半年ぶりの「ベスト方言グランプリ」で何を選ぶのか
この回は、ゆる言語学ラジオが半年ぶりに開いた「俺たちのベスト方言グランプリ」の第2弾です。リスナーから寄せられた方言のうち、標準語に加えたら便利になりそうなものを、水野さんと堀元さんが選んでいきます。
企画の趣旨は、二人の標準語ではない方言のうち「これは標準語に加えたほうが便利じゃないか」というものを投稿してもらい、拾い上げて紹介していく、というものです。堀元さんはこれを、方言というローカルなブランチから標準語というメインブランチへのプルリクエストにたとえます。
日本語ってもっとよくできるよねって考えた人たちが提案をしていくという、そういうコーナーでございます。
フォームには半年で1000件近い投稿がたまっていました。前回はライブ配信で、その場でリスナーがコメント欄からネイティブチェックできたといいます。
一方で今回は収録のため、その場での確認ができません。そこで水野さんは全国方言辞典と地方別方言語源辞典を手元に用意し、諸説あるものは諸説あるまま、雰囲気と勢いで取り上げていくと前置きします。
沖縄の言葉は日本語と別の言語なのか
方言そのものに入る前に、水野さんが過去回の補足をします。以前の雑談回で、沖縄の言葉が日本語の方言なのかという質問に、知識のないまま適当に答えてしまったといいます。
水野さんによると、琉球方言 ── 沖縄や奄美などで話される言葉の総称。日本語の方言とみる立場と、日本語と別の言語とみる立場があるについては、日本語とは別の言語だという立て方をする分類があります。ただし祖先は同じと言われるため、両者を合わせて日琉語族と呼びます。
祖先は一緒だと言われているので、いわゆるそれらを合わせて日琉語族とかっていうふうに。
さらにその琉球の言葉も、沖縄本島と他の島とで大きく違うといいます。水野さんは、もっと知りたい人は社会言語学の本を読んでみるとよいと補足します。
熊本の「あとぜき」は開けた戸を閉めること
最初の方言は、ナリアキイワタニさんから寄せられた熊本などの「あとぜき」です。意味は、ドアを通った後に忘れずに閉めること。標準語には、この一語に当たる言葉がありません。
意味はドアを通った後に忘れずに閉めること。これめっちゃいいですよね。
水野さんが全国方言辞典を引くと、あとぜきは熊本県の言葉として載っていました。「ちゃんとあとぜきばせんかい(ちゃんと戸を閉めないか)」という例文つきです。熊本の人が東京で「あとぜき」が通じないのは、たしかに不便だろうと二人は話します。
一方で堀元さんは、この言葉に驚いた投稿者の視点も紹介します。特定の行為にわざわざ単語を当てるのは、脳のメモリがもったいないのではないか、という感想です。二人が「便利」と感じたのとは逆の反応でした。
語源をたどると、あとぜきの「せき」は関所の「関」やせき止めるの「せく」につながりそうだと二人は考えます。水野さんは、せく・責める・狭いはつながりがあるらしいと辞典の記述を紹介しますが、あとぜき自体の語源は載っていませんでした。
博多弁の「来る」は英語のcomeに近い
次は、期間限定チームアップさんから寄せられた福岡・博多弁の「来る」です。一般的な「来る」ですが、行く・到着するのニュアンスでも使うといいます。
水野さんが挙げた例は、「明日一緒に来る?」に「うん、来る」と返す使い方です。標準語なら「行く」と答える場面で「来る」を使う点が、英語のcomeに近いと説明されます。
明日一緒に来る?うん、来る。って返すんだよ、でも。多分行くのニュアンスで使ってると思うんで。
水野さんは、この違いを言語ごとの体系のずれとして整理します。過去回で第二言語習得論の福田先生が話したように、英語のswimに「泳いでいく」の意味があるのと同じく、言語によって「行く」と「来る」の使える範囲が違うのだといいます。
話し手のいる場所へ近づくときに使う。相手のところへ向かうときは「行く」
相手のところへ向かうときにも「来る」を使う。相手側に身を置いた表現
