「三重県の上位3%」への違和感が、転校の入り口だった
後半に入る前に、聞き手の森下明さんが前半で取り残したテーマを掘り下げます。三重県のトップ進学校である津高校から、なぜ大阪へ編入したのか、という問いです。
きっかけの一つは、入学したての生徒に向けられた先生の一言でした。
君たちは三重県の上位3%です、みたいな話をされていて。
森永さんは、この言葉にそのまま乗れなかったと振り返ります。
三重県の3%ってみたいな。もっと世界の3%とか、そういうのだったらわかるけど。
ここにいたら自分は鼻が高くなって満足して、自分を高められないんじゃないか。その経験が、転校のきっかけだったかもしれないです。
森下さんは、田舎特有の同調圧力を理解しつつも、周囲の流れに逆らって自分の意思で編入した点に注目します。
そのうえで、後半のスタートアップ創業は必然だったのかもしれないという見立てとともに、本題へと話を移します。
サンフランシスコで最初に立ち上げた「1社目」とは
森永さんがサンフランシスコに拠点を移したのは2022年5月のことです。妻も2024年9月から現地で合流しています。
ただし、移住とTrissino創業のタイミングは一致しません。
そのタイミングでは全然Trissinoは創業されてなくてですね。
実はTrissinoの前に、アメリカでもう1社を立ち上げていました。法人設立は2023年の年明けです。
1社目は、共同創業者とともに手がけた不動産のプラットフォームでした。
アメリカ人のバイヤーが日本で不動産を買いやすくする、あと民泊の運営も一気通貫でできるようなプラットフォームです。
この1社目では、投資家から1億3〜4000万円ほどの資金調達も行っていました。
共同創業者と別れ、2社目Trissinoを始めるまで
森下さんは、1社目から2社目へ移った理由を尋ねます。背景には、共同創業メンバーとの方向性の違いがありました。
共同創業メンバーと僕の間で方向性の違いがあって。僕はもっとアメリカベースでやっていきたかった。
前の会社ではそれが難しく、森永さんは自ら会社を離れる決断をします。
ただ、辞めてすぐに創業したわけではありません。
その後、半年間ぐらい日本でベンチャーキャピタルでいろいろお仕事させてもらって。
半年を経て、再び日本からアメリカへ戻り、Trissinoの創業に至りました。
AIブランドマーケターから、競合リサーチへのピボット
Trissinoのコンセプトは、当初から大きくは変わっていません。ただ、最初に目指していたものは今とは違いました。
もともとは最初、AIブランドマーケターを作ろうと思ってたんですよね。
森下さんはエンジェル投資家として初期から株主レポートを受け取っており、その丁寧さに触れつつ、当初のコンセプトを振り返ります。
初期のTrissinoは、ブランディングマーケターの仕事をAIで置き換えるという構想でした。その仕事を、森永さんは3つのステップに分けて捉えていました。
リサーチ
競合や市場の情報を調べる
戦略
リサーチを戦略に落とし込む
実行
戦略を実際の施策に落とし込む
そのなかで、最初のリサーチだけでも課題が大きいと気づいたことが、方向転換の起点になります。
リサーチだけでも、全然これ課題大きいなと思ったんですよね。
こうして、マーケター向けにリサーチ業務を自動化する競合リサーチの事業へと流れていきました。
誰に売るのか、そして「起業家版Tinder」で出会ったco-founder
顧客として想定されているのは、主にBtoB SaaS企業です。組織規模や職種にも明確な狙いがあります。
SMBやスタートアップぐらいの組織で、主にプロダクトマーケティングマネージャーという職種の人向けです。
特に、一人でその役割を担う「ソロ」のプロダクトマーケティングマネージャーに、いま最もフィットしていると話します。
組織は少数精鋭です。森永さんのほかに、共同創業者であるインド人エンジニアがデリーにいて、その下に2人のエンジニアがいます。メインで動くのはアドバイザーを含めて5名ほどです。
この共同創業者との出会いには、Yコンビネーターが提供するマッチングプラットフォームが使われました。
本当にTinderみたいな感じでファウンダーを探せるんですけど、そこで出会ったファウンダーです。
オンラインで連絡を取り、たまたま来日していた相手と実際に会って話し、一緒にやろうという流れになったといいます。
Techstars Tokyo採択と、有料ユーザー獲得までの進捗
プロダクトは早い段階から少しずつ出していましたが、顧客がフルに使えるローンチは今年7月ごろでした。
同じ時期に、採択率の低いことで知られるTechstars Tokyoに採択されます。メンターやアドバイザーから、セールスの手法まで学んだといいます。
今年に、アメリカのユニコーン企業、AIリーガルのユニコーン企業がペイドユーザーで購入してくれることになっていて。
現在は複数社とトライアルやPOCを進めている状況だと話されています。
「本当に重要な情報はオンラインにない」競合リサーチの中身
森下さん自身もマーケティングのコンサルティングでリサーチを行うため、ChatGPTなどとの違いを尋ねます。森永さんの答えは、情報の出どころにありました。
本当に重要な情報って、オンラインにないじゃないですか。特に企業とかになると。
