3年かけた女性社会参与の研究が、20時間の音源になるまで
今回の告知は、株式会社COTENが長期プロジェクトとして進めてきた、女性の労働市場参加に関する調査音源の公開です。深井さんは、3年ほど前から徹底的に歴史上の女性の立場を調べてきたと話します。
調査範囲は歴史だけにとどまりません。生物科学、動物行動学、心理学、社会学、フェミニズム論 ── 女性の権利や、性別による社会的な不平等の構造を研究・議論する立場や理論のこと。まで、あらゆる分野を調べたといいます。
その目的は、日本で女性がビジネスや政治の意思決定層にほとんどいない現状を、どう改善できるかを構造的に明らかにすることでした。
調査だけで1年半から2年ほどを費やし、アウトプットはA4で1600ページ分ほどになったといいます。それを音源化したのが今回のコンテンツです。
だってあれ、計20何本ぐらい撮ってるんでしょ?音源。
20何本撮って。なるべくわかりやすく短くしようとしたけど、20時間分ぐらいになった。それぐらい必要だった。
コテンラジオではキュレーションに徹し、自分たちの仮説を立てる手法は原則取りません。しかし今回は、アカデミアで研究されていることと、企業や政治で実践できることの間にあるブランクを埋める必要があったといいます。
ミッシングリンクがあるわけですよね。ここはやっぱり埋めないとアクションが踏めないから、そこは埋めていこうという試みも、実は今回僕らは初めてやってるわけです。
なぜ無料公開ではなく招待制なのか
深井さんはまず結論として、この音源をコテンラジオのように全員へ無料で公開はしないと明言します。招待制にして、しかるべき人にまず届けたいという考えです。
招待制を選んだ背景には、ジェンダーギャップが激しい日本社会での炎上リスクがあります。聞いてもいない人からの批判で不毛な議論になることを避けたいといいます。
無料で公開して、聞いてもない人から言われもない批判みたいなのをSNS上で炎上するみたいなことをしても不毛だなってめちゃくちゃ思ってまして。
メインの対象は大企業です。中小企業やスタートアップにも聞いてほしいものの、社会変革に最も効率的につながるのは大企業を先に動かすことだと、歴史的知見から仮説を立てています。
コテンの工数には限りがあるため、全員に一気に対応することはできません。だからこそ優先順位をつけ、大企業のDEI部署や経営者、マネジメント層にこの問題を理解してもらうことを最優先にしたと説明します。
クルーは無料、法人利用は有料。性善説に立つ料金設計
招待は、コテンが選んだ1000人ほどから始まります。この問題にコミットしてきた人や、しかるべき部署にいる人を選びたいという考えです。
一方で、過去に一度でも個人クルーか法人クルーになったことがある人には、招待券なしで無料で聞ける権利が提供されます。理由は、この活動がクルーのおかげで成り立っているからです。
これは何でかっていうと、クルーのおかげでできてるからです。
料金設計は独特です。個人が聞いて個人で活かす範囲は無料ですが、法人が意思決定や制度、研修に活かす場合は有料になります。
しかもその有料化は自己申告制です。無料で聞いた個人が、企業に活かしたと判断したら、自分から申告してお金を払う仕組みだといいます。
すごいめちゃくちゃ性善説。
利用規約には無断で組織利用しないよう書かれていますが、コテンが厳しく取り立てる態度は現時点で取らないといいます。まずは関心のある人にちゃんと拡散され、理解した人が組織に活かしたいと思ったときに支払うことを想定しています。
招待制で聞き、個人で活かす範囲は無料
意思決定・制度・研修に活かす場合は有料(自己申告制)
人文知が交換経済で回る、新しいビジネスモデルの意味
この設計で深井さんが重視しているのが、人文知が贈与経済ではなく交換経済上でマネタイズできるという実績です。数年研究したらマネタイズができたという新しいビジネスモデルが成立することに、大きな意味があるといいます。
人分値を数年研究したらマネタイズができたっていう新しいビジネスモデルが爆誕する。
これが可能になれば、コテンが進める戦争のメカニズム調査やポスト資本主義の調査など、他の研究も社会に活かせるようになると深井さんは話します。これは以前に触れた意味価値という考え方につながります。
深井さんは、調査メンバーに1000万以上の給料を払いたいため、正当に高い金額で請求する意向を示します。ズルをしようと思えばできるが、しないでほしいという姿勢です。
規模とタイプで変わる料金。無料になる組織もある
