累積赤字10兆円というMetaの賭け
Meta編も第14回。ここからは結果が出た話ではなく、現在進行形で未来予測を含む「メタバースとAI」の話に入っていきます。
尾原さんはまず、Metaがメタバースにこれまで投じた累積赤字を紹介します。その額はなんと10兆円でした。
そんなに突っ込んでるんですか?
これって普通の事業会社からしたら「ええっ?」っていう話ですよね。
そもそもFacebookは、メタバースが次の主戦場だとして社名をMetaに変更しています。なぜそこまでして突っ込み続けるのか、それが今回のテーマです。
ただし、Metaにとって10兆円は必ずしも異常な数字ではないと尾原さんは言います。昨年の決算では売上25.5兆円、利益はほぼ10兆円でした。
つまり、年間の利益に近い額を、およそ10年かけて投じてきた計算になります。許容範囲と言えなくもない規模です。
Metaが握り続けたい「コミュニケーションの場」
とはいえ初期の赤字幅は、広告事業の黒字額とほぼ同じ規模でした。投資家からすれば「何やってくれるの?」となる水準です。
それでもMetaが突っ込むのは、これまでの戦略の根幹に理由があります。人のつながりにネットワーク外部性利用者が増えるほどサービスの価値が高まる性質。周りが使っているほど「自分も使わないと仲間外れになる」という力が働くを効かせ、「仲間外れになりたくないから使う」場所を握るという発想です。
この戦略がハマっているからこそ、AIが話題の中心となった今もMetaは売上25兆円、利益10兆円を出し、前年比20%も伸びています。
だからこそ、この収益源であるコミュニケーションの場を押さえ続けることが重要になります。次にMetaが崩されるとしたら、それはプラットフォームの変わり目=コミュニケーションの中心の移動だと尾原さんは指摘します。
けんすうさんも、若い世代ではRobloxやフォートナイトでつながることがメインになりつつあると補足します。それがVRの世界に来たとき、コミュニケーションの多くがそちらへ移る可能性があるわけです。
巨額買収と次世代プラットフォーム「メガネ」
MetaがInstagramやWhatsAppの買収を「結果的にお得だった」と語れるように、メタバース投資も回収できるのか。それを検証するため、話は歴史をさかのぼります。
Metaのメタバース参入の起点は、2014年のOculus買収でした。買収額は当時のレートで約2000億円、Instagramの倍ほどです。
当時Oculusが売っていたVRの台数は6万台ほど、社員数は50人規模でした。それでもザッカーバーグは「モバイルが今のプラットフォームならVRは明日のプラットフォーム」として賭けたのです。
ここでけんすうさんは、自身のメタバース歴を語ります。HoloLensやOculusは買ったものの、そこまで使っていないとのこと。
一方で最近は、XREALというメガネ型の外部モニターで仕事をしたり、Metaのメガネ型端末を使ったりしていると話します。
実はこの点がMetaにとって重要だと尾原さんは言います。VRとARは違うもので、最近伸びているのはAR側だからです。
Metaのレイバン型メガネは、目の前のものを写真に撮り、AIを通じて絵を解説させたり、オプトイン時には目の前の人の名前や投稿を読み上げたりできます。これがすでに100万台売れています。
VR/ARの流派対立と市場の現状
ARグラスは現実空間にコンピューティングを持ち込むため、AIと非常に相性がよいと尾原さんは言います。次にMetaが出すARグラスのプロトタイプは1台100万円するそうです。
背景には「スマホの次の一等地はどこか」という競争があります。PCよりスマホ、スマホよりメガネと、より少ない手間で情報にアクセスできる場所を誰が握るのかという争いです。
この一等地争いには、大きく2つの方向があります。声で話せばAIが答えるメガネ型の世界と、自分の体自体をデジタル化してメタバース空間で交流するVRの世界です。
技術的な流派も分かれます。透明なグラスにディスプレイを載せるメガネ路線は、計算をスマホに頼るため、現実との完全な融合までは難しいと尾原さんは説明します。
一方Apple Vision Proのように、外をカメラで撮って高性能なディスプレイに映すパススルー方式なら、テーブルの上でボールが跳ねるような現実との連携ができます。
透明なグラスに情報を重ねる。計算はスマホに依存し、現実との完全な融合は難しい。GoogleやXREALの路線
外をカメラで撮り高性能ディスプレイに映す。高い計算力で現実との連携が可能。Apple Vision Proの路線
Metaはこの両方を手がけています。メタクエストはパススルー型、レイバン型メガネはメガネ路線という具合です。
2025年になり、GoogleはXREALと提携してメガネ型を、Huaweiと組んでパススルー型を出すと発表しました。GoogleもAppleもハード面で追いついてきた状況です。
けんすうさんは、Vision ProがMacやiPhone、iCloudと連携できる優位性や、Googleがマップやマップなどの一等地を押さえている点を挙げ、Metaは結構きついのではと率直な印象を語ります。
ゲーム市場は成立、本命のコミュニケーションは遠い
しかし世界的に見ると、2023年時点でもヘッドマウントセット型の市場ではMeta(Oculus Quest)が8割のシェアでダントツです。
理由は価格にあります。アメリカで約400ドル、日本円で6万円ほど。アメリカ人の感覚では「少し高いNintendo Switch」程度で、2023年までに全世界で2000万台が普及しました。
尾原さんはこれを、初期のファミコンやセガサターンに近い普及規模だと表現します。家庭内ゲーム機として、メジャーになりかけているポジションです。
利用の中心はやはりゲームです。特にZ世代では家庭内ゲーム機と同程度の時間ヘッドマウントディスプレイを使う人も増え、時間占有では2、3位に入るといいます。
家広いからじゃね?っていうのないですか?
