理想の上司や不満のない職場は存在するのか
本つまみぐいラジオの「推したい小説」シリーズ最終話は、3人の楽屋トークです。冒頭では、前回までの放送に寄せられたリスナーのコメントを司会の幸あれこさんが紹介します。
最初はXでシェアしたテツさんのポストです。イケハヤさんの回について「自由とは選び取るもの。つまり自由も不自由も選択してるのは自分自身」と受け止め、イケハヤさんの生き方に影響を与えた本を読んでみたくなったと書いています。
同じ回には、ささキッチンさんからも長めのコメントが届いていました。幸あれこさんは「濃厚なコメント」と前置きして読み上げます。
今回は自由について考えさせられる回でした。僕は恥ずかしながら労働環境に疑問を抱き、その都度転職をし、少しずつプライベートが改善してきたのですが、未だに理想の上司や不満が全くない職場で出会ったことがないです。大手には大手なりの、中小企業には中小企業なりの不条理があり、そこでやっていくにはある程度の不自由を受け入れなければいけない。それが働くことの正体のような気がしました。
このコメントを受けて幸あれこさんは、理想の上司に出会ったことがあるかを2人に尋ねます。イケハヤさんの答えは「いないかな」でした。上司それぞれに良いところはあっても、理想と言われると違うといいます。
しゅうへいさんは、理想の上司を探す気持ちそのものを見直しています。相手を良いと思っても、完璧ではない以上どこかで弱い部分が見えてしまい、そのたびに「この人は違った」と感じる癖が昔からあったそうです。
しゅうへいさんは、その癖を「自分がその人に甘えてるだけなのかな」と振り返ります。そのうえで、この人からこの要素、あの人からこの要素を取るという形でいいのではないか、と今は考えているそうです。
不満について聞かれたイケハヤさんは、10年以上前の会社員時代は不満が多かったと話します。不満や不自由を選んでいるのは自分だと考えて辞め、その先にも不自由はあったものの、それを手放すのもまた自分だと繰り返してきたといいます。
不自由を選んでいると気づく
不満のある環境を選んでいるのは自分だと受け止める
自分で手放す
辞めるなど、選び取った不自由を自分の手で手放す
繰り返す
移った先にも不自由はあるが、また手放す
自由意志が強くなる
行動が縛られなくなり、今は毎日楽しく生きている
イケハヤさんはささキッチンさんに向けて、不自由な部分を少しずつ切り取りながら、自由な人間になっていくプロセスが始まるといいのではないか、と語っています。
毎日違う現場で働いたフリーアナウンサーの処世術
しゅうへいさんから理想の上司を聞かれた幸あれこさんは、以前の事務所の社長やお世話になったイベント会社の社長を挙げます。同じ人生を送りたいわけではないものの、考え方や人への接し方を見て「こういう大人になりたい」と思わせてくれる人たちだったそうです。
一方で幸あれこさんは、フリーアナウンサー時代は毎日違う現場に通い、イベントでは初対面の人ばかりと仕事をしていました。そのうえで、モヤッとすることが一つもない現場はなかったと振り返ります。
しゅうへいさんも、さまざまな業界の人が集まり利害関係もややこしい現場は、一般的な職場より大変だったのではないかと応じます。
幸あれこさんは、そうした人たちから処世術を学ばせてもらったと捉えています。対処法を学べたという意味では、ありがたい存在だったかもしれないといいます。「なんでこの人こうなのかな」と思う気持ちを抱えながら生きていく点は、ささキッチンさんと同じかもしれないとも話しています。
しゅうへいさんは、小説や文学にはとんでもなく嫌な人物がよく出てくると指摘します。現実の困った人を、物語の登場人物を見ているように捉え直すのも面白いかもしれない、という提案です。
ここで幸あれこさんが例として「バイキンマン」「メカゴジラ」を挙げ、ゴジラとウルトラマンが戦うと言い出します。しゅうへいさんとイケハヤさんがツッコみ、ウルトラマンは「3分タイマーとシュワッチ」という答えが出るなど、話は脱線していきました。
「本当の浪費」は何だったか
次に紹介されたのは、しゅうへいさんの回に寄せられたゆきさんのポストです。番組で語られた「浪費を味わい尽くす」という考え方を受けて、自分の読書を見つめ直す内容でした。
浪費を味わい尽くす。それを楽しむためには訓練が必要。人間と動物になることを行き来しながら。趣味である読書は投資の時間かななんて思っていたけど、学びだけではなく、単語の選び方や積み上げ方も楽しんでいる面もあるから、ある意味浪費なのかも。
このポストを受けて幸あれこさんは、2人に「本当の浪費」、つまり買って後悔したものを尋ねます。
イケハヤさんが挙げたのは、DIYの道具でした。丸太にはめてチェーンソーやのこぎりで板を切り出す器具を2万円ほどで買ったものの、使い方が難しくて使えていないそうです。
イケハヤさんにはもう一つ、種から油を搾る搾油の道具もあります。ひまわりの種からひまわり油を、ごまからごま油を作りたいと思って買いましたが、一度も使わずキッチンの裏に置いたままだといいます。買った理由は衝動で、「油絞ってみたいじゃん」と笑います。
