そもそもAssetHubは何を解決するプロダクトなのか
後編は、後藤さんが営むAssetHubの事業概要と今後の展望が主なテーマです。まず森下さんは、AssetHubがどういうプロダクトで、なぜ創業に至ったのかを改めて尋ねます。
後藤さんによれば、AssetHubはAIを使って3Dモデルの制作や編集を行うツールです。ゲーム制作のコストが上がり続けるなか、比重の大きい3Dモデル制作を生成AIで解決しようとしています。
ただし、この領域はどこも苦戦していると後藤さんは話します。理由はシンプルで、AIが出すアウトプットは人手と比べて品質が高いわけではなく、しかも一度作ったものを編集できないからです。
AIで作ったアウトプットって、そもそも品質はめちゃめちゃ人手と比べてすごい高いっていうわけではない。しかも編集ができないんですよ。
ゲーム制作の現場では、IPホルダーやアートディレクターからのフィードバックを受けて修正を繰り返す工程が一番大変で、コストがかかる部分だと後藤さんは説明します。
生成AIは最初の品質も足りず、編集もできない。つまり、既存の「直して繰り返す」ワークフローが機能しなくなってしまう。だからこそAssetHubは、AIを使いつつ編集プロセスまで回せるようにすることで、初めて現場に導入できると考えています。
AIデザイナーと普通のデザイナーは何が違うのか
森下さんは素人質問として、AIを使わないデザイナーと、AIを使うデザイナーのワークフローはどう違うのかを尋ねます。
後藤さんは、大枠は同じだと言います。3Dモデルは、まず精緻な「ハイポリ」を作り、後からゲームで動くよう軽量な「ローポリ」に変えていく流れです。違いは、その各フェーズでAIをどう使うかにあります。
問題は、現場のクリエイターが忙しいなか「とりあえずAIで使ってね」と渡されてしまうことだと後藤さんは指摘します。
最初、ちゃんとそのパイプラインを作らないといけない。こういう見た目の3Dモデルを量産したいというものがあった時に、それを量産できるようにするためのワークフロー、工場みたいなものを一ヶ月かけて作ります。
この「工場」を作る最初のタイミングは、どうしても品質が悪くなります。そこだけを見て「使えない」と判断し、導入を諦めてしまうケースが非常に多いと後藤さんは言います。
そこでAssetHubは、あるべきワークフローをサポートするツールを提供するだけでなく、自社でAIネイティブな3Dスタジオを持ち、最初の「工場」作りまで請け負う体制を取っています。フルに使いこなせばここまでいけると実績で見せることを重視しています。
自前でモデルを作らず「使い方」で勝つという戦略
森下さんは理解を整理します。AssetHubは3Dモデルを作るための言語そのものを開発しているのではなく、既存の技術をいかに実社会でスピーディーに質高く実装するか、そのAIの使い方に長けた集団なのではないか、と。
基盤の技術は出てきているので、それを現場で使えるようにするためのアプリケーション、こういうワークフローでやってくれれば成果が出ますよっていうところを整えているっていうイメージです。
後藤さんは、ChatGPTのようなAIが存在することと、それを実務で成果につなげることは別だと語ります。AssetHubは基盤技術ではなく、現場で使えるアプリケーションを整える役割を担っています。
続けて森下さんは、この構想は最初からあったのかを尋ねます。答えは「最初からこうだったわけではない」でした。
もともとはweb3のバックグラウンドで、web3と3Dの掛け合わせを考えてサンフランシスコに渡ったものの、その頃には現地でweb3はほぼ終わっていたと後藤さんは振り返ります。
日本だとかろうじてあったぐらいのタイミングなんですけど、もうサンフランシスコはもうAI一色みたいな状態で。
そこから2023年の頭ごろ、AIかける3Dで何かできないかと考え始めたのが今につながっています。
なぜ「3D」だったのか。イノベーションが止まった領域への着目
森下さんは、AIが必須なのは理解できるとしつつ、なぜそこに「3D」を掛け合わせたのかを掘り下げます。
後藤さんは、AIを考える前から3Dはやりたかったと言います。web3のメタバース領域で3Dコンテンツに触れるなかで、この領域が成熟しておらず、イノベーションがあまり起きていないと感じたのがきっかけでした。
技術体系も結局めちゃめちゃ古いものが未だに続いていて。UnityなりUnrealって、もう本当に二十年前とか、そのぐらいからずっと続いているものだと思いますし。