けんすうさんは、Beat SaberやVRフィットネスにはそれなりのスペースが必要で、うさぎ小屋のような住環境では使いにくいと指摘します。
それでも2024年時点で、Meta Questのアプリ市場は3000億円規模に達しています。アメリカのゲーム機市場という観点では、無視できない存在になってきました。
ただし、ここで最初の問いに戻ります。Metaは何のためにメタバースに張っているのか。答えはコミュニケーションの場を押さえ、ネットワーク外部性を握るためでした。
そのために用意したプラットフォームがHorizon Worldsです。しかしけんすうさんも使っておらず、2023年の発表では1日のアクティブユーザーが1万〜2万程度ではという指摘もあったといいます。
一方で伸びているのは、ヘッドマウントではなくiPadやゲーム機経由のプレイヤーです。Robloxはデイリーアクティブユーザー6000万人超、フォートナイトも8000万人超に達しています。
つまり、フォートナイトを運営するEpicのように、VR以外の入口でメタバース世界を作り込むプレイヤーがユーザー数を握ってしまっている状況です。ハードを押さえても、獲りたかった場所が獲れないという事態が起こりえます。
独禁法が縛る、次なる一等地戦争の行方
ここで尾原さんが持ち出すのが「レイヤーバンドル」という考え方です。
GoogleもAndroid・アプリストア・検索をバンドルし、モバイルでも圧倒的な検索シェアを握りました。今それが独占禁止法に問われています。
Metaも同じようにコミュニケーションレイヤーをバンドルしたい。しかし、他社のコミュニケーションプレイヤーを排除すれば独禁法に触れるため、レイヤーを分けざるを得ないのです。
かつてのMetaなら、フォートナイトやRobloxを買収するか、模倣して潰すという手が取れたはずです。しかしハードで独占的な立場にいるがゆえに、そのムーブがやりにくくなっています。
普通に考えたらVRチャットみたいなすでに盛り上がってるところ買いつつ、フォートナイトかRobloxどっちか買ったらもうほぼ勝ち確みたいな状態なんですが、そういうプレイはもうできないわけですね。
この制約ゆえに、Robloxがメタバース上のSNS的存在へ成長する可能性も、Metaが高速に学習して巻き返す可能性も、両方が開かれていると尾原さんは見ます。
世の中がメタバースに幻滅している今こそ、冷静に数字を見ると別の姿が見えてきます。Meta Questは2000万台以上普及し、アプリ市場も3000億円規模。みんなが諦めた時が参入ポイントかもしれないと尾原さんは語ります。
コミュニケーションの主流を握った時の売上・利益の破壊力を前提にすれば、Robloxがそこへ育つ世界線もありえます。子供時代だけで卒業されてしまうのか、Metaが大人向けで巻き返すのか。ここをどう読むかが、新しいプラットフォームの読み方の勘所です。
最後に尾原さんは、少なくともアメリカではゲーム機市場として明確に立ち上がっていること、そして国の規制でMetaが強引になりにくい分、後発にもチャンスがあるかもしれないとまとめます。
次回は、メタバースで10兆円の累積赤字を抱えながら、MetaがAIを無料で市場破壊に投入している理由を取り上げ、Meta編の最終回に入ります。
まとめ
Metaがメタバースに10兆円を投じ続けるのは、収益源であるコミュニケーションの場を次世代でも握るためです。ハードやアプリ市場では成果が出つつある一方、本命のコミュニケーションプラットフォームはまだ確立できておらず、独禁法という制約も加わって、次の一等地をめぐる争いはなお流動的です。
- Metaのメタバース累積赤字は約10兆円だが、年間利益もほぼ10兆円で許容範囲とも言える規模
- 投資の目的は、次のプラットフォームでもコミュニケーションの場とネットワーク外部性を握ること
- 一等地争いは、声で使うメガネ型ARと、没入するVRの2方向で進んでいる
- Meta Questはヘッドマウント市場で8割シェア・2000万台普及とゲーム機としては成立しつつある
- 一方でHorizon Worldsは伸び悩み、RobloxやフォートナイトがユーザーとVR制作の場を握りつつある
- 独禁法により買収や模倣がやりにくく、後発プレイヤーにもチャンスが残されている
