冬の不調から運動の酸化対策まで。Hana博士が答える「冬の健康相談室」
公衆衛生学者の林英恵公衆衛生学博士(ハーバード大学)。行動科学に基づいた健康習慣の専門家。著書に『健康になる技術』などがある。さんと西山直也さんが、リスナーから寄せられた「冬の眠気」「ランニングと酸化」「ネガティブな感情の扱い方」「海外での食生活」といったリアルな悩みに回答します。科学的根拠に基づいた冬のパフォーマンス維持術をまとめます。
冬の「冬眠モード」を乗り切るライフスタイルの作り方
最近急に冬になり、体がうまく順応していない気がしています。冬場は眠気が強く、朝なかなか起きられません。日照時間が短いことが影響しているのでしょうか?
冬になると朝起きるのが辛くなり、日中も眠気を感じるという悩みは多くの人が抱えるものです。林さんは、日本にはサマータイム夏の日照時間を有効活用するために、時計の針を1時間進める制度。欧米諸国で広く導入されているが、日本では導入されていない。がないため、日照時間の変化が直接ルーティーンに影響しやすいと指摘します。季節の変わり目には、環境に合わせて「冬専用のライフスタイル」を確立することが重要です。
林さんは、江戸時代の思想家・貝原益軒の著書『養生訓』1713年に刊行された健康指南書。儒学者・貝原益軒が83歳の時に、自身の経験と知識に基づき「季節に合わせた生活の重要性」などを説いた名著。を引用し、「季節に合わせて良いライフスタイルを作る」という考え方は、現代のサイエンスとも合致していると語りました。
ランニングと「酸化」の真実:サプリは本当に必要か?
10年以上ランニングを続けており、月100km以上走っています。有酸素運動は体を「酸化」させると聞きますが、抗酸化サプリを摂取すべきでしょうか?また、高い強度の運動を続けても大丈夫ですか?
この質問に対し、林さんは運動疫学の権威である鎌田真光先生東京大学大学院医学系研究科准教授。運動や身体活動が健康に与える影響を研究する専門家。の見解を紹介しました。結論として、有酸素運動をすることで特定の抗酸化サプリが必要になるというコンセンサス科学界における合意や定説。現時点での科学的根拠に基づく共通見解のこと。は得られていないとのことです。
運動によって発生する活性酸素体内の酸素の一部が変化した、反応性の高い分子。多すぎると細胞にダメージを与えるが、適度な量は体の免疫や適応反応を促すシグナルとしても機能する。には、体に有害なものだけでなく、生体反応のトリガーとなる良い側面もあります。サプリで無理に抗酸化物質を詰め込むと、こうした良い反応まで阻害するリスクがシステマティックレビュー質の高い多くの研究結果を網羅的に集め、客観的に評価・統合する手法。最も信頼性の高いエビデンスとされる。でも指摘されています。
運動量についても、自身にとって「無理がない範囲」であれば、長期的には疾患リスクを下げ、健康に寄与することが分かっています。鎌田先生は、「持続可能な営みとして、地球環境や自然な食事の観点から健康を見直すことも大切」と、深い洞察を添えて回答しました。
ネガティブな感情を「否定せず、フラットに戻す」技術
怒りや悲しみなどのネガティブな感情が健康習慣を悪化させると聞きました。しかし、心の健康のためにはそうした感情を受け入れることも必要だと言われます。どのように扱えばよいでしょうか?
「感情を持つな」と言うのは不可能だと林さんは言います。大切なのは、感情を無理に抑え込むことではなく、まずはその感情を認識し、受容すること。そして、感情に支配され続ける前に、自分を「フラットに戻す手段」をあらかじめ用意しておくことです。
具体的な手法として、行動科学のif-thenプランニング「もしAが起きたら、Bをする」という実行計画。あらかじめ行動を決めておくことで、迷わずに望ましい行動をとることができる。が有効です。例えば「イライラしたら場所を変える」「悲しくなったらこの本を読む」といったルールを決めておきます。この際、西山さんが挙げる「ドライブで爆音の音楽」のように、健康を害さない範囲で自分の心地よさに戻れる方法を見つけておくことがポイントです。
感情は場面に紐付くことが多いので、その場から物理的に離れるという予防策もとても大事です。
異国での健康管理:ロンドン留学生活を支える食の知恵
ロンドンで大学院生活を送っていますが、物価が高く、食生活が不安定になり体重が落ちてしまいました。海外で健康に過ごすためのアドバイスをいただけますか?
林さん自身も海外生活が長く、現在の円安円の価値が他国の通貨に対して下がる現象。海外旅行や海外生活における現地通貨での支払額が、日本円換算で高くなる。の影響もあり、ロンドンや米国での生活の大変さに共感を示します。その上で、林さんが実践していた「海外での健康食習慣」のコツは、ベースを崩さず、現地の食材を賢く取り入れることです。
米、味噌汁、副菜のスタイル
菜っぱの代わりにケール
椎茸の代わりにマッシュルーム
また、精神的な側面も無視できません。一人の留学生活では孤独感から食事が疎かになりがちです。ポットラック参加者がそれぞれ料理を持ち寄って開くパーティー。レストランへ行くよりも安価で、多様な健康食に触れる機会にもなる。のような集まりに参加したり、誰かと一緒に食べる約束を定期的に入れることで、食事を抜かない強制力を作ることも一つの知恵です。
まとめ
今回のお便り回では、個別の悩みに対する回答を通じて、冬の時期を健やかに過ごすための「共通のヒント」が見えてきました。それは、環境や感情に振り回されるのではなく、自分自身の「ベース」となるルーティーンを季節や状況に合わせて微調整していく姿勢です。
無理のない運動の継続、ネガティブな感情の受容とリセット、そして置かれた場所での賢い食習慣の構築。これらを一歩ずつ実践することで、冬の不調を乗り越え、最高の体調を目指していきましょう。
- 冬のルーティーン:起床後の日光浴や入浴で「冬専用」の生活時間を構築する。
- 運動と酸化:無理のないランニングは健康に良く、サプリよりも食事での抗酸化を優先する。
- 感情管理:負の感情は否定せず「if-thenプラン」であらかじめリセット手段を用意する。
- 海外の食生活:日本の食事ベースを保ちつつ、現地の安価で栄養価の高い食材(ケール等)で代用する。
