自律型とワークフロー型、2つのAIエージェント
今回のテーマは「ワークフロー型AIエージェントの時代が来る」というものです。まず前提として、AIエージェントは大きく2つのパターンに分けられると説明されています。
1つ目は自律型AIエージェントです。何でもできる万能型で、代表例としてChatGPTエージェントやGenspark、Manusなどが挙げられました。指示すればページ作成からレストラン予約まで全部やってしまうタイプです。
2つ目がワークフロー型AIエージェントです。これまでの代表例はDifyというツールで、流れは人間が決めておき、その流れの一部でAIを使うという考え方です。
いけともさんは、この違いを料理店にたとえて説明しています。
自律型はおまかせシェフみたいな感じで、今日秋の気分で作ってよって言うと、適当に材料も探してレシピも作って料理もしてくれます。
ワークフローはコースメニューは決まっていて、中身は大体決まってるんですけど、ちょっとずつアレンジしてくれる。あなただったらキノコは松茸ねみたいな。
一見、自律型のほうが優れているように思えます。しかし、いけともさんは今の自律型エージェントの「料理」は正直そんなに美味しくないと指摘します。
一方でワークフロー型は流れが決まっているため、クオリティを一定に担保しながら部分ごとにアレンジができます。尾原さんは、再現性が高く、仕事のプロセスが可視化されるため他部署に転用しやすいと補足しました。
OpenAIとGoogleが相次いで投入した新機能
このワークフロー型をめぐって、今週は大きな動きが相次ぎました。まずOpenAIが「エージェントキット」という名前で、ワークフロー型エージェントを作れる機能を発表しています。
画面上でブロックを組み合わせると、たとえば入力された文章を調査するエージェント、レポートを作るエージェント、ウェブページにするエージェントというように処理をつなげられます。作ったものは自分のサイトやサービスに簡単に導入できる点が注目されました。
これはOpenAIがDevDayで示した3つの目玉のうちの1つだったと振り返られています。1つ目はChatGPT上でアプリを出せる「ChatGPTアプリ」、2つ目がこのエージェントキットでした。
さらにその翌日、Googleもワークフロー型を出せると発表しました。法人向けの新プラン「Gemini Enterprise」でワークフローが組めるほか、実験機能の「Opal」というツールが日本語対応しています。
いけともさんは、メガプレーヤーが急激にワークフロー型サービスを投入したことで、状況が大きく変わったと見ています。
これまではDifyとか使ってる会社も結構いたんですけど、いよいよ普通の会社も当たり前にワークフロー作っていくよねって感じになるんじゃないか。すごい期待してますね。
尾原さんはこれを、普及率が一気に跳ね上がる転換点だと表現し、いけともさんも同意しました。
ノーコード化が下げたワークフロー作成のハードル
いけともさんは、実際に触ってみた感触としてDifyより作りやすい印象があると話します。特に大きいのが、依頼するだけで最初のバージョンを自動で作ってくれる点です。
これまでは、ブロックを1つずつ貼り付け、ブロックごとに命令を書いていく必要があり、それが手間でした。それが、2行ほどで依頼するとファーストバージョンをすぐに用意してくれるようになったといいます。
尾原さんは、これをノーコード化の流れとして整理しました。
AIにこういうプログラム作ってっていうと、もうプログラムを書いてくれるのと同じように、このワークフローのブロックのファーストバージョンをパッと作ってくれる。
従来もDifyやエージェントキットはノーコードではありました。ただ「ブロックを組み合わせますか」と言われても、プログラム的な発想がないと難しかったと2人は指摘します。
空の状態からブロックを1つずつ置き、それぞれに命令を書き込む必要があった
2行で依頼すると雛形が自動生成され、音声入力などでカスタマイズできる
いけともさんは、これを「放置されたレゴのブロック」が「レゴキット」になったと表現しました。一定の枠を先に作ってくれるので、そこからカスタマイズすればよくなったということです。
さらに1つのブロックの機能も増えています。エージェントキットでは、1つのブロック内でファイルをアップロードしたり、MCPで外部ツールと連携したりできるようになりました。
従来はMCP連携とブロックが別軸で一手間かかっていました。尾原さんは、その手間が理由でN8Nに流れた面もあると明かしています。今回はそこのハードルが下がったと評価されました。
AIエージェントを「部署」としてつなぐ発想
エージェントキットでは、組み合わせた1つ1つのエージェントが別々に保存され、他のワークフローでも使い回せます。調査に特化したエージェントを作り込めば、それを別の場所でもそのまま使えるということです。
尾原さんは、これによってAIエージェントが会社の一部署のような存在になり、部署間連携まで作れるようになると整理しました。企業にとって使いやすさが増す方向です。