ChatGPTはオンライン情報の収集は得意でも、本当に価値ある情報を浮き彫りにするのは難しく、ハルシネーションの課題も残ると指摘します。
そこでTrissinoは、SlackやGONGといった営業ツールとのインテグレーションを持ちます。たとえばアメリカのBtoB企業では、競合について話す専用チャンネルがSlackにあることが多いといいます。
社員が競合について得た情報を、ランダムに投稿しちゃうんですね。でも流れていってしまう。
同社のAIは、そうした会話をすべて聞き取り、重要なインサイトを競合ごとのナレッジベースに自動で振り分けます。営業の商談で得た競合情報も同様です。
お客さんが競合A社はこういう価格で提示してくれました、みたいな情報を、営業が自分のところで止めてしまうんですよ。忙しすぎるんで。
その一次情報を検知してナレッジベースに集約し、チーム全員がアクセスできるようにする。本当に必要な一次的な情報を取り逃さない点が、ChatGPTとの違いだと説明します。
情報源はすべて自社の活動内のものです。森下さんは「ありそうでなかった」と受け止めます。
週250件のLinkedIn営業と、有料顧客への転換
森下さんは、Techstars Tokyoで同期だった知人から森永さんの評判を聞いていました。
彼の行動量はおかしかったです、と。なぜあんなにコールドコールをかけまくっているのか、と。
その行動量の中心にあるのが、LinkedInを使ったコールドアウトリーチです。アメリカではLinkedInが普及しており、見知らぬ相手からの連絡にも一定数が返信してくれるといいます。
日本ではLinkedInの普及自体が限られ、コールドアウトリーチが機能しにくいという対比も語られました。実際、有料顧客となったユニコーン企業も、このLinkedIn経由でつながっています。
その営業量は、数字で聞くと圧倒的です。
毎週250件、LinkedInって繋がり申請できるんですよ。逆に言うと毎週250件しかできないんですけど。
4ヶ月ぐらい、毎週250件、絶対送ってるんですよ。1週も逃してないと思います、この4ヶ月ぐらいは。
返信がなければ申請をキャンセルし、3週間後に再び申請を送れる仕組みを使って、どうしても届けたい相手に粘り強くアプローチしていると話します。
競合リサーチと商談をつなぐ新プロダクト「Sales OS」
直近では、競合リサーチツールと連携する営業支援ツールを新たに開発しています。Techstarsのデモデーでも紹介されたものです。
このツールは、オンライン商談中の営業を、その場でアシストします。
営業がZoomで商談している時に、次に何を聞けばいいか、質問にどう答えればいいかをリアルタイムで画面に表示する。
森下さんは「欲しいですね」と反応します。このプロダクトはYouTubeでも公開されている「Sales OS」です。
開発の背景には、プロダクトマーケティングマネージャーが抱える課題がありました。彼らのKPIは、商談サイクルの短縮や売上への貢献など、セールスチームと同じだったのです。
従来のツールは「リサーチのためのリサーチ」に留まり、収益への貢献を示しづらいという問題がありました。そこで、リサーチ結果を商談の場で直接届ける発想に至ります。
お客さんが競合A社との違いを質問してきたら、その情報を瞬時に見つけて、こう喋ってくださいと営業に画面表示する。
これにより、営業は競合と自社の違いを明確に答えられるようになり、その成果が売上に貢献したかどうかも示せるツールになっていると説明します。
自社の活動内から競合の一次情報を集め、ナレッジベースに整理する
リサーチ結果を商談中にリアルタイム表示し、営業の回答をアシストする
来年1月から本格化する資金調達と、エンジェル投資家への呼びかけ
収録の終盤、森永さんはエンジェル投資家に向けた告知を行います。
来年1月から資金調達を本格的に開始したいと思っています。興味を持ってくださる方がいらっしゃったら、ぜひご連絡いただければ嬉しいです。
森下さんは、連絡が届くよう拡散すると応じます。
最後に森下さんは、2週にわたる話を振り返り、アウェイな地で起業する人の共通点を挙げます。幼い頃から良い意味でマイノリティで、意思決定が速く柔軟であること。そして、質を担保するなら量を最大化して動く、という姿勢です。
まとめ
三重県トップ校からの編入という原点から、サンフランシスコでの2社目の起業、競合リサーチと営業支援を組み合わせたプロダクト、そして週250件のLinkedIn営業まで。森永さんの歩みは、環境に流されず自分の意思で動き続ける起業家像を映し出していました。
- 森永さんは「三重県の上位3%」という言葉に満足できず、自分を高めるために大阪へ編入した
- Trissinoは2社目で、1社目の不動産プラットフォームとは方向性の違いから離れて創業された
- 事業はAIブランドマーケターからスタートし、リサーチの課題の大きさに気づいて競合リサーチへピボットした
- Trissinoの強みは、Slackや営業ツールと連携し、オンラインにない自社内の一次情報を集約する点にある
- 週250件のLinkedInコールドアウトリーチを4ヶ月続け、ユニコーン企業の有料顧客獲得につなげた