辞典を引くと、福岡県西南部の「来る」として「あなたのところに行く」の意味が載っていました。「今から来るけん」という例文に「相手側に身を置いての表現」と注記されています。
ここで堀元さんが、長年YouTubeのコメント欄で最も多く寄せられる疑問を持ち出します。性的絶頂を日本語では「イク」、英語圏では「come」と言うのはなぜか、という問いです。
ゆる言語学ラジオ全回を通して来がちなコメントナンバーワンかもしれない。
堀元さんは、以前扱った視点の話を使って仮説を立てます。英語は神の視点でものを見て、日本語は一人称でものを見る。だから英語圏では「天に召される」イメージでcome、日本では「天に行く」イメージでイクと言うのではないか、という説です。
水野さんは、それを補強する材料として絶頂を表す英単語エクスタシーを挙げます。語源は「外に立っている」で、快感の頂点で自分の外に自分が立つイメージがあるといいます。俯瞰で自分を見る点が、神の視点という説明とつながります。
沖縄の「ちいちいかあかあ」で口の乾きを一言で
続いては、川満さんから寄せられた沖縄の「ちいちいかあかあ」です。口の中の水分が食べ物などによってなくなった状態を指します。
ちいちいかあかあは口の中の水分が食べ物などによりなくなった状態のこと。今ちいちいかあかあだわ。
堀元さんは、この言葉が便利な理由を丁寧に説明します。標準語の「口の中パッサパサ」は、フランスパンを食べたなどの文脈がないと意味が伝わりにくいといいます。
一方で「ちいちいかあかあ」は、食べ物を食べて口の水分が持っていかれた状態、という情報がその一語に入っています。だから「昨日ちいちいかあかあしてたからポカリを一気飲みした」と、文脈なしで言えるのが強みだと堀元さんは指摘します。
この言葉には、同じ意味で「ぺーちんぺーちん」という一部地域の言い方もあると投稿に添えられていました。二人はこの補足を気に入っています。
関西の「たっか高い」と、堀元さんの「ティンベーとローチン」
ここで話は関西の方言に移ります。ばこうおんさんが挙げたのは、京都弁で主に使われるという「たっか高い」「ほっそ細い」といった言い方です。
これは形容詞を二度重ね、促音を入れることで程度のはなはだしさを表す表現です。「こんなんたっか高いわ」のように使い、臨場感が伝わってくると投稿にはありました。漫才で芸人が言えばインパクトがありそうだと二人は話します。
ここから話は大きく脱線し、堀元さんが高校時代に流行らせたという「ティンベーとローチン」の思い出に移ります。漫画『るろうに剣心』に出てくる沖縄出身の盲目の剣士が使う、盾と槍の名前です。
お前の刀をこのティンベエ、盾ですね、ティンベエで防ぎ、ローチンで刺す。すげえシンプルな戦い方で、それをなんかお前秘技みたいな感じで喋るな。
堀元さんは、家に置いていた亀のぬいぐるみを友達に「ティンベー?」と言われた瞬間、意味がわからず2秒遅れて笑い出したといいます。それ以来、高校時代は「ティンベーとローチン」を言い倒したそうです。
流行りました?と聞いてさ。流行ってるって言うと思う?それ。全くしてないですね。
「なまら」「どえらい」、程度を強める方言はなぜ残るのか
話題は、話者自身の出身地の方言に及びます。方言はお年を召した人ほど出やすいという印象に対し、水野さんは若者が残しやすい方言もあると指摘します。
水野さんによると、その地域で若者が残す方言と残さない方言があり、程度のはなはだしさを表す言葉は比較的よく使われるといいます。感情を乗せるときに出やすいためではないかというのが、水野さん自身の見立てです。
北海道出身の堀元さんは、方言を出さないようにしていても「なまら」だけは残ると打ち明けます。「あいつスマブラなまら強えからさ」のように使うそうです。名古屋出身の水野さんも「どえらい」は使うといいます。
愛知の方言では、強調の言い方で出身地が尾張か三河かがわかるといいます。西の尾張は「どえらいうまい」、東の三河は「どうまい」。三河では強調の「ど」に促音がつき、「早い・ど早い・どっぱやい」と三段活用になるそうです。
