番組GOOD PEEPLEが目指すもの
番組「GOOD PEEPLE」の初回は、台本もなく始まりました。ホストの井上拓美さんが、これまで山さんと繰り返し話してきた内容が、気づけば1本のポッドキャストになったといいます。
井上さんは、番組を紹介するために言語化してみたという文章を読み上げます。
一つの地域課題をみんなの問いに。地域を超えて、行政職員や民間プレイヤーとともに、それぞれの暗黙知だった成功や失敗を覗き合う。官民の壁も地域の境界も超えていこう。
番組名「GOOD PEEPLE」の「PEEPLE」には、実は「覗く」という意味がかけられているそうです。それぞれの現場に眠る、うまくいったこと・いかなかったことを、お互いに覗き合おうという意図がこめられています。
この「暗黙知」の部分、本当に多いなっていうところが会話でたくさんあったので。そこを話していきたいですね。
札幌の飲食店から始まった、井上さんの原点
井上さんの自己紹介からは、番組が生まれた背景が見えてきます。地元は北海道札幌市。高校卒業後、最初に手がけたのが飲食店でした。
そのお店があったのは、札幌市の手稲区。小樽に近いエリアで、稲穂という無人駅の近く、札幌から小樽へ向かう国道沿いにありました。
ところが立地には難しさがあったといいます。国道を走る車はスピードが速く、目的地にたどり着くことが優先で、寄り道してもらいにくい。最寄り駅も無人駅で、そもそも降りる理由がない場所でした。
最初の起業で作ったお店も、地域のお年寄りとか地域の人たちに愛されるお店にしないと、普通に食っていけないだろうなっていう感覚を持って運営してました。
人がたくさんいるわけではない地域で、どんな営みや関係性がつくれるのか。当時は難しく考えていなかったものの、無意識のうちに向き合っていたのかもしれない、と井上さんは振り返ります。
その後、お店に飽きて東京でIT会社を立ち上げ、今の会社「株式会社ミッケ」を設立。まもなく丸10年になるそうです。そして伏線を回収するかのように、また飲食店を始めます。
今度の舞台は、長野県小諸市。人がたくさんいるわけでも観光地でもない街で、改めてお店を始めました。さらに、山形県酒田市では市役所の行政に関わりながら、まちづくりの仕事もしています。
行政と関わる中で生まれた「もやもや」
これまで民間企業と多くの仕事をしてきた井上さんですが、近年は長野県庁や東京都など、行政との関わりが増えてきたといいます。その中で、ある種のもやもやを感じるようになりました。
いろんな自治体や地域が、それぞれ課題を抱えている。それは行政としての課題もあれば、住む人や、お店を営む人が感じる課題もある。立場や視点によって、街の課題はさまざまです。
ただ、そうした課題はつい「街の問題でしょ」「行政どうにかしてよ」で片づけられがち。井上さんは、そこに違和感を持っています。
街は行政だけがつくるものではなく、生活する人やお店を営む人など、いろんな立場の日々が関わり合って成立している。さらに、一つの街だけですべてが完結することもない、というのが井上さんの考えです。
一つの街のテーマや課題を、街の行政だけがとか、街の人たちだけがっていうふうに考えるんじゃなくて、立場も仕事の内容も、なんなら行政区画や地域さえも超えて、みんなのお題としてみんなで考えていくことができてもいいんじゃないか。
とはいえ、行政側から新しいことを始めるのは難しい。だったら民間の会社をつくってしまおう。それが、この番組を始めるに至った経緯だといいます。
農業をつなぐ山さんの視点
続いて、山さんの自己紹介です。小諸市では、井上さんのおやき屋さんのすぐそばで、ポーカーができるアミューズメントカフェを営んでいます。
普段は全国的に、農業のリーダーズのコーディネーターとして活動。生まれは長野県の北にある山ノ内町で、リンゴ農家の出身です。
実家のリンゴを東京で売ったり人にあげたりすると、とても喜ばれ、「畑に遊びに行ってみたい」と声をかけられるようになったそうです。農業と外をつなぐ面白さに気づいたのが、今の仕事につながっています。
農業は行政との関わり方にも特徴があります。商工会が1店舗ずつを扱うのに対し、農業は「農業」という一つの括りとして、農業政策課や振興課などと関わることが多い。その中で、うまくいくこと・いかないこと、もやもやを抱えることもあるといいます。
山さんもまた、一つの市町村だけでなく、もっと広い範囲で横断してできることがあると感じています。行政に任せきりにするのではなく、住む一員として動いてみようと、井上さんと動き始めました。
浅間山が見えるエリアを意識に向けて、今取り組みしてみたいなと思っているところです。
山さんは、農業の仕事をしつつも、今の視点は「小諸市で事業をやる一移住者」に近いといいます。同じような環境の人は自分たち以外にもいるので、そういう人たちと話したいテーマだと語ります。
「だから行政は」を、どう乗り越えるか
いろんな立場で行政と関わる中で、井上さんが強く感じているテーマがあります。それが「だから行政は」という言葉です。
細かいことを言ってくる、といった場面で使われがちなこのセリフ。けれど井上さんは、酒田市との仕事ではそうした感覚を持たなかったといいます。手続き上の面倒はあっても、「ここまではやってください、ここからはうちがやります」といったやり取りができたからです。