しゅうへいさんは、浪費しまくっているようでいて、結局役に立ったものもあると話します。収録スタジオを建てるときも、いつかYouTubeをやるかもしれないと考えて背景をつくってもらい、それが今につながっているそうです。
一方でしゅうへいさんがすぐ思い当たったのはキャンプ用品でした。スノーピーク ── 新潟県に本社を置くアウトドア用品メーカー。テントなどのキャンプ用品で知られていますのテントは使用後に乾かして畳まないとカビるのに、干さないとと思ったまま数年が経っているそうです。イケハヤさんも、キャンプ用品は浪費が多いと同意しています。
幸あれこさんの後悔は、中学1、2年生の頃の買い物です。探偵になりたかった時期に、前を見ながら後ろを確認できる筒状の道具を見つけ、500円のお小遣いの中から150円を使って買いました。
ところが幸あれこさんがその道具を使ってみると、後ろは断片しか見えず、結局振り返ることになったといいます。「これじゃ探偵にはなれないかな」という後悔に、しゅうへいさんは「突っ込みどころが多すぎる」と返して次の話題へ進めました。
理解できない人にどう向き合うか
続いて紹介されたのは、猫のひろしさんの「海賊王のくだりのアレコさんの言葉に共感しておりました」というコメントと、ささキッチンさんからの2通目のコメントです。
哲学のレンズ。今回の学びもすごく面白かったです。確かに人にはその人の独自の見方があり、それはその人が今まで生きてきた中で出来上がったフィルターなのでしょうね。そう考えると、変な同僚や理不尽な上司も空気読めないおつぼねさんもまあ理解できますかね。笑
しゅうへいさんは、回を重ねるごとにささキッチンさんの見方が変わっていると感じています。幸あれこさんは、理解できない人に出会ったらどう対処するかを2人に問いかけます。
しゅうへいさんは、理解できない人には「もういいや」と思う人と「理解できなくても面白い」と思う人がいると分けます。後者の例として挙げたのが幸あれこさんで、何が出てくるかわからず毎回楽しみだといいます。
幸あれこさん自身は、「理解できない」はかなり上位の感情だと考えています。世界はほとんど自分以外の人だから、たいていは「そういう人もいるよね」で済み、反応してしまうのは意地悪をされるなど価値観から大きく外れた相手の場合だそうです。
しゅうへいさんは、害があって理解できない相手は人間関係としてきついと整理します。ポテチの好みの違いのように害のない違いならかまわない、という考えです。
しゅうへいさんから「理解しようという気分はないのでは」と振られたイケハヤさんは、他人を理解したいという欲はないと答えます。慈善事業やNPOを支援しているのも、性根がいい人や嘘をつかない人、面白い人と一緒に過ごしたいというモチベーションからだといいます。
イケハヤさんにとって、一緒にいて楽しいかどうかは相手を理解しているかとは関係がありません。むしろ理解できない方が面白いと話し、毎月この番組で幸あれこさんの理解できない例え話を味わいに来ていると笑います。
幸あれこさんは、理解や共感より「一緒にいて楽しい」で人が結びつく考え方は、2人が運営するコミュニティにもつながっていると感じたようです。
『百年の孤独』の前に読みたいガルシア・マルケス作品
コメント紹介のあとは、シリーズで紹介した本を一人ずつ振り返ります。最初はイケハヤさんが紹介した『百年の孤独』です。
イケハヤさんは、『百年の孤独』は非常に読みにくく長いと認めたうえで、同じ作者のより読みやすい作品として予告された殺人の記録 ── ガブリエル・ガルシア・マルケスが1981年に発表した中編小説。町の誰もが知っていた殺人がなぜ防げなかったのかを、関係者の証言から再構成する作品ですを勧めます。180ページほどの薄い本だそうです。
イケハヤさんはAmazonに載っている冒頭文を読み上げます。自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは司教が船で着くのを待つために朝5時半に起き、柔らかな雨が降るイゲロンジュの森を通り抜ける夢を見た、という書き出しです。
夢の中で束の間の幸せを味わったのに、目が覚めると体中に鳥のフンを浴びた気がした、と冒頭は続きます。イケハヤさんは「どんな入り口だよ」というワクワク感こそが魅力だと語ります。
イケハヤさんは、熱病にうなされたような物語がガルシア・マルケスにはほかにもあると話します。好きな人はそれらを読み、最後の頂として『百年の孤独』にたどり着く順番がおすすめだそうです。
しゅうへいさんは、この奇想天外な世界観に幸あれこさんとの共通点を感じるといいます。幸あれこさんが話す夢の話を小説にしたら読みたいと言い、イケハヤさんも「そういうの好きです」と乗ってきました。
イケハヤさんは『百年の孤独』を大学生の頃に読んだそうです。きっかけは、妻が『予告された殺人の記録』を面白いと紹介してくれたことでした。図書館で借りて「わっかんねえ」と思いながら読んだといいます。
しゅうへいさんはこの話から、紙の本は貸せるのがいいと話します。電子版は「これだよ」と言われても検索するしかありませんが、紙の本なら手渡せて、何を読んでいるかもわかるからです。
