ロボットとハードウェアはどこまで進んだ?
10位は「人型ロボットとハードウェア領域の発展」です。宮武さんはまず自動運転を挙げ、2024年が「本当に実現する」と驚く年だったとすれば、2025年は普及が始まった年だったと整理します。
Waymo ── Googleの親会社Alphabet傘下の自動運転企業。アメリカの複数都市で無人のロボタクシーサービスを展開していますは2025年だけで1400万回の配車を達成し、東京やロンドンでの検証も始めたと紹介されました。二人もLAではUberよりWaymoのほうが安く、よく利用していたといいます。Teslaもオースティンでサービスを始めています。
自動車では中国のBYDにも触れています。中国には電気自動車メーカーが129社あるとされるほど競争が激しいなか、BYDはヨーロッパで展開を進め、同地域ではTeslaの売上成長が落ちる一方でBYDが伸びているそうです。
調達面で目立ったのは人型ロボットです。FigureAIは390億ドルの時価総額で資金調達し、同社のロボットが工場で毎日10時間シフトの労働をこなしていると宮武さんは説明します。1XやSunday Roboticsなど多くのスタートアップも立ち上がりました。
今後の課題として宮武さんが挙げたのはデータ集めです。1Xのロボットはテレオペレーターが遠隔で操作する代わりに安く買え、その操作からデータを集める仕組みになっているといいます。中国のUnitreeは上場準備を進め、人型ロボットのオリンピックも開かれました。
ロボット以外のハードウェアでも動きは多くありました。スマートメガネではMetaがEssilorLuxotticaと組み、GoogleもWarby ParkerやGentle Monsterと提携しています。AIウェアラブルではOpenAIがJony Iveの会社を買収した一方、Humaneはサービスを終了しました。
ヘルスケア領域ではOura Ringが約110億ドルの評価額で調達し、2025年に約10億ドルの売上を見込んでいるそうです。ルンバで知られるiRobotの破産申請も、ハードウェアの厳しい面を示すニュースとして紹介されました。
9位 アメリカで「予測市場」が主流になった理由
9位は「予測市場のメインストリーム化」です。日本ではあまり話題になっていないかもしれないものの、アメリカではこの領域のサービスが非常に人気になったと宮武さんは話します。
宮武さんの説明では、予測市場 ── 将来の出来事の結果に対して参加者がお金を賭け、当たれば払い戻しを受ける取引の場。価格が出来事の起こる確率の目安として扱われることもありますは、ひと言でいえば「ベッティングする場所」です。大統領選の結果のような問いに対して予測をするだけでなくお金を出し、当たればペイアウトがあります。
クリプトなどの技術を取り入れたことに加え、アメリカでは選挙やスポーツといった強いコンテンツと組み合わさったことで、2024年から広がり、2025年に特に普及したと考えられています。
主要プレイヤーはPolymarketとKalshiCalciです。ニュース各社が予測市場をネタに報道するようになり、KalshiはCNNやCNBCとも提携しました。RobinhoodやCoinbaseも自社の予測市場を手がけると報じられ、既存のスポーツベッティング企業による買収も起きています。
宮武さんが「メインストリーム化した」と感じた瞬間は、アニメ『サウスパーク』で予測市場が取り上げられたのを見たときだったそうです。
8位 メガラウンドは普通に?IPOとM&Aの復活
8位は「スタートアップ業界でのメガラウンドが普通に、IPOやM&Aが復活」です。宮武さんは、未上場のスタートアップ市場がとても大型化していると指摘します。
アメリカでは、過去10年間にVCから出資を受けたスタートアップのExit額(上場時やM&A時の時価総額)を合計すると2.3兆ドルになります。一方、現在の未上場スタートアップ上位10社の時価総額の合計は2.2兆ドルです。
つまり、今のトップ10社だけで過去10年分のExitバリューの約95%に相当する規模になっているというのが、宮武さんの説明です。
