なぜ忙しい起業家がYouTuberに?
けんすうさんは最近、YouTubeで配信を始めました。平日のほぼ毎朝に配信していて、収録時点でちょうど1ヶ月ほど続いています。
尾原さんから「忙しいあなたが何を考えているのか」と聞かれたけんすうさんは、以前この番組で扱った起業家の情報発信の話に近いと答えます。これからはメディアを作ることが起業家の仕事になる一方で、X投稿にも苦労している人が多いという問題意識です。
で、なんかライトな方法ないかなと思った時に、まあ、喋ることはできる人が多いと。
けんすうさんの狙いは、YouTubeで喋った内容を、ポッドキャスト、note記事、ツイート、Instagramの画像に展開することです。去年まではできなかったこの展開が、今年になってAIを使えばかなり簡単にできるようになったといいます。
喋る
YouTubeで毎朝1時間ほど話す
AIで変換
喋った内容をAIで整理する
展開
ポッドキャスト、note記事、ツイート、Instagram画像にする
尾原さんは、これまでの切り抜き動画との違いを指摘します。ひろゆきさんのように質問に答えるだけでも周りが切り抜いてくれるのは、フォロワーが多い人に限られていました。AIで記事化、動画の分割、イラスト化、プレゼン資料化ができるようになり、この3ヶ月で大きく進化したと尾原さんは話します。
けんすうさんは、2025年4月時点のGemini ── Googleが開発する生成AIのモデル群。2.5 Proは推論能力を強化した上位モデルとして2025年に公開されましたの2.5 Proを使うと、取材を受けてライターに書いてもらった記事のうち上位数%に入るくらいの出来のものが一撃で出る、と実感を語ります。尾原さんも、7月発売予定の新刊の雛型原稿がほぼ作れるようになったといいます。
尾原さんによると、AIが良くなった点は2つあります。1つはエージェント的な機能でファクトチェックや文脈の補強ができること、もう1つは推論が強くなって全体の構成が上手くなったことです。
逆にだからこそダラダラたくさん喋った方が、後からAIが綺麗に構成まとめてくれることを信じて、あっちこっち喋るっていう方が、むしろ今のけんすうらしさが現れたりとか。
「去年2月の思考」はもう手に入らない
けんすうさんが毎朝喋るもう1つの理由は、データの価値です。AIではデータの枯渇が問題になると考えていて、自分の過去の考えはあとから取り戻せないと話します。
特に例えば、僕が去年の2月に何考えてたかってデータってもう二度と手に入らないじゃないですか。
毎朝1時間ほど喋れば、年間で240時間分の話した内容がたまります。取材やYouTubeへの出演、この番組、毎日書いているnoteも合わせると、かなりの情報量になるとけんすうさんは考えています。
けんすうさんは、こうしたデータを統合して本などを作ることが、1年後にはもっと簡単になるだろうと見ています。AIの進化を信じてデータを貯めておくという考え方です。
一方で尾原さんは、けんすうさんの影響力にしてはチャンネル登録者の伸びが少ないと率直に指摘します。生産性の高い朝の1時間を、成長実感がない中で毎日使えることに驚きを示します。
でも、まあ、毎日やるって決めたらやるだけなんで、別にそこにモチベーションとかいらないわけですよ。
けんすうさんの配信は、用意もせず企画も立てず、1時間経ったら終わるというものです。感覚としてはお客さんと雑談しているくらいなので、負荷は低いと説明します。
尾原さんは、起業家や経営者は日常を生きているだけで毎日新しいネタがインプットされる生き物なので、習慣として配信することに向いているのかもしれない、と受け止めます。
喋る前提が「調べる習慣」を生む
毎日の配信には逆説的な効果もあるとけんすうさんは言います。喋らなければいけないという前提から、調べる習慣が生まれたというのです。