水野さんは、三河出身の友人が新幹線を見て「どっぱええげ」と言ったのを聞き、言葉が汚いと感じたと話します。堀元さんは、水野さんの「どえりゃあはええわ」も結局は同じではないかとツッコみます。尾張と三河が互いを汚いと言い合う構図です。
奄美の「はげ」と沖縄の「うんにゃ」、かわいい方言2連発
ここから、水野さんが個人的に読みたかった鹿児島の方言が2つ続きます。まずは奄美大島から、ぴぴまるぴっぴさんが投稿した「はげ」です。
「はげ」は感嘆詞で、喜怒哀楽すべてに対応するといいます。うれしいときも心配なときも文頭に置ける万能さが特徴です。
Aさん「ベスト方言グランプリに選ばれた」、Bさん「ハゲ、すごいがね」らしいです。
投稿者は、奄美出身の彼女がつい「はげ」と言ってしまい、周囲を確認しなければならなくなると書いていました。こういう「はげ」の使い方があると広く知られてほしい、という切実な願いつきの投稿です。
もう1つは、ミミコさんが投稿した「うんにゃ」で、「いや、違うよ」という否定の言葉です。「あそこにスタバできたって」に「うんにゃ、タリーズよ」のように使い、語尾を少し伸ばす人が多いといいます。
水野さんは、否定語なのにかわいい点に注目します。否定語なのに、うんにゃなら相手をイラッとさせないというのが、共通語になってほしい理由だといいます。理屈っぽく否定から入りがちな二人の会話にも合うのではないか、と盛り上がります。
うんにゃ、とっても面白いよ。これいいね。なんかイラッとしないもんね。
パラオの「疲れ直す」は、ドラえもんの道具みたいな言葉
話は海を渡り、パラハタさんが投稿したパラオの言葉に移ります。方言と呼べるか二人も戸惑いますが、引きのある投稿として取り上げます。
紹介されたのは、ビールを意味する「疲れ直す」という言葉です。「疲れを直すもの」がそのまま名詞になっている点を、二人はドラえもんのひみつ道具のようだと面白がります。
もう最近毎日疲れてさ。疲れ直す。やだな、これ。
水野さんは、パラオにはブラジャーを「乳バンド」と呼ぶ言い方もあると付け加えます。ただし裏は取っておらず、「曖昧です」と留保をつけています。
大阪の「しゅんでる」、味が染みた感じが音に出ている
続いては、清朝言語話者さんが投稿した大阪の「しゅんでる」です。煮物などに味が染みている様子を表します。
この大根ようしゅんでて美味しいな。大阪とのことですね。
投稿には、「しゅんでる」の音そのものに味の染みた感じがある、というコメントが添えられていました。歯磨き粉シュミテクトの由来がこの言葉だという説も書かれていましたが、これも裏は取られていません。
堀元さんは、どうしても分子と分子の間に働く力ファンデルワールス力 ── 分子どうしの間に働く弱い引力。ここでは似た響きの「しゅんでる」との言葉遊びとして持ち出されているを思い浮かべてしまうと話します。水野さんは、味の表現の語彙が乏しい自分にとって、こういう言葉はうれしいといいます。
八丈島の「ゴラゴラエメ」と東京の「江戸でない」
ここからは、投稿フォームの別の欄に書き込まれた方言も拾われます。しんちゃさんが「ゴラゴラエメ」を、フォームの想定と違う場所に書いていたことから話が始まります。
「ゴラゴラエメ」は八丈島の方言で「早く歩け」の意味です。「ゴラゴラ」が「早く」、「エメ」が「歩け」にあたると二人は推測します。呪文やベイブレードの技のような響きだと盛り上がります。
ゴラゴラエメ。ハリーポッターみたい。ヴォルデモートが言いそうじゃないですか。
続いて水野さんが、辞典を引いていて見つけた東京方言「江戸でない」を紹介します。江戸らしくない、田舎臭いというところから「通りに合わないこと」を指す言葉です。
堀元さんは、地域名が入った方言としては、以前うんちくクイズで出た長崎の「島」もあったと振り返ります。塩気が弱いことを、長崎の味が濃いことに引っかけた言い方です。「江戸でないと言ってるやつが江戸でない」と二人は笑います。
東京方言「陰気覗き」から鼻濁音の話へ
