スタジオが差し押さえ寸前?最終回になりかけた舞台裏
本つまみぐいラジオの収録スタジオは、しゅうへいさんの会社が運営する「LLACハウス」です。この回の冒頭では、そのLLACハウスが前の月に差し押さえで場所ごとなくなりかけていたことが明かされます。
まあなんかこうね、やんわり心地いい世界観をなるべく提供しておりますが、湖の上を泳ぐ白鳥のようにですね、水面下ではもうバタバタしておりました。
しゅうへいさんによると、LLACハウスはイケハヤさんをはじめ多くの人の支えでなんとか延命しました。収録は10月2日で、10月に無事入れたこと自体を、二人は「奇跡」と表現しています。
しゅうへいさんは、番組のお金事情についても率直に話します。本つまみぐいラジオは基本無料で配信していて、番組としての収入はなく、機材には40〜50万円近くかかっているそうです。これまでしゅうへいさんが担当していた編集も、時間がかかるため外部に依頼し始めており、その費用も発生しています。
本棚を持てる「棚主」制度
そこで始めたのが、LLACハウスの本棚を1つ所有できる「棚主」の仕組みです。東京などで事例が増えているシェア型本棚 ── 本棚を小さな区画に分けて個人に貸し出し、それぞれが自分の選んだ本を並べる仕組み。書店やコワーキングスペースなどに併設されることが多いですの形で、収録の背景に映る棚のほか、奥のコワーキングスペースにも200個近い棚があるといいます。
自分が誰かにおすすめしたい本だけをギュッとした、自分だけのセレクトショップみたいなのを持てるイメージなんですよね。
棚主制度は今のところ本を置くだけの機能ですが、しゅうへいさんは今後、自身のYouTubeやInstagram、番組内で紹介する機会もつくりたいと話しています。作家・ブロガーのハァチウはあちゅうさんがすでに7冊ほど置いているほか、申し込みは7〜8人あったそうです。
最低料金は月3000円からで、30センチ角ほどの区画に本を置けます。番組でよく映る位置はスポンサー向けにもう少し高い料金設定になる予定です。しゅうへいさんは「赤字垂れ流し」だった番組を、少しずつでもサステナブルにしたいと語っています。
子どもの頃に世界を広げた1冊は何だったか
ここからはリスナーのコメント紹介です。前回のイケハヤさんの『シュルレアリスム宣言』の回には、「岩波、筑摩、中公、王道の教養レーベルですね」「ほんつまで紹介されなかったら出会わない本でした」といった声が届きました。
イケハヤさんの選書にはこうした「出会わない本だった」という感想が多いことから、幸あれこさんは二人に、小学生から高校生までの間に自分の世界が広がった本や漫画を尋ねます。
イケハヤさん: 夏目漱石『三四郎』
イケハヤさんが挙げたのは、高校2、3年生の頃に読んだ夏目漱石の『三四郎 ── 夏目漱石が1908年に発表した長編小説。熊本から上京した青年・小川三四郎が、東京の大学生活や恋に戸惑う姿を描いた青春小説です』です。大学生くらいの青春を描いた話で、高校生でも普通に楽しめたといいます。
夏目漱石ってファーストインプレッション難しそうじゃないですか。読んでみたらめっちゃエンタメやんみたいな感じで。
イケハヤさんは『三四郎』から『坊っちゃん』『吾輩は猫である』、さらに後期の作品へと読み進め、日本文学に触れていったそうです。『三四郎』を手に取らなければ、そんなに早くから文学に触れていなかったかもしれないと振り返ります。大学はキラキラしていていいな、と思った記憶もあるといいます。
しゅうへいさん: ギャグ漫画、あれこさん: ハリー・ポッター
しゅうへいさんの答えはギャグ漫画の『稲中卓球部』行け!稲中卓球部です。お尻を使った奇抜なサーブなどに「こんなサーブがあるのか」と驚き、今でもゲラゲラ笑えるほど好きだといいます。あれこさんは、付き合い始めの頃にこの漫画のLINEスタンプをずっと送られていたと明かしています。
幸あれこさんは、小学6年生のとき担任の先生がなぜか自分だけに『ハリー・ポッター』の本を貸してくれた思い出を挙げます。まだ映画化前で、周りに知る人がほとんどいない頃でした。
本って映画化になる前にできてるんだって。子供の頃(に)知った記憶。
3〜4年後に映画化されたとき、あれこさんは「あの先生が貸してくれた本だ」と気づき、映画が本から生まれるという仕組みを知ったことが世界の広がりだったと話しています。先生がなぜ自分に貸したのかは、今もわからないそうです。
著者からの反応と、結婚で変わった暮らし
続いて、しゅうへいさんが紹介した『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』の回の話題です。この回は著者の谷川さんがXで紹介してくれ、しゅうへいさんは「めちゃくちゃ嬉しかった」と喜んでいます。
