音の編集を手伝うゲストは、昼は上場企業の取締役
この回のゲストは、番組のオープニング音楽や音の編集を手伝っているYoooです。坂本とは長い付き合いで、普段は「クロちゃん」と呼ばれています。
名義が2つあり、片方が「BLACKCROW」であることから、クロちゃんと呼ばれているそうです。
名義が2個あって、片方がブラッククローなんで、クロちゃんで大丈夫です。
クロちゃんの昼の仕事は、ビジネスのマーケティングを支援する上場企業の取締役です。エンタメ企業ではなく、マーケやSaaSといった硬めの領域だと話されています。
一方で夜の活動としては、DJや作曲をしています。福岡県を拠点に、オールジャンルでありながらクラブサウンドに寄った音楽レーベル「ROUNDEX RECORD」を運営しており、次の4月で4周年を迎えるそうです。
音楽レーベルは実際に何をやっているのか
昭和生まれの音楽ビジネスのイメージは、作詞作曲してCDを売り、ライブで稼ぐというものです。坂本は、クロちゃんのやっていることはそれとは少し違うのではと問いかけます。
クロちゃんによると、レーベルは自身を含め、コアメンバー7人ほどで運営されています。全員がDTM ── Desktop Musicの略。パソコンを使って作曲・編曲・録音を行う音楽制作のスタイルを指す。で楽曲を作りながら、DJや歌、YouTubeなどの活動をしています。
活動の中心は福岡ですが、メンバーの中には大阪や東京に住んでいる人もいます。8割が福岡で、残りは他地域から歌などで参加しているそうです。
メインの収益源となっているのが、東京の流通センターで開催される「M3」というイベントです。
M3っていうコミケの音楽版みたいなのがあって。
M3はもともと同人音楽を売る場です。東方アレンジのような制作をしていた層が、自分でブースを持って音楽を売る、コミケの音楽版のようなイベントだと説明されています。
売られる音楽の多くはCDに焼かれた形です。デジタル全盛の今も、物理メディアのほうが売れると言われることがあるそうです。
古き良きオタクは物理が大好きなので、CDの方が売れるとか言われたりはしとるね。
ブースは抽選、来場は何万人規模の同人音楽イベント
M3ではアニメっぽい曲を自作して歌う人や、ゲーム音楽を作る人など、多様な参加者がいます。最近はクラブ系の音楽を作る人たちも増えてきました。
人気ゆえにブースは抽選で、来場者数は数千人ではなく何万人規模だといいます。
実はブースも抽選だったりする。
来場者は二極化していて、声優などが売りに来るため古き良きオタク層もいれば、おしゃれな雰囲気の女性も来ます。全体では6〜7割が男性だそうです。
クロちゃんのブースには毎回来てくれる常連がいて、名前がわからないため「新譜おじさん」と呼んでいるそうです。
毎回ブースに来て、今回の新譜何ですか?って聞いてくれて、じゃあそれ全部くださいって買ってってくれる。
この常連は、アマチュアやインディーズの音楽を応援したいタイプではないかと、クロちゃんは推測しています。
楽曲の販売形態はサークルによって異なります。ROUNDEX RECORDの場合は、1〜2ヶ月ほど遅らせてSpotifyなどでデジタル配信するそうです。
デジタル配信を後にする分、値段のつけ方は難しいといいます。聴くだけなら後でSpotifyで済むため、すぐ聴きたい人やDJで使いたい人が買ってくれる一方、それ以外の層へのアプローチが難しいと話されています。
会場では試聴もできます。ROUNDEX RECORDはiPadに30秒ずつ聴ける音源を入れ、ヘッドホンとセットで複数台用意しているそうです。それでも自分のブースはまだ下の方で、長蛇の列ができるブースもあると語られました。
なぜ音楽レーベルを始めたのか
坂本は、そもそもなぜレーベルを始めたのか、そしてそこからメジャーデビューへ進むのかを尋ねます。
レーベル設立のきっかけは、東京から博多へ移り、転職した先で隣に座った同い年の女性でした。二人ともマーケティングの仕事で、自然と仲良くなったそうです。
ある日カレー屋でテックハウスがBGMに流れ、クロちゃんが好きだと言うと、彼女も好きだと返してきました。
テックハウスで反応してくる普通のやつおるか?って思って。
