AI時代に、なぜ「言葉」が教養なのか?
幸あれこさんがこの回に持ってきたのは、中公新書の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』です。テーマの「AI時代に身につけておきたい教養」について、火起こしや狩りよりさらに前にさかのぼると、行き着くのは言葉ではないかと考えたそうです。
幸あれこさんは、ChatGPTの翻訳は完璧で、日本語もベテラン並みに自然になったと認めます。そのうえで、人間が大事なことを忘れていると指摘します。
言葉ってなんで人間にしか作れないのかなっていう問い、この問いに向き合ってる一冊がこの本なんですよね。
幸あれこさんは、この本から学んだ3つのポイントを順に紹介していきます。「この本を読むと、意味のわからない発言にも深い意味があると思えてくる」という前置きに、イケハヤさんは「怖いな」と返しています。
言い間違いは「言葉の最先端」?
1つ目のポイントは「言葉はズレから生まれる」です。幸あれこさんは、聞き間違いや言い間違いこそが、実は言葉の最先端なのだと切り出します。
出演者同士の雑談では、イケハヤさんの妻が派手な言い間違いをして自分で笑っている話や、しゅうへいさんが「パラメーター」と「バロメーター」をよく言い間違える話が出ます。幸あれこさんは、それも素晴らしいことだと受け止めます。
本の主張として幸あれこさんが紹介するのは、人間は少ない手がかりから相手の意図を仮説で埋める生き物だ、という見方です。噛む、言い間違える、話が通じないといったズレが起きるほど、脳は仮説を立てて更新し、言葉が鍛えられていくといいます。
本に出てくる例が「ボールぽいして」のエピソードです。大人は「投げて」のつもりで言ったのに、子どもはボールをゴミ箱に捨てに行きました。子どもは、何度もゴミ箱に物を「ぽい」する場面を見て、「ぽい」は捨てることだと理解していたのです。
ズレが起きる
「ボールぽいして」で、子どもがボールをゴミ箱に捨てに行く
仮説を立てる
言われたことと状況が食い違い、「この言葉はどういう意味だろう」と考える
意味を更新する
言葉の意味がアップデートされ、言葉が鍛えられていく
言われたこととその現場の状況が食い違った時に、その頭の中で、あれれって、この言葉ってどういう意味なんだろうって仮説を立てるじゃないですか。
この瞬間に言葉の意味をアップデートしていくっていうのが人間なんですよ。
幸あれこさんは、日常で話が通じないと感じたら「今、言語が進化している」と思えばいいと話します。ズレるほど言葉の未来は広がるのではないか、というのが幸あれこさんの個人的な感想です。
このズレの話に、しゅうへいさんがすかさず実例を出します。お盆終わりの8月に車に乗っていたとき、幸あれこさんが「秋の風だね」と言ったものの、それは車内のエアコンの風だったというのです。
幸あれこさんは、エアコンは前から吹くので、車が進む感じと合わさって風のように感じられると反論しつつ、「車の中は秋の風じゃない」と学んだと笑って締めくくっています。
言葉はカルピス、経験という水で割るもの
2つ目のポイントは「言葉はカルピス」です。幸あれこさんは「ワンワン」「ミャオミャオ」「ミーンミンミン」と鳴き声クイズを出し、しゅうへいさんは犬、猫、セミと即答します。
ところが「シュワシュワ」について、しゅうへいさんの答えは炭酸水、幸あれこさんの答えはシュワルツェネッガーでした。幸あれこさんは、同じ音でも人によって思い浮かべるものが違うことを示したかったと説明します。
幸あれこさんによれば、言葉の意味は音そのものよりも共通の理解にあり、聞く人の経験と感覚が混ざって出来上がります。辞書に書いてある言葉は原液で、人間はそれを経験という水で割り、その割り方も人によって違うというたとえです。
辞書に書いてある、決まった定義としての言葉
聞く人の経験と感覚で割られ、人ごとに違う意味になった言葉
幸あれこさんは、経験ができるのは人間だけでAIにはできないので、これからも無限の言葉を作っていくのは人間だと考えています。
身近な例として挙がったのが、細長くてパキッと割る棒状のアイスの呼び名です。しゅうへいさんは「チューペット」を思い出し、幸あれこさんの家では「パンちゃん」、ほかにも「チューチュー」「棒アイス」と呼ぶ人がいると話されています。
AIに絶対できない「迷う」こととは?
