なぜ「すぐに役に立つ本」がテーマに?
「本つまみぐいラジオ」は、読書をしても内容を忘れてしまう幸あれこさん、情報収集として本を読むイケハヤさん、本は買うけど読まないしゅうへいさんの3人が本について語り合う番組です。
今回のテーマは「すぐに役に立つ本」です。イケハヤさんによると、これまで難しい本を頑張って紹介する回が続いていたため、反省も兼ねてライトな本を扱う回を設けたといいます。
今まで結構難しい本を結構頑張って紹介するみたいなのがやや続いてた感があるんで、まあリスナーの皆さんも疲れてるかなみたいなところもあるんで。
3人が持ち寄った本は、イケハヤさんがオースティン・クレオン『クリエイティブの授業(STEAL LIKE AN ARTIST)』、しゅうへいさんがアダム・グラント『HIDDEN POTENTIAL』、幸あれこさんが『最後はなぜかうまくいくイタリア人』です。
幸あれこさんはイタリアのライフハックを紹介する予定で、二人には「チョイ悪オヤジ」になってもらうと予告し、場を沸かせました。この記事では、1話目にあたるイケハヤさんの『クリエイティブの授業』の紹介を追います。
AIで創作を始める人に、なぜ2012年の本なのか
イケハヤさんが紹介する『クリエイティブの授業』は、コンテンツ制作や絵を描くなど、何かを作っていく人向けの本です。過去にイケハヤさんが持ってきた本の中でも一番薄く、判型も独特だと話しています。
イケハヤさんがこの本を選んだ理由は、AIで創作のハードルが大きく下がったことです。イラストや動画をAIで作れるようになり、イケハヤさん自身もいまAIでアニメを作っています。
これからAIで何かものづくりがしたい人は、まずこの『StealLikeanArtist』をぜひ読んでほしいな。
ただし、この本は2012年刊行と意外に古い一冊です。イケハヤさんは独立してブロガーを始めた直後、20代半ばに出たばかりのこの本を読み、自分の方向性やブログの書き方に悩んでいた時期に大きな指針をもらったといいます。
本は全体として、読めばどこかが必ず役に立つ言葉の詰め合わせになっています。だからこそ、これから始める人にもプロにも刺激になる、というのがイケハヤさんの評価です。
「オリジナル」は元ネタを知らないだけ?
『クリエイティブの授業』の最初のメッセージは、タイトル通り「盗みなさい」です。イケハヤさんの紹介によれば、本の主張は、世の中に完全なオリジナル作品は存在せず、誰もが何かに影響を受け、また誰かに影響を与えていくというものです。
本の中には多くの引用が登場します。イケハヤさんはその一例として、小説家ジョナサン・レセル ── アメリカの小説家。『マザーレス・ブルックリン』などで知られ、創作における引用や影響をめぐるエッセイも書いていますの言葉を紹介しました。
何かをオリジナルと呼ぶ奴は、十中八九元ネタを知らないだけなんだと。
この話を受けて幸あれこさんは、自分たちの世代で流行ったホワイトベリーの「夏祭り」にも、年上の世代からすれば元ネタがあると話します。元の歌い手の名前は「リッタジリリリリン」のように言いかけたまま度忘れし、イケハヤさんに「言いにくいな」と突っ込まれていました。
イケハヤさんはさらに「自分の系図をたどる」というアドバイスを紹介します。自分が影響を受けたアーティストや作品を先輩としてリストアップしておけば、創作の孤独を感じずに済むという考え方です。
著者のオースティン・クレオンさんは、仕事場に大好きなアーティストの写真を飾り、それを「守護霊」のように感じているそうです。イケハヤさんも若い頃、会ったこともない師匠の影響を受けて自分も作っているのだと自覚するという考えに、なるほどと思わされたといいます。
幸あれこさんの元ネタは見つかるのか
イケハヤさんから影響を受けた人や作品を聞かれた幸あれこさんは、機械音痴の状態からSNSを仕事にした頃の話をします。その際に購入したのが、イケハヤさんの「リストマーケティングの教科書」でした。
幸あれこさんがそのページをブックマークバーに入れると、イケハヤさんのイラストアイコンが表示されたといいます。しゅうへいさんが「ファビコンですね」と補足しました。
それ(イケハヤさんのアイコン)がなんかずっとイケハヤさんに見られてる気がして。コツコツやってますかって。
ただ、イケハヤさんは、それは幸あれこさんのオリジナリティにはあまりつながっていないと指摘します。しゅうへいさんも、幸あれこさんのボケを聞いて元ネタを考えることはないと笑いました。
元ネタがあっても多分それを忘れるし、すごい多分またそれを間違って言うから、あるようでないのかもね。
「ブックマークバー」が言えずに「マークザッカマーク」「ビッグマック」へと脱線していく流れに、イケハヤさんは「これはもう盗めない」と脱帽します。オリジナルは存在しないという本の主張に対し、幸あれこさんは「唯一の特殊なクリエイター」という扱いで落ち着きました。
偽物症候群は誰にでもある?
