テスラという名前の本家本元は誰か
今回取り上げるのは、ニコラ・テスラという人物です。楊さんは、いま「テスラ」でピンとくる人の多くは、この人物ではないだろうと切り出します。
テスラといえば、イーロン・マスクの電気自動車メーカー、テスラモーターズを思い浮かべる人が多いはずです。ただ、その社名の由来こそが、今回の主役であるニコラ・テスラでした。
イーロン・マスクはニコラ・テスラリスペクトだから、自分の会社の名前とか電気自動車の名前にテスラってつけてるわけですよね。
ニコラ・テスラは、セルビア人の科学者、発明家です。放電装置として知られる「テスラコイル」を作った人物としても有名だと紹介されます。テスラコイル ── ニコラ・テスラが発明した、高電圧・高周波の電気を発生させる実験装置。空中で放電するビリビリとした電光が特徴で、演奏や映像演出にも使われる。
(テスラコイルは)ミュージシャンの平沢進が楽器として作ったりとか。
楊さんは、映画『ターミネーター2』でターミネーターが登場する際の電撃演出にも、テスラコイルが使われたのではないかと、自身の記憶をもとに話します。
「電気の魔術師」テスラは何を成し遂げたのか
テスラには、発明王トーマス・エジソンという最大のライバルがいました。二人は同じ時代を生きた同世代の人物です。
では、テスラは具体的に何をした人なのか。楊さんは、一言で言えば「電気」だと答えます。あだ名は「電気の魔術師」でした。
電気は当時、新しいエネルギーでした。この新しい技術がシステムとして社会の隅々まで実装されるきっかけを作った、超重要人物の一人がテスラだと位置づけられます。
その鍵になったのが、一つのモーターの開発でした。テスラは、電気で動く初の実用的なモーター、いわゆる電動モーターを作ります。電気で稼働する現代社会の風景を作った発明家の一人だと言えると、楊さんは語ります。
ちなみに、イーロン・マスクのテスラモーターズのエンブレムは、このテスラモーターの断面から取ったデザインなのだそうです。T字型に見える形は、モーターの歯車の断面を切り取ったものだと説明されます。
食器を14枚のナプキンで拭く、テスラの独特な行動
今回は導入回として、テスラのさまざまな側面がざっくばらんに語られます。楊さんはまず、テスラがゴッホと同時代の人物であることに触れます。
二人には共通点があります。テスラも、今でいえば精神疾患系の病や障害を抱えていた人だと、後世の研究者から言われているのです。強迫性障害や自律神経失調症、潔癖症、うつなどの可能性が指摘されています。
周りから見た変わった行動も、記録として残っています。たとえば食事のとき、テスラには独特の儀式がありました。
清潔なテーブルクロスと14枚の新しいナプキンを用意させ、ナイフやフォークなどの食器を一つずつ手で丁寧に拭く。拭き終えたナプキンを、順に床に落としていくというルーティンです。ナプキンの数は、必ず14枚でした。
必ず14枚なんです。絶対14枚なんですね。
ほかにも、スープに浮かぶクルトンやコーヒーの角砂糖を数えてから口にする、女性のイヤリング、特に真珠に強い嫌悪感を抱く、といった行動があったと紹介されます。丸い形への生理的な嫌悪感だったのではないかと言われています。
感覚の過敏さが発明につながったのか
楊さんは、テスラは他人と認知の感度や強度が全く異なるため、それ自体が苦しみでもあったと話します。一方で、こうした激しい感覚に関連する独特なイメージ能力や身体感覚が、発明につながったのではないかとも言われています。
たとえばテスラは後年、電気の振動について研究します。この関心は、彼の感覚過敏、つまり振動に敏感に反応する感覚がインスピレーションになったのではないか、という見方があるのだそうです。
(テスラは)人間の天才的な部分と生きづらさの部分、両方をとことん酷使したような人ですね。
樋口さんは、これは歴史上の天才にありがちなことだと応じます。一般的とは違う性質があるからこそ、一般的とは違う結果が出せるのだと語ります。
楊さんによれば、テスラは正統派というより異端児でした。感性や理想がぶっ飛びすぎていて、必ずしも理解されたり報われたりしたわけではありません。後世の科学から見て、学問的な間違いを犯している部分も正直あると認めます。
他人と器用に付き合えるタイプでもなく、ビジネスセンスがあったわけでもありません。損をしたり、お金にずっと困ったりしていました。研究一筋で、科学者は孤独でなければ結果を出せないというスタンスから、生涯独身を貫きます。それでいて凄まじいカリスマ性を発揮し、熱烈なファンがいたと語られます。