草野さんが「その評価は正しい大きさなのか」と尋ねると、宮武さんは「正しいかはまだわからない」と答えます。OpenAI、バイトダンス、Stripe、SpaceXのように、上場しないまま巨大化する会社が増えているといいます。
アメリカではユニコーンが四半期ごとに約23社、100億ドル超のデカコーンも約4社生まれています。宮武さんは、トラクションが少なくても評価されてしまう面があるとし、「バブルでは」という声と「AIという新市場があるから新しい普通だ」という声の両方を紹介しました。
IPO市場も復活しました。Figma、CoreWeave、Circle、Chimeなどが上場し、過去3年の平均で年29社程度だった上場が、2025年は50社以上になったそうです。2026年にはSpaceX、Anthropic、OpenAIの上場も噂されています。
M&Aでは、GoogleによるWizの320億ドルでの買収、xAIによるXの買収、MetaによるScale AIへの出資などが挙がりました。宮武さんが個人的に最も興味深かったと話すのが、EvernoteやMeetupを傘下に持つBending Spoonsです。
Bending Spoonsは2025年、Vimeo、AOL、Eventbriteなど以前からあるサービスを立て続けに買収しました。草野さんが「全部連携しているわけではないですよね」と聞くと、宮武さんは次のように答えます。
多分全て連携してないですね。ただ単体でいいサービスっていうところを多分彼ら(Bending Spoons)が見ていたりするのと、あと多分一部のインフラが共有されるみたいな話かなとは思うので。
AOLいまだにすごい売り上げがあったりとか、利益率が高かったりとかするらしいので、そういうのをいろいろ見て買収してるらしいですね。
年末にはNetflixがワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収を発表しており、この話題が7位の独占禁止法の話につながっていきます。
7位 独占禁止法の裁判で、GoogleとMetaが安堵した年
7位は「テック業界の独占禁止法・規制緩和の動き」です。宮武さんは、毎年「今年こそアメリカ政府が動いた年だ」と語ってきたものの、2025年は政府側が初めてだいぶ苦戦した年だったと振り返ります。
2024年にGoogleは検索市場の独占禁止法裁判で敗れていました。2025年はその対応策の判決が出た年でしたが、検索事業やChromeの分離は起きず、独占契約が禁じられる程度にとどまりました。Appleとの契約も続けられることになり、Googleにとっては大きな安心材料だったと宮武さんは話します。
Metaも、FTCからInstagramとWhatsAppの買収が競争を損なったと訴えられていました。しかし裁判長は、MetaはTikTokやYouTubeとも競合しており、市場シェアの半分以上を持っていないというMeta側の主張に沿った判断を示しました。
検索事業やChromeの分離は起きず、独占契約の禁止にとどまった
FTCとの裁判で、TikTokやYouTubeとも競合しているとの主張が認められた
宮武さんは、こうした結果を受けて、2026年は買収に積極的な会社が増えると考えています。Netflixのワーナー・ブラザース買収も結果を見て判断した可能性があり、OpenAIはGoogleで買収を担当していた人物を採用したそうです。
規制緩和も大きく進みました。規制に慎重だったバイデン政権に対し、トランプ政権はAI分野も含めて規制緩和を進めており、銀行免許を申請するスタートアップが急増しているのもその影響だと宮武さんは見ています。
EUは2025年前半には厳しい姿勢でしたが、最近はGDPRやAI規制の一部を緩和する提案が出ているといいます。アメリカからの圧力に加え、経済効果を得るためにイノベーションを加速させたい各国政府の意向もあるそうです。
6位 AppleはAIで遅れ、Googleはなぜ逆転できた?
