今回のテーマはなぜ交流が普及しなかったのか
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テスラ編の第4回は、前回の続きから始まります。楊さんは前回、当時の電気システムにとって致命的なボトルネックが長距離送電だったと紹介したと振り返ります。
今回のテーマは、なぜ長距離送電ができなかったのか、そしてテスラがこのボトルネックにどう関わったのかです。深井さんも「ここが意外と難しいってことで」と応じます。
楊さんは、これから理科の話が続くと前置きします。文学部出身の自分が音声だけでサイエンスを正確に伝えるのは難しいと断りつつ、それでも挑戦すると宣言します。
文学部崩れが、ラジオの音声だけでサイエンスの話を正確に伝えることはほぼ不可能です。不可能なんだけれどもやります。
深井さんは、聞き手として補足を求めつつ、リスナーからのコメントやリプライでの補足も歓迎する姿勢を示します。
電気の正体と、自由電子という「フリーランス」
楊さんはまず、電気とは何かという基礎から入ります。物質には電気をよく通すものと通さないものがあり、よく通すものを導体と呼びます。銅やアルミなど、電線に使われる金属です。
導体の特徴は、自由電子を多く持っていることだと楊さんは説明します。原子核の周りを回る電子のうち、決まった軌道から離脱して自由に動けるものが自由電子です。
フリーランスみたいな電子です。
この自由電子が集まって流れている状態が、電気の正体です。深井さんも「電流だね」と応じます。
直流と交流はどう違うのか
楊さんは、電気には直流と交流の2つのモードがあり、作られ方によって性質が違うと説明します。電池から生み出される電気が直流です。豆電球をつなぐときに流れているのが直流だと例に挙げます。
直流の特徴は、電流の向き、電流の大きさ、電圧の高さが変化しない流れ方だと楊さんは述べます。電流は毎秒流れる水の量、電圧は勢いだとイメージで説明します。
楊さんは、この水の例えは学術的には正しくないとしつつ、イメージしやすいためにあえて出すと断ります。深井さんも「そうやって覚えた気がします」と応じます。
直流は常に一方通行で変化しないんですよ。滝みたいなもの。
電流の向き・大きさ・電圧が変化しない。滝のように常に一方通行。電池から得られる。
向き・大きさ・電圧が周期的に変動する。発電機から作られると必ず交流になる。
発電の原理と、交流が生まれる仕組み
楊さんは、発電機から作られる電気は必ず交流になると説明します。原理的にそうなるしかないと強調します。
発電の原理は、磁石とコイルのどちらかをもう片方の周りで回し続けることだと楊さんは述べます。正確には、磁石から出ている磁束をコイルに横切らせることが大事だと補足します。
導体を横切る磁束が変化すると、電磁誘導によって電圧が生じ、電流が流れます。この磁束の変化が電界を作り、電界が自由電子に力をかけ、電圧が生まれて電流が流れる、という流れです。
深井さんは、この電界のイメージをボールの例えで補足します。板の上のボールが、板の傾きに応じて右や左に転がっていくようなものだと説明します。
なんか重力だと低い方に流れるじゃないですか。それが(電界の変化で)電子が右に行ったり左行ったりするみたいなふうにイメージすると理解できるのかなと。
コイルか磁石が回転しながら発電されるため、磁束は時間とともに周期的に変化します。だから電圧、電流の向きや大きさも時間とともにリズムを刻みます。リズムを刻む電気、これが交流です。
なんかグラフで書くと、なんか上下にブワブワブワってなってますよね。
深井さんは、発電する方法そのものによって、どうしてもまず交流になってしまうのが重要な点だと確認します。楊さんも同意します。
磁石とコイルを回す
どちらかをもう片方の周りで回し続ける
磁束が変化する
導体を横切る磁束が時間とともに周期的に変わる
電界が生まれる
磁束の変動が自由電子に力を及ぼす電界を作る
電圧と電流が生じる