よく話を聞くと、彼女はクロちゃんが東京で活動していたクラブとほぼ同じエリアにある元クラブの店員でした。生き別れのように、二人とも博多に来ていたのです。
仲良くなる中で、クロちゃんが趣味で作っていた曲を聴かせたところ、彼女から強く背中を押されたと言います。
なんかお前は絶対もっと世に出た方がいいみたいなことめちゃくちゃ言われて。
リリースするならレーベルという名前があったほうが箔がつく、という流れで、勢いのまま作られたのがROUNDEX RECORDでした。
坂本が「レーベルを作るというムーブがピンとこない」と言うと、クロちゃんはレーベル名があるほうが宣伝効果があり、箔がつくと説明します。個人事業主より法人の社長を名乗るほうがかっこいい、という感覚に近いそうです。
レーベルは法人ではなくサークルとして、言ったもの勝ちで作れるものだと語られました。
本当に勝手に俺このレーベルボーンで行ける感じ。
当初はクロちゃん一人だけの「タレント一人の事務所」状態でした。しかし歌をやりたい人やDTMのアドバイスを求める人が自然と集まり、2年目ごろから一人のものではなくなったそうです。
コミュニティ形成の極みよ。
広げようとしたというより、周囲の人が自然と「もう君ROUNDEXだよね」という形で加わっていったと話されています。
DJが自分で曲を作らなければならない理由
もう一つの問いは、そこからメジャーデビューへ進むのか、という点でした。クロちゃんが手がけるクラブサウンドには、そもそもメジャーデビューという概念があまりないといいます。
目指すのは、大きな海外レーベルの専属になったり、ウルトラやEDCのような大型イベントに出るDJになったりすることだと説明されました。
坂本は、DJというとレコードを買ってきてクラブで流す、という古いイメージしか持てないと語ります。それが、オリジナル曲を作るクロちゃんの活動とどう結びつくのかを尋ねました。
最近売れてるDJで曲作ってない人いないかな。ぐらい曲作ってないとそのDJとして認められない。
これは特に海外での傾向で、日本もそうなりつつあると話されます。DJプレイだけではクラブに行かないと聴けませんが、オリジナル曲があれば家でも何度も聴けるためです。
他人の曲を流すだけでは、誰が回しても聴いている曲自体は同じになります。だからこそ、DJは回す人であると同時に、作曲家としての比重が増してきているといいます。
クロちゃんの中では、作曲とDJは完全に結びついています。作曲家から見ればDJはプロモーションの場であり、DJから見れば作曲は自分の土台を固めてくれるものだと整理されました。
自分の曲をDJで流す
自作曲をプレイの場で発信する
曲を聴いてもらう
購入や配信を通じて多くの人に届く
曲が評価される
「この人の曲がいい」とファンがつく
DJのブランドが上がる
DJとしての価値が高まる
クロちゃん自身は、DJから入って作曲を始めたのではなく、作曲から入ってDJに進んだ後者のタイプだと話します。どちらを先にやっているかで、人のタイプが違ってくるそうです。
作曲家気質とDJ気質、そして音楽とプログラミングの近さ
作曲、特にDTMはパソコンと向き合う作業です。そこから入る人は、見た目や雰囲気がいわゆるパリピではなく、おとなしめのタイプが多いと語られます。
言われなければエンジニアさんですかみたいな。
坂本は、以前アプリ広告の仕事で出会った音大出身のエンジニアが「音楽とプログラミングは近い」と話していたことを思い出します。当時はピンとこなかったそうです。
クロちゃんはこれに強く共感します。組み立てるという意味でも、一箇所が違うと全部ダメになるという点でも、音楽制作とプログラミングは近いと話しました。
一方、DJから作曲へ進んだ人は、クラブで盛り上がる展開を肌で理解しているため、盛り上がる曲を作るのが上手いといいます。彼らが作曲を始めるのは、DJとしての格を上げるために「作らないといけない」からだと語られました。
坂本が、そうした人に曲を外注する動きはないのかと尋ねると、クロちゃんは可能性はあるとしつつ、現実的な壁を挙げます。
その辺で活動するDJに大金はなく、外注すると1曲で10万、20万かかること、しかも1曲では当たらないことが理由だと説明されました。
曲を作り続けることで、単体の曲ではなく雰囲気全体でファンがつくパターンも多いといいます。クロちゃんは、どのジャンルを作っても自分が作ったとわかると言われるそうです。
