暴君ギルガメシュと野人エンキドゥ、拳で語り合う男たちの物語
深井龍之介さんと樋口聖典さんが、人類最古の英雄叙事詩「ギルガメシュ叙事詩」を解説する歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)。今回は、神と人間の混血である暴君ギルガメシュと、神々が送り込んだ野人エンキドゥが拳を交え、友情を育んでいく姿を描きます。昨日の敵は今日の友——4000年以上前のメソポタミアで語られたこのストーリーは、現代の少年漫画にも通じる普遍的な面白さに満ちています。その内容をまとめます。
暴君ギルガメシュの誕生と暴虐
物語の舞台は、古代メソポタミア紀元前3000年頃から紀元前6世紀頃まで栄えた文明。現在のイラク周辺に位置し、都市国家が発展した地域。最大の都市国家ウルク紀元前3000年頃のメソポタミアを代表する都市国家。面積は約600ヘクタール(東京ドーム約128個分)で、当時最大規模の都市だった。です。ここで誕生したのが、三分の二が神、三分の一が人間という特異な存在、ギルガメシュ実在した可能性のある伝説的な王。父は伝説的王ルガルバンダ、母は女神ニンスン。神々の手で完璧な肉体と武力を与えられた。でした。
ギルガメシュは神々によって入念にカスタマイズされた存在でした。出産の女神ニンフルサグメソポタミア神話の母なる女神。出産と大地を司り、人間や生命の創造に関わる。が彼の体を完璧に造形し、太陽神シャマシュメソポタミア神話の太陽神で正義と真実の神。ギルガメシュの個人守護神となり、冒険の際に彼を助ける。が男らしさを授けました。そして最高神エンリルメソポタミア神話の最高神の一柱。大気と嵐を司り、王に統治権を授ける役割を持つ。が直々に王位を授けたのです。
しかし、完璧な肉体と絶対的な力を持つギルガメシュは、良き王にはなりませんでした。彼は若者たちを酷使して巨大な城壁を築かせ、家族に会うことすら許しませんでした。市民には暴力的なパワハラを働き、極めつけは結婚式の初夜、花嫁を奪い取って王が先に寝るという暴挙に出たのです。
これは絶対ダメや。
ウルクの民は苦しみに耐えかね、天空神アヌメソポタミア神話の最高神。天空を支配し、神々の王として君臨する。会長のような存在。に直訴しました。神々の計画で王位を授けられたギルガメシュですが、人間側からは不満が噴出する事態となったのです。
神々の解決策——野人エンキドゥ誕生
困った天空神アヌは、いきなりギルガメシュを罰するのではなく、彼に匹敵する強さの存在を作って対抗させることを思いつきます。暴君を矯正するために、ライバルを送り込むという発想でした。
アヌは出産の女神ニンフルサグに命じて、自分をモデルにした新しい人間を作らせました。粘土をこねて生み出されたその存在は、エンキドゥ天空神アヌをモデルに粘土から作られた存在。ギルガメシュと同等の戦闘力を持ち、後に動物の保護神とされる。と名付けられました。戦いの神から力を授けられ、ギルガメシュと戦うために運命づけられた存在です。
正義の味方みたいな。
エンキドゥの初期設定は、文明社会から見た「野蛮人」でした。全身が毛に覆われ、裸で山を駆け回り、カモシカ中東地域に生息する草食動物。エンキドゥは彼らと草を食べ、水飲み場を共有していた。たちと草を食べ、水飲み場で動物たちと水を飲む生活をしていたのです。国家や人間社会の概念を知らない、まさに自然の一部のような存在でした。
野蛮人
都市国家の秩序を知らない未開の存在。自然の中で獣のように生きる山男。
自然の守護者
動物たちと共生し、狩人の罠を壊して獣を守る。後に動物の保護神とされる。
文明との出会い——シャムハトによる啓蒙
ある日、ウルクの狩人がエンキドゥのいる水飲み場で罠を仕掛けていると、毛むくじゃらの山男が現れ、罠を引きちぎって獣たちを逃がしました。恐怖した狩人は父親に相談し、父親はギルガメシュ王に報告するよう指示します。
ギルガメシュは、宮女シャムハト神殿で宗教儀式として性行為を行う聖娼(せいしょう)だったと考えられる女性。文明への導き手としてエンキドゥを変化させる。という女性を狩人に同行させました。彼女の役割は、エンキドゥを色仕掛けで誘い、動物たちと引き離すことでした。
水飲み場で待ち構えていたシャムハトは、エンキドゥを誘惑しました。エンキドゥは誘いを受け入れ、6日7晩、彼女と共に過ごします。この出来事は、エンキドゥに劇的な変化をもたらしました。足の力が弱くなって獣のような走りができなくなる代わりに、直立歩行が可能になり、知恵が広がったのです。
シャムハトはエンキドゥに文明社会の作法を教えました。パンとビールを差し出し、「これが生きていることの証です。これが国の習わしです」と告げます。エンキドゥは満足するまでパンを食べ、ビールを7壺も飲み干しました。シャムハトは自分の服を引き裂いてエンキドゥに着せ、水で体を洗い、香る油を塗ってあげました。
野生の存在
全身毛むくじゃら、裸で四足歩行。動物たちと草や水を共有し、言葉を持たない。文明を知らない。
人間化
直立歩行、服を着用、パンとビールを嗜む。言葉を話し、身だしなみを整える。動物たちから拒まれる。
