日本の小売レベルの高さを出発点に
番組「NIGERIA SHACHO RADIO」のこの回のテーマは、ナイジェリアの小売市場です。前回が製造の話だったのに対し、今回は「売る側」を扱います。
話の出発点として、ナイジェリア社長はまず日本の小売ビジネスの水準の高さを挙げます。旅行やビジネスでいろいろな国を見てきた経験から、日本の小売はレベルが高いと感じているそうです。
その象徴がコンビニです。24時間営業でクオリティの高い店は、他国にはなかなかないと話します。
アメリカのセブン-イレブンってものすごくご飯も美味しくないですし、あんまり行きたいような場所ではなかったりしていて。
中国や韓国、東南アジアのコンビニは「マシ」だが、日本ほどではないといいます。ドン・キホーテ、イオン、ダイソーなど、海外展開できる小売企業を持つ日本を「小売ビジネス大国」と位置づけ、それと比べてナイジェリアはどうかという切り口で話が進みます。
コンビニもチェーンスーパーもない買い物事情
ナイジェリアで実際に暮らすナイジェリア社長は、自分でも買い物をします。その実感として、まずコンビニはないと語ります。
住まいの近くに24時間営業の薬局はあるものの、それはラゴスで最も高級なエリアだからで、一般的にそうした店はないといいます。
チェーンのスーパーもあまりなく、小売市場全体が発達していない状況だと説明します。
では一般の人はどこで買い物をするのか。ナイジェリア社長は、日本のアメ横のような商店街の超巨大版、つまり青空市場を挙げます。何百、何千という店が連なる場所です。
さらに、その辺に傘が差してあり、その下に小さな屋台のような店が出ていて、食べ物や洋服を売っているといいます。こうした場所での買い物が、全体の90%以上を占めていると話します。
インフォーマルセクターが9割を占める市場構造
ナイジェリア社長は、この零細な売り手が国中に無数に散らばる状態を「インフォーマルセクター」と呼びます。プロパーな流通経路ではなく、カオスな中で小さなビジネスオーナーが並んで売っている形です。
市場規模の話に移ります。ナイジェリアの人口は2.4億人で、アフリカ最大の消費市場を持つ国です。
この人口は2050年には約4億人に達すると予測され、アメリカを抜いて世界3位になる見込みだといいます。インド、中国、ナイジェリアの順です。
日用品市場の規模は、2024年で300億ドル、今のレートでおよそ45兆円とされます。ただし、その中身の構造は日本とはまったく違うとナイジェリア社長は強調します。
ナイジェリアの小売市場は、インフォーマルとフォーマルの二層で考える必要があります。税金や法人登記の実態も定かでない小さな店であるインフォーマルが、90%を占めます。
日本はほぼ100%がフォーマルセクターに含まれるため、真逆の構造だといいます。東南アジアやインドにある大きなモールですら、ナイジェリアではまだ発達が遅れていると話します。
ほぼ100%がフォーマルセクター。コンビニやチェーンスーパー、モールが発達している
90%以上がインフォーマルセクター。青空市場や路上の屋台が主要な購買チャネル
卸と小売が混ざるカオスなサプライチェーン
インフォーマルセクターと一口に言っても、市場はいろいろあります。中でも特徴的なのが、卸と小売が明確に分かれていない点だとナイジェリア社長は指摘します。
日本のように問屋が小売店に卸すという綺麗な階層構造ではなく、大きい店舗を持つ人が小売もやりつつ、より小さい店舗への卸も同時にやっているといいます。
こうした中規模から大規模の店は、大きめの商店街に連なっています。例として、ラゴスのバログンマーケットという西アフリカ最大の市場が挙げられます。
そうした市場では、小売として買いに来る客もいれば、卸目的でトレードに来るビジネスの人もいて、店はどちらにも商品を提供しています。
「インフォーマル」と聞くと小さなビジネスを想像しがちですが、実態は違うとナイジェリア社長は言います。大きな倉庫を持ち、年商規模で数千万円から数億円、あるいはそれ以上という人もいるそうです。
ボロボロの建物で大金が動くギャップ
インフォーマルの中には、非常に大きな額をトレードしている人も混ざっているとナイジェリア社長は語ります。そうした人の店は立派なこともあります。
自分たちの顧客にも大口のトレーダーがいて、取引すると大きなお金がポンと動くこともあるといいます。
ただし、場所自体は日本の感覚だと「ここでやってるのか」と思うほどボロボロの建物だったりして、そのギャップが面白いと話します。
サプライチェーンの流れも説明されます。多くは中国から仕入れており、中国へ買い付けに行く人がいて、その人がナイジェリアの大きめの卸に卸します。
その卸が小売も兼ねつつ、さらに小さな小売へ卸していきます。最終的には、傘の下に立つ人や風呂敷を広げて売る人といった街中の店に、少しずつ卸されていく形です。
小売や卸は薄利で、10%から20%乗せられたらいい方だとナイジェリア社長は言います。多くのトレーダーが少しずつ利益を乗せていく環境です。
中国での買い付け
