エスカレーターの片側空け、なぜ樋口は運動として通せんぼするのか
番外編の冒頭、深井龍之介さんが「どうやら樋口さんがお怒りのようで」と切り出します。樋口聖典さんは「社会派やから、樋口は」と自称し、社会に本気でイラついていることがあると語り始めます。
樋口さんが最初に挙げたのがエスカレーターです。片側を空けて乗る慣習を「もうやめれや」と物申します。理由はシンプルで、エスカレーター会社が公式にやめましょうと言っているからです。
動く階段あるじゃないですか。(片側空けるのを)もうやめれや、っていう。
樋口さんによると、東京では左に並んで右を空け、その右側を歩く人がいます。しかし重量が左に偏るうえ、そもそも歩くと危ないため、二列で乗るようアナウンスでも呼びかけられていると説明します。
エスカレーターでは二列でお乗りくださいって言ってるんですよ。なのに一向に直らないじゃないですか。
樋口さんは、管理者が公式に言っていることよりも、なんとなくの文化や習慣、人の目を優先してしまう点を問題視します。楊睿之さんは「それ日本人の特徴ですけどね」と応じます。
それでも樋口さん自身、片側が空いた中で右に飛び出して通せんぼするには覚悟がいる、という気持ちはわかると認めます。「何こいつ変な人」と思われるからです。
その樋口さんが行動を変えたのは、あるエスカレーターで片側空けの慣習が解消された、という伝聞がきっかけでした。
(片側空けを)どうやって解消したかっていうと、バイトを雇って通せんぼさせたらしいんですよ。
何人かのバイトが何度も乗って通せんぼした結果、「あの人がやっているし、ここは二列で乗る文化だ」となり、そのエスカレーターは二列になったといいます。深井さんは、それが慣習の変わる瞬間だと受け止めます。
この話を聞いて以来、樋口さんはどんなに変な目で見られても通せんぼをする「運動」として実践していると語ります。金髪に帽子姿のアクティビストです。
樋口さんは、フラッシュモブが広まる有名な動画も引き合いに出します。広場で最初の一人が踊り出すと「ただの変人」ですが、二人目が加わるとムーブメントになる、という話です。
だから僕は最初の変人でいいと思ってんです、そこの場では。
なぜエスカレーターだけに執着するのか。二列のほうが効率もいい
楊睿之さんは、社会にいろいろな問題がある中で、なぜエスカレーターに執着するのかと問いかけます。
そのなんかいろんな問題あるじゃないですか。その中でそのエスカレーターに執着する理由って何なんですか。
樋口さんの答えは、いい悪いでいうとかなりはっきり「いい」と言えるからだ、というものです。多くのことにはメリットとデメリットがあるが、エスカレーターは絶対に二列のほうがいいと強く思っている、と語ります。
その根拠として楊さんが挙げたのが効率です。上に運べる人数は二列のほうが多く、行列ができているときは、片側を急ぐ人用に空けるより二列で運んだほうが全体では早いと説明します。
急いでる人は実は二列になって乗った方が早い。
深井さんも、片側を大体遊ばせている点を指摘し、トータルでは効率が悪いと納得します。楊さんはさらに、片側歩行はメーカーから禁止されている危険な行為で、故障にもつながると付け加えます。
樋口さんが力を入れる理由はもう一つあります。この反対運動はゼロ円でできて、労力もかからないという点です。人がそうしようと思うだけで変わるのに変わっていないから、強い覚悟でやる人が必要だと考えています。
ご祝儀だけは絶対キャッシュレスに。現金保管と借金のリスク
続いて楊さんが持ち出したのがキャッシュレス化です。樋口さんは常々これを主張していますが、現金にもメリットがある、という反論も理解できると語ります。
樋口さんが挙げる現金のメリットは、携帯の充電が切れたときの不便さ、割り勘時に決済アプリがそろわない互換性の問題、そして店側が負担する決済手数料です。手数料の分だけ店の利益が落ちる点は、言われたらわかると認めます。