3つ目のポイントは「人間は道に迷って言葉を作る」です。幸あれこさんは、AIは翻訳も将棋や囲碁も計算も正確な天才だと認めたうえで、AIに絶対できないのは「迷えること」だと話します。
幸あれこさんの説明では、AIは「回答を考え中です」「判断しかねます」と迷っているように見せることはあっても、本質的には迷っていません。数字の重みや、痛い・寒い・嬉しいといった感情を、身体感覚や経験と結びつける力がないからです。
迷っているように見せることはあるが、本質的には迷っていない。言葉を身体感覚や経験と結びつけられない
迷うときは本気で迷う。感情が揺れ、過去の記憶と葛藤しながら選ぶ
ここで幸あれこさんが「最近迷ったことはありますか」と聞くと、イケハヤさんはほとんど迷わないと答えます。妻との交際も自分から申し込んでOKをもらい、告白で悩むこともなく「行くと決めたら行った方がいい」という考えです。
対照的に、しゅうへいさんは日常的に迷うタイプとして話題になります。「草刈りを今日しようか、ランニングもしたいし、ショート動画も作らないといけない」と迷う様子に、イケハヤさんは「全部やればいいんじゃないの」と返しています。
しゅうへいさんは、幸あれこさんもスターバックスの注文表の上で指を震わせながら選ぶ優柔不断なタイプだと指摘します。幸あれこさんはこれを認めつつ、迷うのは人間だからこそだと受け止めます。
回り道する力が、新しい言葉を生む
幸あれこさんは、人間は迷いながら失敗し、誤解し、すれ違い、そこから訂正することで言葉を更新していくと話します。人間だけが、意味を納得するために回り道ができる生き物だという考えです。
幸あれこさんの最終提案は、言葉を学んだうえで回り道する力を身につけることです。思いもよらない方向に行く、こんなはずじゃなかったとレールを外れる、といった回り道も含めて人間だけのもので、それが知識や経験、言葉を広げていくといいます。
イケハヤさんは、周りから理解されないことをやるのも回り道だと応じます。大学から大手企業に進めば安泰と言われる道から外れ、お金にならないことをする経験の中で言葉が紡がれていく、という見方です。
しゅうへいさんは、イケハヤさんの「まだ東京で消耗してるの?」というコピーも、東京がなぜこんなにしんどいのかという葛藤を言語化する過程で生まれた言葉ではないかと話します。AIはサポートはしてくれても、心の底から出てくる言葉は出てこないので、それを見つけていこうという話は良いまとめだと評価しています。
幸あれこさんは、流行語大賞も人間がその年に生み出したものをAIが後から学習する構造だと付け加えます。イケハヤさんも「ずっとAIは後ろだね」と応じています。
「デストロイヤーですです」はなぜ生まれた?
話題は、幸あれこさんが以前生み出した「デストロイヤーですです」という言葉に移ります。しゅうへいさんは、あれは台本にない場面で出てきた言葉で、AIには生み出せない流行語だと持ち上げます。
幸あれこさん本人も、なぜその言葉が出てきたのかわからないといいます。イタコのように、自分がその存在になったらどう歌うかを想像していたのかもしれない、と振り返っています。
しゅうへいさんは、幸あれこさんの特徴は共感能力の高さだと指摘します。相談を受けると本人より怒ってしまうほどで、言葉以上のものを受け取っているからではないか、という見立てです。
もうもう疑似体験するんです。だから昔から恋愛相談とか乗ってると、もうほんと私が恋してる気分になってくるというか。
幸あれこさんは、疑似体験できることもAIにはできないことかもしれず、結局は経験なのだと話します。最後はハッシュタグ「#本つま」での感想を呼びかけ、その呼びかけの言葉が揺れていたことに「ズレがあって新しい言葉が出る」とツッコミが入る形で、回は締めくくられました。
まとめ
『言語の本質』をもとに、幸あれこさんは言葉がズレ、経験、迷いから生まれることを紹介し、AI時代に必要なのは言葉を学んだうえで回り道する力だと提案しました。
- 言い間違いや聞き間違いなどのズレが起きると、人間は仮説を立てて言葉の意味を更新していく
- 辞書の言葉は原液で、人はそれを自分の経験という水で割って意味を作るため、同じ音でも人によって意味が違う
- AIは迷っているように見せられても、本質的には迷わない。人間は本気で迷い、感情や記憶と葛藤する
- 失敗や誤解、レールを外れる回り道の中から、新しい言葉や概念が生まれる
- 流行語のような新しい言葉を先に生み出すのは人間で、AIはそれを後から学習する



