そもそも少子化はなぜ社会課題なのか
番組の第1回として、茂木さんは「そもそもなぜ少子化が改善すべき社会課題なのか」というところから話を始めます。
茂木さんによれば、その答えはずばり「理想とする子ども数を実現できない人が増えているから」だといいます。
一方で、メディアや少子化に関する多くの本では、別の視点が語られていると茂木さんは指摘します。実際に多くの本を読んだところ、マクロ的な視点を挙げているものが多かったといいます。
よく語られる「マクロの視点」とその限界
茂木さんが言うマクロ的な視点とは、社会全体や国全体のレベルで少子化を捉える見方です。
たとえば労働力人口の減少が経済の縮小につながる、現在の社会保障制度がうまくいかなくなる、過疎化する地域が増えてサービスが行き届かなくなる、消滅する自治体が増える、といった論調です。
ただし茂木さんは、これらは主に「人口減少」によって起きる課題であり、少子化がメインの要因ではないと整理します。
人口が増えたり減ったりするのは、三つの要因が関係していると茂木さんは説明します。少子化は、そのうちの一つにすぎないというのがポイントです。
出生
生まれる子どもの数。これが少子化にあたる
死亡
亡くなる人の数
移動
日本から出ていく人と入ってくる人の数
現在は人口減少のフェーズにあり、この三つの要素がマイナスに働いて人口が減り続けています。だからこそ、少子化だけを見ていても問題は改善しないと茂木さんは話します。
推計によれば、仮に少子化が来年以降解消したとしても、人口減少は60年から70年は止まらないといいます。
何かあたかも少子化が社会課題たる所以として、そのマクロ的な要素を挙げて、これを改善するために少子化を解決しなきゃいけないという論調でいくと、少子化が解決しても人口減少は60年から70年止まりませんので、そういう目標を立てるとかなり難しくなってくるのかなと思います。
理想の子ども数はほぼ二人、でも実現できていない
では、茂木さんが重視する「ミクロの視点」はどうなのでしょうか。ここからが本題です。
まず、人々が理想とする子ども数は、昔からほぼ二人で大きく変わっていないといいます。だいたい二人欲しいと答える人が多いという傾向です。
一方で、去年の合計特殊出生率は1.15でした。理想どおりに二人持てていれば数値は2に近づくはずなので、多くの人が理想の子ども数を実現できていないことがわかります。
茂木さんが前年度担当した佐賀市の調査でも、この傾向がはっきり出たといいます。
子どもが産める年齢の後半にあたる35〜39歳で、理想の子ども数を実現できている人は40パーセントしかいませんでした。残る6割は、二人欲しかったのに一人や0人、三人欲しかったのに二人や一人にとどまっているということです。
子どもの数別に見ても「まだ足りない」が多数
さらに茂木さんは、現在の子ども数別に理想の子ども数を見ていきます。
今子どもがいない人のうち、理想も0人でいいと答えた人は11パーセントだけでした。つまり9割ほどは、いずれ子どもを望んでいることになります。
子どもがいない人の内訳では、一人欲しいが9パーセント、二人が55パーセント、三人が23パーセントと、複数の子どもを望む人が多いといいます。
今一人いる人でも、理想が一人と答えた人はわずか5パーセントでした。この結果は茂木さん自身も驚いたと話しています。二人が62パーセント、三人が31パーセントを占めます。
今二人いる人では、理想も二人が46パーセントに増えます。ただし51パーセントは「あと一人欲しい」と三人を望んでいました。
この数字からわかるのは、子どもがいる人がみな理想をかなえているわけではなく、子どもがいない人が最初から望んでいないわけでもない、ということです。
つまり、今の子ども数にかかわらず、理想の子ども数を実現できていない人がかなり多くいる。これが茂木さんの言う社会課題の核心です。
少子化対策に求められる短期と長期の役割
理想の子ども数を実現できる人が増えていけば、少子化は改善に向かっていると言える。茂木さんはそう定義したうえで、少子化対策の役割を二つに分けて説明します。
短期的には、理想の実現を妨げている障壁を分析し、支援によってその障壁を軽減することです。0人の人が一人を、一人の人が二人を持てるようにする支援だといいます。
長期的には、社会そのものを変えていく話になります。子育てにやさしい社会であれば「もう一人持ちたい」「今までは0人でいいと思っていたけれど一人持ってみたい」と、理想の子ども数自体が増えていくことを目指すというものです。
理想の実現を妨げる障壁を分析し、支援で軽減する
子育てにやさしい社会をつくり、理想の子ども数自体を増やす
国連も掲げる「ナラティブの転換」
最後に茂木さんは、この視点が自分だけの変わった見方ではないと補足します。
国連も「CHANGE THE NARRATIVE」というメッセージを出しており、同じ方向を示しているといいます。
これまでは「出生率の低下は国家の安全保障を脅かす」というマクロ的なナラティブでした。それに対し新しいナラティブは、若い人たちは子どもを望んでいるのに持つことができない、社会はどうサポートできるのか、というミクロの視点だと茂木さんは紹介します。
少子化と人口減少の違い、マクロとミクロの違いを覚えておくと、今後ニュースやデータを見るとき、社会全体を考えるときに役立つ。茂木さんはそう締めくくります。
まとめ
第1回は、少子化を国家レベルの危機としてではなく、理想の子ども数を実現できない個人の問題として捉え直す回でした。マクロとミクロ、少子化と人口減少を区別することが、この番組を通じた土台になりそうです。
- 少子化が社会課題である所以は、理想の子ども数を実現できない人が増えているから
- 労働力減少や自治体消滅などのマクロの課題は、主に少子化ではなく人口減少によって起きる
- 理想の子ども数はほぼ二人で変わらないのに、合計特殊出生率は1.15にとどまっている
- 少子化対策は、短期では障壁の軽減、長期では理想の子ども数を増やす社会づくりを目指す
- 国連の「CHANGE THE NARRATIVE」も、マクロからミクロへ視点を移すことを掲げている
