直流で進むエジソン、頭の中で交流モーターを組む無名のテスラ
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この回の前提として、まず前回までの整理が語られます。交流には長距離送電というポテンシャルがある一方で、決定的な欠点があったと楊さんは振り返ります。
その欠点とは、動力に活かせなかったことです。実用的な交流モーターがまだ存在しなかったため、交流の社会実装が阻まれていたと説明されます。
産業用動力の電気需要が高いので、ここをニーズに応えられない限り、交流電気は社会のインフラとしてはやっぱり認められない。
一方で、エジソンは直流でどんどん社会実装を進めていました。発電、送配電、モーター、照明、電話、電信までを一貫させたシステムを完成させていたのは直流のほうだったと語られます。
そこに、まだ無名の天才テスラが登場します。テスラは交流電気を使える実用的なモーター、いわゆるテスラモーターを、まず頭の中で完成させることになります。
大学の実験でテスラが気に食わなかった「火花」
時間軸は、テスラがまだ大学に通っていた頃にさかのぼります。物理の授業で電気の実験があり、そこでグラム発電機という器具が使われました。
この直流発電機や直流モーターには、整流子とブラシという部品がついていました。楊さんは、これらがすり減って火花や熱を出し、エネルギーの損失が激しく壊れやすい点をアキレス腱だったと説明します。
実験を見たテスラは、装置そのものはすごいと感じつつ、一つだけ気に食わない点がありました。それが、発電のたびにバチバチと出る火花でした。
これももうね、完璧じゃないじゃん。この無駄な火花ってなんでなの?なんとかできんの?
テスラは教授に異議を申し立てます。この機械が直流を使っていることが問題で、全部交流に変えれば整流子という部品を取り除けるのではないか、という主張でした。
発電した交流をそのまま使えるモーターがあれば、発電機側で交流を直流に変える必要がない。だから整流子もブラシもいらなくなり、火花も出なくなる、という理屈です。
「絶対に実現できない」と諭した教授と、納得しなかったテスラ
テスラの主張に対し、教授は反論します。火花が大きなエネルギー損失の原因になることは認めつつ、発電機から直流を取り出すには整流子がどうしても必要だと説きました。
楊さんは、この教授が決してテスラを簡単にあしらおうとはしなかったと語ります。次の講義時間を丸ごと使い、なぜ交流モーターが難しいのかを一つずつ技術的な課題として整理し、丁寧に伝えました。
おお、めっちゃいい教授。
さすがのテスラも、この説明の前では沈黙せざるを得ませんでした。そして教授は、印象的な言葉で締めくくったと紹介されます。
テスラくんは偉大なことを成し遂げるかもしれませんが、(交流で回せるモーターは)おそらくは絶対に実現できないでしょう。
教授はさらに、それは重力のような力を回転力に変えることと同じだ、と例えました。この時点の技術水準では教授のほうが正しく、交流モーターの実用はまだ夢だったと楊さんは補足します。
直流モーターに交流の電気をそのまま流しても、電流の向きが右へ左へと切り替わるため回転が安定しません。整流子があるのはそのためだ、と深井さんも確認します。
表向きは引き下がったテスラですが、心の中では納得しませんでした。正しいのは俺だろうという自分の直感を信じることにします。
寝ても覚めても交流モーター、脳内で回らない機械
ここからテスラは、モーター狂いとも言える状態になります。寝ても覚めても交流モーターのことを考え、執着していったと語られます。
テスラには特殊なイメージ操作能力があり、頭の中でまず直流モーターを組み立てて回し、次に自分が考える交流モーターの構造を思い浮かべる、という試行錯誤を続けました。整流子を外した状態で回るモーターを、脳内でなぞっていったのです。
すげえ、本当に将棋の棋士みたいな。
しかし、頭の中の機械はどうしても回ってくれませんでした。テスラは精神的なダメージを受け、一時は研究を諦めたほどだったと語られます。
頭の中はだから回せばいいのにね。想像で回れつって、あ、回ったつってやったらいいのに。
そういう解像度じゃない。(頭の中でも)ちゃんと物理法則が残ってるから。
