上場に向けて、Facebookは何を変えなければならなかったのか?
ハイパー起業ラジオのMeta編は、経営編と執行編を行き来しながら、FacebookがどのようにFacebookになったかを追っています。前回の経営編では、急成長を支えたハッカーズ文化 ── Facebookが掲げた、素早く作って試し、改善を繰り返すことを重んじる開発文化。「Move fast and break things」の標語で知られますや1%ロールアウトルールを深掘りしました。
今回のテーマについて、尾原さんは「経営と執行を混ぜないと話ができないもの」が1つだけあると切り出します。それがIPO、つまり株式上場です。
上場っていうことになると、当然経営として株主とか、いろんなステークホルダーの方から、これは成長していく会社だよねという風に認める会社にならなければいけない。
あとはやっぱり、上場に向けて一番大事なのが持続的な収益化ということなので。
そこで今回は、広告モデルの確立からIPOまでを、その裏側にあるビジネスモデルとリーダーシップの両面から見ていく構成になっています。
ユーザー5000万人でも赤字だった時代
けんすうさんが「この時はまだ収益はなかったのか」と尋ねると、尾原さんは、広告自体はすでに始まっていたと答えます。Facebookは月間ユーザーが5000万人ほどに達した2007年に広告を開始し、2008年ごろには利用者が1億人ほどになっていたといいます。
ただし当時のマーク・ザッカーバーグさんは、成長を優先するため、広告収益はあえて追い求めない方針をとっていました。
月間5000万人ユーザーがいるので、最初にFacebook広告を立ち上げた時でも、年間売上で言えば、このタイミングで言うと150億ぐらいはあったんで。
まあ、ただ赤字です。
Facebookは2012年にIPOを迎えます。そこへ向けて「順調に収益を上げている」と示せる体制へ変える必要がありました。
尾原さんはその鍵を2つ挙げます。執行面では広告におけるツーサイドネットワークエフェクト、経営面ではコンプリメンタリーリーダーシップ、つまり補完的リーダーシップです。
補完的リーダーシップについて、尾原さんはピッチャーとキャッチャーのような関係だと例えます。今回の場合は、ビジョン型の創業者と、プロフェッショナルな実務型経営者の役割分担を指しています。
広告の買い手と売り手が互いを呼び込み合う仕組みを回す
ビジョン型の創業者と実務型の経営者が役割を分担する
ChatGPTはGoogleを殺せるのか?抜け落ちた視点
尾原さんは、いま話題になっている「ChatGPTがGoogleを殺すのか」という議論を引き合いに出し、そこには1つ抜け落ちている観点があると指摘します。
もしGoogleをChatGPTが本当に殺すことができるっていう時は、ChatGPTに無料でみんなに使わせなきゃいけないじゃないですか。
尾原さんによれば、無料で使わせるには、広告モデルにするか、無料ユーザーの存在を土台に有料利用で大きく儲けるかのどちらかしかありません。そうなると、やはり広告モデルに頼る場面が出てきます。
そして広告モデルでは、ユーザーとは別のステークホルダーである広告主が関わってきます。ChatGPTの話は、Facebookが直面した課題を今の文脈で捉え直すための前置きになっています。
ユーザーを集めても儲からないのはなぜか
尾原さんによると、アメリカのネット広告ではGoogleとFacebookが78%ほどのシェアを持っています。けんすうさんは「すさまじい」と反応します。
Facebookの成長は、もともと「仲間外れになりたくない」からユーザーが集まるネットワーク外部性に支えられていました。一方で広告ビジネスでは、別の種類の循環が重要になると尾原さんは説明します。
広告主が集まる
広告主がいることでメディアが広がる
メディアが広がる
広告主にとっておいしい場が増える
さらに広告主が寄ってくる
買い手と売り手が互いを呼び込む循環が回る
よくね、あのユーザー集めれば広告で儲かるじゃんっていう人がいるんですけど、広告主どっから持ってくるみたいなのが抜けてると、ユーザー集まったけど、なんか儲かりませんみたいなことって結構ありますよね。
けんすうさんの指摘は、広告モデルを語るときに見落とされがちな点です。ユーザー数だけでは収益にならず、広告主を集める仕組みが同時に必要になります。
Yahoo!で一番高い広告はどこだったか
尾原さんは広告単価の仕組みを説明するため、目的別のサービスが並んでいたYahoo!を例に「ちょっと昔話」を始めます。Yahoo!の中で1回表示あたりの広告単価が一番高いのはどこか、というクイズです。
けんすうさんは不動産を挙げますが、答えは求人でした。尾原さんが挙げた単価は次のとおりです。
| サービス | 単価 | 特徴 |
|---|---|---|
| 求人 | 10円 | 最も高い |
| 金融・不動産 | 6〜7円 | 高単価 |
| 掲示板 | 0.02円 | ビュー数は多いが単価は低い |
掲示板の単価をけんすうさんは「0.1円もないのでは」と予想し、尾原さんは0.02円ほどだと答えています。