中国へ買い付けに行く人が商品を仕入れる
大きめの卸
仕入れた商品をナイジェリアの大きめの卸に卸す
卸兼小売
卸をしつつ小売も兼ねる商人がより小さい店へ卸す
街中の零細店
傘の下や風呂敷の露店など、街中の小さな店で消費者に売られる
ファミリービジネスがチェーン化を妨げる
こうしたビジネスの担い手も、日本と感覚が違うとナイジェリア社長は語ります。会社を登記している人も多い一方で、かなりの割合がファミリービジネスです。
血の繋がっていない人と組むより、血縁で信頼し合ってやっているケースが多いといいます。
面白い例として、5人兄弟で全員が靴屋という顧客が紹介されます。兄が中国で仕入れ役を担い、ラゴスなどに残り4人がそれぞれ1店舗ずつ持っているという形です。
5店舗目を出すのが難しい。なぜなら兄弟が足りないからみたいな形になっていたりして。
これが、ナイジェリアの小売店が巨大チェーン化しにくい理由の一つだとナイジェリア社長は考えます。
背景には、ナイジェリア人同士で疑い合う構造がよくあり、家族以外の関係をなかなか信頼できないケースが多いことがあるといいます。これが中小企業から大企業になるステップを妨げている側面がある一方で、昔ながらの風情のあるビジネスとも捉えられると話します。
ガラガラの高級モールとスーパーの現状
続いてフォーマルセクターの話です。外国人や、ある程度の富裕層のナイジェリア人は、普通にスーパーマーケットで買い物をします。
都市部の中間層以上は利用しますが、ナイジェリアは中間層のサイズに課題がある国なので、スーパーの店舗数も限られているといいます。
モールについては、ナイジェリア社長の家の近くにあるイケジャシティモールが、同国最大のものとして挙げられます。
サイズ感のイメージとしては、田舎の高速道路沿いにあるイオンくらいの感じのやつが、最大のものとして一個あるみたいな感じになっています。
そのモールには、スーパー、映画館、ゲームセンター、いくつかのレストランがある一方で、行くと割とガラガラしているといいます。
ラコステやプーマ、アディダス、ナイキといった高級ブランドの正規店も入っていますが、あまり買う人はいないそうです。
理由として、供給が限られる分、値段が高めであること、そして買える層はそもそも海外に拠点を持つ二拠点生活者が多く、海外で買い物するのが普通になっている点が挙げられます。
そのため需要は限定的で、日用品を買うスーパーはそれなりに賑わうものの、モールは人が少なめだとナイジェリア社長は述べます。
AmazonがなくECのJumiaも黒字化できない理由
フォーマルセクターの中でも、ECやデリバリーという新しい分野は見逃せないとナイジェリア社長は話します。まずEC定番のAmazonは、ナイジェリアでは使えません。
Amazonは進出しておらず、進出をたまに発表するものの実現しないまま来ているといいます。物流の難しさに加え、そもそもモールも盛り上がらない国で、マス層にECはまだ早い経済状況だと説明します。
その代わり、現地のJumiaというECが存在します。大きな会社で定番ではあり、ナイジェリア社長も使ったことがあるそうです。
ただしJumiaは、2012年の創業以来、営業費用が売上を上回ったことがないと2025年の報告で明記されており、基本的にまだ黒字化できていないビジネスだといいます。
ECが使われにくい背景には、超富裕層と貧困層への二極化と、薄い中間層があります。貧困層はインフォーマルの方が圧倒的に安い商品が手に入るため、ECは選択肢に入りにくいといいます。
一方の富裕層は、しっかりお金を持ち、人件費の安い国であるため、月収1万円前後のお手伝いさんや運転手を気軽に雇っています。
そのお手伝いさんにスーパーやモールへ買い物に行ってもらえば、その日のうちに欲しい商品が手に入ります。数時間で持ち帰ってくれるため、その方が圧倒的に楽だとナイジェリア社長は語ります。
日本で翌日に届いたらすごいみたいな話ありますけど、ナイジェリアでお手伝いさんに行ってもらう方が早いんですね。
さらにJumiaは倉庫に在庫がないと数週間待たされることもあり、短くても数日は当たり前だといいます。
加えて、ナイジェリアは住所が曖昧で、日本のように明確に整理されていません。デリバリーのサービスレベルも低く、届かない、あるいは届いても壊れているといった事故が起きやすいそうです。こうしたトラブルのイメージも相まって、ECの利用が進まない現状があると説明します。
貧困層
インフォーマルの方が圧倒的に安く、ECは選択肢に入りにくい
富裕層
安い人件費でお手伝いさんを雇い、当日中に買い物を代行してもらえる
物流の弱さ
住所が曖昧でサービスレベルも低く、遅延・破損・不着が起きやすい
送料数十円、ホストも重宝するデリバリー
もう一つの分野としてデリバリーサービスがあります。お手伝いさんが買い物に行くやり方に加え、日本のフードデリバリーのようなサービスや、スーパーのクイックコマースもよくあるといいます。
ナイジェリア社長自身もよく使っており、非常に便利だと話します。ナイジェリアは渋滞がひどく、車で出かけるのが面倒なときに届けてもらえるのは本当に助かるといいます。