メタバースでは、ゲーム畑ではない人が3D空間を作ろうとしても、難しすぎてうまくできない場面が多かったと後藤さんは指摘します。3Dのユースケースは広がり、コストは高く、しかもイノベーションが止まっている領域。そこにエンタメが重なっていました。
だからこそ、新しい技術ややり方を発明すれば世界標準を取りにいけるのではないか。web3のゲームが海外に奪われた反省を踏まえ、海外で何かを作って世界に広げることが今からでも取り組める領域だと考えたと話します。
なぜ「世界標準」を狙うのか。プロダクトで勝ち抜く極致
森下さんは、そもそもなぜ世界標準を取りたいのかを素朴に問いかけます。多くの人は、発明を通じて世の中に問いかけたいとまでは考えないのではないか、という疑問です。
後藤さんは、その志向は最初からあったと答えます。前身のGaudiyでも新しいことを世界に広げたいと思って取り組んでいたものの、日本のマーケットで進めるほど難しさが分かってきたと言います。
日本と海外でプロダクトを作る人の考え方が大きく違うわけではない。ならば正しい場所と正しいタイミングで取り組めば、産業のあり方を変えるほどのインパクトを出せるはずだと後藤さんは考えました。
FigmaとかCursorとか、昔だったらAirbnbとかUberとか、プロダクトが出てきただけで産業のあり方が変わるとかっていうレベルのインパクトになりうる。
自身をプロダクト畑の人間だと語る後藤さんにとって、強いプロダクトで世界を変えることは事業の極致でした。そのためには場所とタイミングを選ぶ必要があった、という結論です。
単身での渡米はリスクではなかったのか
森下さんは、ドメスティックな環境から単身でアメリカに飛び込むことに恐怖はなかったのか、なぜそこまでのリスクを取れたのかを尋ねます。
後藤さんは、簡単ではなかったとしつつ、日本で事業を大きくしてからグローバルに出るという従来の発想がうまくいってこなかった点を挙げます。海外でやるなら早く、しかも既存組織の中からではなく、ゼロから作る必要があると感じていました。
極力向こうベースでゼロから事業の方向だったりチームとかを含めて作っていかないと、向こうで勝てるものにならないんじゃないか。
マーケットや収益の取り方が違えば、事業やチームの性質も変わる。日本マーケットで収益を上げることとグローバルで上げることの違いが大きいからこそ、現地でゼロから組み立てる必要があると後藤さんは考えました。
当時は28歳前後。まだ若く、見てもらえるうちに行かないと、向こうのやり方に合わせるのが難しくなるという焦りもあったと明かします。
森下さんはこれを「リスクを取ったというより、早く行く方がむしろリスクが少ない」という意味合いだと整理しました。後藤さんもこれに同意しています。
導入は大手にも。競合は「基盤モデルそのもの」
森下さんは、プロダクトの進捗や市場の状況を尋ねます。後藤さんによれば、AssetHubは本格的なゲーム開発の現場で導入が進んでおり、小さなインディーだけでなく大きなスタジオでも使われ始めています。
3Dの生成AIの現状について、後藤さんは印象的なたとえを使います。
ChatGPTが3.5になって一気にAIスタートアップが立ち上がったように、3Dもちょうど今そのフェーズにある、というのが後藤さんの見立てです。だからこそ、うまく使えるかどうかが事業成果に大きく響くタイミングだと言います。
競合は誰かという問いに対し、後藤さんは競合相手は基盤モデルそのものだと答えます。基盤モデルを自社内だけで研究して使うか、AssetHubのサポートを受けて導入するか、という構図です。
さらに後藤さんは、日本のスタートアップこそエンタープライズ向けを狙うべきだと強調します。日本は、日本人にとってエンタープライズ顧客を獲得するのが世界で一番簡単な国だという見立てです。
日本って基本あんまりMAしないですし、インハウスでやるし、レイオフもないんで、中のチームの人にやらせると。
一方でアメリカは、大手が欲しいものはM&Aで取りに行き、採用もレイオフも柔軟なため、外部のサポートを受けるニーズが限定的だと後藤さんは説明します。
M&Aが少なくインハウス志向。レイオフも少ないため、外部サポートを受けるエンプラ需要が大きい。日本人にとって最もアクセスしやすい
欲しい技術はM&Aで獲得し、採用やレイオフも柔軟。外部サポートへのニーズは限定的
そこでAssetHubは、日本ではアクセスしやすいエンタープライズで実績を作りつつ、グローバルではプロダクト主導でユーザーを取る二本立ての戦略を取っています。
後藤さんは、直近で急成長したAIスタートアップの多くが自前でモデルを開発していない点にも触れます。CursorやElevenLabsなどは、基盤モデルではなく現場で使われるアプリケーションにフォーカスしていると言い、AssetHubも同じポジションだと語りました。