そのうえで、これだけは変えたいというのがご祝儀のキャッシュレス化です。
結婚式のご祝儀だけは絶対に、絶対にキャッシュレス化した方がいい。
樋口さんは、結婚式にはものすごい大金が集まると説明します。1人平均3万円でも、30人で90万円、人数が増えれば数百万円になり、自分のときも実際に数百万円が集まったといいます。
現金として保管すること自体がリスクであり、幸せな余韻に浸る一方でその大金を管理し、安全に銀行へ持っていくタスクが発生します。もし数万円なくなっていた場合の紛失リスクや責任問題も生まれます。
さらに、金額が合わないときの確認や、履歴が残らない不便さもあると指摘します。加えて樋口さんの場合、ご祝儀を式のあとにしか受け取れないため、式場への支払いのために一度お金を借りる必要があったといいます。
これ結婚式が終わらないとお金もらえないせいで、僕の場合、一回お金借りないといけなかったんですよ。
事前に振り込みでもらえていれば、こうした問題は全部なくなる、と樋口さんは主張します。ご祝儀袋を用意する手間も、新札をわざわざ用意する文化も不要になると畳みかけます。
誰があれ得してるんですか、新札じゃないといけない文化。
受付に渡すだけでも儀式なのか。ホモサピと儀式をめぐる激論
キャッシュレス反対派の言い分として、ご祝儀は物として手渡すことに価値がある「儀式」だ、という意見があります。樋口さんはこれに「バカかと。渡してるの受付の人やから」と反論します。
新郎新婦や親族に「いつもありがとうございます」と渡すならまだしも、実際は受付の友人がチェックして終わるだけだ、というのが樋口さんの言い分です。楊さんは、封筒の字や選び方に気遣いが表れる点をわずかなメリットとして挙げます。
ここから楊さんが儀式論を展開します。受付の人に渡すのだとしても、その一連の行為自体が結婚式という儀式の一部を形成している、という主張です。ホモサピ ── ホモ・サピエンス、つまり人間のこと。コテンラジオでは人類の性質を語る際にたびたび使われる表現。
一連の意味のない行動が儀式だからさ。
楊さんは、樋口さんの主張はホモサピへの理解度が低い、と切り込みます。楊さん自身は儀式が嫌いだったものの、組織を作りある程度の人数が集まると、儀式が必要になると気づいたと語ります。
楊さんによれば、儀式は効率化すると儀式でなくなります。「なんでこれをするのか」と思う無駄な行動があるからこそ儀式になる、というのです。ご祝儀もまさにその一例だと位置づけます。
楊さんは、形が変わっても儀式である以上は「なんでこれをするのか」という要素は残るはずで、キャッシュレスになってもいいが、その場合も訳の分からない何かが付与される、と説明します。
これに対し樋口さんは、実は自分もそれをわかっていると明かします。求めているのはキャッシュレス化の達成だけで、無駄な儀式的要素は残していい、という立場です。
LINE Payで一礼して送金。樋口が実践したご祝儀の儀式
樋口さんは、後輩が結婚したときに実際にキャッシュレスでご祝儀を渡した体験を語ります。ただし、LINEで「送ったんで」と済ませてはダメだと考えたといいます。
当時使えたLINE Payで文面を用意し、あえて送信せずに後輩本人へ会いに行きました。目の前でスマホを出し、用意したメッセージを操作し、一礼してから送金するという「儀式」を行ったのです。
「じゃあ今からあなたにご祝儀をお渡しします」って一礼して、LINE Payでプーンって送るっていうのをやりました。
樋口さんは、儀式に対してはめちゃめちゃ肯定的だと強調します。意味のないことを残していいから、決済の手段だけはキャッシュレスにすべきだ、という主張です。
儀式全然意味ないことやっていいんです。だから意味ないことを残してください。
樋口さんは、結婚式では事前にお金を渡しておいたほうがいい、そこは絶対に変えましょう、と改めて訴えます。楊さんは自分は結婚式をしないと応じつつ、その主張自体には理解を示します。