ここで楊さんは、交流モーターがクリアすべき難題を整理します。交流は電流の向き・大きさ・電圧の強さがリズミカルに変化するのに、モーターは一定方向に安定して回転し続けなければなりません。
楊さんは、向きや強さがぐるぐる変わる水流を水車に当てるイメージで例えます。普通なら水車は前に押されたり逆に押されたりして安定しませんが、それでも一定方向に回り続ける水車を作る必要がある、というのが難題です。
これをね、何かというと、直感にめちゃくちゃ反してるんですよね。魔法でも持ってこない限りできないんです。
夕日とゲーテの詩、ひらめきの瞬間
大学を中退したテスラは、電話局に就職します。そして1882年2月のある日の午後、大学以来の親友アンタル・シゲティと、ブダペストの公園を散歩していました。
夕方で、西に傾いた太陽の光が生い茂る木々の上に散乱していました。理系のイメージがあるテスラですが、実は文学が大好きで、詩を暗唱しながら歩いていたと語られます。
このときテスラが思い浮かべていたのが、彼が好きだったゲーテの『ファウスト』の一節でした。楊さんはその原文の一部を読み上げます。
地上を離れて、どこまでも夕日を追っかけて飛んでいく。その翼が俺は欲しい。
燃える空を見上げながら詩をつづっていたその瞬間、テスラは急に動きを止めます。シゲティが声をかけても返事はありませんでした。
テスラは足元の枝を拾い、道の上に図を描き始めます。そして一言、叫んだと紹介されます。
見てみろ、これが僕のモーターだ。さあ、逆転させてみるぞ。
図の意味をようやく理解したシゲティも「やっべえ」となり、二人はモーターの概念の美しさに圧倒されて、夜までずっと公園で語り合ったといいます。
ファウストの詩で?ゲーテすごいな。
交流を「2本」使う 〜位相をずらすという発想
ここから、テスラのモーターがなぜ回るのかの解説に入ります。楊さんは、文学畑の自分が説明できる話ではないと前置きしつつ挑みます。
達成すべき状態は、変化する交流を流してもモーターが一定方向に安定して回り続けること。テスラの発想の根本は、交流を1本だけ使うのがいけない、という点にありました。
二本の交流を同時に使ってモーターを動かしてはどうか。
それぞれの交流の向きや力が切り替わるタイミングを微妙にずらして、同時にモーターに流し込む。うまく重ね合わせれば、瞬間瞬間でモーターに一方向の一定の回転力をかけられる、という考え方です。
樋口さんは、これを物理や数学でいう位相差、位相を変えることだと言い当てます。楊さんも、この後まさに位相の話が出てくると応じます。
楊さんは、この発想をイメージしやすくするために、身近な3つの例え話を出します。
- 1台の自転車を2人で片足ずつ交互に漕ぐと、常に一定方向に進む
- 多数のLEDを微妙にタイミングをずらして点滅させると、文字が一方向に流れて見える
- 1つの荷物を2本の腕で交互に持ち替えると、ずっと持ち上げた状態を保てる
いずれも、単独では途切れる力を、タイミングをずらして重ねることで連続した一方向の作用に変える例です。テスラのモーターも、2本の交流の重ね合わせで一定方向の回転力を生み出します。
モーターと電磁石の基礎 〜回転する力はどこから来るか
仕組みをより詳しく理解するために、楊さんはモーターの基礎から順に説明します。まずは3つの磁石をイメージするところから始まります。
2つの磁石が真ん中の1つの磁石を挟むように並べ、両側の磁石を自転させます。N極とS極が交互にタイミングよく真ん中の磁石へ影響を与えると、引き合う力と反発する力で真ん中の磁石が回転します。
モーターが回るには何かこう回転する力を発生させる必要がある。
ただし現実のモーターでは、本物の磁石ではなく電磁石を使うことが多いと説明されます。導体に電気を流すと周囲に磁界が生じ、コイルに鉄の芯を入れるとさらに磁力が強くなります。
電磁石を使う最大のメリットは、電気のオン・オフや強さ・向きで磁力を制御できることです。逆に言えば、電気がなければ磁石として機能しません。
コイルを直角に交差させると起きる「位相のずれ」
ここでテスラのモーターの構造に入ります。楊さんは、話をモーター側と発電機側の両方でする必要があると整理します。
テスラモーターの固定側は、鉄の芯に銅線を巻いたコイル、つまり電磁石です。これを2組用意し、直角に交差させて配置します。それぞれのコイルから電線を伸ばし、1つの発電機から電気を取ります。