結局は人なんじゃないかなって、いつも思っちゃうんですよ。大企業だって稟議を通すのは面倒くさい。それはただのルールや構造的な条件の話で、その担当者がどう振る舞うか、どう仕事を進めるかに尽きるなって。
一方で、民間企業側にも同じことが言えると井上さんは指摘します。「だから行政は」と片づけてしまう人に対して、民間からできること、向き合い方はたくさんある、と考えているのです。
話は税金の話にも広がります。「税金泥棒」という言葉を使う人もいますが、井上さんは「どっちが先か」をいつも考えているといいます。
税金払ってるのが先なのか、公衆トイレ使ってるのが先なのか、どっちが先ですか?って思ってるんですよ。俺は逆に後払いしてる感覚なの、税金いつも。
道路がガタガタしていないこと、ゴミを処理してくれること、トイレがきれいなこと。これらを民間サービスとして払えばかなりの額になる、と井上さんはいいます。
税金は所得に応じた累進課税なども組み合わさり、たくさん払えない人でも公共サービスを受けられる状態が整っている。その仕組みを理解しているかどうかで、税金を払う意味の感じ方も変わってくる、という考えです。
だからこそ、できないことはできない、難しいことは難しいと、隠さずみんなで話したほうがいいのではないか。井上さんはそう提案します。
山さんも、人口が減って役所の負担が増えている現場を、ローカルで日々見ていると応じます。
人口が減ったら仕事が減るんじゃなくて、むしろ増えてるみたいな場面。でも役所の職員は少なくなってて、やること自体が増えてる。もっとそこのブラックボックスをお互いに見た方がいいよね。
これから話したいテーマたち
番組後半では、これから取り上げたいテーマを語り合います。山さんが特に深掘りしたいと挙げたのが、移住者が多い地域にありがちな「お店が増える」ことの裏側です。
新しいお店ができて盛り上がってる感じするよねっていうところの、その裏側だったり、その先にあるもの。個人商店は増えてるけど雇用は増えないよね、っていうところの話をしていきたいですね。
井上さんも、小諸で小さなお店を営む立場として共感します。街に店が増えるのは嬉しいし、景色が変わって人がやってくるのも間違いない。でも、雇用を増やす、飲食店ばかりでなく物を売る場所も増える、といった次の段階を考えたくなるといいます。
話したい相手として、御代田町、小布施、須坂、香川県の三豊市、福島県南相馬市の小高区などが挙がりました。特に井上さんが印象的なエピソードとして語ったのが、小高のラーメン屋です。
小高では、長く続いたラーメン屋が一度なくなりました。味を継ぎたいという人もいたものの継がせず、その後、信頼関係のあった地元の会社が味を継ぐ形で新しく店を始めたそうです。今では1日120杯出るといいます。
井上さんが面白いと感じたのは、「ラーメン屋ができた」ことが街のニュースになること。近く味噌ラーメンが出るという話にも、地元の人たちが喜んでいるといいます。
自己実現として店を作る人がいてもいい。でも、「町の人が何ができたら喜ぶかな」という視点から生まれる店も、もっとあっていいのではないか。そのほうが街へのインパクトが大きい、と井上さんは語ります。
山さんは、香川県観音寺の漁師町にある朝ラーメンにも近いものを感じるといいます。帰ってきた漁師のためのラーメンでもあり、観光客がいりこを味わう場所でもある。稼ぎだけではない、街が盛り上がる形がそこにありました。
ほかにも、昼のお店が増えない話、個人経営者が相談できる場所のなさ、関係人口の「成功」とは何か、移住者と地元民の温度差など、話したいテーマが次々に挙がります。
空き家問題についても、井上さんは独自の視点を示します。空き家は古い建物なので、リノベして埋めた瞬間、建て直しができなくなる。長屋構造などでは1軒だけ埋まって周りが空くと、街全体のデザインがしにくくなる、というのです。
空き家問題も、空き家を埋めるということだけの話ってできないよなとか。耐震やコストを考えたときに、そもそも建て直さないと今後の街をつくっていけないんじゃないの?っていう議論もあるんだよね。
外国人旅行者が来ないと商圏が小さいのではという話、子どもを4〜5人育てる家庭の生活はどうなっているのかという素朴な疑問まで、テーマは尽きません。
この番組は、ポッドキャストだけで終わらせず、小諸などで定期的に勉強会のような場もつくっていく予定だといいます。行政の人も含め、いろんな人と一緒に、行政・民間・生活者それぞれの立場でできることを考えていく構想です。
答えを見つけていくというよりは、研究会に近いような、いろんな人といろんな議論をして、モヤモヤをさらにモヤモヤさせていきたいなっていうのはありますね。
まとめ
初回となる今回は、地域課題を「街の問題」で片づけず、立場も地域も超えてみんなで考えていくという番組の姿勢が語られました。答えを急がず、成功も失敗も覗き合いながらモヤモヤを深めていく。そんなスタンスが伝わる回です。
- 番組GOOD PEEPLEは、地域課題を立場も地域も超えて「みんなの問い」として考える場を目指しています
- 「だから行政は」で片づけず、結局は人であり、民間や生活者からもできることがあるという視点が語られました
- 店が増えることも、雇用や街のインパクトまで含めて次の段階を考えたいというテーマが挙がりました
- 空き家や関係人口など、「埋める」「増やす」だけでは測れない地域課題の見方が示されました
- ポッドキャストにとどまらず、勉強会など人が集まる場もつくっていく構想が語られています