この背景として、尾原さんはAIエージェント時代の考え方の変化を説明しています。
初期の生成AIは、ChatGPTを使うために自分の業務のやり方をAIに寄せる必要がありました。一方でAIエージェントは、今すでに誰かに任せている仕事を、そのままAIに任せる形に切り替えられるため楽だといいます。
ただし、これまでは「そのエージェントを誰が作れるのか」という問題がありました。それが、GoogleのOpalなどによって、プログラム知識がなくてもブロック構成ができるレベルに来始めたと尾原さんは見ています。
もっとも、いけともさんは完璧ではないとも釘を刺します。自動生成したものがバグっていることもあるそうです。
尾原さんは、この点はノーコードプログラミングと同じだと話します。最初はバグが出るものの、根気強く修正するうちにコツがつかめ、プログラムを一から覚えるより習熟が速いという特性です。
特性が強い部下にどう仕事を振ったらうまくいくかを試すみたいな話かなと思うんで、言い方とかやり方を変えてみて、うまくいったみたいなことを日本語で試すだけ。
さらに尾原さんは、いろいろな会社が作ったパーツが流通し始めると一気に便利になると予測します。GoogleはEnterpriseで、各社が作ったパーツを選んで組み合わせる「ギャラリー」の発想を持っているといいます。
日本企業の現状と「作れる人」の壁
話題は日本企業の実態に移ります。いけともさんは、コンサルとしてDifyを50人ほどに配り、毎月作ってもらって全件チェックする取り組みを数ヶ月前にやっていたと明かしました。尾原さんはこれを「企業のAIの赤ペン先生」と表現しています。
そこで分かったのは、多くの人にとって作るのは難しいということでした。
インプットアウトプット連携とか、変数で定義するとか、書き換えた場合にプロンプトがどうなるのかみたいな、いくつかの発想が必要で、これがなかなかできない。
つながっていない箇所を持ってこようとしたり、前の過程の出し方が分からなかったりと、基本的なところでつまずく人が多かったといいます。
打破する方法は、全件レビューして操作を動画で撮りながら教えることでした。ただ50人全員は難しく、作れるようになるのは今のところ10人ほどだといけともさんは話します。
それでも尾原さんは、10人が作れれば、その仕事を他の人が利用するだけで会社としてのインパクトが出ると指摘しました。今回のエージェントキットで、その人数が20人前後に増えることに期待が寄せられています。
経営のAIワークフロー化がもたらすゲームチェンジ
尾原さんは、ここ2年ほどのコンサルが「経営をいかにAIワークフロー化するか」に変わってきたと話します。これには2段階あると整理されました。
1段階目は、他社より安く早く作れることで競争優位になる戦術レベルの話です。より大事なのが2段階目、最初から最後まで処理がつながる「エンドツーエンド」の戦略レベルの話だといいます。
尾原さんは営業を例に、この戦略レベルを具体的に説明しました。
まず、クライアントの許可を得て営業の音声を記録し、議事録と良かったポイントを自動でフィードバックします。ここまでで1つのワークフローです。
次に、その改善案を明日どのクライアントに当てるべきかを別のワークフローで判断します。さらに実際のコンバージョン率をダッシュボードにつなげ、成果が出た営業トークを全営業マンに横展開します。
普通の会社ならベストプラクティスをまとめるのに1週間、横展開に1ヶ月かかるところが、3日で回るようになるといいます。
いけともさんは、OpenAIが示すAIの5段階になぞらえて整理しました。第3段階のエージェントで実行でき、それがつながって回転できる状態は第4段階のイノベーターに近いと話します。
尾原さんは、イノベーションとは発明ではなく、兆しをたくさん集めて試行錯誤を高回転で回し、生産性を大きく上げるものを見つけることだと語ります。まずはこの高回転の試行錯誤を経営レベルにインストールすることに取り組んでいるといいます。
コンサルの実態とレベル5「AIカンパニー」への道筋
最上位のレベル5「AIカンパニー」に関しては、営業のフィードバックをプロダクトの改善につなげる相談が増えているといいます。プロダクト自体が顧客の心配を解決すれば、究極的には営業がいらなくなるという発想です。
いけともさんは、経営者がレベル5を目指して相談に来るのかと尋ねました。尾原さんは、そんな依頼が最初から来るわけではないと答えます。
尾原さん、なんかAIでいろいろすごいんでしょ。うちの会社どうにかならないですかねっていう話から始まる。
そこから話を聞き、その会社のコアな競争優位がどこにあるのかを見極めるのが尾原さんの役割です。営業なのか、マーケティングの集客なのか、顧客のペイン解決なのかを特定し、そこを自動化・拡張していきます。
多くの顧客はレベル2、つまりエージェントを部分的に導入した段階で、効率が1〜2割上がる程度をイメージして来るといいます。尾原さんは、そこから本来目指せるレベルの絵を描いて見せているとのことです。