尾原さんは、この差が生まれる理由を2つに整理します。お金を使ってくれそうな人が集まる場所ほど単価が高くなること、そして本当に伝えたい相手だけに届けられることです。広告の価値は単価と効率性の掛け算で決まる、というわけです。
だから、掲示板とかビュー数が多かったとしても、全然関係ない、広告見たいと思ってない人が多かったりすると、全然効果がないから当然単価低くなるよねっていう、シンプルなところですね。
プラットフォーム側から見ると、広告単価が取れる場所で単価を取れるビジネスを作らないと売上は伸びません。一方で、相手を細かく区切りすぎると、出稿する側の手間が増えてしまうと尾原さんは話します。
そのため、効果の高い買い手と売り手を結びつける「セグメント別のツーサイドネットワークエフェクト」を回すことが、Facebookにとって非常に大事だったといいます。
Googleから来たシェリル・サンドバーグは何をもたらしたか
補完的リーダーシップの実践として、Facebookはシェリル・サンドバーグ ── 2008年にFacebookのCOOに就任した経営者。米財務省で要職を務めた後、Googleで広告事業を率いました。著書『LEAN IN』でも知られますさんをGoogleから迎えます。
尾原さんの説明では、サンドバーグさんは大統領補佐官を務めた経歴を持つハイキャリアな人物で、Googleでは広告部門を任されていました。Googleも広告主と買い手のネットワークエフェクトをどう回すかが課題で、それをやり抜いたのがサンドバーグさんだったといいます。
成果は数字に表れます。尾原さんによれば、2009年には売上が7倍になり、Facebookは初の黒字を達成しました。
初の黒字の額について、尾原さんは推定としたうえで200億ほどと話しています。なお、広告売上を円に換算した部分の発言には言い間違いと思われる箇所があるため、ここではドル表記のみを記しています。
事業と意識をセットで変える変革型リーダーシップ
尾原さんは、こうした場面で重要になるのが変革型リーダーシップ ── ビジョンを示して組織の価値観や意識そのものを変え、メンバーの内発的な動機を引き出すリーダーシップ論。経営学で広く知られる考え方ですだと話します。
サンドバーグさんが着任したのは、Facebookが大炎上を繰り返していた時期でした。そのため、事業を伸ばすだけでなく、社員や広告主が「なぜそれをするのか」というビジョンを信頼できる状態を作ることが求められました。
行動だけじゃなくて意識をセットで変革をしていくっていうことが大事になるんですね。
変革型リーダーシップは、一般に4つの要素からなるとされます。尾原さんはサンドバーグさんの取り組みを、この4つに沿って説明していきます。
4つ目の個別的配慮について、尾原さんは特に強調しています。
組織と結果が変化しても個人の成長がついていかなければ、それは結局個人は組織の奴隷ですよねっていう話になっちゃう。
組織が変わるのに合わせて、1人1人の成長も支援する。この4つをきちんとやり切ったことが、サンドバーグさんのすごさだったと尾原さんは話します。
「経済の民主化」というストーリーと広告主倍増の目標
理想化された影響力として、サンドバーグさんがまず取り組んだのはストーリーテリングでした。ザッカーバーグさんの描くビジョンに、ビジネスの視点を書き加えたのです。
世界中のビジネスと人が繋がっていくことによって経済が民主化していく。
尾原さんによれば、誰もが広告を通じてお客様とつながれれば、誰もが自分のやりたいビジネスをどんどん実現できる、というストーリーです。けんすうさんは、ザッカーバーグさんのビジョンの上に乗せた形だと受け止めています。
鼓舞的な動機付けとしては、「3ヶ月に1回、広告主数を倍増する」という非常に高い目標が掲げられました。その結果、2010年には広告主が150万社に達したといいます。
クライアント数ってすると、やっぱりその最初の最初に話した、そのビジョンというか、ストーリーにちゃんと合ってますもんね。
売上額ではなく広告主の数を目標にしたことで、「誰もがビジネスをできる」というストーリーと日々の目標がつながっていた、という見方です。
誰でも15分で出せる広告はどう作られたか
知的刺激にあたる取り組みとして、尾原さんはGoogleに近いセルフサーブアド ── 広告主が代理店や媒体の営業を介さず、管理画面から自分で広告を作成・出稿できる仕組みの導入を挙げます。項目をドラッグアンドドロップで選んでいくだけで、誰でも出稿できるようにしました。
これにより、広告作成にかかる時間は平均45分から15分に短縮されたといいます。
けんすうさんは、この変化の大きさを補足します。かつての広告出稿は、媒体に直接連絡し、担当者同士で話して金額を決めるのが当たり前でした。
媒体に連絡し、担当者同士のやりとりで出稿する。テレビCMのように番組の性質から視聴者層を推測する
プロフィールや興味関心のタグをドラッグアンドドロップで選び、自分で出稿する。作成時間は平均45分から15分に
尾原さんはテレビCMを例に説明します。たとえばワールドビジネスサテライトなら、意思決定に関わる課長や部長クラスが見ていそうだ、と番組の性質から視聴者を想像する必要がありました。
