妊娠中も牛乳は絞っているのか
妊娠中の牛さんのミルクは絞れるのですか?ずっとミルクは出るのでしょうか?止まってしまうのでしょうか。ミルクの成分に影響はありますか?教えてください。
川上さんによると、まず前提として押さえておきたいのは、牛は妊娠して出産して初めてお乳が出るという点です。そして質問の結論からいうと、妊娠中でも牛乳は絞っています。
意外に思えるかもしれませんが、酪農では牛がほぼ毎年子牛を産むように管理されています。そのため、牛乳を出しながら次の子牛をお腹で育てている期間がとても長いのです。
具体的には、分娩してから約2〜3ヶ月後に人工授精を行い、妊娠期間は約280日あります。つまり、妊娠している約9ヶ月のほとんどで、牛乳も同時に生産していることになります。
では妊娠したら牛乳は自然に止まるのかというと、止まりません。牛乳は出産後、乳腺への刺激が続く限り出続けます。つまり、毎日搾乳を続けていれば、妊娠していても牛乳は出続けるということです。
分娩(出産)
出産して初めてお乳が出るようになる
分娩から約2〜3ヶ月後に人工授精
次の子牛を妊娠。妊娠期間は約280日
搾乳しながら妊娠期間を過ごす
妊娠約9ヶ月のほとんどで牛乳も生産
出産の約60日前に乾乳
搾乳を止めて次の出産に備える
なぜ出産前に搾乳を止めるのか
牛乳は搾り続ければ出るのに、酪農では出産予定日の約60日前、つまり2ヶ月前になると搾乳を止めます。これを「乾乳(かんにゅう)」と呼びます。
川上さんは、乾乳をする理由を大きく3つに整理して説明しています。
川上さんは、乾乳は単なる「休憩」ではなく、次の1年間の牛乳生産に向けた「準備期間」だと表現しています。乳房を回復させ、子牛を育て、そして次の泌乳の質を高める。この3つの狙いが乾乳には込められているのです。
妊娠でミルクの成分は変わるのか
質問にあった「ミルクの成分は変わるのか」という点について、川上さんの答えは「変わります」でした。
妊娠後期になるにつれて乳量は少しずつ減っていき、脂肪やタンパク質などの割合は高くなる傾向があります。これは水分が入り、成分が濃縮されるためです。
スーパーで販売される牛乳。品質基準に沿って管理された牛乳だけが集められている
子牛に免疫を与える特別なミルク。免疫グロブリンなどを非常に多く含み、一般の牛乳としては出荷されない
さらに乾乳直前になると、乳房は「初乳」を作る準備を始めます。初乳は子牛に免疫を与える特別なミルクで、免疫グロブリンなどが非常に多く含まれ、通常の牛乳とは成分が大きく異なります。
そのため、この時期のお乳は一般の牛乳としては出荷されません。私たちがスーパーで買う牛乳には、乾乳前や出産直後の初乳が混ざることはなく、品質基準に沿ってしっかり管理されたものだけが並んでいるということです。
牛は子牛を育てながら牛乳も作っているという、非常に高い能力を持っているんですね。
牛乳を毎日飲める社会を支える技術
今回の話で川上さんが強調したのは、牛は子牛を育てながら牛乳も作れるという高い能力を持っている一方で、酪農ではその能力に頼り続けず、意図的に休ませる期間を設けているという点です。
たくさん絞ることだけが目的ではなく、牛が健康に次の出産を迎え、長く活躍できることが一番大切だからだと語っています。
牛が妊娠しながらお乳を出し、次の妊娠へと進む。このサイクルを管理することで、私たちは365日24時間、いつでも牛乳を飲める社会を手にしています。川上さんはこれを「飼養管理の賜物」であり、長年受け継がれてきた「遺伝改良(品種改良)のおかげ」だと語ります。
乾乳の期間や搾乳の期間で餌を変えるなど、飼養管理には多くの手間がかかります。川上さんは、こうした技術をより深く知りたい人向けに、Kindle本第二弾「酪農未経験者のために 遺伝改良と飼養設計編」で乾乳や餌やり、品種改良について解説していることを紹介しました。さらに、その内容を学習させた「FarmEcho AI」に質問すれば、乾乳や遺伝改良について答えてもらえるとも案内しています。
まとめ
「妊娠中の牛からミルクは絞れるの?」というリスナーの疑問から、乳牛のサイクルと乾乳の仕組みが見えてきました。牛は子牛を育てながら牛乳を作れる高い能力を持ちますが、酪農ではあえて休ませる期間を設けることで、牛の健康と次のシーズンの生産を両立させています。私たちが毎日安心して牛乳を飲めるのは、こうしたきめ細かな管理と長年の品種改良の積み重ねがあってのことなのです。
- 牛は妊娠して出産して初めてお乳が出て、妊娠中でも搾乳を続ければ牛乳は出続ける。
- 酪農では出産予定日の約60日前に搾乳を止める「乾乳」を行う。
- 乾乳の理由は、①乳房を休ませる ②お腹の子牛を育てる ③次の泌乳を良くする の3つ。
- 妊娠後期は乳量が減り、脂肪やタンパク質の割合が高くなる。初乳は成分が異なるため一般の牛乳として出荷されない。
- いつでも牛乳を飲める社会は、飼養管理と長年の遺伝改良(品種改良)に支えられている。