イケハヤさんは続いて、本に登場する「ニセモノ症候群」を紹介します。しゅうへいさんもときどき使うキーワードで、イケハヤさんは「準備はもういい、すぐに創作を始めよう」という本の呼びかけとあわせて読み上げました。
本の説明では、インポスター症候群 ── 自分の成功を実力ではなく運や偶然によるものだと感じ、いつか偽物だと見抜かれるのではと不安になる心理傾向。1970年代に心理学者が提唱した概念ですは、自分の成功を内在化できず、たまたまうまくいっているだけだと感じる心理現象です。そのうえで、創作をする人は誰でも、名案がどこから湧くかわからず、ただ毎日仕事をしているだけだと説きます。
イケハヤさんは、20代でブログを書き始めた頃、この部分を「そうだよな」と思いながら読んだといいます。しゅうへいさんは、当時のイケハヤさんは同業者が少なく孤独なうえ、個人がブログで稼ぐことが炎上する時代で集中砲火を浴びていたと振り返りました。
池谷(イケハヤ)さんってもうとにかく猪突猛進で、もうどんどん未開の地を切り開いてるイメージだけど、やっぱり最初悩んだり葛藤してた時ってやっぱりあったんだって。
やっぱ自分は本物じゃないみたいな感覚っていうのは、やっぱり若い頃はね、当然ありますよね。
しゅうへいさんも、今でも偽物の感覚があると話します。年収500万円でブログを書いていた頃の自分から見れば、6000万円を借りて8000万円でLLACハウスを建てたのはすごいことでも、今の自分は運が良かっただけだと感じ、10年間で月60万円ずつ返せるのかと悩むといいます。
ブログで年収500万円の頃は、6000万円借りて家を建てる人を「すごい人」だと思っていた
実際に建てた今は、みんなのサポートと運のおかげだと感じ、返済できるかを悩んでいる
イケハヤさんの答えは、本が言う通りみんなそうだから大丈夫というものです。しゅうへいさんの「慢心するよりかはいいんですかね」という問いにも、イケハヤさんは自分は成功者だと言うよりそちらのほうがいいと読めると応じ、自身は月100万円稼いだ頃が一番調子に乗っていたと笑いました。
誰だって本物になる前は偽物
イケハヤさんは、本に引用されたアメリカのライター、グレン・オブライエンさんの言葉を挙げます。
イケハヤさんはいまAIアニメを作り始め、「こんなの本物じゃない」「偽物だ」と言われることも多いそうです。それでも、自分はまだ本物ではないのだから偽物は当たり前だと開き直れるといいます。
幸あれこさんが、ブロガーを始めた頃に向き合った葛藤があるから今強くいられるのかと尋ねると、イケハヤさんは同意します。ブログも、自分で意見を作って言葉にし、反応を受けるクリエイティブであり、その経験が今のアニメやミュージックビデオ制作と同じだと話しました。
僕もね、もう40になりますから、さすがにもうそういうのは超えて前に進めるようにはなってるけど、やっぱりそういうのはこういう本のおかげだったっていうのはあると思いますね。
クリエイターこそ「つまんなく生きろ」?
