どういう小説なのか、まずざっくり
この作品は2023年4月から2024年3月まで、日経新聞の夕刊で連載された長編小説です。
2025年に単行本になって、2026年に第23回本屋大賞を受賞しました。
話の中心にいるのは、アイドルグループの運営に関わる男性、推しで孤独を埋めようとする大学生、そしてある事件をきっかけに熱狂からはじき出された女性です。
仕掛ける側とのめり込む側、それぞれの視点から、現代人が「推しという物語」に依存していく過程が浮き彫りになっていきます。
タイトルの「メガチャーチ」というのは、本来は数万人規模の信者を抱える巨大教会のことなんです。
この作品では、特定の対象を熱狂的に支持する集団や、その熱狂を加速させる社会構造を象徴する言葉として使われています。
推し界隈にハマっていない大学生の女の子が、たとえ話としてこれを説明する場面があって、その説明もすごく面白かったんですよね。
バズっていた「オタク5分類」の話
この本が出たとき、すごく話題になったじゃないですか。
特に、仕掛ける側がオタクをタイプごとに分類するシーンが、切り抜きみたいにバズっていました。
年齢や住んでいる場所、性別じゃなくて、それぞれの気質で5つに分けるんです。
1つ目はプロデューサー気質。全てにおいてプロデューサー的な物言いをして、新曲が解禁されれば基本的に辛口批評。「気の利いたご意見番だと思っている節もあります」という書かれ方で、いる、いますねと思いました。
2つ目はアナリスト気質。とにかくデータ主義で、再生回数もCDの売り上げ枚数も逐一調査して歴代作品と比較してくれる。もはや仕事の域なのでは、という速度なんです。
3つ目は学級委員気質。これもいるんですよ。マナーやルールを守ることを第一優先にして、マイナスに働きそうな要素をいち早く見つけて取り締まる。
私も取り締まりはしないけど、「あ、やだな」と思う気持ちはあります。ならないように目を瞑る側なんですけどね。
4つ目は疑似恋愛気質。いわゆるリアコです。
そして最後が信徒気質。仕掛ける側が「我々は最も注意を払うべき存在です」と言い、オタクのことを「兵力」と呼ぶんです。
推しに対しては疑似恋愛どころか、ソウルメイトほどの感覚で心身を託している。「アイドルを目指してくれてありがとう」「生まれてきてくれてありがとう」という巨大な感謝系のフレーズをよく使う層として書かれています。
熱量の高い1万人という売り方
この5分類でなるほどと思ったのが、売り方の考え方でした。
なんとなくの100万人に売れるようにアピールするんじゃないんです。
熱量の高い1万人をしっかり掴んで、その人たちが勝手に物語を作って派生させていく。そういう売り方なんですよね。
学級委員気質の人も、社会を良くしていくという物語に没頭しているから、そこにうまく入り込めれば熱量高い1万人に化ける可能性がある、と書かれています。
私はこの分類がバズっていたので、「オタクを小馬鹿にしてるんだ」みたいな受け取られ方も目にしていました。
でも実際に読んでみると、「こんなオタクはいない」となる人はほぼいなかったんです。
朝井リョウさん自身がハロプロのオタクだからか、本当によくわかってらっしゃるなという感じでした。
リアルすぎる登場人物たち
物語の中心になるのは、あるオーディション番組から出てきた子たちの第2弾のグループです。
そこにハマっていくのが、自分に自信がない女子大生。MBTIでいうINFP、仲介者と判断される、理想が高くて内向的な子です。
クライマックスで、ネットで仲良くなった人たちと実際に会う場面があるんですが、これがリアルすぎました。
ただメッセージで呼び合うんじゃなくて、スペースで話しているんです。今だなと思いました。
会ってみると、他は40代前後、なんなら50代くらいの、少し手が離れたオタクの中年たちなんですよね。その子だけ若い。
オーディション番組から出てくると大体そうじゃないですか。そういうところもリアルでした。
もう一人、別の界隈にハマってしまう、心が弱い優しいタイプの人も出てきます。とある俳優さんを思い浮かべる方も多いんじゃないかと思います。
だからこれは、ただのリアルなオタクの話じゃないんです。
なぜ今、世の中がこうなっているのか。なぜみんなが自分の性格を判断したり骨格診断したりするのか。何を求めているのか。
選挙のことや、なぜトランプがもう一度選ばれたのかということまで、メガチャーチの話と関連してくる。いろんなことが知れてお得感があるんです。
物語として、恥ずかしい場面がつらくて面白い
わかっているだけの本かというと、そうじゃないんです。
物語として、特に中盤から後半にかけて、めちゃくちゃドライブがかかって面白いんですよ。
朝井リョウさんの作品はこれまでも読んでいて素晴らしい作家さんだと思っていましたが、これは頭一つ抜けたなと感じました。書いていて面白かったんだろうなというのが伝わってくるんです。
私が小説を読んでいつも「うわぁ」と思うのが、恥ずかしい場面なんです。
自分が隠していたものや、反対に大事にしていたもの、ごまかしていけるんじゃないかと思っているものが暴露されるシーン。
この作品にはクライムサスペンスみたいな側面もあって、私はそういう話で犯人の側に立ってしまう人間なので、つらい、でも面白いという気持ちに何箇所かなりました。
描写もうまいんですよね。セリフで説明していないんです。
40代前後の別の界隈のオタクの人が、興奮して大騒ぎすると隣の部屋からドンと壁を叩かれる、というシーンがあって。
それが後で伏線として効いてきて、「壁を叩かないで、でも叩いて」というシーンがすごく良かったんです。
あとは味噌玉を溶かすというシーン。比喩なのでネタバレにはならないんですが、すごく上手いなと思いました。
まとめ
ずっと「辛い話に違いない」と避けていた私が言うのもなんですが、読んで損したとは絶対に思わない小説でした。読んだ方とも、これから読もうかなという方とも、感想を語り合いたいなと今は思っています。 https://link.amazon/B02JeqMGb
- 『イン・ザ・メガチャーチ』は、仕掛ける側とのめり込む側から推しへの依存を描いた朝井リョウさんの長編で、本屋大賞を受賞した作品です。
- バズっていたオタク5分類は、「こんな人いない」とはならないリアルさで、熱量の高い1万人を掴む売り方まで見えてきます。
- 推し活だけでなく、中年の孤独や、今の世界情勢の背景まで関連づけて読めるところにお得感があります。
- 中盤から後半のドライブと、恥ずかしいものが暴露される場面のつらさこそ、この小説の面白さだと感じました。