6位は「AppleがAIに遅れ、Googleが逆転勝利?」で、2社を1つの順位にまとめた項目です。Appleについては、SiriやApple Intelligenceが想定ほど進まず、延期も起きたと宮武さんは説明します。
AI責任者のジョン・ジアナンドレアさんや、AIと検索を担当していたロビー・ウォーカーさんも退任しました。AppleはGoogleに年間約10億ドルを支払い、SiriにGeminiを使うという話まで出ているそうです。
Appleを擁護する側からは、Appleはもともとファーストムーバーではなく、後から入ってよりよい製品で勝つ会社だという反論があります。ただ2025年はCFO、COOのジェフ・ウィリアムズさん、UIデザイン責任者のアラン・ダイさんらの退任も重なり、ネガティブに見られた年だったと宮武さんは話します。
一方で、Appleは『セヴェランス』や映画『F1』、F1の放映権など、コンテンツ面では充実していたとも評価されていました。
Googleは真逆で、「遅れているのでは」と言われていた状態から立て直したと宮武さんは見ています。Transformer ── 2017年にGoogleの研究者が発表したAIのモデル構造。ChatGPTをはじめとする現在の大規模言語モデルの土台になっていますを生んだのはGoogleなのに活かしきれなかったことは、共同創業者のセルゲイ・ブリンさんもミスだったと話しているそうです。
2025年のGoogleは、社内カルチャーのスピードアップによって新製品を次々に出し、既存サービスにGeminiを組み込んでいきました。Gemini 3の質は高く、OpenAIが「コードレッド」を出すほどだったといいます。
宮武さんが強みとして強調するのが、Googleが自社で開発するAI向けチップのTPU ── Googleが開発するAI処理に特化した半導体。汎用的なGPUに比べて用途は限られますが、AIの計算を低コストかつ効率的に行えるとされていますです。開発のきっかけは2013年、音声検索の新機能を作ったときに社内で気づいた問題でした。
全世界のAndroidユーザーがその機能を1日3分使うと、データセンターの容量を倍にしなければ対応できないとわかったそうです。そこでGoogleは15か月以内に独自チップをデータセンターに組み込み始め、10年以上続けてきたことが今の結果につながったと宮武さんは説明します。
2013年の気づき
音声検索を全Androidユーザーが1日3分使うと、データセンター容量の倍増が必要になる
独自チップの開発
15か月以内に自社チップをデータセンターに組み込み始める
10年以上の蓄積
AIに特化したTPUを作り続ける
2025年
チップからサービスまで持つフルスタックの強みがAI競争で生きる
YouTubeのデータやOpenAIに匹敵するAI人材も持つGoogleに対して、宮武さんが唯一の課題と見ているのはプロダクトです。
個人的に唯一のGoogle側の課題は、プロダクトだと思うんですよ。やっぱりUI、UXとか考えていくと、ChatGPTのUI、UXの方が圧倒的に良かったりとかするわけなので。
5位 AI動画はどこまで「本物」と見分けがつかなくなった?
5位は「AIコンテンツの普及」です。宮武さんは、3年前のChatGPTでテキストが、その後に画像やアートが、AIか人間か見分けにくくなり、2025年はそれが動画にまで広がったと整理します。
象徴的な例として挙がったのが、防犯カメラ風の映像でたくさんのウサギがトランポリンで跳ねる動画です。宮武さん自身も含め多くの人が本物だと思い、AI製だと知って衝撃を受けたそうです。
2025年の始まりには、OpenAIの画像生成で誰もが自分の写真をジブリ風にしたり、フィギュア化したりするAIミームが流行しました。その後は動物を使った動画が広がり、飼い犬の写真を送るとその犬がポッドキャストに出ているような切り抜き動画を作るサービスまで生まれています。
低品質なAIコンテンツが大量に生まれるAIスロップ ── AIで安く大量に作られた、質の低いコンテンツを指す言葉。SNSのフィードを埋め尽くすものとして批判的に使われますという言葉も広まりました。番組では週に3000本のポッドキャストを作るInception Point AIとも話しており、草野さんは同社について次のように補足しています。
でもそのInceptionPointAIは、スロップっていうよりは、もうちょっと意味のあるコンテンツを作りたいみたいなビジョンではありましたよね。
宮武さんも、超ニッチな領域をAIの低コストだからこそ扱えるという話だったと応じています。聖書の場面を動画化するシリーズや、アメリカ大統領自身がAI動画を多く投稿したことも話題に挙がりました。
音楽では、Xania MonetZaniaé MonétのようなAIアーティストがビルボードに入り、レーベルと契約する例も出ました。訴訟が多かったSunoやUdioは大手レーベルと和解しており、2026年には配信サービスとの組み合わせが進むと宮武さんは見ています。
MetaのVibesやOpenAIのSoraのように、AI動画専用のフィードも登場しました。自分の顔をテンプレートにして動画を作れるようになり、サム・アルトマンさんが自分の顔を使って広めたことで、本人がGPUを盗む動画なども大量に作られたそうです。
年末には、ディズニーがOpenAIに約10億ドルを出資し、ディズニーのIPをSoraで使えるようにする3年契約が発表されました。ファンが作った優れた動画をDisney+で紹介する話もあるといいます。
4位 ライブ配信マラソンでMrBeastを超えた存在は?