今回は「人物」ではなく「モーターを作った現象」に注目する
楊さんは、今回はテスラという人物よりも、彼がモーターを開発したという「現象」だけにフォーカスしたいと切り出します。いつもとは趣向を変えた構成です。
モーターの開発は、世界の風景が変わる起点になった出来事でした。その起点が生まれる瞬間のストーリーや、一つの現象が社会を分岐させていくケーススタディとして取り上げるのが面白い、という狙いです。
理由の一つは、テスラがモーター以外にもテスラコイルなど数多くのことを手がけ、そのどれもがショート編を一本作れるほど濃いからだと言います。すべてを丁寧に追うには尺が足りない、というわけです。
もう一つは、楊さん個人の思いでした。ショート編は毎回、生い立ちから波乱万丈の人生を語り、最後に亡くなって「お疲れ様でした」で締めるのがテンプレになっている。それに少し飽きた、というのです。
最後絶対エモく締めるっていうのもマンネリ化した感じがあって、たまにちょっと違う味付けやってみようかなと。
そこで今回は、テスラの人生で一番イケイケな黄金期で話を締めたいと宣言します。死ぬところまで順を追わず、メリハリをつけて、モーターを作った現象に集中する構成です。本編の科学技術編のスピンオフのような位置づけになります。
辺境の防人の家に生まれ、両親から受け継いだもの
ここから生い立ちに入ります。テスラが生まれたのは1856年、オーストリア=ハンガリー帝国でした。ハプスブルク家のオーストリア皇帝がハンガリー国王を兼ねる二重帝国です。オーストリア=ハンガリー帝国 ── ハプスブルク家のもとで、オーストリア帝国とハンガリー王国が1つの君主を戴きながら並立した二重帝国。1867年から1918年まで存在した。
生まれたのは、今のクロアチア共和国にあるスミリアという辺境の村で、セルビア人の家庭でした。テスラの先祖は「防人」だったと語られます。
17世紀末、ハプスブルク家はオスマン帝国の進出を恐れ、国境に防人となる農民を入植させました。それに応えて移住したセルビア人たちの子孫が、テスラの家族です。ちなみにテスラという苗字の意味は「手斧」なのだそうです。
父ミルティンは、セルビア正教会の司祭でした。もともと軍人の家系ですが、軍人になりたくなく、文人気質が強かったため聖職者になった人物です。詩集を出し、社会問題について文章を発表し、ドイツ語やイタリア語も操る、教養の高い敬虔なクリスチャンでした。
母デューカも聖職者の家庭に生まれましたが、読み書きはできませんでした。母の母、つまりテスラの祖母が目が見えなくなり、長女として家族の面倒を見ていたため、読み書きを学ぶ時間や学校に行く機会がなかったのです。
その一方で、母デューカには特殊能力がありました。家事の手間を省く便利な道具をいくつも考える発明のセンス、聖書や哲学書を丸暗記できる記憶力、そして針仕事などの芸術的な才能です。
(母は)60歳を過ぎても自分の指だけで1本のまつ毛に3つの結び目を作ることができたっていう風に書かれてあって、どうやって?って思いました。
テスラは、父よりもこの母に強い信頼を寄せていたと語られます。テスラ一族は背が高いのが特徴で、テスラ自身も大人になると身長190cmに達しました。ただし体重は70kgを超えず、長身で痩せた体つきだったそうです。
兄の死が、テスラ少年に刻んだ強迫観念
子供のころ、テスラは大きな出来事に遭遇します。長男の兄ダーネの死です。
兄ダーネは、非常に頭が良く、一家の希望の星でした。大人になったテスラが「生物学的に説明不可能な精神現象」と書いたほどの聡明さです。その兄が、12歳のときに馬の事故で亡くなってしまいます。
この兄の死が、テスラ少年に深く刻まれます。彼は、兄の才能を全部自分が代わりに引き継がなければならないと思い込むようになったのです。
優秀な兄が達成するはずだった業績を何とかして自分も達成しないといけない、それを超えなければいけないという思いに囚われるようになります。
その裏には、両親の存在があったようです。自分が兄の代わりになることで、息子を失った両親の悲しみを受け止めたい。兄にばかり注がれていた愛情を自分に向けさせなければならない。そうした気持ちもあったのかもしれないと語られます。
この強烈な願望と、テスラが生まれ持った想像力や感受性の強さが掛け合わさり、「尖り」となっていきます。