財布を持ちたくない。飲食店・駐車場のキャッシュレス化を求める理由
楊さんは、結婚式は行く機会が少ないため一旦は空白地帯だとしつつ、まず変わってほしいのは飲食店だと語ります。小銭を持ちたくないというのが切実な理由です。
もう高くしていいからキャシュレスにしてほしい。頼む。もう小銭を持ちたくないのよ。
樋口さんは、飲食店や施設を経営する立場から、全部キャッシュレスにできればメリットしかないと語ります。全部現金でも運用は簡単ですが、一番めんどくさいのは現金とキャッシュレスが混在するハイブリッドだといいます。
一番めんどくさいのってハイブリッドなんですよ。
現金もキャッシュレスもそれぞれレジ打ちが必要になる一方、全部キャッシュレスならレジ打ち自体が発生しない、と樋口さんは説明します。だからこそ、店側の努力だけでなく、払う側がキャッシュレスで払うことも必要だと語ります。
楊さんは、渋谷などにあるキャッシュレスオンリーのカフェを「最高」と評します。2人とも財布を持ち歩かないポリシーで、現金のみの環境が早くなくなってほしいと願っています。
樋口さんは、現金のみの店でもあえて「キャッシュレスは使えますか」と聞くようにしていると明かします。要望として一票を入れ、経営判断でキャッシュレス導入が進むよう機会損失を伝えているのです。
続いて樋口さんは駐車場に矛先を向けます。現金のみが多いどころか、千円札しか使えない駐車場もあると憤り、「今日潰れてほしい」と語気を強めます。
なぜ現金のみの駐車場は潰れないのか。市場原理と政治への話
楊さんは、それなら決済端末を売る事業を始めるか、国政に進出して法律で禁じるか、という現実的な選択肢を提案します。樋口さんは、政治レベルでしか変わらないかもしれないと考えていると語ります。
樋口さんによると、駐車場問題には市場原理が働いています。1時間1000円と900円の駐車場があれば、まず値段だけ見て安いほうに止め、あとから「現金しか使えない」と気づいてしまうといいます。
運転中にキャシュレスかどうか確認するわけじゃないですか。
さらに、近くて現金のみの駐車場と、遠くてキャッシュレスの駐車場があれば、車に乗る目的からして近いほうに止めてしまう、と樋口さんは認めます。このめんどくささと資本主義原理のせいで、現金のみの駐車場はなかなか潰れないと分析します。
そこで2人は、値段だけでなくキャッシュレス対応かどうかを一目でわかるよう表示を統一するアイデアを出します。そうすれば、多少高くてもキャッシュレスの駐車場を選ぶ人が増えるのではないか、というものです。
話は脱線し、海外のタバコに肺がんのグロい画像が付いているように、現金のみの店には「行く末のディストピア」を描いた画像を義務づけては、という冗談に発展します。ゾンビが歩く赤と黒の看板です。
現金しか使えない社会が、行く末のグロい地獄みたいな。
クレカタッチはなぜ使えないのか。領収書・住所・名前への不満
話題は決済端末の使い勝手に移ります。楊さんはクレジットカードの差し込み式が遅いと語り、タッチ型でいいと訴えます。樋口さんも、端末にタッチ対応のマークが書いてあるのに使えないことがあると憤ります。
あれ何。あれマジ何、ほんと。できませんって言われますよね。
樋口さんは、店員に「できません」と言われても、同じ端末を自分の施設で使っていて「これはタッチでいけますよ」と実際にできてしまうことがある、と体験を語ります。義務教育でクレカタッチを教えておけ、と息巻きます。
地図記号より先に覚えさせろあれを。
不満の矛先は領収書や行政文書にも及びます。楊さんは、freeeやマネーフォワードを使ってもなお、領収書のペーパーレス化には「あと一歩」あると指摘します。技術で絶対にできるはずなのにやれていない、というのが2人の共通認識です。
さらに楊さんは、病院や薬局で毎回名前と住所を書かされることに強い不満を示します。発展途上国行きの予防接種で、注射ごとに別々の用紙へ名前・住所・電話番号を4枚ほど書いた体験を挙げます。