回転する部分である回転子は、鉄製の筒や銅の棒で、ここには直接電源をつなげません。それでもなぜか回転する、という点が後の解説につながります。
発電機側も、交流をそのまま使うので整流子はつけません。こちらも2つのコイルを直角に交差させて交流を発電させます。楊さんは、コイルを直角に交差させることがポイントだと繰り返します。
コイルを直角に交差させると、コイル同士に空間的な位置の差が生まれます。回転する磁石が2つのコイルを順番に横切るため、それぞれのコイルから出る電気の変化に時間差が生まれます。
結果として、2本の交流は同じ波の形のまま、時間軸上で少しずれて出てきます。この波の関係が、サインとコサインの関係になります。
(2本の交流は)九十度ずれてるんですね。
この時間的なずれが、専門用語でいう位相のずれです。2本の交流が90度の位相差を持つのは、コイル同士を直角に交差させているからだ、と説明されます。
見えない磁石が回る「回転磁界」の正体
位相のずれた2本の交流が、モーター側の2組のコイルにそれぞれ流れ込みます。すると、モーター側で不思議な現象が起きます。それが回転磁界です。
2組のコイルにそれぞれ磁界が生じ、その向きや強さは交流電流の変化に伴って絶えず変化します。ここで、それぞれのコイルが生む2つの磁界が合成されて、1つの磁界として機能します。
楊さんは、磁界が大きさと向きを持つベクトル量であることに注目します。ベクトルは足し合わせられるため、2組のコイルの磁界が1つのベクトルに合成される、というのが数学的な鍵です。
この合成された磁界は、見かけ上1本の見えない磁石として、N極からS極へ向かう矢印が360度ぐるぐる回り続ける状態になります。これが回転磁界です。
この説明を聞いた樋口さんは、自分が最初に思い浮かべたイメージと結びつけます。
円運動を横から見たらサイン波で、サイン波とコサイン波で合成して、上下運動と左右運動にすれば円になるって言ったのかもしれない。僕、テスラかもしれない。
楊さんは、コイル同士の角度を90度にした理由も説明します。90度は円を4等分するので、回転磁界がきれいな円を描き、回転速度も一定になるためです。これがテスラの2相交流の基本原理です。
電流を「誘導」して回す 〜3つの法則が揃う瞬間
楊さんは、ここまでの回転磁界の形成が第1段階だと整理します。次は、その回転する力が回転子にどう働くかという段階です。
回転子は電気を通す導体でできています。回転磁界がこの導体を横切ると、ファラデーの電磁誘導の法則によって導体の中に電流が生まれます。
回転磁界が回っているため、誘導された電流も磁界を追いかけるように向きを変えながら回転子の中を流れます。楊さんは、磁界がぶんぶん回るから電流もそれを追いかける、とイメージで語ります。
最後の段階で、電流と磁界が揃ったことにより、フレミングの左手の法則が働きます。電流の向きと磁界の向きが決まれば、力がかかる向きが決まり、回転子に力が加わってトルク、つまり回転力が生じます。
回転磁界によって導かれる電流と、回転磁界がありますよね。電流と磁界が揃ったことによって、フレミングの左手の法則が機能するんです。
こうして、回転磁界の形成、回転子内での電流の誘導、そしてフレミングの左手の法則による回転力の発生、という段階を経てモーターが回ります。この一連の構造が、テスラの2相交流モーター、いわゆる誘導モーターの回転原理です。
X軸とY軸に擦られる水車 〜楊さんオリジナルの例え
樋口さんが複雑さに戸惑うなか、楊さんは回転磁界のイメージをつかむための、自分オリジナルの例え話を出します。X軸とY軸のグラフを思い浮かべるところから始まります。
グラフの右上に、X軸とY軸に接する円を描きます。この円が水車、X軸とY軸が2本の交流だとします。X軸とY軸は直角を保ったまま、それぞれ流れの向きを変えていきます。
ある瞬間、X軸の水流が左から右、Y軸の水流が上から下に流れると、円は反時計回りに回ります。次の瞬間、直角を保ったまま向きが変わっても、水車はやはり反時計回りに回り続けます。
樋口さんは、この動きを自分でグラフの各象限に当てはめて追いかけていきます。
その瞬間瞬間全部X軸とY軸の向きも変わってるけれども、円の側からすれば同じ方向に両側から擦られてるっていうイメージです。
横軸と縦軸だけを見ればぐるぐる変わっているのに、水車側から見れば、ずっと同じ方向に2方向から擦られ続ける。これが回転磁界のイメージだと楊さんは説明します。