イケハヤさんは、本の後半にある生き方のアドバイスとして「Be boring」、つまり平凡に生きようという項目を紹介します。アーティストには酒や破天荒な暮らしのイメージがありますが、著者自身は9時5時で働き、閑静な街で妻と犬と地味に暮らしているといいます。
イケハヤさんが特に面白がったのは、ロックシンガーパティ・スミス ── アメリカのロックシンガー、詩人。1970年代からパンクの先駆的存在として知られ、「パンクの女王」とも呼ばれますのエピソードです。若いアーティストへの助言が「歯医者に行け」だったそうです。
世界トップのロックミュージシャンが若い人にアドバイスする言葉が歯医者に行け。これは僕はしびれたね。
さらに『ボヴァリー夫人』の作者フロベール ── 19世紀フランスの小説家。代表作『ボヴァリー夫人』は発表当時、風俗紊乱の罪で起訴されましたが無罪となりましたの言葉も紹介されます。イケハヤさんの説明では、不倫や薬に溺れる女性を描いた作品で起訴されるほどだった作家が、作品で凶暴性と独創性を発揮するために規則正しく秩序ある生活を送ろうと説いていたといいます。
酒や夜更かしなど自堕落で破天荒な生活から独創的な作品が生まれる
9時5時で働き歯医者にも行く、規則正しく平凡な生活が独創的な作品を支える
イケハヤさん自身も、毎日ショート動画を作るなかで、生活リズムが崩れるとつらくなると実感しています。毎日作り続けて進捗を積み上げることが基本であり、大きなものを作るにはそれを支える規則正しい生活が必要だと話しました。
しゅうへいさんに夜更かしの経験を聞かれたイケハヤさんは、若い頃も10時か11時には寝ていて、学生時代も日付をまたいだことは数えるほどだと答えています。
借金はしない、カレンダーをつける、いい相手と結ばれる
イケハヤさんは本にある「借金はしない」というアドバイスを挙げ、6000万円を借りたしゅうへいさんは「もう無理じゃん」「やっちゃってる」と笑います。
続いて紹介されたのが「カレンダーを買う」という習慣です。著者は作業した日にカレンダーへ印をつけており、イケハヤさんも作業した日はその内容をXにポストすることを、自分にとってのカレンダーにしているといいます。
1日1ページというと大したことは思えないけど、それを365日続ければ立派な小説になるとね、いう話があって。
さらにイケハヤさんが付け加えたのは「いい相手と結ばれる」という項目です。人生のパートナーに限らず、ビジネスパートナーや友人など人間関係が創作には大事で、ずっと家にいたいと思わせてくれるのはいいパートナーの証だと本は書いているそうです。
本に引用されたトム・ウェイツ ── しゃがれた声で知られるアメリカのシンガーソングライター、俳優。「酔いどれ詩人」と呼ばれますは破天荒なイメージの一方、妻に深く感謝しているといいます。彼女がいなければ今頃ステーキハウスで演奏、いや調理していたかもしれないという言葉に、イケハヤさんは若い頃衝撃を受けたと話しました。
しゅうへいさんも数年前にこの本を読んだものの内容を忘れていて、悩んだときに読み直して「ちょっと頑張るか」と思える本だと評します。幸あれこさんも、すぐ役立つうえに人生を通して使えそうだと応じました。
コッポラの言葉と『ゴッドファーザー』の大胆予想
最後にイケハヤさんは、『ゴッドファーザー』の監督フランシス・フォード・コッポラの言葉を紹介します。本のタイトルにもつながる、盗むことから自分のスタイルを見つけるという内容です。
しゅうへいさんが『ゴッドファーザー』を見たことのない幸あれこさんに内容を尋ねると、幸あれこさんはタイトルから子だくさんで、子どもに憎まれた父親の暗い映画だと推理します。イケハヤさんは「ビッグダディみたい」と突っ込みつつも、暗いことや、父と子の物語で子が親を憎む文脈があることは外れていないと認めました。
合ってるの。やっぱ線は外さないんですよ。
番組は、次回しゅうへいさんがアダム・グラント『HIDDEN POTENTIAL』を紹介すると予告し、ハッシュタグ「#本つま」での感想やリクエストを呼びかけて締めくくられました。
まとめ
『クリエイティブの授業』は、2012年の本でありながら、AIで誰もが創作を始められる今こそ響く言葉が詰まった一冊です。イケハヤさんは自身のブロガー時代の葛藤と重ねながら、偽物の自覚から始めればいいというメッセージを伝えています。
- 完全なオリジナルは存在せず、影響を受けた先輩の系図をたどれば創作の孤独は和らぐ
- 自分を偽物だと感じる感覚は誰にでもあり、本物になる前は誰もが偽物だと考えればいい
- パティ・スミスやフロベールの言葉のように、独創的な作品は規則正しく平凡な生活から生まれる
- 作業記録をカレンダーやSNSに残し、小さな積み重ねを続けることが大きな作品につながる






