2chとニコニコの次に、ひろゆきさんが向かった先は?
ひろゆき編の第3回は、前回までの振り返りから始まります。尾原さんは、2chとニコニコ動画の話を通じて、ひろゆきさんの「見事なゲーム設計」が見えてきたと話します。
尾原さんによると、ニコニコ動画は会社が動画を運営しているぶんインフラが重く、いろいろな人の意図が入りやすい場所でした。そこで動きにくくなると、ひろゆきさんは次の場所へ鮮やかに移っていく、という流れが凝縮されていたといいます。
ゲームルールを理解して、そのゲームルールを攻略して、自分の負担なくすごく盛り上げて、かつユーザーから面白いものが出てくるみたいなところに、面白さを感じていて。
けんすうさんは、ひろゆきさん自身もユーザーとして楽しんでいる点を特徴に挙げます。尾原さんはさらに、2chとニコニコ動画の違いを哲学の面から整理しました。
自分が怠け者だから、できるだけ楽して動くゲームルールにするという象徴
ゲームルールの上で遊ぶ地方の人など、いろいろな人の遊び場を大事にするという哲学面
159万人登録、切り抜き28億再生という影響力
今回のテーマは、ひろゆきさんが現在取り組んでいるYouTubeです。けんすうさんは、一般には「ひろゆきさんがYouTubeをやっていて、切り抜きをうまく使っている」程度の理解だろうとしたうえで、まず結果を数字で示します。
けんすうさんが紹介したデータでは、ひろゆきさんのチャンネル登録者数は2025年5月時点で159万人以上です。さらに切り抜き動画の総再生数は、2021年度だけで28億3424万回に達しています。
実は再生回数ランキングで言うと、上位って、いわゆる音楽を除くとほとんどがひろゆきさんの切り抜きなんですよね。2021年。
けんすうさんは、28億再生を全日本人が年間30回近く見た計算になると表現しました。影響力は再生数だけでなく、若い世代からの信頼にも表れています。
ほかにも、中高生が相談したい有名人で第3位(2021年7月のソニー生命の調査)、「それってあなたの感想ですよね」が2022年の小学校流行語ランキング1位と紹介されています。けんすうさんは、特に小中高生など若い世代に絶大な信用があるとまとめました。
信頼するインフルエンサーの1位について、尾原さんは「ブンブンハローYouTube」の人ではないかと尋ね、けんすうさんも確かそうだと応じています。尾原さんは、そこにいきなりひろゆきさんが入るのはすごいと驚いていました。
登録者7000人から2年で一気に伸びた理由
意外なことに、ひろゆきさんのYouTubeは2016年に始まったものの、2018年末時点の登録者は7000人ほどでした。尾原さんは、ひろゆきさんの影響力を考えれば「めっちゃしょぼい」と反応します。
けんすうさんは、特に2021年の伸びがすごいと指摘します。ひろゆきさんは2021年の投稿で、前年にTwitterとYouTubeの登録者数を増やそうと思い立ち、フワちゃんを目標にしていたと書いていたそうです。
この投稿から、けんすうさんは2020年ごろに伸ばそうと決めたのだろうと読み取っています。尾原さんは、そこから2年できっちり結果を出したことに注目しました。
切り抜きとコンテンツIDは、どう組み合わさったのか?
ひろゆきさんのYouTubeが伸びた理由として、けんすうさんは切り抜きという仕組みを挙げます。ひろゆきさんがライブ配信で質問に答え、切り抜きユーザーがそれを自分のチャンネルに上げ、再生された分の広告収入を折半する、という大まかな構造です。
この仕組みによって、自分では面白いことを言えない人でも、ひろゆきさんの動画を切り抜くだけでマネタイズできるようになりました。けんすうさんは、ここが非常に画期的だったと話します。
ライブ配信
ひろゆきさんが配信し、質問に答えて終わる
切り抜き
切り抜きユーザーが動画を切り出し、自分のチャンネルにアップする
収益の折半
再生された分の広告収入を、ひろゆきさん側と半分ずつ分け合う
さらに重要なのが、コンテンツID ── YouTubeが提供する著作権管理の仕組み。アップロードされた動画を権利者の素材と自動照合し、ブロックや収益化などの対応を権利者が選べますの存在です。けんすうさんによれば、これを使うと切り抜いた人の収益を強制的に徴収できてしまいます。
そのコンテンツIDという仕組みは、YouTubeが持ってる動画の、誰の動画ってことをAIで自動判定するシステムで、引用したところが、あ、○○さんの動画のこの部分を引用してますねみたいなところを自動判別してくれる。