制作コストは5分の1に。ゲーム史が繰り返すゲームチェンジ
森下さんは、実際にフルで3Dデザイナーが作る場合と、AIを使う場合でどれくらいのコストメリットが出るのかを尋ねます。
森下さんは、これを過去のゲーム史と重ねて解釈します。15年ほど前にコンソールゲームの開発費が高騰し、そこにスマートフォンとソシャゲが登場して開発費が一度リセットされ、新しい市場が立ち上がった。それと同じことが今起きているのではないか、という見立てです。
3Dアセット制作費がPLに占める重さを実感してきた森下さんは、それが5分の1になれば各社がチャレンジできる領域が大きく広がると語ります。
後藤さんは、話をさらに進めます。3D制作のあり方が変わるだけでなく、AIで作ったアセットに適したゲーム表現が伸びやすくなるのではないか、と。
過去、新しいコンテンツはデバイスが変わってコストが下がったときに生まれてきたと後藤さんは言います。ファミコン発の任天堂IP、スマホ黎明期発のモバイルゲーム。いずれも開発費が安く、そのデバイスに適したゲーム表現を持っていました。
AIとウェブが生む、新しいゲームとマネタイズの形
後藤さんは、AIで作りやすいゲームの具体例として、ハクスラやローグライトのような見下ろし型の3Dモデルゲームを挙げます。そして、それをウェブ上で動かす動きが増えると予想します。
理由は、AIでコーディングするAIエージェントがウェブ上で最も性能を出しやすいからだと後藤さんは説明します。UnityやUnrealではAIがうまく使えないのに対し、ウェブなら相性が良いのです。
僕ら自身も実際に大体2、3週間ぐらいで、チーム2人で、プロトタイプのそういうローグライトみたいなのを作ったんですよ。見下ろし型で3Dでウェブ上みたいな。
こうしたシステムが確立すると、コンテンツの供給だけでなくマネタイズの仕方も変わると後藤さんは見ています。ファミコンは売り切り、モバイルはガチャや課金へと変化してきました。ウェブではまた違う形が必要になります。
後藤さんは、AIを使いこなしたゲームの作り方が新しいレイヤーとして加わり、その特性に合ったマネタイズや使い方も含めて全体が再発明されていくと考えています。
森下さんは、ウェブの特性に合わせたマネタイズを支援するプラットフォームが現れるのか、それともAssetHubがそれを内包するのか、と想像を膨らませました。
後藤さんは、ブラウザ上でグラフィックを動かすWebGPUに各ブラウザがようやく対応し性能が上がっていること、さらにTwitterが自社のブロックを使ってゲームを作りシェアできる仕組みを進めようとしていることに触れます。ソーシャルメディアのレイヤーでウェブ上のゲーム制作と共有が動き出しており、配信やマネタイズの新しい仕組みが生まれるのは間違いないと語りました。
IPを生み出し、業界標準を目指す今後の展望
最後に森下さんは、AssetHubを未来どうしていきたいか、今後の展望を尋ねます。
後藤さんは、ツールや自社のアウトソーシングを通じて、とにかくIPコンテンツを作っていきたいと語ります。既存IPをサポートしてトップクラスの成果を出すだけでなく、AIを使ったゲーム開発から新規IPが生まれることも目指したいと言います。
既存のゲーム開発の場でも、新しいチャレンジをしたい場合でも、AIを使ったゲーム開発やアセット制作に関心があれば、ぜひ一緒に良い実績を作りたいと後藤さんは呼びかけました。
森下さんも視聴者に向けて、ゲーム関係者へ声がけを促し、2週間にわたる後藤さんへのインタビューを締めくくりました。
まとめ
後藤さんの挑戦は、生成AIで3Dアセット制作を高速化するだけでなく、その先にあるゲーム表現やマネタイズの再発明までを見据えたものでした。日本のエンタープライズとグローバルのプロダクト主導、二つの市場を組み合わせて世界標準を狙う戦略が印象的な後編です。
- AssetHubはAIで3Dモデルの制作と編集を行うツールで、生成AIの弱点である「編集できない」問題を解決して現場導入を目指す
- 自前でモデルは開発せず、基盤モデルの「使い方」とワークフロー構築で勝負する。競合は基盤モデルそのものと位置づける
- 日本で事業を大きくしてから海外に出るのではなく、勝てるチームをゼロから作るためにアメリカで早期に起業した
- うまくいけば制作スピードは約5倍。過去のデバイス転換と同様に、AIが新しいゲーム表現とマネタイズを生むと後藤さんは見ている
- 日本はエンタープライズ獲得が容易な市場、グローバルはプロダクト主導という二本立てで世界標準を狙う