Facebookの場合は、裏側にユーザーのプロフィールがあります。さらにAI化が進むにつれて「この人は何に興味がありそうか」というインテレストがタグとして蓄積され、それを選ぶだけで出稿できるようになりました。
Googleだと検索ワードっていう、インテレストで広告が出せる。もう1つ広告主が出したいものとしては、属性。
僕、ネット広告出す側で言うと、この2つ以外の選択肢って、少なくても初期はほとんど検討したくてもなかったし、今でも多分この2つからやるのが、もう普通でしょうね。
尾原さんがもう1つ強調するのは、出稿の仕組みを1つのダッシュボードに集約したことです。バラバラだった商品をまとめ、パラメーターをわかりやすくしたことで、社員が自分たちで改善案を出せるようになりました。
たとえば「こういうインテレストでグループ化すればいい」「業種を入力した時点で性別や年齢をおすすめのプリセットで出せばいい」といったアイデアです。メンバーがイノベーションできる環境を整えることも、変革型リーダーシップの一部だと尾原さんは話します。
無理やり営業で取ってきて、誰でもいいから広告主取ってこいだだと多分ワクワクしないけれども、こうやってイノベーティブで分かりやすくて、みんなのためになりそうなシステムを作ってる。
けんすうさんは、広告主が自然と集まる仕組みを作ったからこそ成長が速く、それがFacebookの社風とも合っていたのではないかと見ています。
営業10倍と20都市展開を支えた「ハウ」の共通化
個別的配慮について、尾原さんは「オペレーションの世界に近い話」と前置きします。サンドバーグさんが入社した当時、広告営業部門は数百人でしたが、3年後には2000〜3000人規模に拡大しました。
営業拠点はロンドン、東京、シドニーなど20都市に設けられ、各都市に数値目標の権限が委譲されました。さらに、各ローカルが動きやすいよう、ウィークリーメトリクスレビューという仕組みが導入されます。
ウィークリーメトリクスレビューは、若手が1週間単位で自分たちの振り返りを行い、翌週の改善を決めていくプロセスです。尾原さんは、こうしたプロセスを共通基盤にしたことが成長を加速させたと話します。
オペレーションイノベーションは、ワットではなくハウ、だから、何を開発するかよりもどういうプロセスにすればいいのかっていうプロセスイノベーションの方が大事なんですよ、プロダクトイノベーションよりも。
けんすうさんは、普通は逆にしてしまいそうだと驚きます。尾原さんはさらに、プロセスを共通化すると横展開が速くなり、自分の工夫が周りの役に立っているという貢献実感も持てると続けます。
こうした取り組みの結果、ロングテールの中小企業が数多く広告を出すようになり、買い手と売り手の相互ネットワークエフェクトが回り始めました。広告売上はわずか1年半で7倍になり、Facebookは上場へと進んでいきます。
プロダクトは空中戦、広告は地上戦
けんすうさんは、IPO前に広告ビジネスが伸びたことは知っていたものの、その背景にこの4つの要素があったと聞いて腑に落ちたと話します。
尾原さんは、ネットビジネスには2種類の戦い方があると整理します。プロダクト側では、魅力的な製品がユーザーを呼び、ネットワーク外部性やデータネットワークエフェクトで製品の魅力がさらに増していきます。尾原さんはこれを「空中戦」と呼びます。
一方で、広告というマネタイズは地道な地上戦だと尾原さんは言います。中小企業を含め、各ローカルで広く展開する必要があるからです。
魅力的な製品でユーザーを集め、ネットワーク外部性やデータの効果で魅力が増す循環
中小企業を含め各ローカルで広く展開し、多くの営業パーソンが関わる
そうすると、たくさんの営業パーソンの方が絡んでくるので、いかに人と組織を作っていくかっていうところに要点が置かれている。
IPO後の株価急落とモバイルへの大ピボット
こうしてFacebookはIPOまでたどり着きます。ただし尾原さんは、その後に株価が3分の1ほどまで落ち込むと予告します。原因はモバイル革命でした。
尾原さんによると、Facebookはこの時点ですでに別の儲かるパターンができ始めていました。それを捨ててモバイルに注力するという大ピボットを行ったといいます。
この大ピボットにも経営と執行のスタイルが表れているとして、詳しくは次回に語られる予定です。けんすうさんも「楽しみですね」と応じています。
まとめ
Facebookが広告で稼げる会社になった背景には、広告主とメディアが互いを呼び込むツーサイドネットワークエフェクトと、それを回すためのシェリル・サンドバーグさんによる変革型リーダーシップがありました。プロダクトの空中戦とは違い、広告は人と組織で戦う地上戦だという視点が、この回の核になっています。
- ユーザーを集めるだけでは広告で稼げず、広告主を呼び込む仕組みが同時に必要になる
- 広告の価値は、単価と、伝えたい相手に届けられる効率性の掛け算で決まる
- サンドバーグさんは、理想化された影響力・鼓舞的な動機付け・知的刺激・個別的配慮の4つで組織を変えた
- セルフサーブアドで出稿を簡単にし、中小企業を含む広告主を大きく増やした
- プロセスを共通化する「ハウ」のイノベーションが、20都市への横展開と急成長を支えた