何も考えず息するように曲作ってるわ最近。
かっこいい曲を作ろうと意識するより、習慣として作るようになっているといいます。パソコンの前にいるから曲でも作るか、という感覚で、タバコと同じ習慣だと表現されました。
7人でやるレーベルには「締め切り」がある
坂本は、一人で音楽を出すのとグループでやるのとの違いを尋ねます。クロちゃんは、苦しみを共有でき、団体戦に持ち込める点が強いと答えます。
誰か一人が売れれば、グループ全体で売れることにつながる。そこがありがたいと話されました。
一方で大変なこともあります。クリエイティブな活動には「締め切り」が存在するのです。
音楽ってさ、クリエイティブ系は何に対しても起こると思うけど、締め切りというものが存在するんですよ。
ROUNDEX RECORDは毎週金曜日にリリースできる体制を作り、メンバーに事前にリリース枠を押さえてもらいます。たとえば10月に、翌年2月の枠を早い者勝ちで確保する形です。
これは一般的なやり方ではなく、ちゃんとしたレーベルとして動きたいからルール化したものだといいます。坂本は、生き方は適当なのに仕組みは厳しいクロちゃんらしさが出ていると指摘しました。
楽曲リリースは曲を作れば終わりではありません。ジャケット画像、宣伝文、宣伝アセットなど、作曲以外のタスクが多く発生します。
ROUNDEX RECORDではそれらを作曲家一人にやらせないため、締め切りが遅れると他のメンバーやクロちゃん自身の時間に影響します。だからこそ締め切りを設けているそうです。
Notionから始まったレーベルの業務DX
クロちゃんは昼の仕事も忙しく、すべてに対応できるわけではありません。だからこそ、進捗管理やリマインドを円滑にする仕組みが必要でした。1曲出すにも最低3〜4人が動くため、そのすり合わせに悩み続けたといいます。
最初はNotionのデータベースでカード式に管理し、SFA ── Sales Force Automationの略。営業活動の進捗や案件情報を管理・自動化する仕組み。のように運用していました。しかし無料版ではゲストを5人までしか呼べないという壁にぶつかります。
そこで、日本ではほとんど知られていない海外製のCRMツール「Bitrix」を導入しました。HubSpotでの構築やTrelloとの連携なども試した末の結論だったそうです。
全く全然超ビジネス用。
Bitrixを選んだ決め手は、RPA ── Robotic Process Automationの略。人が行う定型作業を、ソフトウェアのロボットに自動で処理させる仕組み。を作れる点でした。誰かのタスクが終わると次の人に自動で通知が飛ぶ仕組みを作りたかったのです。
アーティストが楽曲のダウンロードURLを送信するとクロちゃんに通知が来て、作業を終えて送信すると次の人にタスクが自動で渡る。そうした流れを無料で構築できたのがBitrixだったといいます。
その時は本当に俺天才と思ってて。これで管理が楽になるって思ってた。
Bitrixの失敗と、AirtableとLINEにたどり着くまで
しかし半年から1年経っても、Bitrixは浸透しませんでした。クロちゃんは、重要な視点を忘れていたと振り返ります。
後の作業者には便利でも、楽曲を送ってくる側にとっては便利ではなかったことも一因でした。この気づきから、クロちゃんは仕組みを組み直していきます。
坂本の中高同級生である岡本守氏にシステムの相談をしたり、自分でノーコードを学んだり、AIを使って構築を試したりしたそうです。AppSheet、Firebase、bubbleなど、20ほどのテストプロジェクトを作ったといいます。
最終的にたどり着いたのが、データベースツール「Airtable」でした。すべてのプロジェクトやアーティスト情報をデータベース化し、申請はAirtableのフォームを通す形にしたのです。
そして、フォームへのアクセスや重要連絡を、LINE公式アカウントで行うことで問題を解決しました。
メンバーはLINE公式アカウントに入り、リッチメニューからリリースカレンダーや申請フォームにアクセスできます。フォームを送るとプロジェクトが自動生成され、タスクも自動で作られる仕組みです。
LINE公式で申請