たとえばこの日の配信では、Xでよく見かける「困っている人にお金を貸すと逆に恨まれる」という現象を取り上げました。その理由を心理学や行動経済学の知識で説明してもらうやり取りをChatGPT ── OpenAIが提供する対話型の生成AIサービス。質問や指示に文章で答える形で使われますと行い、まとまった内容を喋ったといいます。自分も勉強になり、視聴者も面白いという形です。
尾原さんも前日に似たことをしていました。4年前に書いたAIの戦略本を、共著者と一緒にo3 ── OpenAIの推論特化型モデル。段階的に考えてから答える仕組みで、複雑な分析や調査に強いとされますを使ってアップデートし、AIとの対談として収録したそうです。
尾原さんによると、ディープリサーチでは30分ほどかかっていたものが、o3では2分ほどで良いインサイトが返ってくるレベルになりました。けんすうさんは、それを続ければインプットが増え、すぐアウトプットにもつながると応じます。ただし、AIの結果をnoteに貼るだけでは読んでもらえず、人が喋っていることに価値があるといいます。
YouTuberになることを勧められた尾原さんは、自分はクローズドな空間で同じことをしていると明かします。相手に頼まれてもいないアイデアをギブとして送り、反応が返ってきたらさらにo3で深めて返す、というやり取りのログをためているそうです。
だから勝手に、今日もそのある大学教授の今年のシラバスって多分こうすると面白いんじゃないですかねっていうのを僕が勝手にディープリサーチとO3で磨いたやつを送りつけて。
尾原さんは、昔小沢さんらが開いていた、VCが「自分がこの事業のCEOならこうする」と提案し合う合宿のようなことが、今は個人でできる時代になったと話します。
けんすうさんは、自分の喋ったデータと「AI時代に起こる社会変革」の予測を混ぜて将来を聞いたところ、「複数事業を渡り歩くクリエイティブ系CEOインフルエンサー」と出て、合っていそうだと感じたといいます。
尾原さんは、AIは高度な起点を与えられると周辺情報を集めて予測するモデルなので、起点と文脈がAIを動かす鍵になると説明します。けんすうさんも、GOの三浦さんと飛ばすシェフとのAI対談でも結論は起点力だったと振り返ります。都知事選に出た安野さんの本『始める力』も、まさに起点力の話だといいます。
起点力の育て方は1つじゃない
尾原さんは、起点力を伸ばすやり方には2つあると整理します。経営者として自分の起点を持っている人は、それを今の文脈に合わせて枝葉を増やす形で毎日配信するという方法です。
もう1つは、尾原さん自身のような「ナンバー2力」の人のやり方です。相手の起点に乗り、その起点を花開かせることで、自分の起点のパターンを増やしていきます。尾原さんは、箕輪さんもそのタイプだと話します。
自分の起点を持つ経営者が、今の文脈に合わせて枝葉を増やしていく
ナンバー2型の人が、ギブを通じて相手の起点を開き、自分の起点も増やす
けんすうさんは、尾原さんのやり方を、プロデューサー的に他人の起点を開きながら、自分にない起点も生まれる方法だと受け取ります。人の質問に答えることも、発想のポイントを作る点で同じだといいます。
尾原さんは、起点を複数持つと、そこから出る波が文脈に変わり、いろいろな方向から文脈が見えるようになると話します。それが積み重なると、次に来る時代が読みやすくなるという考えです。
そのうえで尾原さんは、朝の1時間を他のことに使わず配信に充てるのは経営者として大きな決断に見えると指摘し、やってみてどうだったのか、後に続く起業家にとってどうなのかを一般化したいと問いかけます。
喋った素材を何度も使い回す
けんすうさんの答えは、尾原さんが質問に対して昔の講義のYouTubeのURLを送るやり方に近いというものです。朝に1時間喋った内容が夜のnoteを書く材料になり、30分かかっていた執筆が5分になることもあるといいます。
