MetaのAI参入は2年ちょっと、オープンとクローズの戦い
Meta編の最終回は、AIの話から始まります。尾原さんによれば、MetaがAIに本格的に踏み出したのは2023年2月からで、まだ2年ちょっとしか経っていません。
VR分野が2014年頃から取り組まれていたことを考えると、AIへの本格参入はかなり後発だったことになります。
ただし、AIという構想自体は以前からありました。2016年に掲げた10年計画で、Meta(当時Facebook)は3本柱を挙げていたと尾原さんは説明します。
コネクティビティ
30億〜35億人のネット未接続層に「つながり」を提供する
VR・メタバース
次の一等地となる空間を押さえる
AI
当時は構想のみ。動き出したのは2023年のラマから
その3本柱の1つがAIでした。ただ構想を掲げただけで、具体的に動き出したのは2023年2月に発表した「ラマ」というモデルからだったといいます。
そしてこのラマの戦略を、尾原さんは一言で「焦土戦略」と表現します。
ああ、なるほどね。面白い。
戦略を理解する前提として、尾原さんはまずプラットフォームの世界で繰り返される「オープン対クローズ」の構図を持ち出します。
尾原さんは、AndroidがOSをオープンに提供し、ライセンス提供やオープンソース公開を通じて幅広く使われている点を挙げます。
まあ、そうですよね。古くはMacとWindowsもそうですよね。
Windows PCではMicrosoftがオープンモデルで勝ちました。では、AIではどうなるのか。ここから話は本題へ移ります。
AIの一強を潰す「焦土戦略」、ラマのオープン化
2023年にラマが発表された時点では、OpenAIがほぼ一強の状況でした。GoogleもOpenAIに負ければ根幹に関わるとして、技術寄りの創業者セルゲイ・ブリンがカムバックするほど本気だったと尾原さんは振り返ります。
名前に「オープン」とつくOpenAIですが、実態はかなりクローズドだと尾原さんは指摘します。
APIの停止が噂され、技術論文や仕組みの開示もGPT-3.5以降ほとんどなくなり、「クローズドAI」と揶揄されるほど一強のリスクがあったといいます。
だからこそMetaは、AIではオープンモデルが勝つ世界線があるのではないかと考えて動いた、というのが尾原さんの見立てです。
ラマは2023年2月時点ではまだ研究専用モデルでした。特徴は、GPU1台、いわゆる家庭のパソコンでも動く点にあったといいます。
マニアックな話として、67億パラメーターほどでも十分に使えるモデルだったため、一気に広がりました。
約半年後の2023年7月には次のラマ2が出て、商用利用が可能になります。さらに重要なのが、自分たちのラマを使って他のAIをトレーニングしてもよいとした点でした。
その結果、Hugging Faceには50万以上のAIモデルが投稿され、独立系AIモデルの8割はラマをベースにトレーニングされていると言われるほどになったと尾原さんは語ります。
Facebookはラマというオープンのモデルを作って、それをみんなが使えるようにしたから、みんながそれを使っていて、もうデファクトスタンダードというか、独自のものを創るとしたら、ほとんどがラマを使っている。
その後もラマは進化を続け、ラマ4は未公開ながら、ChatGPTを凌駕する規模を皆が使える形で目指していると尾原さんは説明します。
Meta AIのターゲットは「パーソナルな体験」
一方でけんすうさんは、素朴な疑問を投げかけます。2024年から2025年にかけて、クロードやGrok、Geminiなど優秀なAIが増え、どこが勝つか分からない状況になっているなかで、Facebookも普通に自社AIとして参入してもよかったのではないか、という問いです。
Facebookも普通に「これがFacebookのAIだ」という感じで参入してもよかったのでは?
尾原さんはポイントを2つ挙げます。1つは、実はMetaはすでに「Meta AI」という独自モデルを出していること。もう1つは、その狙いが最先端の高性能ではなく、日常に溶け込む「パーソナルAI」にある点です。
尾原さんによれば、2025年第1四半期の決算で発表されたMeta AIのユーザー数は、すでに10億に達しているといいます。
え、10億、はい。
彼らがAIとして狙うのは、超高度な処理ではなく、日常のふとした質問に答えたり、生活のなかの課題を解決したりするポジションだと尾原さんは説明します。
たとえば、明日会う友達が最近何に夢中だったかをAIに尋ねる、といった人間関係や社会関係に根ざした使い方です。
ブラジルやインドなど、フィーチャーフォンしか使えない人でも、WhatsAppでメッセージを送ればAIの答えが返ってくる。そうした層に強く受けているといいます。
FacebookとかメッセンジャーとかWhatsAppとかInstagramの情報を使って、あなたにぴったりのAIになりますよっていうのを、一番うまくできる企業ですよね。
尾原さんはこれを「UXの統合戦略」と呼びます。WhatsAppやInstagramの検索窓にMeta AIを組み込み、日々のコミュニケーションのなかに入り込んでいく戦略です。
例としてInstagramが挙がります。若い層にとって旅行先の情報源はGoogleよりInstagramで、好きなインフルエンサーが何を上げているかのほうが重要だからです。
このブランドの投稿よくいいねしてるよね、とか、友達ってこういうの好きだよ、とか、このブランドをフォローしてるってことはこうだよ、っていうのが出てくるべきですね。すげえ。
自分の好みを把握したうえで、フォロー傾向から合うアクティビティやイベントを提案してくれる。個人レベルではそのほうがずっと価値がある、というわけです。