しゅうへいさんによると、谷川さんは放送をきちんと聞いたうえで、紹介の仕方が丁寧で自分も勉強になったと言ってくれたそうです。しゅうへいさんは、同じ著者の『スマホ時代の哲学』も読みやすく、セットで読んでほしいと勧めています。
リスナーからは「周平さん自身が衝動をまだ見つけられてないリアルさも面白かった」という声や、「結婚してから家に置けないので本を買えていない」という声も届きました。後者をきっかけに、幸あれこさんは結婚やライフスタイルの変化で変わった習慣を二人に聞きます。
3人それぞれの変化
イケハヤさんは、子どもが生まれて学校に通い始めたことで「土日」と「月曜日」の感覚がくっきりできたと話します。夏休みが始まると自分のルーティンが崩れるので毎年少し嫌で、終わるとすごく嬉しいそうです。
しゅうへいさんは、一人の頃は洗濯はコインランドリー、ご飯は外食で十分と考えていたといいます。結婚後は、あれこさんと一緒に準備して映画を見ながら食べる時間や、散歩しながら話す時間が好きになったと語っています。
幸あれこさんの変化は「椅子に座ること」です。一人暮らしの頃は、帰宅後に休んでしまわないよう椅子を置かず、立ったまま過ごしたり床に座り込んだりしていたそうです。
(あれこさんは)立って食べてます?壁に何かジャケ写みたいな感じでこうやってキャベツをポリポリ。
スタンディングデスクしかなかったため、スーツケースの上に料理を置いたり、段ボールで机を作って弁当を食べたりしたこともあったそうです。古民家に移り住んでから、あれこさんは椅子のある生活のよさを感じたといいます。
遠回りに見えた経験は、後から何に生きたのか
次は『言語の本質』言語の本質の回に届いたコメントです。回り道の大切さの話から、クランボルツ ── アメリカの心理学者ジョン・D・クランボルツ。キャリアの多くは予期しない偶然の出来事によって形づくられると考え、計画的偶発性理論を提唱しました博士のプランド・ハップンスタンス理論 ── 「計画された偶発性理論」とも呼ばれるキャリア理論。偶然の出来事を前向きに活かす姿勢がキャリアをひらくと考えますを思い出したという声でした。
このコメントを受けて、幸あれこさんは「予想外の回り道だったけれど、結果的に一番よかった経験」を二人に尋ねます。
イケハヤさん: 学生時代の大量の映画鑑賞
イケハヤさんは大学生の頃、1日5本ほどの映画を2倍速も使いながら見ていたといいます。早稲田のミニシアター「早稲田松竹」に一日中こもり、お尻が痛くなる日もあったそうです。
当時のイケハヤさんに、映画の仕事をする目的は特にありませんでした。20年以上前に1000〜1500本ほど見ていた経験が、今自分でアニメーションを作るときにカット割りやカメラワークとして自然に出てくるといいます。
まさかここで今生きてくるかっていうのは、ちょうど今リアルタイムで、過去の自分にすごい救われてるなっていうのはありますね。
しゅうへいさん: マルチ商法と借金
しゅうへいさんにとっての回り道は、マルチ商法にハマって借金をしたことです。イケハヤさんに相談した際「面白すぎるからネタにした方がいい」と言われ、それが「マルチにハマって借金背負って島流し」というブログになり、今の発信につながっています。
やっぱり自分が楽しいと思ってできるものじゃないと、やっぱりそんな結果絶対出るはずないなってのはすごいあって。
しゅうへいさんは、ブログはとにかく楽しかった一方で、マルチ商法は行きたくないと感じるものだったと振り返ります。その違いに気づけたことが、今も学びになっているそうです。
幸あれこさん: ウォーターサーバーの営業
幸あれこさんがやりたくなかった回り道は、下積み時代のウォーターサーバーの営業です。テレビリポーターになりたいのに、ここで実績を出さないと次の仕事がもらえないという時期でした。
あれこさんは、人に声をかけることも、ものを売ることも、紹介することも苦手だったといいます。それでも営業成績1位を目指すなかで身につけた技術が、テレビリポーター、ラジオ、さらにSNSで独立したあとにも生きたそうです。
| 話者 | 当時の回り道 | 後から生きたこと |
|---|---|---|
| イケハヤさん | 学生時代に1000〜1500本の映画を見る | アニメーション制作のカット割りやカメラワーク |
| しゅうへいさん | マルチ商法にハマって借金 | ブログのネタになり、今の発信の土台に |
| 幸あれこさん | ウォーターサーバーの営業 | 声かけや紹介の技術がリポーター・ラジオ・SNSで生きた |
あれこさんの話を受けて、しゅうへいさんは回り道への向き合い方に違いがあるのではないかと指摘します。嫌々やるのか、疑問を持ちながらも一生懸命やるのかで、回り道の中身が変わるという考えです。