メンバーはリッチメニューからフォームを開く
フォーム送信
申請を送るとプロジェクトが自動生成
タスク自動生成
オートメーションで担当タスクが作られる
通知と週次リマインド
毎週月曜に個別のタスクが各アーティストに届く
一緒に運営するマーケターの女性からは、AirtableとLINE公式アカウントを併用する発想は思いつかない、と言われたそうです。
坂本も、Airtableまでは元外資系らしい選択だと納得しつつ、連絡手段にLINEを選んだ点に驚いたと語ります。SlackやFacebookに寄せがちなところを、テックに強くない人が必ず使うフロントとしてLINEを据えた判断です。
メンバーには21〜22歳の若い子や社会経験の浅い人もいるため、一般的なCRMの管理画面は難しすぎます。誰にとっても普通のツールが、彼らには難しいという目線が、LINEの採用につながったと語られました。
M3で公募し、世界から曲が集まった
この一連の取り組みの集大成が、10月26日にM3で見られます。会場は流通センター駅すぐの展示場で、M3は年2回開催されるイベントです。
坂本は、大井競馬場に赤鉛筆のおじさんが集まる隣の駅に、マニアックな音楽好きが何万人も集まる構図を面白がります。クロちゃんは、そこでレーベルのDXをホワイトボードで解説したいと冗談を交えて語りました。
今回、ROUNDEX RECORDはこれまでで一番大きな挑戦として、コンピレーションアルバムを出します。収録曲をレーベルの外からも公募したのです。
Twitterで告知し、クラブにポスターを貼ってもらうなどして、初めての公募を行いました。念のため英語ページも用意していたところ、思わぬ反応があったといいます。
その多分スペインの人と中国の人からも来て。すごいでしょ。びっくりした。
結果的に、中国から応募した人の楽曲はクオリティが高く、2曲を収録したそうです。自分たちが知らないだけで、現地で有名なDJの可能性もあると語られました。
クロちゃんは、システムの話はあくまで手段であり、メインは音楽だと繰り返し強調します。
今みたいな音楽活動をちゃんとするためにシステムは大事ですよっていう話です。
M3の出展情報と特典、そして番組への一言
ROUNDEX RECORDは、M3の第一展示場「M-20」のブースで出展します。興味があれば遊びに来てほしいと呼びかけられました。
ブースには1回500円のガチャが置かれます。500円でリリース済みの曲を3曲データでプレゼントするほか、賞によって缶バッジやポスター、アクリルキーホルダーなどが当たり、特賞はスウェット生地のロンTだそうです。
番組「エととと」を聴いてきたと伝えた人には、このガチャを1回無料で引ける特典もあると語られました。
えととと聞いてきましたってくれた人は、うちブースにガチャ置くんすよ。それを1回無料で引けます。
クロちゃんは缶バッジなどのグッズも、安めの工場で一気に発注して制作しています。坂本は、ビジネス能力をいかんなく生かしていると評しました。
楽曲が再生されて当たるまでには時間がかかると話しつつ、M3では売れるようになってきた手応えもあるといいます。ビジネス的に良い方法があればDMで教えてほしい、とも語られました。
最後に、アフターパーティーのDJを探しているなら声をかけてほしい、途中で何度かトイレに行くが3時間までは回せる、と締めくくられました。今回のゲストは、クロちゃんことDJ Yoooこと、Yooo | BLACKCROWでした。
まとめ
インディ音楽レーベルの実態から始まった対話は、DJと作曲が結びつく理由、そして音楽活動を支える業務DXへと展開していきました。アーティスティックな活動の裏側に、徹底したビジネス目線と試行錯誤があることが伝わる回です。
- ROUNDEX RECORDの主な収益源は、コミケの音楽版とも言えるイベント「M3」での物販
- 近年のクラブシーンでは、DJが自分でオリジナル曲を作ることがブランドを高める前提になりつつある
- 作曲とDJは、互いのプロモーションと土台になる循環関係にある
- レーベル運営はNotion、Bitrixを経て、AirtableとLINE公式アカプの組み合わせに行き着いた
- システムはあくまで手段であり、メインは音楽活動だという姿勢が一貫している