尾原さんの説明では、コンテンツIDはもともと著作権違反の摘発や、友好的に使っている人の動画を権利者が残すための判別システムでした。ひろゆきさんはそれを、切り抜き収益を受け取る仕組みとして活用したことになります。
けんすうさんが紹介したひろゆきさんのXの投稿によると、収益を強制的に受け取れるツールのおかげで、契約しなくても気軽に切り抜きを始める人が増やせます。多くのチャンネルがひろゆきさんのコンテンツを使うことで、おすすめ欄が「ひろゆき汚染」され、切り抜き同士の再生数が相互に伸びるという理屈です。
おすすめ欄を埋め尽くす「1分動画」の強さ
尾原さんは、ひろゆきさんがYouTubeの構造をよく理解していると感心します。尾原さんは、元Googleだから知っているのではなく一般常識だと断ったうえで、今のYouTubeの再生時間の90%以上はユーザーが選んでいないと話します。
一本目って比較的ユーザー選ぶじゃないですか。でも大概のユーザーってもう(YouTubeで)2本目3本目って見るとなると、出てきたおすすめ動画の中で選択するか、自動再生で再生される。
尾原さんによると、関連の近い動画を1本見ると、似た動画が次々に続くアルゴリズムが強くなっていきました。その傾向と、Googleが無料で用意しているコンテンツIDの収益配分システムを、ひろゆきさんは「見つけちゃった」というわけです。
けんすうさんは、動画の長さにも着目します。多くのYouTuberは広告収益のために長尺動画を見せたがりますが、切り抜きは1分ほどのものも多く、電車などで短く見たい人が「これ1分だわ」とクリックしやすいといいます。
多数のチャンネルが切り抜く
契約不要で気軽に参入できる
おすすめ欄に並ぶ
いろいろなチャンネルのひろゆきさんの切り抜きが表示される
短尺でクリックされる
1分ほどの動画はすき間時間に選ばれやすい
相互に再生が伸びる
関連動画として切り抜き同士が連鎖する
社内で理解されず、自分でやって日本一に
けんすうさんによると、ひろゆきさんはこの仕組みを思いついたとき、自身の会社である未来検索ブラジルの社内で提案したそうです。ところが、社内の人たちにはピンとこなかったといいます。
当時は、YouTubeはきちんと企画を立て、サムネイルを作り、編集しなければいけないというのが社内の共通認識でした。理解されなかったため、ひろゆきさんはまず自分でやってみることにしたそうです。
こういう仕組みだから、こうすればこうなるじゃんって言っても、みんなが理解してくんないから、あ、じゃあやってみるねって言ってやってみて、ほら、日本一になったでしょっていう。
未来検索ブラジルには、ガジェット通信クリエイターネットワークというMCN ── マルチチャンネルネットワークの略。複数のYouTubeチャンネルと提携し、収益化や権利管理、プロモーションなどを支援する事業者ですがあります。けんすうさんによると、ゲーム配信が強いほか、岡田斗司夫さんや青白王子さんなど著名人の切り抜き動画もサポートしています。
けんすうさんは、自分のYouTubeもここでお世話になっていると明かします。ひろゆきさん本人は、自分が儲けるためというより「こうすると儲かりますよ」と示すプロモーションとして、このクリエイターネットワークを広めるためにやっている感覚だと話しているそうです。
切り抜き職人が年に何億円も稼ぐ世界
尾原さんは、岡田斗司夫さんの例を挙げます。岡田さんはひろゆきさんとも近く、早くから切り抜き動画に参入しましたが、今では1つの切り抜きチャンネルの登録者数が岡田さん本人を上回っているそうです。
岡田斗司夫さんにしてもひろゆきさんにしても、とにかく湯水のごとくそのコンテンツの元が出てくるから、それを時事ネタとか、芸能人のニュースとかっていう、YouTubeで人気のものにうまく切り抜いて。
尾原さんによると、4〜5本の切り抜きを組み合わせて見事な1本の解説動画にする職人もいます。けんすうさんは、そうした職人が年間何億円も稼ぐ可能性があるからこそ、みんなが頑張るのだと話します。
けんすうさんが「非常にひろゆきさんらしい戦略」と評価するのは、役割の分け方です。ひろゆきさんはたまにライブ配信をして質問に答えるだけで、企画もしません。切り抜きの人たちが切磋琢磨して伸ばしていく構造になっています。
たまにライブ配信をし、質問に答えるだけ。企画はしない
派手なタイトル、字幕、編集を競い合い、トレンドに合わせて動画を作る
プラットフォームの上のプラットフォームは社会を動かすか?