電界が電圧を生み、自由電子が動いて電流が流れる
交流になる
向き・大きさ・電圧が周期的に変わる電気になる
なぜ直流が先に社会実装されたのか
ここで楊さんはテスラの時代に戻り、電気の社会実装の話に移ります。直流が先に社会実装された理由はシンプルで、まず扱える技術から実用化しただけだと述べます。
人類が最初に手に入れた電源がボルタ電池、つまり直流だったため、それを扱い始めただけだと楊さんは説明します。当時の人々は電池を通して直流に慣れ親しんでいたと言われています。
直流は交流よりも分かりやすく扱いやすいと楊さんは加えます。ずっと同じ方向、同じ電圧で流れるだけで、交流のようにコロコロ変わらないためです。
この直流陣営の筆頭がトーマス・エジソンだと楊さんは紹介します。白熱電球、蓄音機、映画などの有名な発明は直流を使い、彼自身が直流発電事業を営んでいました。
直流の致命的な弱点だった長距離送電
楊さんは、直流には決定的な欠点があったと指摘します。それが長距離送電に向かないことで、少なくとも当時の技術レベルではそうでした。
長距離送電ができないと、発電所の周りにしか電気を送れません。供給範囲を広げるには無限に発電所を建てる必要があり、コストが跳ね上がって現実的ではないと楊さんは述べます。
直流が長距離送電に弱い理由は抵抗にあります。電線には抵抗があり、距離が長くなると電気の一部が無駄な熱に変わって損失が生まれ、電気が弱くなっていきます。
この抵抗による損失を抑えるのが長距離送電の肝です。理論上の解決策は分かっていて、電流をできるだけ小さくし、電圧を高めることでした。
楊さんは、抵抗による損失は電流の二乗に比例し、電圧には無関係だと説明します。電力は電圧かける電流なので、同じ電力を送るには電圧を上げて電流を下げればよいことになります。
しかし直流は、原理上、電圧を変える有効な方法がありませんでした。電圧を変えられないため電流も下げられず、損失が大きくなって効率が悪くなります。
抵抗で損失が出る
電線の抵抗により、送電距離が長いほど電気が熱として失われる
損失は電流の二乗に比例
損失は電流に関係し、電圧には無関係
電圧を上げ電流を下げる
電力は電圧×電流なので、同じ電力なら電圧を高めて電流を下げれば損失が減る
直流は電圧を変えられない
電圧が一定のため電流を下げられず、損失が跳ね上がる
この弱点のため、直流を使う以上、電気を社会インフラとして拡大するのは当時の技術では困難でした。エジソンの発電所1つが供給できるのは、せいぜい直径3キロの範囲だったと楊さんは述べます。
(発電所を)三キロごとに要は作らないといけないってことですね。
それ以上遠くへ送るには発電所を新設し運営する必要があり、コストが跳ね上がります。都会の発電所から地方の工場や鉱山、鉄道の建設現場へ送る場面で、これがあらゆる産業発展のネックになりました。
交流のポテンシャルと、扱いにくさという壁
一方、交流には直流の欠点を解消できるポテンシャルがあり、それは当時すでに分かっていました。交流は電圧を変えられる性質を持つため、損失を抑えて長距離送電ができます。
発電所から高電圧で送り、家や工場に届く直前に安全な電圧へ下げる。効率と安全を両立できる送り方が可能で、システム全体のコストダウンにつながります。まさに次世代の電気という優位性がありました。
深井さんは、だから交流の方が電圧を変えやすいのだと確認します。ただ、交流をうまく使える技術がまだ構築されていなかったため、いったん直流で始めたという整理をします。
楊さんは、優位性のある交流がメインには使われなかったと認めつつ、研究や一部の社会実装は進んでいたと述べます。当時は、発電された交流を整流子という部品でわざわざ直流に変換して使っていました。
交流がメインになれなかった理由もシンプルでした。交流は新しく発展途上の分野で、まだ挙動がよく分かっていなかったのです。