幸あれこさんは実際に西日本で1位を取り、指名が増えた結果、仕事を振る側から「もう卒業だね」と言われたそうです。同期には途中で辞める人もいたため、あれこさんはそこが分岐点だったと振り返ります。バス代もなく何キロも歩いて通い、立ちっぱなしの日々だったものの、今は「いい下積みだった」と話しています。
難解な2冊と昔話の本に共通するものは何か
ここからは、今回紹介した3冊の振り返りです。イケハヤさんが紹介した『万物の黎明』について、イケハヤさんは「挑戦したい人は挑戦して」という本で、とにかく読みにくいと改めて強調します。
イケハヤさんによると、『万物の黎明』はグレーバー ── アメリカ出身の人類学者デヴィッド・グレーバー。『負債論』『ブルシット・ジョブ』などで知られ、『万物の黎明』は考古学者デヴィッド・ウェングロウとの共著ですさんが人生をかけて書いた5500円の1冊です。Voicyの佐々木佐々木敏夫さんはトレッドミルに乗りながら電子書籍で読み直しているそうで、イケハヤさんは「これ読める人はすごい」と感心しています。3人は、ほんつまで知った気になれればそれでいい、という点で一致しています。
しゅうへいさんの『中動態の世界』について、しゅうへいさん本人は「もっといい紹介方法があったはず」と悔いを残しています。一方でイケハヤさんは、普段は簡単な本が多いなかで今回は話を聞かないとわからず、「今までで一番面白い」と評価しました。
しゅうへいさんは関連して、著者の国分國分功一郎さんが別の本で提唱しているという「欲望形成支援」という考え方を紹介します。何をしたいかを選ぶ意思決定を支援するのではなく、どんなものに欲望を感じるかを支援するというアプローチです。
アルコール中毒になってる人に対して、それとは違う欲望を根付かせてあげるような、お酒じゃなくてノンアルがいいですよとか、そういうことではないっていう。
しゅうへいさんは『中動態の世界』について、古代ギリシャ語の文法の部分は難しいので一旦流し読みし、後半から読むのがおすすめだと話しています。イケハヤさんは、國分さんの過去の著作やスピノザ ── 17世紀オランダの哲学者。神と自然を同一視する汎神論や、感情と自由についての考察で知られ、國分功一郎さんの研究対象の一人でもあります哲学の前提知識も必要な本で、紹介するまでのエネルギーが高いと讃えています。
幸あれこさんの『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました』は、日本の昔話や日本文学からウェルビーイングを読み解く本です。あれこさんは、欧米的な幸せの考え方が入ってくる今だからこそ、原点に返ることに意味があると語ります。
3冊を並べたしゅうへいさんは、どれも社会の前提を問い直す本だとまとめました。その共通点を、しゅうへいさんは「OSを疑う」と表現しています。
決定論的な見方、「意思はあるだろう」という前提、上を目指す欧米的な幸せ
もっと複雑な歴史、意思だけでは語れない言葉のあり方、奥へ行く楽しみ方
3冊共通してるのは、なんかこう、OSを疑うというか、自分たちでOSを作っていけるんだというかね。
このまとめにイケハヤさんは「賢くなったんじゃない?」と反応します。しゅうへいさん自身も、読書を続けるうちに「もっと知りたい」と思うようになってきたと話しています。
次回のテーマは「すぐに役に立つ本」
最後に、次回のテーマが「すぐに役に立つ本」に決まったことが発表されます。今回の難しい本とは対照的に、読んだら明日から使える本を持ち寄る回です。
逆に難しいね。もうこれ絶対もうお金なくなったから案件もらっただろって感じ。
幸あれこさんは「案件ではありません」と否定し、しゅうへいさんは出版社からの献本などの問い合わせも募集していると付け加えました。棚主制度や企業枠の詳細は概要欄に載せるとのことです。感想はハッシュタグ「#本つま」かコメント欄で受け付けています。
まとめ
この楽屋トークでは、LLACハウスが存続の危機を越えた舞台裏から始まり、子どもの頃の本、暮らしの変化、回り道の経験が語られました。最後は、紹介した3冊がどれも当たり前の前提を問い直す本だった、という振り返りで締めくくられています。
- LLACハウスは差し押さえ寸前から延命し、番組を支える月3000円からの棚主制度が始まった
- 子どもの頃の1冊として『三四郎』、ギャグ漫画、『ハリー・ポッター』が挙がり、それぞれが世界を広げるきっかけになった
- 大量の映画鑑賞、マルチ商法、ウォーターサーバー営業という回り道が、3人それぞれの今に生きている
- しゅうへいさんは、回り道に一生懸命向き合ったかどうかで「回り道の質」が変わると考えている
- 『万物の黎明』『中動態の世界』『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました』は、「OSを疑う」という点でつながっている