4位は「ライブ配信マラソンと大型イベント企画」です。宮武さんは、2025年はクリエイターの世代交代が起き、新しい層がカルチャー的な影響力で一つ前の世代を追い越し始めたと感じています。
草野さんは、MrBeastは動画以外の大型イベントへ向かい、Kai CenatやiShowSpeedはライブ配信に力を入れていると話します。さらに、プラットフォームの中でクリエイター同士がコラボする場面は減ってきたように感じるといいます。
本当に、プラットフォームの中でのクリエイターのコラボとかはそんななくなってきたなってちょっと思いますよね。
宮武さんは、代わりにセレブとの共演が増えたのはメインストリーム化したからではないかと応じます。MrBeastは登録者4.5億人を抱えて今も圧倒的ですが、カルチャーへの影響力では今はKai CenatとiShowSpeedのほうが上かもしれないと話しました。
Twitchでは、外に出て現実の場で配信するIRL配信や、有料登録によって配信時間が延びるサブソン ── Twitchで、有料サブスクライバーが増えるたびに配信時間が延長される形式の長時間配信。視聴者の支援が配信の長さに直結しますが人気になりました。30日間規模の大型企画が多かったのも2025年の特徴です。
Kai Cenatの「Mafiathon 3」は27日間で有料サブスクライバー100万人を獲得し、ほぼ毎日セレブが登場しました。最終日にはレブロン・ジェームズさんが出演し、セレーナ・ゴメスさんやキム・カーダシアンさんらも参加しています。
iShowSpeedは各国を巡る配信ツアーを行いました。中国では政府が喜び、感謝の屋外広告まで出したそうです。ヨーロッパでは「お金を払うので来てほしい」という国まであり、アメリカでは約35日間回ったと紹介されました。
ジャスティン・ビーバーさんのように、セレブ自身が配信を始める動きもありました。宮武さんは、2026年はアメリカでFIFAワールドカップが開かれるため、スポーツと掛け合わせた大型のライブ配信がさらに増えると予想しています。
3位 AIメガプロジェクト、そのお金は回っているだけ?