文学部出身のしゅうへいさんが小説に出会うまで
2冊目は、しゅうへいさんが紹介した『汝、星のごとく』です。しゅうへいさんは子供の頃に『ロード・オブ・ザ・リング』を読んだくらいで、小説をほとんど読んでこなかったといいます。オーディブルでミステリーの『方舟』や『俺ではない炎上』を楽しんだことはあるそうです。
さらにしゅうへいさんは、大学時代にほとんど本を読まなかったことを一番後悔していると明かします。國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』に、文学部の学生は本を読むのが仕事だとあったのに、自分は文学部の比較文化専攻だったからです。
課題図書では黒人の歴史や環境問題の本を読んでいたそうで、イケハヤさんは文学部の領域が広いことに納得します。そのうえで、文学に触れずに大人になった人が今この小説に出会ったことには意味がある、と語ります。帯の「きっとあなたの原点になる」というコピーどおり、出会うべきときに出会った本だという見方です。
しゅうへいさんは、作中にヤングケアラーなどの話が散りばめられ、現代の息苦しさや、島で噂話が広がる抑圧が描かれていると補足します。
しゅうへいさんが「文学的なこと」として語ったのは、舞台の瀬戸内についてです。瀬戸内は閉じられた内海ですが、外の太平洋にはつながっています。家を早く出たかった子供の頃、海を見て「どこかにつながっているはず」と感じていたそうです。
しゅうへいさんは、完全に閉ざされてはいないという小さな希望と、それが閉ざされたときの牢獄感が、瀬戸内という舞台にぴったりはまっていると話します。イケハヤさんは「文学的だと思いますよ」と太鼓判を押しました。
作者の情熱に震えた『世界でいちばん透きとおった物語』
3冊目は、幸あれこさんが紹介した『世界でいちばん透きとおった物語』です。帯には、電子書籍化は絶対不可能で、紙の本でしか体験できない感動があると書かれています。
幸あれこさんはミステリーが大好きですが、この本を勧める理由はミステリーとしての面白さよりも、ものづくりへの姿勢だといいます。今はAIを使えば3分で本が書けるかもしれず、時間をかければ1年でも生涯でもかけられる、という対比を挙げています。
幸あれこさんは、作者がどれだけ時間をかけたかはわからないものの、かけていると思わせる努力や裏の思いが汲み取れる本だと話します。物語の伏線だけでなく、作者の情熱に最後は震えたそうです。
しゅうへいさんの質問に、幸あれこさんは1日、人によっては1〜2時間で読める薄さだと答えます。それでも、コンパクトな本に作者の想いを詰め込めることに驚き、楽も時短もできる中で「この人はこの道を選んだんだな」と感じたといいます。
最後にイケハヤさんが、3冊それぞれの違いを整理しました。しゅうへいさんは、文学にあまり触れてこなかった人はどれか1冊にチャレンジするといいかもしれない、と勧めています。
| 本 | 紹介者 | 特徴 |
|---|---|---|
| 汝、星のごとく | しゅうへい | いい意味で読みやすく、エンタメとしても文学としても成り立つ |
| 世界でいちばん透きとおった物語 | 幸あれこ | メタミステリー寄りで、読書体験とは何かを考えさせる |
| 百年の孤独 | イケハヤ | ノーベル文学賞作家の難解な作品。最後に孤独が駆け巡るところまでたどり着けるか |
相談せずに持ち寄ったのに3冊のタイプがきれいに分かれたことを、3人は面白がっていました。
次回のテーマは「教養が身につく本」
次のシリーズのテーマは、イケハヤさんの提案で「教養が身につく本」に決まりました。しゅうへいさんは「新しい教養を提案したい」と意気込みつつ、自己啓発寄りにならないよう気をつけたいと話します。
幸あれこさんからは、先月から動画編集者のこたパパさんが番組の編集に加わったという報告もありました。自分で編集してきたイケハヤさんは、素晴らしい編集をしてもらっていると感謝しています。
締めでは、幸あれこさんがハッシュタグ「#本つま」の表記を「ホンはひらがな」と言い間違え、別人のような声で「違うよ」と言い直す場面がありました。イケハヤさんが涙が出るほど笑う中、感想コメントとSNSでのシェアを呼びかけて楽屋トークは終わります。
まとめ
この楽屋トークでは、リスナーのコメントをきっかけに、理想の上司を求める気持ちや理解できない人との距離感が語られました。後半では、推し小説3冊の読み方や読みどころが補足されています。
- しゅうへいさんは、理想の上司を一人に求めず、いろいろな人から良い要素を取ればいいと考えている
- イケハヤさんは、不自由を選んでいるのも手放すのも自分だという考え方を繰り返し、今は自由に暮らしている
- イケハヤさんにとって人づきあいの軸は理解ではなく「一緒にいて楽しいか」で、むしろ理解できない方が面白い
- 『百年の孤独』の前に、180ページほどの『予告された殺人の記録』から入る読み順がすすめられた
- 3冊は読みやすい文学、メタミステリー、難解なノーベル賞作家の作品と、タイプがきれいに分かれた




