電話局のポストを得たテスラは、なぜ働けたのか
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前回、電話局を目当てにブダペストへ向かったテスラでしたが、まだ電話局はできていなかったという早とちりで終わっていました。今回の冒頭では、その後の展開から話が始まります。
結局、電話局はできあがり、テスラは希望通りエンジニアのポストを得ます。ただしその背景には、テスラ家の友人だったプシュカーシュという人物の存在があったと語られます。
プシュカーシュは電話局事業の推進者の一人で、テスラを気にかけていました。当時の電話局はテックの最先端であり、無名で学校中退者、実績も乏しいテスラが採用されたのは、このコネのおかげではないかと言われています。
あら、ラッキーですね。
もっとも、テスラが無能だったわけではありません。電話交換機や電話中継機など、さまざまな機械の改良に才能を発揮したと説明されます。
睡眠2時間、そして感覚過敏。テスラを襲った極限状態
テスラはここでも限界まで働き、睡眠時間は2時間だったと語られます。楊さんは台本に「東京時代のヒグチさん?」と書いていたと明かします。
ちょっとね、僕もテスラのここを読んでね、もう(樋口さんのことしか)思い出せなかった。
樋口さんは、東京時代というより学生時代の自分に近いと振り返ります。やりたいことや楽しいことがあると寝るのがもったいなくなる感覚だと話します。
もうなんかやりたいことがあって、楽しいことがあったら寝るのもったいないんですよね。
初めて触る映像編集ソフトや、最近やった3DCGソフトも寝ずにやってしまうと具体例を挙げます。テスラもやらされてではなく、やりたくてやっていたのだろうと2人は共感します。
しかしテスラは体調を崩し、精神の病にも侵されて仕事を中断します。今でいう感覚過敏のような状態で、そのレベルは日常生活がままならないほどだったと語られます。
3部屋離れた柱時計のチクタク、テーブルに降りるハエの羽音、数キロ先の馬車の振動、30キロ先の汽車の汽笛が体を揺らす感覚など、症状は凄まじいものでした。
ベッドの足にゴムのパッドを敷かないと振動で眠れず、外に出れば日差しが頭蓋骨を貫くように痛み、橋や建築物の下では頭が押しつぶされる圧力を感じたといいます。痛みと引き換えに超能力を得るキャラのようだが、本人には相当な苦しみだったと楊さんは述べます。
これがね、やっぱ亡くなる時までずっとこの感覚なんですよね。
楊さんは、この身体感覚がテスラの生き方や価値観、発想パターンに重い影響を与え、世界観の一部になり、発明にもつながっているのではないかと解釈します。
樋口さんは、人間には本来こうしたセンサーが備わっているが、日常生活のために脳がリミッターをかけているのではないかと話します。忘れる機能も同じで、すべてを覚えていたら精神が耐えられないから忘れられるようになっている、という話を引き合いに出します。
だから実はセンサーとしてはめっちゃ優秀で。人間って。だけど日常生活困るから、それがリミッターをかけられてる。
テスラはそのリミッターが外れている状態なのかもしれない、と2人は推測します。仕事から離れると症状は改善したそうで、これが彼の社会人生活の始まりだったと語られます。
16歳の脳内で完成した、生涯最大の発明
ここからシリーズのクライマックスに入ります。テスラは電話局で働きながら、生涯最大の発明を生み出していました。16歳のときのことだと語られます。
その発明がモーターです。正確には、交流電流で動く世界初の実用モーターの基本原理を、この時点で脳内で完成させたと説明されます。
このモーターは二相交流モーター、あるいは交流誘導モーターと呼ばれます。試作機を作って特許を取得したのは数年後で、この16歳の時点ではあくまで原理を頭の中で完成させた段階でした。
テスラには2つの側面があったと楊さんは整理します。1つは会社勤めのサラリーマンエンジニア、もう1つは頼まれてもいないのに自分のアイデアを形にしていく発明家でした。モーターの原理完成は、後者の個人活動から生まれたものです。
世界の消費電力の40%。モーターが動かす現代社会
楊さんは、このモーターが電気の歴史における革命的な出来事であり、テスラといえばこのモーターというほど重要だと強調します。そのインパクトを理解するために、現代のモーターの広がりを列挙します。
車、電車、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、扇風機、掃除機、ドライヤー、スマホのバイブレーション、ポンプ、コンベア、冷却ファン、クレーン、エレベーター、エスカレーターなど、モーターはあらゆる場所で使われています。