3位は「AIメガプロジェクト」です。宮武さんは、2025年は超大型のインフラ投資が続き、よくわからないほどの数字が飛び交った年だったと話します。
年初には、OpenAI、ソフトバンク、MGXが5000億ドル規模のAIインフラ計画を発表し、「誰がどこからお金を持ってくるのか」と話題になりました。OpenAIは各国とデータセンターを作る「OpenAI for Countries」も打ち出しています。
国として動きが速かったのはインドです。インド政府は24時間以内にAmazonとMicrosoftから合計約500億ドルの投資の約束を取りつけたそうです。Amazon、Microsoft、Google、Metaの4社は、2025年だけで3500億〜4000億ドルのAIインフラ投資を約束しています。
お金が動けば投資家もついてきます。ゴールドマン・サックスはインフラファイナンスのチームを作り、ブラックロックやMicrosoft、NVIDIA、MGXは約300億ドルのデータセンター向けファンドを立ち上げました。宇宙にデータセンターを作る構想まで出ています。
その一方で、お金がぐるぐる回っているだけではないかという懸念も話題になりました。宮武さんが挙げたのは、OpenAI、Oracle、NVIDIAの3社をめぐる流れです。
OpenAI
Oracleに約3000億ドルをコミットする
Oracle
そのコミット額を見て、NVIDIAのチップを大量に買う
NVIDIA
それを見て、OpenAIに1000億ドルを投資すると発表する
宮武さんは、データセンターと並んで政治家や企業家が気にしているのがエネルギーの問題だと話します。現在アメリカは年に約1テラワット分の電力を作っていますが、中国はその3倍です。
2050年までに中国は約3テラワットから8.7テラワットへ増やす見通しなのに対し、アメリカは今後25年で2テラワットまでしか増えない見込みだといいます。
現在約1テラワット、今後25年で約2テラワットまで
現在アメリカの約3倍、2050年までに8.7テラワットへ
人型ロボットが労働を担うようになれば、労働コストは給料ではなく電気代になると宮武さんは指摘します。中国の電気代はすでにアメリカの半分から3分の1程度とされ、この差が広がれば競争でアメリカが負けるという恐れがあるそうです。
2位 人材、VC、モデル、ブラウザ…いくつのAI戦争が起きた?
2位は「様々なAI戦争」です。地政学的な戦争ではなく、AI領域の中で起きた複数の競争をまとめた項目だと宮武さんは説明します。
1つ目は人材戦争です。MetaはScale AIに143億ドルを投じてCEOを迎え入れ、ナット・フリードマンさんとダニエル・グロスさんには運用するファンドへの出資まで提示したそうです。数百億円から場合によっては1000億円規模の契約書を示したという話もありました。
AI領域がスポーツ界隈とよく例えられるような年になったと思うんですけど、本当にその超優秀な人に対しては超大型契約を提示するみたいな話がありましたと。
2つ目はVCの戦争です。スタートアップが調達を望む前にVCから持ちかけるプリエンプティブラウンド ── 企業が資金調達を始める前に、投資家側から先回りして出資を申し出る資金調達のこと。人気企業の株を確保するために行われますが増え、調達を発表した瞬間に「次のラウンドを一緒に」と電話がかかってくるほどだといいます。
番組でも取り上げたMercorには申し出が殺到し、既存株主に「こちらから言うまで連絡しないでほしい」という投資家アップデートを送ったほどでした。それでも数か月後には、100億ドルの時価総額で先回りのラウンドを実施したそうです。