決済もオンラインで可能なため、現金を渡す必要もなく、食材が揃うそうです。ラゴスであれば便利だといいます。
特に評価するのが送料の安さです。本当に数十円とかで運んでくれる点で、ここは日本より便利だと感じているとナイジェリア社長は語ります。
自身はナイジェリアでは富裕層に当たる生活をしているため、買い物に行ってもらうこともよくやっているそうです。
インフォーマルばかりでフォーマルは店も少なく、しょぼいと見られがちかもしれないが、自分は買い物事情をかなり便利に思っていて、慣れてしまったといいます。むしろ日本でわざわざ自分でスーパーに行く方が面倒に感じるほどだと話します。
参入で犯しがちなミスは「中間層向け」の商品
ここからは、この市場でどう進出していくかという話に移ります。事業をしたい人にとって重要な部分だとナイジェリア社長は述べます。
概観を復習すると、ナイジェリアは二極化が進み、市場はフォーマルとインフォーマルに分けられ、基本的にはインフォーマルがほとんどを占めます。
そのうえでやってしまいがちなミスが、日本で売れているような中間層向けの商品設計をしたり、そうした商品を持ち込んでしまうことだといいます。中途半端なので誰も買わない事態が起きます。
日本は最も中間層が厚い市場であり、そこで売れる商品とナイジェリアで愛される商品はどうしても異なるとナイジェリア社長は語ります。
結果として、本当に安い商品か、超高級層向けの商品かに二分化しやすい市場になっています。最下層にも最上層にも刺さらない商品は流通しにくく、悪いパターンだといいます。だからこそ、どちらかをまず絞ることが重要だと話します。
超高級層という選択肢とバブリーな消費
絞るべき2つの選択肢のうち、まず超高級層についてナイジェリア社長が説明します。ナイジェリアには富裕層が確かにいて、しかも一箇所にまとまっているのが特徴です。
治安の関係で富裕層エリアがはっきり決まっており、そんなに大きくないエリアにほとんどの富裕層が密集しているといいます。そこで取引される商品は非常に高額です。
先進国よりも高く売れるものもあり、例としてランドクルーザーの新品が2000万円ほどで売れていたり、レストランで1〜2万円するところがたくさんあると挙げられます。
ナイジェリアの富裕層はバブリーなお金の使い方をしがちで、支払いもよいといいます。高級住宅ブランドや高級ファッションブランド、高級レストランのアプローチで成功している起業家もたくさんいると話します。
味の素グリーンベレー方式に学ぶマス向け攻略
もう一つの選択肢が、一般層向けの商材のアプローチです。これはナイジェリア社長たちの事業や、中国人の起業家がよく取る方法で、9割を占めるインフォーマルセクターへのアプローチになります。
このとき注意すべきは、高級スーパーやモール、ECに商品を並べることを成功だと捉えないことだといいます。インフォーマルで買い物する人と、スーパーやモールで買う人はまったく違うカテゴリーだからです。
そのため、場所を選ぶより、実際のストリートマーケットの商品を分析したり、その卸業者とつながったりして、そうした場所で流通させることが基本になります。つまり、アメ横のような場所に行きまくる形になるといいます。
成功事例として、味の素の「グリーンベレー部隊」が紹介されます。ナイジェリア社長は、これは通称であり、味の素が社内で実際にそう呼んでいるかは分からないと断っています。
味の素は途上国でよく売れている調味料で、その本にはフィリピンや中国、ナイジェリアを含め、営業部隊がどう市場を広げたかが書かれているといいます。
売り方は、1パック数円のサシェの味の素を、現地の傘の下の小さな小売店へ1店舗ずつ回って自分で卸すというものです。卸業者を挟まず小売店に直接回る営業部隊を作り、一流大学出身の日本人駐在員が自ら一緒に回り、マネジメントもするパワフルな方法だと説明されます。
本当にこういう足で稼ぐ営業みたいなのをやることで制圧できるみたいな市場でもあるという感じですね。
味の素はこの方法で各国で数百億円を売り上げているといい、ナイジェリア社長はすごい会社だと評価します。
まとめ
ナイジェリアの小売市場は、インフォーマルが9割を占める日本とは真逆の構造です。参入するなら、超高級層向けかマス向けの低価格品かを最初に決め、それぞれに合った売り方を徹底することが重要だとナイジェリア社長は結論づけます。
- ナイジェリアの小売はインフォーマルセクターが90%以上を占め、青空市場や路上屋台が主要な購買チャネルになっている
- 卸と小売が分離しておらず、ファミリービジネス中心の構造がチェーン化を妨げている
- フォーマルのモールやスーパーはガラガラで、AmazonもなくECのJumiaも黒字化できていない
- 富裕層はお手伝いさんによる買い物代行や送料数十円のデリバリーを使い、ECの必要性が薄い
- 参入では中間層向け商品を避け、超高級層かマス向けかを絞り、マス向けは足で稼ぐ営業が勝ち筋になる