辞典を引く堀元さんが、東京方言の「陰気覗き(かげのぞき)」を見つけます。ちょっと顔を出すことを指すおしゃれな言葉ですが、二人が驚いたのは表記のほうでした。
辞典では「陰気覗き」の「か」が、カタカナの「ケ」に丸のついた記号で書かれていました。これは鼻濁音 ── 「が」行の音を鼻に抜けさせて発音する言い方。「天気が」の「が」などに現れる。かつては上品な発音とされたを表す記号です。
水野さんは、鼻濁音をめぐる評価の逆転を説明します。かつては鼻濁音ができないほうが田舎っぽいとされ、アナウンサーは鼻濁音を練習していました。しかし現在は、鼻に抜けない「ンガ」でない硬い「ガ」のほうが野暮ったい印象を与えるといいます。
鼻濁音(ンガ)が上品とされ、できないと田舎っぽいと見られた
鼻濁音のほうが野暮ったい印象を与えるように変わりつつある
水野さんは、鼻濁音は英語のinterestingの「ng」や、日本語の「案外」を鼻にかけた発音と同じだと説明します。堀元さんは何度か発音を練習し、「陰気覗きは、陰気覗きぐらいのテンションではできない」と、丁寧に発音しないと出せないことを実感します。
大賞は奄美の「はげ」に決定
話が尽きないまま、水野賞・堀元賞・大賞を決める時間になります。水野賞は、清朝言語話者さんの「しゅんでる」です。味の染みた感じが音に出ていて使ってみたい、というのが理由でした。
堀元賞は、川満さんの「ちいちいかあかあ」です。堀元さんは音の響きが気になると言い、途中で「ティンベーとローチン」に脱線したり名前を「チーカチーカ」と間違えたりしながら選びました。
それお前中学から成長できてねえからやめて。
そして大賞は、ぴぴまるぴっぴさんの奄美大島の「はげ」に決まりました。喜怒哀楽すべてに使える万能さと、優しい世界になりそうだという理由からの選出です。
それ?それ大丈夫?ハゲ。
ただし二人は、頭髪の薄い人に「はげ」と言えば危ないと注意します。「今回のプレゼン良かったぞ」「はげ、ありがとうございます」と会社の上司相手に使う場面を想像し、危険だと笑い合います。
なぜ「はげ」を選んだのか、選考の2つの方向性
最後に水野さんが選考の方向性を語ります。1つは、名前がついていない概念に名前をつけた方言という軸です。第1回では、車がすれ違うことを指す「離合」がこの理由で選ばれました。
水野さんは、番組では名前がついてほしいのにない概念をエターナルエンプティ ── 番組内で作られた言い回し。名前がついてほしいのにまだ名前がない概念を指すと呼んでいると説明します。あとぜきのような言葉がこれにあたります。ただし今回は、その軸とは違う、もう少し優しい世界になる言葉として「はげ」を選んだといいます。
もう1つの方向性は、音の響きそのものが魅力的な言葉です。うんにゃのかわいさ、しゅんでるの響きのよさ、ちいちいかあかあやぺーちんぺーちんのような音象徴的な言葉も選んでいきたいと二人は話します。
番組では、自分たちで作った言葉を嬉々として使い、それを一生懸命解説するマッチポンプを繰り返しています。堀元さんは、新規の視聴者にリーチするためにこの解説を続けないと、コメント欄がちいちいかあかあになってしまうと、覚えたての言葉で番組を締めます。
自分たちで嬉々として喋り出して、それを一生懸命解説するっていうのを。ずっとやってるんで大丈夫かな。
まとめ
リスナー投稿の方言から便利な言葉を選ぶ第2弾では、熊本の「あとぜき」や大阪の「しゅんでる」など、標準語にない一語が数多く紹介され、大賞は喜怒哀楽すべてに使える奄美の「はげ」に決まりました。
- 「あとぜき」(熊本)は開けた戸を閉めることを指し、標準語にない便利な一語として辞典でも確認された
- 博多弁の「来る」は相手側に身を置いた表現で、英語のcomeに近い使い方をする
- 程度を強める方言(なまら・どえらい・たっか高い)は感情を乗せる場面で残りやすい
- 鼻濁音は、かつて上品とされたが、今は逆に野暮ったい印象を与えるように評価が変わりつつある
- 大賞の「はげ」は喜怒哀楽すべてに使える感嘆詞だが、頭髪の薄い人には使えない点に注意が必要



