うつ病の症状とそのサイン
島田先生はまず、うつ病の代表的な症状として「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」を挙げました。気分が落ち込み、これまで楽しめていた趣味などが楽しめなくなる状態です。加えて、疲れやすさ、不眠、食欲の低下、やる気の欠如なども現れます。
考えがうまくまとまらず進まない、というのも特徴的です。さらに、自分に価値がないように感じたり、「自分が悪い」「罪深い人間だ」と考えてしまうケースもあると言います。
重症化すると、これらの症状がさらに強まるだけでなく、自殺の問題や、妄想的な症状が出ることもあるとのこと。具体的には、「お金がない」と思い込む貧困妄想などの「微小妄想」が現れる場合があると解説されました。
全部想像できるね。
なぜ「黒胆汁」と呼ばれたのか
うつ病の古い呼び名について、島田先生は「メランコリー」を挙げました。ギリシャ語のメランコリア古代ギリシャに由来する言葉で、憂鬱・気分の沈みを表す。英語「melancholic(メランコリック)」の語源でもある。が語源で、「メラン」は色の黒、「コリア」は胆汁を意味します。足すと「黒い胆汁」=黒胆汁になるというわけです。
ではなぜ黒い胆汁がうつ病を意味したのでしょうか。これは古代の四体液説人間の体は4種の液体から成り立つとする古代医学の説。各液体のバランスが健康や気質を左右すると考えられていた。に由来します。人間の体は4つの液体から成り立ち、そのうち「黒胆汁」が多いと憂鬱な気質になる、と考えられていたのです。
坂井さんが「体液という言葉の強さもある」「ラーメン屋のメニューにありそう」と冗談を交えつつも、何千年も前から人類がこの病と向き合ってきたことがうかがえる話題となりました。
診断とうつ状態の脳内メカニズム
診断は、先述の症状がどの程度出ているか、その数や重症度によって決まってきます。そのうえで島田先生が「最も大事」と強調したのが問診です。本人から直接話を聞き、様子を見て、過去のことも聞きながら診断をつけていくことが最重要だと言います。
血液検査などもありますが、これらは他の病気を除外するための「除外診断」的なもの、あるいは補助的なものにとどまるとのことでした。
うつ状態のときの脳内について、島田先生はセロトニンやノルアドレナリンといった物質が不足・枯渇しているような状態だと説明しました。それぞれ関わる症状が異なります。
| 物質 | 不足すると関わる症状 |
|---|---|
| セロトニン | 不安症状、抑うつ気分 |
| ノルアドレナリン | 意欲の低下 |
| ドパミン | 喜びや楽しみを感じられない |
抗うつ薬は、こうして足りなくなったセロトニンやノルアドレナリンをカバーし、増やす方向に働くイメージだと解説されました。
治療の柱と休養の大切さ
治療の一つは薬物療法です。抗うつ薬にはセロトニンに主に効くもの、ノルアドレナリンに主に効くものなど複数の種類があり、補助として睡眠薬が使われることもあります。
ただし島田先生は、薬よりも先に言うべきだったかもしれないほど大事なこととして「休養を取ること」を挙げました。そして睡眠や食事といった基本的なことも、決して「バカにならない」と語ります。
休養・睡眠・食事
最も基本かつ重要。生活の土台を整える
薬物療法・認知行動療法
抗うつ薬や睡眠薬、時期に応じた心理療法
睡眠・食事・運動で心がけたいこと
島田先生は、休養・睡眠・食事・運動それぞれの具体的なポイントを挙げました。
睡眠
まずは生活リズムを整えることが大切です。寝る時間を揃えるのは難しいので、起きる時間を一定にするのがコツ。寝る前のスマホ操作は避け、朝は光を浴びることでセロトニンを増やすことにもつながると言います。
寝付けないときは、無理に布団の中で頑張らず一度出てしまうのがよいとのこと。眠れない状態が習慣づいたり焦りが生じたりするのを防ぐためです。「ベッドに入るのは寝るとき」という習慣づけが大事だと語りました。
食事
ポイントは2つ。1つ目は、食欲が落ちていても「何かしら口に入れる」こと。バランスよく食べられればよいですが、難しければ少しでも口にすることを心がけてほしいと言います。2つ目は、カフェインやアルコールに注意すること。特にお酒はうつ状態を悪くし、気分変動につながり、睡眠の質も下げるとのことでした。
栄養面では、大豆・卵・豚肉などタンパク質をうまく取れるとよいものの、「何か一つこれ」というよりバランスの問題だと補足されました。
運動
イギリスのガイドラインでも軽症のうつ病に運動療法が勧められているほど、運動はうつに効くと言います。ただし「運動しろ」といきなり言われても難しいので、まずは5分ほど歩くところから。つらいときはストレッチでもOKと自分に言ってあげるのがよいとのこと。散歩も十分に効果的です。