尾原さんは、切り抜きは単なる戦略ではなく世の中の流れを変えたと話します。例として挙げたのが、東京都知事選での石丸さんです。尾原さんによると、石丸さんは市長時代から意図的に切り抜きを味方につけ、ムーブメントを作って政治の結果を動かすところまで至りました。
ある種自分でプラットフォームを作らなくても、メタプラットフォームって言えばいいんですかね。プラットフォームの上にプラットフォームを作ることによって、もう社会的な運動まで起こしてしまう。
ひろゆきさんがどこまで見通していたのかという尾原さんの問いに、けんすうさんはXでのやり取りを紹介します。ひろゆきさんは、web3そのものには実際あまり意味がないが、ファンが稼げるようになれば次が来る、だから切り抜きをやっている、という趣旨のことを話していたそうです。
尾原さんはこれを、web3 ── ブロックチェーンやトークンを使い、利用者がサービスの価値の一部を保有できるとされる次世代のインターネット像を指す言葉ですの理想を別の形で実現したものだと整理します。トークンで報酬を得る理想はなかなか動かないが、クリエイターが確実に儲かる仕組みを別の形で作れば、ゲームルールが勝手に転がり始めるという見方です。
web3の理想: トークンを持ち、プラットフォームが豊かになれば価値が上がって収入を得る。ただし、なかなか動かない
切り抜き: この人の動画を切り抜いて上げれば稼げる、という誰でも理解できる仕組み。実際に稼げている
けんすうさんは、トークンのような難しい概念を理解しなくても稼げて、ひろゆきさんの会社にも収入が入る点を評価します。尾原さんも、お金の配分や違反した動画を落とす役割までYouTube側が担っていることから、極めてミニマルな構造でこれだけのインパクトを生んでいると話しました。
東スポ、こたつ記事、まとめサイトとの違い
けんすうさんは、定かではないと前置きしたうえで、ひろゆきさんが東スポとの違いに触れていた記憶を話します。東スポのような芸能記事は芸能人の発言を取り上げても芸能人にはお金が入らないが、切り抜きならどんなに誇張したり煽ったりしても、最終的にひろゆきさんにお金が入る、という比較です。
尾原さんは、芸能ニュースやテレビを見て書くこたつ記事 ── 取材をせず、テレビ番組やSNSなどの内容をもとに書かれるネット記事を指す俗称。こたつに入ったまま書けることからこう呼ばれますも、元のクリエイターから見ればタダ乗りで嬉しくないと話します。
| 形式 | 元の発信者への収益 | 番組で語られた特徴 |
|---|---|---|
| 芸能記事・こたつ記事 | 入らない | 元のクリエイターから見ればタダ乗り |
| 2chのまとめサイト | サイトからは取れない | 管理人が月600万円稼ぐ例もあった |
| YouTubeの切り抜き | 広告収入を折半できる | 誇張されても最終的に元の発信者に入る |
けんすうさんは、2ch時代のまとめサイトも莫大な利益を上げていたと振り返ります。知らないまとめサイトの管理人が月600万円稼いでいると聞いて腰を抜かしたそうで、尾原さんも、ライブドアのブログの稼ぎトップ10がほとんどまとめサイトだった時期があったと応じます。
2009年のひろゆきさんの投稿では、2chは過去のものが見られる設計にしており、まとめサイトで知った人が2chに来ても楽しめる構造が必要だと語っていたそうです。けんすうさんは、今のYouTubeライブと切り抜きも同じ関係にしているのではないかと考えています。
尾原さんは、流れていく情報を後から参加したい人のためにまとめ直す文化を、英語ではキュレーション、日本語ではまとめ文化と呼ぶと説明します。けんすうさんは、YouTube上なら収益を折半できる点がおそらく重要だったと付け加えました。
切り抜き側がそのトレンドに合わせて切り抜き直してくれるから。逆に言えば、ひろゆきさんはもうどんどん自分の反射神経的な知性の中で喋ってればいいんだなってインセンティブが出ますよね。
ひろゆきAIが1週間で300万人に使われた意味
切り抜きの次の流れとして、けんすうさんはAIによる仕組みの拡大を挙げます。例に出たのは、孫正義財団から支援を受ける当時20歳前後の開発者が作った「声フォント」のひろゆきAI、尾原さんの言う「おしゃべりひろゆきメーカー」です。
けんすうさんによると、おしゃべりひろゆきメーカーは1週間で300万ユーザーに使われました。視聴ではなく、実際に使った人の数です。けんすうさんは、それが1週間の数字かはわからないとしつつ、作られた音声の視聴者数はおよそ1億だったらしいと話します。
ひろゆきさん本人の関与について、尾原さんは素材の音声を少し喋った程度か、既存の大量の音声素材で作れた可能性もあると推測します。けんすうさんは、自分の知る限り特別な収録はしておらず「いいっすよ」と言っただけだと話しました。
(ひろゆきAIは)もうひろゆきが言ってそうなことあれば言わせればいいし、女の子との差し飲みで絶対に奢らせたいひろゆきみたいなネタ動画もどんどん作れるので、これが広がり続けてる。
けんすうさんは、極論すれば、ひろゆきさんに相談できるAIサービスがヒットすれば、ひろゆきさんは何もしなくても知名度や影響力が広がり続けると話します。尾原さんは、あとはオンラインゲームやリハック ── 政治や経済などを扱うYouTubeの討論・インタビュー番組。ひろゆきさんも出演し、企画で旅行することがありますでの旅行に集中できるかもしれないと冗談めかして応じました。
頑張らない起業家は、シリコンバレーにもいない?
