「去年やったこと」を言えない理由
会話は「去年やろうと思って、やれなかったことはあるか」という小笠原さんの問いから始まりました。木原さんは「いっぱいある」と答えつつも、いざパッと聞かれると具体的に出てこないと言います。ここから話は「そもそも自分はちゃんと振り返れているのか」という問題へと進んでいきます。
木原さんは、自分が去年やり切れなかったことも、褒めてあげたいこともパッと出てこないのは、要するに「振り返れていない」からだと自己分析します。やれなかったことだけでなく、思った以上にやれたこともあるはずなのに、それすら言語化できていない状態だというわけです。
やりきれなかったこととかが出てきてないわけなんで、振り返れてないんだと思いますよ。
その背景には、多くの組織に共通する「1年サイクル」の目標設定があると木原さんは指摘します。1年間走り切ってから答え合わせをするやり方は、レガシー企業にありがちなスタイルであり、振り返りの単位としては長すぎるのではないか、という問題意識です。
リフレクションウィークとは何か
そこで登場するのが、小笠原さんの会社で今回初めて実施する「リフレクションウィーク」です。これは、次のフェーズでより良い仕事をするために、1週間まるごと振り返りだけに専念する期間のこと。より早く着手できるようにしたり、業務に集中できる環境を整えたりするために、過去の取り組みをきちんと見直すのが狙いです。
木原さんによれば、このチームでは10週間取り組んだことに対して1週間の振り返りを行い、それを年に4回のサイクルで回していく計画になっています。
木原さんは、この取り組みが従来の感覚からすると「かなりリッチで贅沢」に見えることを認めます。しかし、自分が何をやってきたかを言語化できない状態を考えると、それくらいの時間が必要なのかもしれない、とも語ります。長すぎたと感じるかもしれないし、やってみないとわからない──収録時点ではまだ実施前だったため、あくまで手探りの挑戦だと二人は率直に話しました。
10%の投資で20%良くする発想
小笠原さんは、この施策を算数で捉え直します。10週間のうち1週間を振り返りに使うので、時間としては約10%。その10%を投資して、次の仕事が120%になれば「儲け」だという発想です。目標としては、自分の仕事が量的に20%ほど良くなることを目指したい、と語ります。
木原さんは、この価値を「わかりやすい理想」として具体例で説明します。たとえば業務の基盤を自動化するのに5時間かかるとして、その5時間をかければ以降何十時間もの効率化につながるはずなのに、日々の業務に追われて着手できず、ずっと無視してしまう作業がたくさんある、というのです。
五時間かけて向こう、多分何十時間業務効率が進むはずなのに、その五時間かけられないからずっと無視してきていることなんかたくさんある。
上手な人はそういう作業をすぐ構築して自動化してしまう。一方で自分は「さすがに5時間は無理」と目積もりのまま先送りにし、いつか忘れてしまう。そうした「やっておくべきだったこと」を振り返り期間で拾い上げ、すぐ実装できる状態にタスク化していくことこそ、振り返りの有効な使い方だと木原さんは述べます。
なぜ振り返りは「しんどい」と思われるのか
小笠原さんは、リフレクションウィークを提案したとき、メンバーがちょっと怪訝な顔をしたり、しんどそうに見えたりしたことが気になっていました。それに対して木原さんは、しんどいというより「業務をやりたい」という感覚ではないか、と補足します。溜まっているタスクがあるのに振り返りに専念しなければならないことへの「不安」だ、というのです。
ここで小笠原さんは、自分の見立てのズレを率直に反省します。「振り返らずに走ると危険だ」「振り返れと言われても時間がない」──そうやってみんな困っていると思い込んでいたが、実際には振り返りの優先順位が低い人もいた、というわけです。
そんなに優先順位低い人がいたんだっていうのが正直な感想で、そこ合わせられてなかったんだなというか。
木原さんの見立てでは、困っている人が多いとは思えないとのこと。ただしそれは、振り返りの重要度が分かっていないがゆえに困っていないのかもしれないし、逆に非常に上手に仕事をする人だから困らないのかもしれない、と両面から整理します。捉え方は人によって変わる、というのが結論です。