切り抜かれた動画があれば、人に何か聞かれたときに自分で検索して送れます。社内のメンバーにも外部の人にも「ここでこれを話した」と動画を送れるので、とても楽になったそうです。
尾原さんは、これがけんすうさんがYouTubeを始める前に話していたリパーパス戦略につながると指摘します。けんすうさんは実際に、情報発信に苦労している人に「ビデオポッドキャストを撮ってください」と頼み、ツイートやnoteを作る手伝いをしているといいます。
実は今までそのXの経営者の投稿を手伝おうとしても、ネタがないっていうのと、ネタ出すのにすごい苦労するってのがあったので。
けんすうさんによると、人と1時間話せばネタはどんどん出てきます。その素材をもらえばnote記事やX投稿が作れ、これがAIによって超簡単になったことで成り立つようになりました。
尾原さんはリパーパス ── 1つの資源やコンテンツを、別の目的や媒体に向けて作り替えて再利用すること。マーケティングではコンテンツ活用の手法として使われますを、元の資源を別の目的に再利用することを戦略的に進める考え方だと説明します。普段喋っていることには、その人の目的意識やオピニオンが含まれるため、ブログ記事にも講演資料にも変えられます。
社内向けの話も、お客様向けのウェビナーや、新しく入社した人向けの説明資料に組み替えられます。尾原さんは、1つの素材から形も宛先も組み替えられることが本当に楽になったと話します。
録画する
毎日の朝会をすべて録画する
ためる
Googleドライブなどに1年分ためる
AIで作る
会社が大事にしていることをまとめた新入社員研修の資料を作る
けんすうさんは、元光通信のドス山本さんの例も紹介します。昭和の経営者のように詰めたり怒ったりするスタイルの人で、仕事中は常に若手が撮影しているそうです。
だからその山本さんが演技したりとか、なんかわざと怒ったりとかじゃなくて、本当に怒ってるシーンを撮って切り抜くから面白いっていうのをやってるんですよね。
けんすうさんは、有名な社長なら誰かがずっとカメラを回してデータとしてため、切り抜きやnote記事にしていく時代が来るだろうと予想します。
なぜ「その人らしさ」が信頼になるのか
尾原さんは、組織では日々の振る舞いや決断の積み重ねが文化になり、その文化がミッション・ビジョン・バリューのバリューへと昇華していくと話します。そして、誰でも簡単に発信できる時代のキーワードとして「オーセンシティ」を挙げます。
尾原さんの言うオーセンシティとは、その人が常にその人らしいということです。取って付けたように喋った話には説得力がありません。
尾原さんは、けんすうさんが昔から変わらないからこそ、新しいことを始めるときも「しょうがねえな」と一緒に冒険してくれる仲間がいるのだと説明します。ドス山本さんも、細かく切り取られても山本さんらしさが常に内在しているため、触れるほど信頼できる生き方が浮き上がってくるといいます。
けんすうさんは、ドス山本さんの主張を紹介します。自分らしさの良し悪しではなく、経営者が嘘をつくことが問題だという考えです。外で綺麗なことを言いながら中ではパワハラのようなことをしているのが一番良くない、というものです。
けんすうさんはこれを踏まえ、綺麗なミッションやバリューを作るより、1年分の社内会議からAIが「こういう価値観の会社です」と出すほうが正しいとされる時代が来るかもしれない、と話します。
尾原さんは、AIがその人らしさの文脈を覚えるほど、時代に合わせた次の起点をサポートできるようになると応じます。この辺りはウーダループ ── 観察・状況判断・意思決定・行動を高速で繰り返す意思決定の枠組み。もとは軍事戦略から生まれた考え方ですやセンスメイキング理論でも説明できるとして、別の回での解説を提案します。
ミッションは毎日変わってもいい?