料金は一物一価ではなく、企業の規模やフェーズに合わせて変わります。同じ使い方でも、規模が大きいほど適用範囲と社会的インパクトが大きいため、高くなる設計です。
たとえば3人や15人のスタートアップが制度設計に活かす場合は数万円程度ですが、5000人や1万人規模の会社になると数百万円になることもあるといいます。
一方で、NPOや学校法人、宗教法人は組織利用でも無料です。政治家や行政も無料で活かしてよいとされています。
ちなみに政治家は全員無料で聞いていいし、行政も無料で活かしていいです。(ただし)何も期待してないけど。
深井さんは、この料金設計には2つのエンジンが働いていると説明します。人文知が社会に浸透するビジネスモデルとして確立することと、社会変革に必要な拡散がちゃんとなされることです。
聞いた人にしか価値がわからない。バイラルで広げる狙い
楊さんは、普通の企業ならコストを回収するためにコンテンツを販売するはずだが、なぜその方法を取らなかったのかと問います。
これだけ時間とコストをかけて作られたコンテンツを、あえて普通に販売しなかったのはなぜか。
楊睿之 さんからの質問
深井さんは、人文知は聞いた人にしか価値がわからないという特性があるためだと答えます。聞いていない人に売ろうとすると、価値が伝わるように情報を棄損させ、無理に売る形になってしまうといいます。
今回の設計では、聞いた方がいいと思った人にバイラルで広がり、価値がわかった人だけが課金する状態が生まれます。深井さんはそこに意味を置いていると強調します。
普通に販売すると、やる気はないが上司に言われて安く買い、理解しないまま文句を言うといった現象が起こりえます。その段階でコテンは儲かっても、世界は何も変わらないと深井さんは考えています。
聞いた方がいいなって思った人にバイラルで聞かれていきます。聞いて価値がわかった人だけ課金してる状態っていうのはこれで誕生するわけ。
女性の意思決定力を活かせない日本の深刻さ
深井さんは、日本の女性参画の問題を構造レベルで見ると非常に深刻だと語ります。人類の半分の決定力リソースを使えていない状態は、今後の技術発展を考えると人材流出リスクが極めて高いといいます。
女性の意思決定力は男性に遜色なく強く、属性が違うことでダイバーシティとしても重要だと深井さんは話します。その半分に社会的にアクセスできないのが今の日本社会だという指摘です。
その意思決定力の半分に社会的にアクセスができないっていうのが今の日本社会なんですよ。
深井さんは、日本はドイツやアメリカ、イギリスに比べて意思決定リソースへのアクセスが弱い状態で経営していると指摘します。優秀な若い女性は言語の壁を越えて海外に流出し、それを止める手立てもないといいます。
さらに、生成AIの登場で実務の多くが代替される中、意思決定という仕事だけが人間に残り、より重要になると深井さんは見ています。その意思決定を、今の日本社会はおじさんからしか調達できていないという構造です。
なぜ20時間なのか。感覚ではなく社会科学で判断する
深井さんは、大企業の経営者もやばいとは思っているが、構造的な理解は1パーセントから3パーセントほどしかないと見ています。だからこそ20時間聞かないと、理解が8割や9割に達しないと話します。
現状理解のレベルは、ヨーロッパを100とすると日本の経営者の平均は30ほどだといいます。その差の原因を、深井さんはシンプルに勉強不足、人文知と社会科学の不足だと考えています。
なんでそんな差が出るんだろうね。
勉強不足だと思います。シンプルに。人文地と社会科学の不足だと思ってます。
深井さんは、経営者たちは賢くロジカルだが、社会科学に対しては感覚で否定する態度を取っていると指摘します。自然科学に対しては取らない態度を、社会科学には平気で取っているという問題意識です。
みんな社会科学に平気でその態度取ってるんですよ、今。経営者の人たち。それは僕はね、やっぱりね、やめた方がいいと思ってる。
20時間は削ろうとした結果でもあり、エグゼクティブ向けに、まずヤバさだけを2時間で伝える研修も別途作ろうとしていると深井さんは話します。
7社の企業連合と、200社への拡大戦略
この音源公開に先立ち、覚悟を持ってコミットする企業だけで7社の企業連合が作られています。この連合がドラスティックな判断をし、構造理解に基づいた決定をすることで社会変革を起こす戦略です。
鍵になるのは採用です。深井さんは、これからの企業は戦略よりも優秀な人材をホールドできるかで決まると見ています。戦略は外注できても、意思決定を含む執行は外注できないからです。