マスターレコード作れや。それがマイナンバーやろ。
樋口さんも、初めて行く薬局で書かされる病気歴に困っていると語ります。過去にかかった髄膜炎の時期を毎回思い出しながら記入する手間を挙げ、「二度と俺に自分の名前と住所を書かせるな」と訴えます。
住所そのものへの疑問も出ます。何丁目何番地という表記をコードや数桁の数字で置き換えられるはずだ、というものです。樋口さんは、タクシーで目的地を口頭でナビする行為も「21世紀の人間がやる原始的行為ではない」と語ります。
現金のみは脱税支持者か。効率と監視のトレードオフ
楊さんは、全国民に納税義務があり、多くの人が領収書を扱うのに、なぜこんなにローテクなのかと疑問を投げかけます。DXが進まず税金が無駄になり、税務署の負担も大きい、という指摘です。
ここで、効率性の追求は監視とのトレードオフだという論点が出ます。すべてキャッシュレスにすると脱税がしにくくなる、と樋口さんは語ります。
キャッシュレス化してないところって、もう僕は脱税をやりたいからと思ってるとみなします。
樋口さんは、周りにいるキャッシュレス化に反対する人を「全員脱税支持者」とみなそう、と煽ります。楊さんは、直前まで収録していたリンカーンの回で論客ダグラスが共和党を「黒人党」と呼んだ話になぞらえ、反対派は「キャッシュ党」だと応じます。リンカーンの論客ダグラス ── スティーブン・ダグラスを指すとみられる。19世紀アメリカの政治家で、リンカーンとの一連の討論で知られる。番組では直前にリンカーン関連の回を収録していたと語られている。
樋口さんは、この社会課題を解決しようとするスタートアップやPayPayのようなサービスを称賛します。楊さんも、PayPayがキャッシュレスを広めたことに助けられていると認めます。
手ぶらで帰った収録翌日。田川現金撲滅委員会という着地
楊さんは、スタジオ近くのスーパーでPayPayが使えなかった体験を語ります。収録後に惣菜を大量に買おうとしたところ現金のみで、しかも携帯一体型ではないカード型のクレジットカードしか使えなかったといいます。
もう全部返して、手ぶらで入って手ぶらで出てきました。
樋口さんは、店員に罪はないとする楊さんに対し「勤めている以上そこに加担している側だ」と冗談めかして畳みかけます。2人は、最終的には行政の強制力が必要だという話に着地しかけます。
ここまで強く語ったあとで、樋口さんは「あの、ギャグで言ってまーす」と一転してオチをつけます。「みんな違ってみんないい」と締め、これまでの物申しがネタであったことをにおわせます。
嘘嘘、嘘でーす。みんな違ってみんないいです。
最後に樋口さんは、地元・田川で「田川現金撲滅委員会」を勝手に発足し、自ら会長になっていると明かします。ゆくゆくは運動を広げていきたいと語り、リスナーへ「清き一票」を呼びかけて番外編を締めくくります。
田川現金撲滅委員会っていうのを勝手に発足して、僕会長になってますから。
まとめ
エスカレーターの片側空けとご祝儀のキャッシュレス化を入り口に、慣習・儀式・効率をめぐって語り合った番外編でした。樋口さんの物申しは最終的に「ギャグ」と明かされますが、慣習や効率をどう捉えるかというやり取りには、コテンラジオらしい視点が随所に表れています。
- 樋口さんはエスカレーターの片側空けを、ゼロ円で変えられるのに変わらない慣習として「運動」的に通せんぼしていると語った
- 二列乗りは全体で運べる人数が多く、メーカーからも歩行が禁止されているため、効率でも安全でも優位だと整理された
- ご祝儀のキャッシュレス化は、現金保管のリスクや式場への前払いのための借金といった具体的な不便から主張された
- 楊さんは「儀式は効率化すると儀式にならない」とし、キャッシュレス化しても無駄な要素は残るはずだと論じた
- 飲食店・駐車場・領収書・住所記入など日常のローテクへの不満が語られ、最後は「ギャグ」と明かして田川現金撲滅委員会の宣伝で締めくくられた