兄ダーネの死
一家の希望だった聡明な兄が12歳で事故死する
代わりへの思い込み
兄の才能と業績を自分が引き継ぎ、超えなければと囚われる
願望と資質の掛け合わせ
強烈な願望が、生来の想像力・感受性の強さと結びつく
「尖り」の発現
屋根から飛び降りるなど、常識外の行動と発想に表れていく
屋根から飛び降り、昆虫でエンジンを作る少年
ここから、テスラの「尖り」エピソードが続きます。まずテスラは、鳥のように飛びたいと思い、傘を翼の代わりにして納屋から飛び降ります。当然、地面に叩きつけられ、しばらくベッドで過ごす羽目になりました。
これにも本人なりの理由があったようです。テスラは子供のころから、深呼吸をするたびに体が軽くなり、今にも宙に浮かびそうな不思議な感覚があり、それが彼の中ではリアルな現実だったのです。
発明のようなことは、4歳ごろから始めます。最初の発明は水車でした。木の幹を輪切りにした円盤に枝を通し、小川の両岸に立てたY字の枝に乗せる、おもちゃのような装置です。テスラは、流れを受けて回り続けるこの車輪を、飽きることなく眺めていたそうです。
9歳のときには、さらに独特なものを作ります。「昆虫エンジン」です。
マッドサイエンティストやん。
仕組みはこうです。細い木の板を十字に組んで風車のような形を作り、4本の腕先にコガネムシを頭の向きを揃えて貼り付ける。虫が逃げようと羽を動かす飛行力で、この風車が回るという仕掛けです。
樋口さんは、昆虫のエネルギーを回転として使うという発想を思いつくだけでなく、それを具体的な構造に落とし込んで具現化するところがすごいと驚きます。インターネットもない時代で、作り方を調べようがないからです。
この昆虫エンジンには続きがあります。テスラは最終的に100匹の昆虫でモーターを作ろうと、コガネムシを瓶に集めていました。ところが自慢しに行った友達が、瓶を開け、集めたコガネムシを目の前でむしゃむしゃ食べ始めてしまったのです。
友達の方がやべえ。
計画を台無しにされて怒り狂ったテスラは、友達を追いかけ回し、それでも収まらず、せっかく完成させた昆虫エンジンをめちゃくちゃに壊してしまったと語られます。二人は、テスラも友達もどちらも尖っていた、と笑います。
消防ポンプを直したカリスマ少年
尖りエピソードはまだ続きます。窓ガラスを粉々にする空気砲や、近所のカエルが激減するほど食いつく釣り針まで作っていたそうです。楊さんは、村のカエルの数が実際に減った点を、環境に影響を与えていると表現します。
物の構造に対する直観力を示すエピソードもあります。一家が都会寄りの街へ引っ越したころ、街では最新式の消防ポンプの配備を祝う、盛大なお披露目イベントが催されました。
クライマックスは新しいポンプの放水デモでした。ところが、ノズルから水が一滴も出ません。消防隊員が何度調整しても水は出ず、周りに集まった子供たちに苛立った隊員は、出て行けと怒鳴ります。
そのときテスラは、隊員の腕をつかんでこう申し出ます。原因がわかるので、組み上げてほしい、と。
(テスラは隊員に)僕どうすればいいかわかります。組み上げてください。
テスラは直感で、ホースが途中でねじれて水が流れ込まないのだと突き止めていました。川に飛び込んでねじれをまっすぐにすると、たちまち水が勢いよく流れ込み、ノズルから水が噴き出します。水は空高く放たれ、集まった人々の上に雨のように降り注ぎました。
群衆は大興奮でした。川から上がったテスラを、二人の消防隊員が肩に担ぎ上げ、そのまま街を行進します。ヒーローのような扱いです。樋口さんは、こういうカリスマ性を持った人がいるものだと応じます。
黒板の問題を見た瞬間に答えがわかる「脳内AR」
この少年が学校に入るとどうなるか。テスラは小学校では神童でした。日本でいう中学から高校にあたるギムナジウムでも成績は優秀で、中でも数学が飛び抜けていたと語られます。
黒板に先生が問題を書くと同時に、テスラには正解がわかりました。数学の先生が、インチキをしているのではないかと疑ったほどです。
その能力の背景には、幼少期から続くイメージ能力がありました。テスラは、何かの物事について考えた途端に、それが目の前にイメージとして現れる幻覚症状に悩まされていたのです。しかも質感や重さまで備えた、極めてリアルなものでした。
悩みの種だったこの能力が、数学の勉強には役立ちました。問題が脳内ARのように目の前に浮かび、必要な公式や記号、計算まで見えてしまうというのです。必要な公式とか記号とか計算とか、もう全部目の前でなんか浮かんでくる状態でした。