その規模を端的に示すデータとして、国際エネルギー機関の統計が紹介されます。電気モーターおよびモーターが駆動するシステムは、世界の消費電力量の40%以上を占めるといいます。
熱発生以外全部モーターなのかな?ぐらいのレベルで多分モーターですよね。
楊さんは、テスラこそが現代社会の風景を作った起点であり、電気がインフラとして爆速でスケールしていく起点になった人物だと語ります。
遠く離れた発電所から家庭・工場・オフィスへ電気が送られ、電話や電車にも流れ込み、社会の隅々まで電気が使われる。この当たり前の風景の最初の一歩がモーターの開発であり、電気エネルギーの時代が本格的に到来するきっかけだと説明されます。
ただし楊さんは注意を促します。原理も発明も完全に独立して生まれることは歴史上少なく、多かれ少なかれ先人の積み重ねの上に立っている、というのが技術発展の一般的な構造だと指摘します。
あるいはパクったりとかする現象もあるんですよね。
だから今回はテスラにフォーカスするが、テスラだけが天才だと見るのは偏りがある、という観点を頭に置いて聞いてほしいと前置きされます。
電気の社会実装に必要な5つのピース
モーターが世に出た意義を理解するには時代背景が要ると楊さんは述べ、まず電気の基礎知識を押さえていきます。テスラが生きた19世紀の欧米は、電気システム社会実装の第一フェーズ、まさに黎明期でした。
電気が社会に実装されるとはどういうことか。楊さんはそれを5つのピースを揃えることだと整理します。
5つ目で急にレイヤーが変わったと樋口さんが反応すると、楊さんは資本主義に選ばれないと電気システムは社会実装しないと返します。コストがかかるため、儲からないことは誰もやらないという理屈です。
資本主義に選ばれないと電気システムは社会実装しないんです。
神の武器だった雷が、電気として理解されるまで
1つ目のピース、電気を知ることから話が進みます。近代科学以前、電気は人間にとってよくわからない存在でした。人類が最初に知った電気はおそらく雷で、しかもそれは神と結びついていたと語られます。
ギリシャ神話のゼウス(ローマ神話ではジュピター)の武器は雷であり、北欧神話のトールの武器も雷でした。日本では菅原道真が雷神とされます。雷は「神が鳴る」に通じるのではないか、と楊さんは言葉遊びを交えて説明します。
雷のほかにも、オーロラ、静電気、船のマストから起きる放電現象など、自然界の電気現象は古くから観察されていました。ただし当時は、それらを今日的な意味での電気現象として受け取ってはいませんでした。
樋口さんは、当時は静電気と雷が同じ現象だという認識がなく、電気という1つの概念で説明できるものという認知がなかっただろうと指摘します。楊さんも、原理がわからず実験で再現性を担保できなかったからだと同意します。
雷が電気であるとわかるのは近代以降です。ここで一気に時代が飛び、テスラが生きる19世紀に電気工学が勃興します。数学・物理学・化学を使って電気の正体に迫り、見えない世界が可視化されていく時代です。
楊さんは、この時代に発見・実証された法則を立て続けに挙げます。読者がつまずきやすいため、主要なものを整理します。
電線に電流が流れると、電線の周りに磁場が発生する
磁場の変化によって、金属の導体の中に電流が流れる
電場と磁場が相互に変化して伝播する電磁波を数式で予言した
電流の方向・磁場の方向・力の方向の関係を表す
これらの理論を実証した人物としてヘルツの名も挙がります。ヘルツは周波数の単位にもなっています。こうした理論が19世紀に立て続けに発見・実証され、それを使ったプロダクトが社会に実装されていったと語られます。
電気をどう作り、どう送り、どう使うか
2つ目のピース、電気を人工的に生み出す方法には2つあると説明されます。1つは電池で、化学反応によって電気を作ります。
最初の電池はイタリアのアレッサンドロ・ボルタが発明したボルタ電池です。希硫酸に亜鉛板と銅板を浸し、イオン化傾向の大きい亜鉛が電子を放出、その電子が銅線を通って銅板へ流れることで電流が生じる仕組みだと解説されます。
もう1つの方法が発電機です。ここで重要になるのが磁石の磁気で、電気と磁気は表裏一体の関係だと語られます。磁石をコイルの中で動かすか、コイルを磁石の周りで動かすと、コイルに電流が流れ出します。これがファラデーの電磁誘導の法則で、発電機は基本的にこの法則にのっとって作動しています。