この変化は、当時のメソポタミア人の世界観を反映しています。都市国家で農業や商業を営み、神々を崇拝する自分たちこそが「文化を持つ民」であり、それ以外は「野蛮な民」だという差別的な視点です。エンキドゥの変化は、野蛮人が都市の文化によって啓蒙されていくプロセスとして描かれているのです。
しかし同時に、これはエンキドゥが自然の世界から断絶されるプロセスでもありました。動物たちは人間化したエンキドゥを拒絶し、彼はもはや野原に帰ることができなくなったのです。さらに、シャムハトと共にウルクへ向かう途中、放牧民が狼やライオンに襲われている場面に遭遇します。エンキドゥは人間を守るために狼とライオンを殺しました。かつての仲間である獣の敵になってしまったのです。
シャムハトはエンキドゥをウルクへ誘います。「最強のギルガメシュ様が支配している。会ってみたくない?」と。エンキドゥはその言葉に心を動かされました。強そうな相手と戦ってみたい——まるでドラゴンボールの孫悟空のような、純粋な闘争心が彼の中に芽生えたのです。
運命の対決、そして友情へ
ウルクへ向かう途中、エンキドゥはギルガメシュの暴虐ぶりを知ります。ある男が結婚式に急いでいると聞き、理由を尋ねると、「ギルガメシュ王が花嫁との初夜を先に過ごすから」と答えました。エンキドゥは顔を真っ青にしてドン引きします。
一方、ギルガメシュも奇妙な夢を見ていました。天空神アヌの宿る星が落ちてきて、自分の上に重くのしかかる夢です。母である女神ニンスンに夢占いを頼むと、「お前と同じくらいの力を持つ者が野に生まれた。近いうちにここへやってきて、お前と戦うだろう」と告げられました。
ギルガメシュもエンキドゥも、互いに相手の存在と対決を予見していました。そして運命の出会いが訪れます。ウルクの広場に人々が集まり、エンキドゥの姿を見て口々に叫びました。「英雄が現れたぞ! 神のごときギルガメシュ王の競争相手だ!」
そこにギルガメシュが現れます。エンキドゥは広場と城をつなぐ門を遮り、タイマンを挑みました。別の記述では、ギルガメシュが他人の妻を寝取ろうとする瞬間、エンキドゥが足止めをしたとも伝えられています。
二人は激しく殴り合い、周辺の建造物を破壊しながら戦いました。しかし、どちらも神々から力を授けられた存在——勝敗はつきません。やがて二人は互いの強さを認め、手を離しました。
これはもう、ストリートファイターやね。
エンキドゥがまず口を開きました。「あなたは本当に強い。最強だ。女神ニンスンがあなたを最強として生み、神エンリルがあなたに王位を授けたのはもっともだ」。
それに対してギルガメシュは答えます。「実は俺とお前は友達になる運命だとお袋から聞いたんだよ。お前は俺のライバルになり、俺はお前を女のように抱き、愛を注ぐだろう。お前は常に俺を助けてくれるだろう、と」。
ギルガメシュはエンキドゥの腕を掴んで高く掲げ、民衆に向かって叫びました。「エンキドゥに対抗できる者はいない! こいつは最強だ!」。エンキドゥは疲れ果てて座り込み、涙を流しました。嬉しかったのでしょう。
こうして二人は無二の親友となりました。恋人同士のように手を取り合い、抱きしめ合い、共に食べ、共に飲み、語り合ったのです。
これはもう、スラムダンクからドラゴンボールから、いろいろありますよね。花京院典明とか、ジョジョもそうだし。
昨日の敵は今日の友——4000年以上前のメソポタミアで、このフレームワークはすでに確立されていたのです。そして友人を得たギルガメシュは改心し、暴虐をやめ、ウルクの民から愛される王になりました。
ギルガメシュが改心した理由について、深井さんと樋口さんは興味深い考察を展開しています。神と人間の混血であるギルガメシュは、人間たちの間で生きることに孤独を感じていたのではないか。周りが劣って見え、誰も自分を理解してくれない苦しみがあったのかもしれない。しかしエンキドゥという対等の存在に出会い、初めて自分の限界を知り、他者を認めることを学んだのではないか、と。
エンキドゥはギルガメシュにとっての鏡でした。自分の姿を映し、自分の限界に気づかせ、メタ認知を促す存在。神々の計画通り、エンキドゥはその役割を見事に果たしたのです。
まとめ
4000年以上前のメソポタミアで語られた「ギルガメシュ叙事詩」は、現代の少年漫画にも通じる普遍的な面白さを持っています。暴君として民に恐れられた主人公が、運命のライバルと拳で語り合い、無二の親友となって改心していく——このストーリーテリングは、時代も場所も超えて人々の心を打つのです。
人間って面白いなと思いましたね。こういうことを面白いと思うのが人間なのかもしれない。
次回は、友となった二人が共同で挑む冒険が描かれます。どんな困難が待ち受け、どんな敵と戦うのか——ワンピースを探しに行くような、熱い展開が続きます。
- 神と人間の混血ギルガメシュは、神々に完璧にカスタマイズされた最強の王だったが、暴君として民に恐れられていた
- 天空神アヌは、ギルガメシュに匹敵する力を持つエンキドゥを作り、対抗させることで暴君を矯正しようとした
- 野人エンキドゥは宮女シャムハトによって文明化され、動物の世界から人間の世界へ編入された
- 二人は拳を交え、互いの強さを認め合い、無二の親友となった——「昨日の敵は今日の友」の原型
- 友を得たギルガメシュは改心し、ウルクの民から愛される王になった
- 4000年以上前の物語だが、現代の少年漫画にも通じる普遍的な面白さを持っている