これがテスラの頭の中。
樋口さんは、原理やイメージはすごいが、それを実際に機械としてどう作るかがやばい、と感想を述べます。直交に組み合わせて実装する難しさへの実感です。
この発想と実装が「何がすごかったのか」
楊さんは、改めてこのモーターの何がすごいのかをまとめ直します。磁界を回転させるという物理現象を動力に変換する、新しいモーターを作った点です。
ただ意外とみんな思いついてなくて、すげえことだったってことですね。
この誘導モーターの原理は、今も世の中で最も広く使われているモーターの基本原理になっています。楊さんは、当時における技術的インパクトを別の言い方でも表現します。
コロコロ向きや強さが変わる交流という厄介な電気を、複数協調させて空間的に回転する力を生み出す。これが産業の中心を支える動力源として交流が登場する第一歩になったと語られます。
もっとも、この時点ではまだ頭の中のモーターにすぎません。試作品も作っていない第零歩ですが、技術史においては非常に革新的なこととして見られていると補足されます。
さらに実用面のメリットも挙げられます。テスラが気にしていた整流子やブラシを使わずに回転力が得られるため、部品の寿命が延び、火花もなくなります。
火花がなくなることで、電気システム全体のエネルギー効率、メンテナンスコスト、安全性が底上げされます。大電力の直流モーターでの火花は危険なため、安全性の向上は大きな意味を持ちます。
加えて、実用に足る馬力が出た点も重要です。いくらメンテコストが下がっても、回転力が弱すぎれば使えませんが、テスラのモーターはこの時点で実用に足る性能を示していました。
電源をつなぐだけで回る、そして次のステップへ
テスラのモーターのもう一つのメリットとして、自己起動できる点が挙げられます。1本だけの交流を使うモーターでは自力で回転を始められず、外部から助走の力が必要でした。
最初ガチョーンってなんかやらないといけなかったよね。
テスラのモーターは、電源をつなげば回転磁界が発生して自然に回り始めます。今では当たり前ですが、当時は当たり前ではなかったと強調されます。
楊さんは補足として、回転磁界の原理はテスラとほぼ同時期に、イタリアの物理学者ガリレオ・フェラリスも発見していたと紹介します。年数は若干ずれています。
ただし、テスラは原理を発見しただけでなく、それを実用モーターまで持っていって理論構築した最初の功労者だという見方が一般的だと語られます。フェラリスを評価する見方もあり、諸説あるとも補足されます。
ただ間違いなく世の中実際に作ったのはテスラってことですね。
楊さんは、この時点でテスラの脳内の設計を知っているのは親友シゲティだけで、エジソンをはじめ他の電気科学者は誰も知らないと指摘します。世界中の電気工学者を悩ませた交流という難題を、若者が少なくとも頭の中で解決していたのです。
そして次のステップは、脳内の設計図に基づいて実際にモーターを組み立て、それを資本主義OSに接続していく段階だと予告されます。次回は、2相交流モーターの原理にたどり着いた後のテスラの人生が語られます。
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まとめ
この回は、無名の若者テスラが交流モーターの原理を頭の中で完成させるまでを、例え話を重ねながらたどる解説でした。火花への違和感から始まった問いが、ゲーテの詩をきっかけにひらめきへと結実し、回転磁界という新しい発想に至った流れが語られています。
- テスラは大学の実験で直流発電機の火花に違和感を持ち、交流に変えれば整流子も火花もなくせると主張したが、教授には実現不可能と諭された
- 寝ても覚めても交流モーターを考えたテスラは、1882年、ブダペストの公園で夕日とゲーテの詩をきっかけに原理をひらめいた
- 発想の核は、位相を90度ずらした2本の交流を同時に使い、合成された磁界を回転させる「回転磁界」を作ることにあった
- 回転磁界の形成、回転子への電流誘導、フレミングの左手の法則による回転力発生という段階で、整流子もブラシもいらない誘導モーターが回る
- この原理は今も最も広く使われるモーターの基本であり、交流が産業の動力源として登場する第一歩となったが、この時点ではまだ頭の中の設計にすぎなかった