3つ目はモデル戦争です。Gemini 3のほか、xAIやAnthropicも大きく発展し、2025年はOpenAIが初めて圧倒しなかった年だったと宮武さんは見ています。4つ目はブラウザ戦争で、OpenAIのAtlas、PerplexityのComet、The Browser CompanyのDiaが登場し、Diaは約6億ドルで買収されました。
5つ目は売上成長率のPR戦争です。以前は調達額やユニコーン入りがPRになりましたが、AI領域では年間経常収益(ARR)1億ドルに到達する速さを競い合う発表が相次ぎました。
| 企業 | 起点 | 期間 |
|---|---|---|
| Manus | 0から | 8か月 |
| Lovable | 0から | 8か月 |
| Replit | 1000万ドルから | 半年 |
| Cursor | 100万ドルから | 12か月 |
| Perplexity | 0から | 20か月 |
宮武さんは、売上は実際のトラクションなので、時価総額の発表よりはいいと考えています。ソフトウェア業界で目安とされた「T2D3」ではなく、4倍、4倍、3倍、3倍、3倍で伸びる「Q2T3」が普通だという話まで出ているそうです。
最後が「今はバブルかどうか」をめぐる戦争です。宮武さんは、投資面では過剰評価されたスタートアップが多い一方、社会的にはよいことかもしれないという見方もあり、もう少しニュアンスを持って語るべきだと話しました。
草野さんが「PR戦争の良し悪しはスタートアップ業界にとっての話か」と確認すると、宮武さんはユニコーンの時代を例に、売上の数字が見た目のために作られることへの懸念を語ります。
本当は800ミリオンぐらいのバリエーションが妥当なんですけど、とりあえず1ビリオンって言った方が見た目いいので、採用につながったりするので。
それが売上だと、売上(の数字を)変に作るみたいな、そういうモチベーションにつながらなければいいかなと思いますね。
1位 二度目のトランプ政権に入ったテック人材とDOGEの誤算
1位は「二度目のトランプ」です。「テックなのか」という話ではあるものの、第2次トランプ政権の初年度であり、テック業界がこれまで以上にアメリカの政治に関わった年だったと宮武さんは説明します。
イーロン・マスクさんが政府を効率化するチームを一時率いたほか、デビッド・サックスさんがAIとクリプトの責任者に、スリラム・クリシュナンさんがAI政策のアドバイザーになりました。Airbnb共同創業者のジョー・ゲビアさんはアメリカのチーフデザインオフィサーに就いています。
ほかにも元Uberのエミール・マイケルさんらがホワイトハウスに入り、テック企業のCEOが日々のように訪れて方向性を話し合う状況だったそうです。宮武さんは、いい面も悪い面も多くあったと振り返ります。
宮武さんが一番の失敗と見ているのがDOGE ── 政府効率化省。トランプ政権が連邦政府の支出削減を目的に設けた組織で、イーロン・マスクさんが主導しましたです。Twitterで大幅な人員削減をしたマスクさんにできなければ誰にもできないと期待されていましたが、想定ほどコストを削れず、本人も「同じことはやらない」と答えたそうです。
草野さんは、大統領の側近としてトップダウンで動いても無理だったのかと尋ねます。宮武さんは、多くの予算を握るのは上院・下院の議員であり、ホワイトハウスだけでは成立しなかったと説明します。
やっぱり政治家の思いとしては、自分たちの予算を削減したくないんですよ。
自分たちの投票してくれた人たちに対して何か返したいって思ったりとか、何か返すことによって次もまた選挙で選ばれたりするわけなので、そこに対してお金をどんどん減らしますっていうと怒られるだけなので。
宮武さんによれば、コストカットが無理だとなった以上、負債問題を解決するには売上を増やすしかありません。その施策の1つとして世界中に影響を及ぼしたのが、2025年4月に発表された関税です。
関税とH-1Bビザは、テック業界に何をもたらした?