データ量が競争の決め手となる時代へ
なぜMetaはこの戦略に自信を持てるのか。尾原さんは、AI技術そのものが群雄割拠になった点を挙げます。OpenAI一強だった状況は、GoogleやAnthropicのクロードなどによって崩れました。
技術で一強にならない時代に、何が差を決めるのか。尾原さんは、自社にしか扱えないデータがあるかどうかに競争優位がずれてくると指摘します。
尾原さんは、ニューヨーク大学のスコット・ギャロウェイがまとめた数字を紹介します。Googleが持つデータ量を基準にした比較です。
Xの投稿はGoogleの検索より1.5倍のデータ量があり、Metaの各サービスの投稿・メッセージ量はGoogleの10倍にのぼるといいます。
さらに尾原さんは、Googleが検索できるものはMetaのAIもXのAIも検索できると指摘します。だからこそ、自社でしか持てないクローズドなデータ量が差別化につながるのです。
Facebookめちゃくちゃいろんなデータ持ってるから超強いっていうことだ。逆にちょっと脱線しますが、OpenAIって考えてみたら、ほとんどないですね。
この文脈で、OpenAIの動きも説明されます。GoogleはGmailやカレンダー、Microsoftもオフィス系を押さえていますが、OpenAIには固有のデータ資産がまだ少ないというのです。
だからこそサム・アルトマンは、人々が人生のデータを預ける場所になろうとし、ジョナサン・アイブが率いるデザイナー集団の会社を1兆円近くで買収して新プロダクトを作ろうとしている、と尾原さんは読み解きます。
尾原さんは、AIで重要になるデータの質にも段階があると整理します。オープンにストックされたデータより、クローズドにストックされるデータ。さらにフロー、そしてライブへと重みが移るという見立てです。
ストックデータ
蓄積された過去のデータ。オープンよりクローズドが強い
フローデータ
流れてくる新しいデータ
ライブデータ
行動起点のデータ。「今から何をするか」まで含む
Metaは、オープンモデルで開発者を味方につけつつ、自社ユーザーには最先端よりパーソナルなAIを届け、新興国で10億ユーザーを達成することを重視した。その一貫性を尾原さんは評価します。
ああ、なるほどな。美しいっすね、これなんか。
経営戦略としての「ルールメイキング」
尾原さんは、この一連の話を起業家への示唆へと広げます。次世代のプラットフォーム企業家に必要なのは、今ある土地での戦い方だけではないといいます。
大切なのは、次の広大な土地のゲームルールそのものをどう設計するかだという主張です。
人が作ったルールの上で戦うのではなく、ルール自体を自分に都合よく変えていく視点こそが重要だ、というのがMeta編最後のAIの話の結論として語られます。
Meta編の振り返りと次回予告
ここから2人はMeta編全体の振り返りに入ります。尾原さんは、そもそもMeta編を始めたきっかけを説明します。
日本では新プロダクトの新機能など「執行」の話に偏りがちだが、経営とは自社の資源をどこに最優先で当ててゲームを作るかだという視点で俯瞰してきた、というのです。
いや、僕これやっぱり今までで一番ぐらい面白かったっすね。
けんすうさんは、経営と執行の分業の話がとくにピンときたと語ります。プロダクトのビジョンを支えるザッカーバーグと、広告収益を作るシェリル・サンドバーグの補完関係が実例として挙げられました。
一方でけんすうさんは、GoogleやMeta、Appleが賢すぎて、勝てるところが少ないと感じたとも話します。
これに対し尾原さんは、彼らが次に起こる戦場を早い段階で見定め、いかに戦いを略すかに焦点を当てているからこそだと返します。
さらに尾原さんは、世界共通通貨の議論を例に挙げます。共通通貨を自分で作らなくても、新興国から実質的な次世代通貨が現れるため、アプリケーションはアフリカ発で考えたほうが有望かもしれない、という見立てです。
けんすうさんはナイジェリアで暗号通貨のウォレット保有者が多い例を挙げます。尾原さんは、自国通貨が不安定な社会背景や「バーチャル出稼ぎ」が当たり前になっている状況にも触れました。
尾原さんは、巨人がどのくらいの視野で経営を見ているかを自分でシミュレーションすることで、自分のフィールドをメタ認知できるようになると語ります。
最後に次回予告です。次のシリーズは、日本のシリアルプラットフォーム企業家としてひろゆきさんを取り上げます。
ちょっと次回は私が喋ろうかなと思ってるんですけれども、みんな大好きひろゆき編を。
尾原さんは、ひろゆきさん個人を深掘るというより、2ちゃんねる、ニコニコ、切り抜き動画という異なるタイプのプラットフォームを連続して立ち上げた点に注目すると説明します。
けんすうさんは、今や日本人で一番アメリカでトラフィックを持つサイトの管理人でありながら、株式会社の仕組みをあまり使っていない点も海外では珍しいと指摘しました。
まとめ
Meta編の最終回は、後発ながらオープンモデルとパーソナルAIに賭けるMetaの戦略を、焦土戦略とデータ資産という2つの軸で読み解く回でした。技術で一強になれない時代に、自社しか持てないデータとルールメイキングが鍵になるという視点が示されました。
- MetaのAI参入は2023年のラマから。オープン化で開発者を味方につける「焦土戦略」を採った
- Meta AIは最先端の高性能ではなく、日常に溶け込むパーソナルAIを狙い、10億ユーザーに到達したとされる
- 技術が群雄割拠になった今、自社にしか扱えないクローズドなデータ量が競争優位を決める
- Metaの各サービスの投稿・メッセージ量はGoogleのデータ量の10倍にのぼると紹介された
- ルール自体を自分に都合よく変える「ルールメイキング」こそ最上の戦略、というのがMeta編の結論