女性やこの問題を構造的に理解している人が、前向きに解決しようとする会社にしか未来がないと感じて集まる流れを作りたいと深井さんは話します。採用でアドバンテージを取られれば、同業他社も追従せざるを得なくなるという読みです。
7社は1年から2年かけてドラスティックな施策を打ち、雑誌などに取り上げてもらいます。その後、今から2年後から3年後には200社ほどまで一気に拡大する計画です。
200社は上場企業の5パーセントほどにあたります。5パーセントが構造を理解して判断し始めれば、全体に強い影響を与えると深井さんは見ています。
7社の企業連合
ドラスティックな施策を打ち、実績を前に出す
200社へ拡大
上場企業の約5%が構造理解に基づく判断を始める
国が追従
既成事実をもとに法律が制定される
中小企業へ浸透
法制度を通じて社会全体に広がる
政治には最初からアプローチしていません。民主主義は小さな意見も無視できず、ドラスティックな判断ができないため、最後に動くという考えです。だからこそ民間で既成事実を作り、成功事例をトレースしてもらう順番が妥当だと深井さんは話します。
広告モデルを取らない理由と、日本のカルチャーへの賭け
樋口さんは、このやり方を聞いたことがないと評します。深井さんは、これが広告モデルではないことが大きいと応じます。広告モデルは情報劣化が激しく、意味が毀損していくためです。
やっぱり広告モデルっていろんないいところもあったんだけど、やっぱりその意味が毀損していくんだよね。情報劣化がすごいんですよ、広告モデルって。
今回の音源は、原則として紹介制で個人から個人へ広がります。聞く権利がない人には、少しずつ浸透するので待ってほしいという姿勢です。
クルーではないが応援してくれた人については、カウントができないため今すぐは対応できないとしつつ、深井さんは感謝を繰り返し伝えます。自分は聞くべきだと考える人は、理由を添えて問い合わせフォームから主張してほしいといいます。
ただし承認は恣意的で、理由の説明にも対応しきれないと率直に語ります。人を動かし審査すること自体にコストがかかり、コテンのリソースには常に限界があるためです。
資金調達もしてるけど、全然お金足りてないので、人手も足りてないから、ちょっとそこ無理かなって思ってる。
自己申告制という緩いルールを成立させられるのは、日本のカルチャーだからだと深井さんは考えています。アメリカやイギリス、中国では取らないやり方だといいます。
僕は日本人は自発的モラルで動いてる人たちだと思ってるんで、自発的モラル駆動でお任せしたら普通に自己申告してくださるのではないか。
これは社会実験でもあり、失敗したらその結果もシェアすると深井さんは話します。追随する人が同じように失敗する可能性も含めて、仮説として検証していく姿勢です。
音源の中身。歴史からマイノリティ共通の構造を見出す
音源の構成について、深井さんは前半と後半で内容が分かれると説明します。前半は日本と世界各国のジェンダーギャップの現状、そして各国の法制度の比較から始まります。
その後、現状がどのような歴史的系譜で生まれたかを各国で掘り下げます。この歴史理解の段階で、女性が社会参画すべきではないという歴史的言説のほとんどが否定されるといいます。
たとえば武士の時代に男性が介護をしていた事実などが出てきて、ケア労働が女性だけの仕事ではなかったことがわかると深井さんは話します。ただし単純には言えず、詳細は本編で語られます。
後半では、女性の地位が上がった瞬間と下がった瞬間の傾向を歴史的に見ていきます。そこから、女性に限らずマイノリティ全体に共通する法則が見えてくるといいます。
武士とかね、あと黒人とかね、障害者とかね、そういうそれぞれのセクターが権益を獲得していくプロセスって、女性に限らず全部一緒じゃんっていうのが分かってきた。
動物やホモ・サピエンスの地位形成のあり方までさかのぼり、女性の地位が今こう現出している理由を5つのプロセスとして整理していくといいます。この構造理解の部分は、深井さん自身が「クソ難しい」と言うほど難易度が高い内容です。
男性ほど理解が難しい理由と、中途半端な当事者性
深井さんは、この構造理解は男性のほうが難易度が高いと話します。女性は自分の経験が反映されやすく、経験を構造的に説明される体験になりやすいためです。
一方で男性は、女性と一緒に働いてきたという意味で中途半端に当事者です。完全な異国の話なら新鮮に受け取れますが、中途半端に当事者だからこそ自分の感覚を優先してしまうといいます。
いや、実際に女性と働いてきた感覚からすると、いや女性って結局家事とかするじゃんみたいな話とか、女性がした方がいいじゃんみたいな意見に流されちゃう。