3つ目のピースが電気を送ることで、送電・配電の話です。楊さんは、これがテスラの時代に大きな課題になったと予告します。
4つ目のピースが電気を使うことです。光エネルギー(照明)、熱エネルギー(料理・暖房)、動力(家電・工場の機械のモーター)への変換、電話や電信などの情報通信、金属メッキや電気分解など、電気の用途が並べられます。
訴訟すら含む「資本主義OSに載せる」の意味
最後の5つ目のピースが、1から4を統合したシステムを資本主義OSに載せることです。株式会社を作り、銀行や投資家から資金を調達することがその例で、テスラも実際に行っていると語られます。
さらに技術の特許を取得してプロダクトやサービスを作り、ライバル企業と競争し、特許侵害だと訴えたりすることもここに含まれると説明されます。訴訟までが含まれる点を樋口さんは面白がり、ライト兄弟の例も引かれます。
なんか訴えたりするまでも入ってるの面白い。
要は、損益分岐が資本主義の許容範囲内にある電力システムであることが大事だと楊さんはまとめます。電気をシステムとして社会に実装するには、発電機・電線網・機械のどれも導入とメンテナンスに大きなコストがかかるためです。
しかも1から4までのピースが一気通貫で揃わないとシステムとして稼働せず、その上で資本主義OSを説得しなければなりません。樋口さんは、コンセントに挿せば必ず100ボルトの電圧で電流が流れる現代を、凄まじいことだと改めて振り返ります。
めちゃくちゃありがとうと思わんといけんなというふうに思いました。
楊さんは、テスラだけの功労ではなく積み重ねの上に立つとしつつも、社会に電気が実装されていく最後のピースをはめたのがテスラだというイメージを持ってほしいと語ります。
樋口さんは、その人がすごいというより、社会がそうなっていて、たまたまそこに行き着いたのがその人だった、という歴史でよくある現象だと応じます。
長距離送電という致命的なボトルネック
楊さんは、5つのピースのどれが欠けてもボトルネックになるが、当時の電気システムには致命的なボトルネックが1つあったと切り出します。それが長距離送電の難しさです。
樋口さんは「そこか」と意外そうに反応しますが、楊さんはテスラに関連してこのボトルネックにあえて焦点を当てていると説明します。ほかにも課題はあったものの、電気を遠くまで届けられないことは特に致命的でした。
長距離送電が難しいと、電気システムをスケールできず、電気利用がそもそも広がりません。この課題がクリアされたからこそ、発電所からどれほど離れていても電気が使える現代の状態が達成できたと語られます。
送電できなかったらミニ発電所めっちゃいる。
送電できなければ、太陽光発電のように各家庭の屋根に発電設備が必要になり、収録スタジオにも発電機を置かねばならなくなる、と具体例で補足されます。なぜ長距離送電ができなかったのか、そしてテスラがどう関わるかは次回に持ち越されます。
システムを知らなくても、明日はやってくる
楊さんも樋口さんも、生きているだけでどれだけの恩恵を受けているかを実感していないと語り合います。樋口さんは、教育の歴史や警察の役割を例に、若い頃は恩恵より自分の直接の利害しか見えなかったと振り返ります。
若い頃はシートベルトをしなかっただけで罰金を取る嫌な人たちに見えた警察も、システムをきちんと作って駆動させている存在だと、離れて初めてわかると樋口さんは話します。
楊さんは、システムのこともそれを作った人のこともよく知らず記憶もされていないのに、システムは動いて明日がやってくる。この現象がテスラのシリーズでよくわかると述べます。
その思うところはエンディングで話したいと2人は約束し、今回はここまでとなります。次回へ続きます。
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まとめ
テスラが16歳で原理を完成させた二相交流モーターを起点に、電気が社会へ実装される5つの条件と、当時最大の壁だった長距離送電の問題までが整理された回でした。
- テスラは電話局でエンジニアとして働きつつ、頼まれてもいない個人の発明活動で交流モーターの原理を脳内で完成させた
- 現代のモーターは世界の消費電力量の40%以上を占め、テスラの発明は電気がインフラとしてスケールする起点になった
- 電気の社会実装には「知る・生み出す・送る・使う・資本主義に載せる」の5つのピースが必要だった
- 雷は神の武器として捉えられ、電気として理解されたのは近代以降で、19世紀に電気工学が一気に勃興した
- 当時の致命的なボトルネックは長距離送電の難しさで、その解決とテスラの関わりは次回に続く