予防的な話として筋トレについても触れ、有酸素運動でも筋トレでもメンタルヘルスにはよく、大事なのは「継続できるかどうか」だと語られました。
マインドと周囲の関わり方
うつ病の人は完璧主義であることが多く、それが自分を追い詰める方向に働く場合があると島田先生は指摘します。そこで「60点ぐらいでOK」という気持ちの持ち方が大事。物事は0点か100点かではない、という認知の変え方がポイントだと言います。
また、落ち込みがひどいときは重大な決断をしないこともすすめられました。うつ病のときは「いつもの自分ではない」ため、重要な決断は保留したほうがよいとのことです。
周囲の人の関わり方については、無理に何かを言おうとせず、そっとそばにいてあげるだけでよいと語られました。逆にやってはいけないこととして「頑張れ」という励ましが挙げられます。また見落とされがちなのが、気分転換にとどこかへ連れて行こうとすること。時期によっては負荷になり、「せっかく良くしてくれたのに楽しめない自分」を責めてしまうため、無理に誘わないほうがよいとのことです。
さらに人との比較についても触れられました。人と比べると辛くなりやすく、特にSNSではキラキラした投稿を見て「この人はこんなに」と落ち込みがち。島田先生自身も、比較につながるとメンタルによくないと考え、意図的にSNСをあまり見ないようにしているそうです。
適応障害との違いと臨床のエピソード
適応障害とうつ病の違いについて、島田先生は「誘因となるストレス因があるかないか」を一つの区別点として挙げました。臨床ではクリアに分けにくいこともありますが、明確なストレスの原因があれば適応障害、そうでないものがうつ病になるとのこと。適応障害では、職場の人間関係・仕事の内容・職場環境など、発症の誘因と因果関係のある何かが見えることが多いと説明されました。
誘因となるストレス因が明確にある(職場・人間関係など)
明確なストレス因があるわけではない
後半では、島田先生が病院勤務時代に見た重症例のエピソードが語られました。自殺未遂で搬送されてきた方は、当初は表情も暗く、声もポツリポツリと話すだけ。食欲もなく、夜もほとんど眠れていない状態が続いていたと言います。
しかし、しっかり薬を飲み、適切に治療を受けていくうちに、だんだん明るくなっていきました。最後には言葉のキャッチボールができるようになり、表情もにこやかに。「これがどの状態だったのだろう」と思うほど回復し、2〜3ヶ月ほどで無事に退院されたそうです。
最後は普通のキャッチボールができる感じになって。表情もにこやかになって。
坂井さんは、メンタル疾患の医療費が5年間で1.5倍ほどになっているというニュースにも触れ、「みんな基本的に憂鬱ではないか」と問いかけました。これに対し島田先生は、行動面・思考面のヒントとして、あらためて「ゼロ100ではなく60点でいい」「やれたことに目を向ける」「自分に優しくなる」ことを挙げ、自分を許してあげることが大切だとまとめました。
収録が深夜1時近くという「睡眠に真逆」の状況だったこともあり、坂井さんは「明日は朝イチで起きて、納豆バナナを食べて日の光を浴びて、53点ぐらいで生きていこう」と締めくくりました。次回は双極性についてのお話が予告されています。
まとめ
うつ病は、古代ギリシャで「黒胆汁(メランコリア)」と呼ばれた頃から2000年以上、人類が向き合ってきた身近な病です。抑うつ気分や興味・喜びの喪失といった症状の裏には、セロトニンやノルアドレナリンといった物質の不足があります。治療では薬物療法とともに、休養・睡眠・食事・運動といった土台を整えることが欠かせません。
そして何より、「0か100か」ではなく「60点でいい」と自分を許すこと、やれたことに目を向けること。周囲の人は無理に励まさず、そっとそばにいてあげること。こうした姿勢が、この身近な病と向き合ううえでのヒントとして語られました。
- うつ病の中核症状は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」。重症化すると自殺の問題や微小妄想が現れることもある
- 語源はギリシャ語の「メランコリア」=黒い胆汁。四体液説で黒胆汁が多いと憂鬱になると考えられていた
- 脳内ではセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンなどが不足しており、抗うつ薬はこれを補う
- 治療は薬物療法に加え、休養・睡眠・食事・運動という基本の土台が非常に重要
- 睡眠は起きる時間を一定に、寝る前のスマホは避ける。寝付けないときは一度布団から出る
- 「60点でOK」「やれたことに目を向ける」など、完璧主義を手放し自分に優しくすることが大切
- 周囲は無理に励まさず、無理に連れ出さず、そっとそばにいることが望ましい
- 適応障害は明確なストレス因があるのに対し、うつ病は必ずしもそうではない点が区別のひとつ