樋口さんは、プロ棋士が頭の中の将棋盤で駒を動かすのと同じようなイメージだろうと重ねます。
この能力は、発明家・科学者としての活動でも大いに役立ちました。テスラは、設計書をほとんど書かなかったのです。
(テスラは)脳内だけで機械の部品を設計して、脳内で組み立てて脳内でシミュレーションするんです。
楊さんはこれを「脳内CAD」と表現します。全く設計書を書かなかったわけではないものの、ある程度は脳内で一連のシミュレーションが完結する状態に達していたそうです。CAD ── コンピューターを使って製品や機械の設計・製図を行う技術やソフトウェアのこと。図面を画面上で立体的に描き、検討できる。
記憶力も並外れていて、読んだ本はほとんど丸暗記できました。楊さんは、科学技術シリーズに登場したフォン・ノイマンも同様だったと触れます。フォン・ノイマン ── 20世紀の数学者・物理学者。現代のコンピューターの基本構造を示したことで「コンピューターの父」の一人と呼ばれる。
テスラは、父の蔵書を片っ端から読みました。目が悪くなると読書を禁じた父の目を盗み、自分でろうそくを作って部屋にこもって読んだほどです。母国語のほか英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語ができ、授業で知った物理現象を確かめる実験装置まで自作したと語られます。
雪玉とナイアガラの滝が、テスラの思考の原型になった
最後に、テスラの思考パターンがわかる2つのエピソードが紹介されます。彼は教室や本だけでなく、自然からも刺激を受けていました。
ある冬の日、テスラは山の斜面で雪玉を投げて遊んでいました。ある雪玉が止まらず、雪をめくり上げながら大きくなり、すべてを飲み込みながら谷底へ落ちていく。この光景が、彼の心に深く刻まれます。
ちっぽけな雪玉が、最後は巨大な物質を動かした。ということは、引き金となるわずかな力さえ使えれば、自然の大きなエネルギーを解き放つことができるのではないか。その引き金とは何か。テスラは、その後の人生を通じてそれを探し続けたと語られます。
もう一つが、ナイアガラの滝です。テスラは本でこの世界最大級の滝を知り、激しく興奮しました。ナイアガラの滝 ── アメリカとカナダの国境にある巨大な滝。世界有数の水量を誇り、その落下エネルギーは古くから水力発電に利用されてきた。
テスラは、水車や回るものに強い関心、楊さんの言葉では執着に近い思いを抱いていました。教材の水車模型にも惹かれ、自分で何種類も組み立てていたほどです。
その水車のイメージと、ナイアガラの滝が頭の中で重なります。滝に設置された巨大な水車が、脳内でぐるぐると回り始めたのです。興奮したテスラは、当時いたヨーロッパで親戚のおじに宣言します。
(テスラは親戚のおじに)僕はいつかアメリカに行って、ナイアガラの滝を利用して力を作ってやる。
そして30年後、これが現実になります。ナイアガラの滝にできた発電所に、テスラの技術が使われるのです。樋口さんは、目に見えない電気の世界に足を踏み入れていく展開のかっこよさに引き込まれます。なぜ電気を選んだのかは、次回語られると予告されます。
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まとめ
テスラ編第1回は、モーターで世界の風景を変えた「電気の魔術師」の原点として、彼の幼少期に光を当てました。兄の死が生んだ強迫観念、独特な感覚と幻覚、そして雪玉やナイアガラの滝から得た着想が、後の発明家の思考の原型になっていく姿が語られました。
- テスラは電動モーターの開発で、電気が社会に実装される起点を作った発明家の一人であり、イーロン・マスクのテスラモーターズの社名の由来でもある
- 精神疾患系の障害や感覚の過敏さを抱えた異端児であり、その独特な感覚がかえって発明につながったとする見方がある
- 兄ダーネの死をきっかけに「兄の才能を引き継ぎ超えねばならない」という強迫観念を抱き、それが幼少期の常識外の発想の背景にあった
- 問題を見た瞬間にイメージが浮かぶ「脳内AR」ともいえる能力を持ち、設計書を書かずに脳内で機械を設計・シミュレーションできた
- 雪玉が谷を飲み込む光景から「小さな引き金で大きなエネルギーを動かす」という発想を得て、それが生涯の思考の原型になった