尾原さんは、構造を見抜いてゲームルールを作り、自分で動いて結果を出し、社会ムーブメントも起こし、次はAIに溶け込んでいくという流れを振り返ります。そのうえで、ゲームルールを何度も作る人はシリコンバレーの起業家でも珍しいと話します。
尾原さんは、起業家のミドルエイジクライシス ── 中年期に、それまでの生き方や目標に迷いが生じ、心理的な危機に陥ることを指す言葉ですが話題になるのは、血反吐を吐いて作り上げることにアイデンティティを置く熱血型の起業家が多いからだと分析します。中年になると「次に何をやればいいのか」と迷ってしまうという見方です。
けんすうさんは、シリコンバレーの基本思想は独占することだと話します。それに対しひろゆきさんは、自分に負担が来ないようにあらゆる仕組みを使い、「こうすると勝手に回る」と発見するのがとにかくうまい、と対比しました。
独占を目指し、自分で血反吐を吐いて作り上げる。時間を大量に使う前提
自分に負担が来ない仕組みを作り、参加者が勝手に回す。後発でもほぼ日本一の再生数
尾原さんは独占思想の象徴としてピーター・ティールの名を挙げ、ハードシングスと口にしますが、けんすうさんは『ゼロ・トゥ・ワン』だと補います。その後の尾原さんの発言で、ハードシングスはベン・ホロウィッツの本だと整理されています。
500本の動画が5万本の切り抜きを生む
けんすうさんは、ひろゆきさん本人が7年であげた動画は500本ほどなのに対し、切り抜きチャンネル2100による動画は5.4万本ほどにのぼると紹介します。500本作れば5万本の動画ができるという仕組みが、再生数日本一につながりました。
けんすうさんが「イーロン・マスクとかね、働いてますからね」と言うと、尾原さんもイーロン・マスクは「働け」の人だと応じます。尾原さんは、そうした設計思想ではないからこそできるスケールの仕方を探求したいと話しました。
けんすうさんは、ひろゆきさんが2ch、ニコニコ動画、YouTubeで別のことを3回成功させていると指摘します。再現性が高いからこそ、この思想を起業家がもっと掘ってもいいのではないかという提案です。
日本の勝ち筋は「ファンが頑張る仕組み」にある?
尾原さんは、日本はゲーム大国で、ユーザーが勝手に熱狂するものを作る職人が多い国だと話します。起業家としてのひろゆきさんを考え直し、楽してスケールし、参加者がみんなハッピーになるビジネスがあってもいいという見方です。
けんすうさんは、シリコンバレー流の頑張り方をしても、シリコンバレーの人には勝てない構造だと考えています。尾原さんはその理由を次のように説明しました。
優秀な人を頑張るために集めるためにはお金が必要になるしっていうと、めっちゃ資本が集まって、めっちゃ優秀な人がたくさん集まる場所でしか勝てないから、それはシリコンバレーの一強になるもんね。
けんすうさんは、日本発の仕組みが海外で広がった例も挙げます。2chから生まれた4chan、ニコニコ動画に影響を受けたビリビリ動画、そしてVTuberの切り抜きのようにファンが頑張る仕組みで日本企業が勝っている例です。
次回は日本ではあまり知られていない4chanの話を軽く扱い、そのあと総括・感想編でひろゆき編を締めくくる予定だと語られて、この回は終わります。
まとめ
ひろゆきさんは、YouTubeのコンテンツIDとおすすめアルゴリズムという既存の仕組みを組み合わせ、自分はライブ配信で話すだけで、切り抜き職人が競い合って広げる構造を作りました。けんすうさんと尾原さんは、この「頑張らずに勝手に回るゲームルール」こそが、シリコンバレー型とは異なる日本の起業の勝ち筋になりうると語っています。
- ひろゆきさんの登録者数は2020年から伸び始め、切り抜き動画は2021年度に28億回以上再生された
- コンテンツIDによる収益折半で、契約不要で誰でも切り抜きに参入でき、おすすめ欄で相互に再生が伸びた
- まとめサイトと違い、YouTube上の切り抜きは元の発信者にも収益が入る点が重要だった
- ひろゆきAIのように、キャラクター自体がAIで自走して広がる段階まで来ている
- 自分が頑張らない仕組みを3回成功させた発想は、日本の起業家にとってのヒントになりうる