交流は電圧や電流が周期的に変動するため、微分方程式や複素数といった高度な数学が必要でした。直流に比べて直感的に扱いにくく、職人の勘だけでブレイクスルーするのは難しかったと楊さんは述べます。
つまり、交流の方がポテンシャルはあるけれども、コントロールしたりとか、機械とかシステムの設計に落とし込む最適解がまだ見えてなかったんです。
交流の実用化はどこまで進んでいたか
とはいえ、交流の実用化は一部で始まっていました。楊さんは、交流の発電機はあり、交流を使った発電所もアメリカで建設されていたと述べます。
交流を使った照明も出てきており、高圧で送って電圧を下げる変圧技術も実用化が進みつつありました。長距離送電の技術は少しずつできつつあったということです。
ただし課題もありました。電球のチラつきです。交流は脈動するため、ライトがちらつきました。
もう1つは安全性です。交流は電圧を上げてから送電するため危険が伴いますが、当時は絶縁技術が十分でなく、火災や感電事故が起きて世間からの信頼性はまだ薄い状態でした。
交流の普及を阻んだ最大の要因は「動力」
ここから楊さんは、交流の普及を阻んだ最も重要な要因を挙げます。交流は動力に使えなかったのです。深井さんは「どういうことやろ」と戸惑います。
交流は照明にはすでに使え、送電も課題はあるができるようになっていました。しかし、交流で動くモーターがなかったのだと楊さんは説明します。
これがクリティカルだった理由もシンプルです。当時、電力需要が最も高かった分野が動力だったからです。工場や鉱山の機械、電車や地下鉄などの都市インフラがそれにあたります。
照明や電話、電信に比べて、動力の電気消費量は桁違いに大きいものでした。でかいものを動かすため、仕事量が大きいと深井さんも応じます。
この需要の大きさを投資家の視点で見ると、動力向けの発電所は電気を大量に買ってもらえるため投資を回収しやすい分野でした。一方、照明で一部使われるだけの交流は投資のインセンティブになりません。
楊さんは、動力分野で価値を示せなければ産業の中心エネルギーにはなれないとまとめます。言い換えれば、資本主義OSに選ばれないということです。
だからこそ、交流を動力で使えるかどうかが最後の重要なピースになっていました。このピースがはまれば、交流の社会実装の道が開けるという状況でした。
動力分野での直流と交流の実力差
楊さんは、動力分野での直流と交流の状況を整理します。直流モーターはすでに実用化され、電車、エレベーター、工場の機械、クレーンなどで使われていました。
直流モーターの課題の1つは送電距離で、直流を使う以上の根本的な弱点です。もう1つは寿命の短さでした。
直流モーターにも整流子が付いており、これは一定方向の回転力を生むために不可欠な部品でした。しかし火花が出て急激に劣化し、壊れやすいため寿命が短くなります。
これがないと直流モーターってほとんど回らないんだって。
寿命が短いとメンテナンスコストがかさみます。特に大きな電力を扱う大型の発電機やモーターがしょっちゅう壊れると致命的な欠点になりますが、それでも直流モーターが使われていました。
一方、交流モーターは実用的なものがまだなく、試作機やデモ機、技術理論の蓄積にとどまっていました。市場に投入された製品は存在しませんでした。
試作機ベースの交流モーターにも欠点があり、回転を始めるときに人力で助走をつける必要がありました。最初から自動で回り出すことができなかったのです。
| 項目 | 直流モーター | 交流モーター |
|---|---|---|
| 実用化 | 電車・工場機械などで実用化済み | 試作機・デモ機・理論の段階 |
| 弱点 | 送電距離、整流子の劣化で寿命が短い | 自力で回り出せず人力で助走が必要 |
| 一貫システム | 発電・送電・利用が完結 | モーターがなく動力用途が成立せず |
総合すると、直流は完璧ではないものの現実的でした。発電、送電、利用まで一貫した全体システムが完結しており、それが揃って初めてインフラたりえます。