音源では、その感覚がどこから来ているのか、そして技術発展と世界情勢を踏まえてどのタイミングで因果が変わるかまで予測して語られるといいます。だからこそ難しいが、理解すればしっかりわかる状態になると深井さんは話します。
株式会社こそ社会科学を使うべき、という問題意識
深井さんは、株式会社は自然科学を使いこなす一方で、社会科学をほとんど使えていないと指摘します。工学や医学は活用するのに、社会学や心理学の知見は経営に取り入れられていないという見方です。
女性の社会参画をめぐる議論は、質的調査や量的調査、統計に基づく社会科学的アプローチそのものだといいます。深井さんは、自然科学のように社会科学を使えば企業は強くなると考えています。
今回の音源は、コテンラジオと違い、企業の具体的な意思決定に介入する内容です。だからこそ交換経済でお金をもらう位置づけになっています。
今までコテンラジオはさ、株式会社の具体的な意思決定判断までには介入しなかったじゃん。でもこれはさ、意思決定に介入する話をしてる。
深井さんは、日本企業がこの問題に対して現状認識も決断もできていない状態を、関ヶ原での長宗我部盛親にたとえます。全体構造を把握して果断に判断した家康との対比です。
DEI担当者へのお願いと、意思決定のプライオリティ
深井さんは、DEIや女性推進に関わる部署の人に、招待を待たずに問い合わせフォームから申請してほしいと呼びかけます。
この変え方で日本社会が変わるときの最大のネックは、経営者が理解しないことだと深井さんは指摘します。経営者が理解していない会社は、この問題のプライオリティを上げられないためです。
深井さんの危機感は、経営者がプライオリティを下げることそのものではありません。同じ情報を持った上で優先度を下げる判断は問題なく、理解しないままプライオリティが低いことが危険だと考えています。
同じ情報を持った上で、それをあえてプライオリティを下げるっていう決断は別に全然いいと思ってるんですよ。理解してないのにプライオリティが低いからやばいんじゃない?って言ってるんですよね。
経営者は20時間を空けられず、プライオリティを理解していないから聞かないという悪循環が起こりえます。だからこそ、理解したDEI担当者に、腹をくくって経営者に理解させるアクションを取ってほしいと深井さんは訴えます。
過去の正解が通用しない時代に必要なのは「意志」
深井さんは、これからの30年が過去の30年と同じにはならないと語ります。これほどの技術発展と世界情勢の変化がある中で、過去に正しかった決定が絶対に正しいことにはならないといいます。
未来がわからない中で大事なのは、うまくやることではなく、より良くしようとする意志だと深井さんは強調します。
深井さんは、賛同してより良くしたい人に「狂ってください」「バグってください」と呼びかけます。吉田松陰と同一視されたいわけではないと断りつつ、普段ならしない行動を取ることで社会が変わるかもしれないという意味です。
危機感より希望。女性の決定力が活きた日本の未来
最後に深井さんは、動機は危機感だけではないと語ります。日本は意思決定層にほとんど女性を回せていないのに、ここまでいい国にできているのはすごいことだという見方です。
深井さんは女性の決定力や判断力を男性と同等に素晴らしいと考えており、それを活かせたらどれほどいい未来が来るかという点に強い希望を持っています。
女性の決断力使えてる未来来た場合の日本相当やばくない?っていう感じでやりたいです。超良くなっちゃうじゃんつってやりたいですね。
楊さんも、社会がどうなっていくかが楽しみだと応じます。深井さんは、聞ける人はとにかく聞きまくってほしいと呼びかけて締めくくりました。
まとめ
株式会社COTENが3年かけた女性社会参与の研究を、無料公開ではなく招待制と自己申告の有料モデルで届ける挑戦です。聞いた人にしか価値が伝わらない人文知を、意味を保ったまま社会変革につなげようとする試みが語られました。
- 3年の調査を20時間分の音源にまとめ、招待制で拡散する。過去にクルーになった人は無料で聞ける
- 個人利用は無料、法人が意思決定や制度に活かす場合は規模に応じた有料(自己申告制)とし、人文知を交換経済で回すモデルを狙う
- 大企業7社の連合から始め、200社、国、中小企業へと既成事実を広げる社会変革の順序を描く
- 日本は意思決定層に女性を回せておらず、生成AI時代に人材流出リスクが高い。経営者の構造理解が最大のネックとされる
- 過去の正解が通用しない時代に必要なのは、うまくやることより「より良くしようとする意志」だとメッセージが送られた