片手間の振り返りをやめるには
話は「日々突っ走っている人はどうすればいいのか」というテーマへ移ります。多くの組織では、評価期間や振り返り期間が設定されても、通常業務にそのままアドオン(上乗せ)される形になりがちです。木原さん自身も、学園側の年度末の振り返りと次年度の目標設定に追われた経験を「めっちゃ大変」と振り返ります。
小笠原さんの問題意識は明確です。評価に真摯に向き合うには時間と情報が必要であり、「片手間にやるな」ということ。これは振り返りにもそのまま当てはまります。
ここで木原さんは、少し踏み込んだ実践例を紹介します。年度末の目標設定にあたり、部門の目標や達成基準・達成手段などのルールをNotion AIに渡し、過去にやってきたドキュメントをもとに振り返りと次年度の構想を生成させてみたところ、それなりのものが出てきたというのです。
木原さんはこの方法を「一番健全」だと言います。自分で編集した「こんなことをやってきました」という綺麗事ではなく、事実として蓄積された記録から「あなたはこういうことをやってきた」と引き出せるからです。ただし小笠原さんは、これはあくまで普段からきちんとドキュメンテーションができている人の話だと釘を刺します。
振り返ろうとしても材料がなく、目標に合わせた「綺麗事」の後付けになりがち。
事実の記録からAIが「やってきたこと」を引き出せる。健全な振り返りと次の構想につながる。
小笠原さんは、日常業務が振り返りや次の構想に生きるように仕事ができる状態を作れれば、いずれリフレクションウィーク自体を持たなくてよくなるかもしれない、と展望します。木原さんも「振り返ろうと思ったけど何の材料もない」と気づくこと自体が、この期間の意義になるのではないかと応じました。
ジャーナリングとAIが変える振り返りの未来
Slackのやりとりを評価に活かすツールや、Notionのドキュメントを活用する仕組みなど、記録から自動的に振り返りの素材を取れるツールは出始めています。そこで二人がたどり着いたのが、日々の「ジャーナリング」を美しい文化にする、というアイデアでした。
木原さんは「一周回ってここに来る感じ」と表現します。日記のようにジャーナルを書くという一見古典的な行為が、AIの時代にはむしろ振り返りのためにとても良いことになるのかもしれない、というわけです。
そこから話は具体的な着地点へ向かいます。日々の業務のジャーナリングはAIが業務基盤を見て自動で行い、そこに気持ちや気分、感覚を載せる部分を人間が担う──そんな「ワーキングのバディ(相棒)」を作ろう、という構想です。
業務基盤を見て、日々やったことのジャーナリングを自動化する
その日の気持ち・気分・感覚を載せていく
最後に小笠原さんは、「いつかリフレクションウィークをなくすことが目標」だと語ります。走り続けながらも、振り返りがAIによって自動化される未来を作る──二人はそんな展望で今回の話を締めくくりました。
まとめ
今回のテーマは、日々の仕事を「やり散らかして終わり」にしないための振り返りでした。1年サイクルの目標設定では振り返りが形骸化しやすく、いざ聞かれても去年やったことすら言えなくなる──その課題を出発点に、10週間ごとに1週間を振り返りに全振りする「リフレクションウィーク」という新しい挑戦が紹介されました。
振り返りは片手間ではなく、時間と情報をしっかり確保して行うべきもの。そしてそれを支えるのが、日々のジャーナリングや記録の蓄積です。二人は最終的に、記録から自動で振り返りをしてくれるAIの相棒を作り、いつかリフレクションウィークすら不要にすることを目標に掲げました。振り返りの価値を再考しつつ、その「自動化された未来」を目指す前向きな回となりました。
- 1年サイクルの目標設定では振り返りが形骸化し、「去年やったこと」すら言えなくなりやすい
- リフレクションウィークは、10週間の取り組みに対し1週間を振り返りに専念する施策(年4回)
- 時間の約10%を投資して次の仕事を20%良くする、という発想で捉える
- 振り返りは片手間ではなく、時間と情報を確保して行うことが大切
- 普段のドキュメント化・ジャーナリングがあってこそ、AIによる健全な振り返りが可能になる
- 最終目標は、AIの相棒に振り返りを任せ、いずれリフレクションウィーク自体をなくすこと