交流もピースを徐々に揃えていましたが、決定的に使えないと判断された理由は実用的なモーターがないことでした。これに対応するモーター技術が出ない限り、交流に切り替えるインセンティブは薄かったのです。
エジソンの執念と、無名の天才テスラの登場
楊さんは、エジソンも直流の欠点に気づいていなかったわけではないと述べます。それでも直流の方が実用的だと判断し、推進していきました。彼は発明家であると同時に経営者でした。
すでに実用化できている直流を放置し、いつ実用化されるか読めない交流を待つ経営判断は取れません。楊さんは、これは愚かなのではなく、実業家として合理的な判断だったと評価します。
エジソンは直流システムのハンデを気合と物量で解消しようとしました。とにかく発電所を建てるという戦略です。電灯会社も経営していた彼は、主力商品の白熱電球を売るためにも電線網と発電所を広げる必要がありました。
もう何十箇所と。発電所を建設して数十万個の電球を売ったんですよね。もう執念ですよ。
深井さんは、電球を発明し、使うためのコンセントや電線網まで自分で作っていくエジソンの姿勢を、実業家として非常に優秀だと評価します。
コンセントないやん、作ろって言ってバンバン作っていくっていう、これ実業家としてめちゃくちゃ優秀ですね。
楊さんは、今の研究所のように課題を決めて組織的に運営する形態を、ほぼ最初にやったのがエジソンだと紹介します。エジソンはいわばラボそのものを発明した人物でした。
一方テスラは、昔ながらの職人タイプで、助手は置いても自分一人で研究するスタイルだったと楊さんは述べます。組織として体系立ててリソースを投入することはしませんでした。
銃弾爆撃のエジソンと、理論のテスラ
楊さんは、今回エジソンとテスラのどちらを取り上げるか悩んだほど、エジソンも面白い偉人だと語ります。深井さんは、大人になってビジネスを経験してから振り返ると、エジソンのすごさが分かると応じます。
楊さんは、エジソンの研究スタイルを「銃弾爆撃」と表現します。可能性をしらみつぶしに全部洗っていくやり方で、これが有名な99パーセントの努力にあたるのかもしれないと述べます。
このエジソン流に対し、テスラは異なる言葉を残しています。エジソンが干し草の山から針を探すなら、蜂のように藁を一本一本調べて見つけるまでやめないだろう、というものです。
でも私は違うみたいなことを言うんですよね。私は理論と計算でその労力を九十パーセント節約できるという風に言ってるんですよ。
深井さんは「かますな」と反応します。楊さんは、これはテスラ晩年の言葉で、頭の中の理論と計算だけで労力を大きく節約し正解を出せるという意味だろうと解説します。
深井さんは、どちらもすごく、どちらもかっこいいとして、この2人の対比を面白がります。
どっちもすごいし、どっちもかっこいいけどね、僕は。いいね、この二人の対比が。
そして楊さんは、次回いよいよテスラのモーターが誕生すると予告します。無名の天才テスラが、発明王エジソンの最大のライバルになっていきます。
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銃弾爆撃型。可能性をしらみつぶしに試す。研究所を組織として運営した先駆け。
職人型。理論と計算で労力の大半を節約すると自負。基本は一人で研究した。
まとめ
今回は、ポテンシャルの高い交流がなぜ直流に負けていたのかを、送電・動力・投資という観点から整理しました。最後の壁だった交流モーターと、そこに現れるテスラが次回の主役になります。
- 発電機から作られる電気は原理上必ず交流になり、直流は電池から得られる
- 直流は電圧を変えられず、抵抗による損失を抑えられないため長距離送電に弱かった
- 交流は電圧を変えて長距離送電できる優位性を持つが、数学的に扱いにくく発展途上だった
- 当時最大の電力需要は動力で、交流モーターがないことが普及最大の壁だった
- エジソンは物量で直流を推進し、そこへ理論を武器にする無名の天才テスラが現れる




