リクルートの「ツメ」とは何か
今回のテーマは「ツメ」です。けんすうさんも聞いたことがないと切り出します。
前回おっしゃった「ツメ」の話だと思うんですけど、そもそも「ツメ」って何ですか?僕聞いたこともないんですけど。
尾原さんによれば、けんすうさんがリクルートに入った頃にはすでに言葉として使われなくなっていたものの、実は非常に重要な技術だといいます。
その前提として、尾原さんは2つの確認事項を挙げます。1つは、リクルートがユーザーを「仕入れる」という発想に逆転した転換点。もう1つは、ユーザー側も広告主側も集めて動かす「リボン図」の考え方です。
ただし、尾原さんはネットワーク効果はユーザーと広告主が集まるだけでは回らないと指摘します。マッチングが起こって初めて動くのがポイントです。
ユーザーが素人のうちはリクルート側が情報を教えてあげることで動いていくけど、だんだんユーザーさんが情報を自分で探せるようになってきたら、直接応募しちゃうよね、普通に考えたら。
つまり、ユーザーが自分で探せるようになると仲介の意味が薄れます。それでもリクルートが高い収益を保てる理由に、「ツメ」の前提となる考え方があるといいます。
食べログとホットペッパーの決定的な違い
尾原さんは、儲かるマッチングを作れるかどうかの分かれ目として、食べログとホットペッパーの比較を持ち出します。
未だに利益率ってホットペッパーのほうが利益率も利益額も高いんですよ。なぜなんでしょうか?という質問に答えられるか答えられないかで、この「儲かるマッチングが作れる人」「作れない人」の差が分かるんです。
けんすうさんは、顧客獲得の単価や掲載料の単価あたりが関係しそうだと答えます。
尾原さんは、かつて役員に同じ疑問をぶつけたときのやり取りを紹介します。当時、尾原さんはタバコを吸わないのに役員フロアの喫煙室にいることで有名だったといいます。
食べログはさ、人気がある店に行くことを手助けするだろ?だけどホットペッパーっていうのは、お客さんを集めるのに困ってるところに行きたくなるようにすることでしょう?
食べログは人気店への予約を後押しするため、実態は予約代行に近く、手数料ビジネスにしかならないと尾原さんは説明します。
一方でホットペッパーは、客の単価に対して3割ほどを取り、美容室向けのホットペッパービューティーに至っては売上の45%を受け取るといいます。
ひどい(笑)。
ひどいって言うな(笑)。お客様は喜んで払ってんだよ。
集客に困っている店なのに、なぜホットペッパーを経由すると客が来るのか。ここが「ツメ」の核心へとつながっていきます。
食べログは基本的に「美味しさ」を求める人がレビューを見て店を選ぶため、もともと客に困らない人気店に向かいます。ホットペッパーはそれとは別の軸で店が選ばれます。
そのお店っていうのは「美味しさというレビュー」ではなくて、やっぱり「10人で個室でみんなで騒げますよ」みたいなことだったりとか、「このお店だと飲み放題が2時間で2000円なんだけれども、この最初にはスパークリングワインが付きますよ」とか。
味だけで選ぶと美味しさ勝負になり、人気店は集客に困らないので予約代行の手数料ビジネスになってしまいます。しかし人は味以外にも、みんなでワイワイできるか、予算内かなど、いろいろな軸で店を選びます。
人気店への予約を後押しする。もともと客に困らない店に人が向かうため、予約代行の手数料ビジネスにとどまり、取れるのは3%程度。
集客に困る店へ人が行きたくなる仕組みを作る。味以外の選択軸を提案するため、単価の3割、美容室では売上の45%を得られる。
この、普段行かない店に人が行くようになる手助けをするための「検索のフラグ」こそが「ツメ」だと尾原さんは説明します。
紙媒体時代のUI「ツメ」の発明
けんすうさんは、味だけを気にしがちだが実はそこが重要でないこともあると共感します。
この15人が入れるとか、値段がちゃんと予算以内に収まるかとか、あと駅から近いかとか。
尾原さんは、子連れの個室、誕生日会のプレート、持ち込み可能かなど、味以外の細かい特徴でも人は店を探していると補足します。
そうした特徴を探せるようにフラグを立てるから、普段来ない店にも人が行くというわけです。
ネットの時代はチェックボックスで検索できますが、紙の時代の探し方はどうだったのか。尾原さんは分厚い本の側面に付いていた線の話を持ち出します。
いや僕たぶんもう完全にインターネット世代なんで…
分厚い本は、どのページに何が書かれているか探しにくいため、ページの領域ごとに側面の色が濃く付けられていました。その色の違う部分に爪を差し込むと、目的のページがすぐに開けたといいます。
配管工周りのページのところだけに線が引っ張ってあるから、そこの線のところに爪をブッ刺してガサッと開ければそのページが開くっていうことから「ツメ」って言うんです。
この紙のUIが名前の由来です。お客は美味しさという1軸だけで選ぶわけではなく、別の選び方に気づくと、これまで探せなかった人が探せるようになり、店に向かって動き出します。
潜在ニーズを掘り起こしてマッチングさせる
尾原さんは「ツメ」を、ユーザーが自分でも気づいていない検索の仕方に気づかせる仕組みだとまとめます。
すると普段行かない店に人が行くようになり、集客に困っていた店に客が来るので、店は喜んでお金を払う構造が生まれます。
この「普段動かない人を動かす」という発想は、求人事業にも通じます。尾原さんは大学の絞り込みを例に挙げます。
「新潟大学工学部」のようにピンポイントでグルーピングすると、いい学校ではないからと諦めていた学生も、実は自分がその会社から望まれていると気づき、チャレンジするようになります。
学歴フィルターみたいなのが、ある程度なんか要は本で届いてる時点で「この大学の人をウェルカムだよ」っていうメッセージになってて、っていうことですね。
企業側も、普通なら「うちに東大工学部生は来ない」と思っていても、リクルートの営業が魅力の伝え方を提案することで、高学歴の人が来てくれるかもしれないと考えるようになります。
つまり「絞る」ということは、絞った相手に対して魅力なことを引き出せば、普段動かない人が動いてくれる。
これに対して食べログのようなレビューサイトは、美味しい店を探す客には良いものの、普段動かない人を動かしているかというとリクルートとは異なると2人は整理します。
だからこそ、食べログが予約代行ツールを提供するのは合理的だとけんすうさんは指摘します。
食べログのお客さんって人気店、美味しくて人気店になるので、その人たちの困り事って予約の電話を受けるところにコストがかかっちゃうってところだから、そこを解決してるっていう。
潜在ニーズに気づかせる
味以外の選択軸で店や求人を探せるようにする
普段動かない人が動く
これまで探せなかった人が新しい選択肢に向かう
集客に困る側に人が来る
集客に困っていた店や企業にマッチングが生まれる
喜んでお金を払う
困り事が解決されるため高い掲載料が成立する
まとめ
食べログとホットペッパーの利益率の差は、人気店の予約を後押しするか、集客に困る店へ人を向かわせるかの違いにありました。その鍵が、潜在的な選択軸に気づかせる「ツメ」という発明です。
- 食べログは人気店への予約代行で手数料ビジネス、ホットペッパーは味以外の軸を提案して高い掲載料を得ている
- 「ツメ」は紙の電話帳などで側面に爪を差し込んで探した仕組みが名前の由来
- 味以外の選択軸に気づかせることで、普段行かない店にも人が動く
- 絞り込んで相手の魅力を引き出すと、普段動かない人が動くのがリクルートの収益の根幹