けんすうさんは、AI時代のもう1つのポイントとして、コストの関係で頻繁に変えられなかったものが変えられるようになったことを挙げます。ミッションやバリューも、半年に1回AIが言語化し直せば、常にアップデートされた状態にできるかもしれないという発想です。
尾原さんは、ミッション・ビジョン・バリューの役割を、判断のブレをなくして速度を上げることだと定義します。そう考えると、毎日変わるほうがむしろ腹落ちしてブレなくなり、結果的に速くなることもあり得るといいます。
けんすうさんはさらに、ミッションやバリューを知らなくても、AIに聞けば「この会社っぽい判断」をしてくれる形もあり得ると続けます。
尾原さんはここで、自身が在籍していた頃のGoogleの例を出します。Googleらしさは言語化してはいけないと言われていたそうです。
なぜならば、言語化した瞬間にそれを守ろうとすることを正解としちゃうから、官僚っぽくなっちゃうんだよ。
けんすうさんは、「Googleとはスピードだ」と言われればスピードが一番大事になってしまう、ということだと理解します。尾原さんは、AIの中に「ドスらしさ」のようならしさがため込まれ、人々は対話を通してそれに触れる形になると話します。
尾原さんによれば、らしさは答えを与えるものではありません。みんなが「◯◯らしくありたい」と日々問い続けることで、世の中がそちらに向かいやすくなるという意味です。けんすうさんは、起点力がこの回のキーワードだと受け止めます。
「頭の枷」はどう外せばいいのか
けんすうさんは、安野さんの話で面白かった点として、頭の枷の問題を挙げます。けんすうさん自身も著書で「頭の枷を外しましょう」と書いています。自分は都知事選に出る人間ではないと思っていると、その起点がそもそも存在しなくなるという話です。
なんか無い人は、いや私なんて会社辞めたら絶対生きていけないですとか、私がなんか新しいこと始めるなんてみたいに思っちゃったりするんですけど。これどうすればいいんですかね?
尾原さんは、コーチングの初日によく言われる話を紹介します。自分らしさを決めた途端、自分らしくないものを選ばないと決めたことになり、現状の可能性の半分を捨てている、というものです。
もう1つの考え方として、尾原さんは箕輪さんの「死ぬこと以外はかすり傷」を挙げます。やったことがないことは怖いものですが、怖がらない人は「死なない」と割り切れたり、失敗しても仲間のもとに戻れる帰る場所があったりするといいます。
けんすうさんも、20年前は顔を出してYouTubeで喋るなどありえない感覚だったと振り返ります。尾原さんもかつてはネットに顔も写真も出さないと言っていました。
10年前までは、表に出ない。基本海外嫌い。なんか体系的なことしないっていう、この3つを自分の枷にはめてたわけですけど、10年前に全部逆しよって思ってやってみたって。
尾原さんは、オープンにしたあとはアイコン化によって、リアルでオープンにする部分はむしろ減らしているといいます。あえて逆に振ってみることで、自分にとっての中庸を知るというやり方です。
「死ぬこと以外はかすり傷」と考え、帰る場所があると知って踏み出す
向いていないと思う極端なことを試し、自分の中庸を知る
けんすうさんは、「死ぬこと以外はかすり傷」が刺さる人もいれば、そこまでは怖い人もいるので、あえて振ってみる考え方もありそうだとまとめます。
尾原さんは最後に、コンテンツをためればAIが再利用してくれること、そして起点力と文脈を把握してシミュレーションを回し続けることがAI時代にとても大事だと締めくくります。けんすうさんの一言は「チャンネル登録してくれよ」でした。尾原さんによると、けんすうさんのYouTube登録者はXのフォロワー数の10分の1もないそうです。
まとめ
けんすうさんの毎朝のYouTube配信は、喋ることを起点にAIで記事や画像へ展開し、同時に自分の思考をデータとしてためていく試みです。そこから2人の話は、問いを立てる起点力、その人らしさを示すオーセンシティ、そして自分の枷を外す方法へと広がりました。
- 喋った内容は、AIでポッドキャスト、note、ツイート、画像などに展開できるようになった
- 過去の思考は二度と手に入らないため、毎日喋ってデータをためることが資産になる
- AI時代はタイムリーな問いを立てる起点力が重要で、育て方には毎日配信と相手の起点に乗る方法がある
- 発信が簡単な時代ほど、その人らしさが一貫していること(オーセンシティ)が信頼につながる
- 頭の枷を外すには、割り切る考え方と、あえて逆に振って中庸を知る考え方がある