いけともさんは、人とAIのコラボレーションの段階を経て、いずれ人を省ける部分が出てくると指摘しました。尾原さんもこれに同意します。
尾原さんは、人を省けないところでは、これまで週1回だったPDCAを毎日回せるようにすると説明します。加えて、採用が楽になる効果も挙げました。
専門知識をAIに任せることで採用要件が下がり、人を増やすペースを一気に上げる実験ができるといいます。SHIFTや野村総研などがこの戦略で勝ちに来ていると挙げられました。
最終的にエンドツーエンドで全てAI化できれば、24時間365日の稼働や、AIによる言語対応で一気に多国展開することも理屈上は可能になります。これがレベル5のイメージだと語られました。
一方で尾原さんは、リスクにも触れます。皆がAIワークフローに対応するほど、企業間でAIエージェント同士が仕事できるようになり、つながった瞬間にグローバルプレーヤーが一気に流入するといいます。
どこでそのガラパゴス鎖国を意図的に作るかみたいなことを考えた方がいいのかもしれない。
この「鎖国」は、追いつくための準備期間だと2人は整理します。発明は大変でもコピーは簡単なので、その間に一番うまいやり方を学び、追いついたところで一斉に出るという戦略です。
オートノマスの時代と、二極化する働き方
尾原さんは、次のキーワードとして「オートノマス(自律自走)」を挙げます。9月にラスベガスで開かれたHRテックのメインテーマは、エージェントからオートノマスへの移行だったといいます。
面白い視点として、会計や契約のような業務は難しい5%を除けば95%をオートノマス化でき、逆にそこに溜まったデータが宝の山になる可能性があると紹介されました。
いけともさんは、この変化が経営者と従業員では見え方が全く違うと問題提起します。
個人で見た時に、経営者とか一部のコア人材以外は完全に自分の立場危うくする形で怖くなるじゃないですか。
尾原さんによれば、HRテックの議論では働き方が二極化すると見られていました。1つは大量のエージェントを操る「スーパーワークハブ」となる方向です。
もう1つは、AIエージェント化によって従来アプリ化されなかったニッチな対応が可能になり、ホスピタリティ産業やものづくりで「あなたのことを全部知っている」人が価値を持つ方向です。
尾原さんは、後者を先取りしていた例として星野リゾートを挙げました。星野代表は2年前から、顧客接点のスタッフに勤務時間の15%をノーコードアプリ作りに使うよう促していたといいます。
いけともさんは、こうした発想を持って接すればAIにも効くし、AIにできないホスピタリティも強化されると評価しました。結果として、高くても泊まろうと思われるようになるという発想です。
組織にAI活用を根づかせる「熱量の連鎖」
話は再び「一歩目の難しさ」に戻ります。作れる人と作れない人の壁をどう越えるかが課題ですが、いけともさんはプログラミングほどの壁はないと感じています。
好例としてサイバーエージェントが挙げられました。エンジニアチームが2週間のDify研修を隔週で回し、毎回7人ほどの参加者が作れるようになる取り組みを続けているといいます。
結果として数千人のうち数百人が使えるようになり、その人たちが現場でどんどん作っているそうです。尾原さんは、7人ずつ育てた人がまた次の人を育てる連鎖として整理しました。
いけともさんは、単発で終わらせず、やる気や必要なタイミングに応じて継続的に回す仕組みを作れている点を評価します。ヤフーが毎週の社内セミナーや3ヶ月単位・120時間の集中研修をやっている例も挙げられました。
尾原さんは、やる気のある人がやり切れるようになると、周りにも「自分もやりたい」という人が増え、育った人が後輩を育てる連鎖が生まれると話します。これは組織変革の定番パターンだといいます。
この連鎖は楽天大学のパターンでもあると紹介されました。各社からやる気のある人が集まって磨き合い、帰った先で後輩を連れてきて広げていく形です。
最後に、いけともさんは赤ペン先生をやってこちらが一番学んだと振り返ります。できない人がどこでつまずくかは、できる人ほど見えないという気づきです。
僕らできる人間って、できない人がどこでできないかが見えないんですよね。
まとめ
OpenAIとGoogleの新機能により、ワークフロー型AIエージェントは普及の転換点を迎えつつあります。作れる人を組織にどう増やし、業務をエンドツーエンドでつないでいくかが、経営を変える鍵になりそうです。
- AIエージェントには自律型とワークフロー型があり、再現性の高いワークフロー型は企業に向いている
- OpenAIのエージェントキットとGoogleのOpalなどで、雛形の自動生成によりワークフロー作成のハードルが下がった
- 「ChatGPTは使う、AIエージェントは任す」という発想の切り替えが重要になる
- 業務をエンドツーエンドでつなぐとベストプラクティスが10倍速で回り、戦略レベルのゲームチェンジが起こる
- 組織への定着は、やる気のある人から継続的に育てて熱量を連鎖させる仕組みづくりが要になる