トランプ大統領は、関税によって海外に出た製造業がアメリカに戻り、国内の雇用や経済がよくなると主張しました。政府の発表では、2025年だけで2000億ドル以上の関税収入があったそうです。
一方で、SHEINやTemu、D2Cブランド、Teslaのような製造業はマイナスの影響を受けたはずで、評価は大きく割れました。大統領が関税を決めてよいのかという点も、最高裁まで争われる見通しだといいます。
実態として、アメリカ経済はプラスになっています。ただ、それが関税のおかげかはまだ見えず、期待された製造業の回帰や雇用増も起きていないと宮武さんは話します。初期に起きたインフレが今は落ち着いている点では、経済学者の予想がやや外れたともいえるそうです。
製造業がアメリカに戻り、国内の雇用が増え、経済がよくなると期待された
経済はプラスだが関税の効果かは不明。製造業の回帰も雇用の変化もあまり起きていない
課題の例として挙がったのが大豆です。アメリカの大豆輸出の多くは中国向けですが、関税の影響で中国の購入量は前年の半分以下になりました。余った大豆で農家の売上が減り、政府が補助金を出す話になっているため、関税収入が結局こうした補填に回るなら意味は薄いという見方もあると宮武さんは話します。
テック界隈で大きな話題になったのがH-1Bビザ ── アメリカで専門職の外国人が働くための就労ビザ。テック企業が海外のエンジニアを採用する際によく使われますです。2025年9月の大統領令で、新たにH-1Bビザを取得する人について、企業が10万ドル(約1500万円)の手数料を払うことになりました。
影響が大きいとされるのは、インド出身の保有者が多いITコンサル企業です。大学が研究者を招く際にも使われ、マスクさん、スンダー・ピチャイさん、サティア・ナデラさんもこのビザで渡米した経緯があるため、トランプ支持者を含めテック業界から批判が出ました。
当初、商務長官のハワード・ラトニックさんは「毎年10万ドル払う必要がある」と明言しましたが、後に「1回限り」と撤回されました。宮武さんは、政権は本当は毎年取りたかったものの批判が大きくて取れなかったのではと見ており、約20州が政権を訴えているそうです。
TikTok合弁と政府の株式取得、「箱とデータ」はアメリカへ
TikTokについても、ようやく決着したという発表がありました。もともとはバイトダンスから切り離し、アメリカ側が50%以上の支配権を持たなければ禁止というルールでしたが、トランプ大統領が延期を重ね、交渉が成立したといいます。
新たな合弁会社にはOracle、シルバーレイク、アブダビのMGXが大株主として入ります。バイトダンスの持ち分は19.9%で、取締役も7人中6人がアメリカ人になるとされています。
アルゴリズムはバイトダンスがライセンスして手数料を受け取り、ECや広告の技術も提供する見込みです。宮武さんは、アメリカで保管されるのは「箱とデータ」だと整理します。別アプリになるため、日本でバズった動画がアメリカに届かなくなる可能性や、日本が同じことを求める流れが起きるかにも関心を寄せていました。
最後に宮武さんが挙げたのは、政府が補助金を出す代わりに株式を得る取引です。代表例がIntelで、予定していた融資や補助金を株式に転換させ、現在約10%を保有しています。11月時点で政府の投資ポートフォリオはS&P500を上回っていたそうです。
政府が株主になれば、ほかの投資家もその会社に投資しやすくなり、契約も結びやすくなると考えられます。良し悪しは別として、アメリカ政府がここまで積極的に動くのは珍しかったと宮武さんは話します。
草野さんが、テック業界で今トランプ政権に一番近い人を尋ねると、宮武さんはデビッド・サックスさんだと答えます。フルタイムではないため勤務日数に制限があるものの、今もホワイトハウスにいるようだといいます。
やっぱりトランプ大統領に直接会えない場合はもうデイビッド・サックスさん呼んで、彼にちょっといろいろお願いをするっていう。
番組の締めくくりに、宮武さんは2024年の大統領選に続き、2025年もトランプ大統領がニュースのトップを飾ったことに触れ、「相変わらずニュース性が強い人」と振り返りました。
まとめ
2025年のテック業界は、人型ロボットや予測市場のような新領域が広がる一方、AIをめぐる投資・人材・モデルの競争が過熱し、その多くが第2次トランプ政権の政策と深く結びついた1年でした。
- 自動運転、人型ロボット、スマートメガネなどハードウェア領域が本格的に動き、予測市場もアメリカで主流になった
- 未上場企業の巨大化とIPO・M&Aの復活が進み、独占禁止法の裁判ではGoogleとMetaが大きな打撃を免れた
- AppleがAIで遅れる一方、GoogleはTPUを含むフルスタックの強みとGemini 3で巻き返した
- AIインフラへの巨額投資は「お金が回っているだけ」との懸念や、米中の電力格差という課題も浮かび上がらせた
- 二度目のトランプ政権では、テック人材の政権入り、DOGEの誤算、関税、H-1Bビザ、TikTok合弁などが業界を大きく揺さぶった





