今の選挙が抱える「死に票」と「分断」
収録は投票日の直前に行われました。政党や候補の是非には踏み込まず、あくまで「選挙のシステム」を切り口に話が進みます。きっかけになったのは、チーム未来政治団体の一つ。テクノロジーを使った政策や意思決定の仕組みづくりを掲げているとされる。の安野さんがYouTubeで語っていた内容だったといいます。
安野さんが指摘していた課題は主に2つです。1つは「死に票」。もう1つは「分断」でした。木原さんは、この分断のほうが問題として大きいと感じたと話します。
現在の小選挙区制は多数決です。最も多く票を取った人が勝つため、有権者の中には「自分の一票がどうせ死ぬなら」と計算して投票する人が増えているといいます。本当に支持する第1候補ではなく、勝たせたくない候補に対抗できそうな第2候補に入れる、という行動です。
自分が本当に支持しているところに入れないっていうのは、果たしてどうなの?
小笠原さんは、これは昔からある問題だと応じます。本当の多数でなくても勝ててしまうのが小選挙区の構造であり、選挙が「イベント」である以上は避けにくいという見立てです。分断についても、昔から小さな単位では起きていたものが、SNSによって可視化され、大きなうねりに見えているのだと整理しました。
インターネットをベースに可視化されたことで、大きなうねりに見えるっていう現象は今すごい大きいですよね。
優先順位で選ぶ投票方式とは何か
この2つの課題への解決策として安野さんが紹介していたのが、アメリカのニューヨーク市長選などで導入されている投票方式でした。木原さんはこれを「RCV(ランクト・チョイス・ボーティング)」として説明しています。一人だけを選ぶのではなく、ニューヨークの市長選では5位まで順位をつけて選ぶ仕組みだといいます。
この方式には2つの効果があると木原さんは整理します。まず、順位をつけて複数選べるため、死に票が起きにくくなります。そしてより大きな効果が、分断が起きにくくなることです。多くの人に幅広く好かれないと得票が伸びない構造になるため、他者を攻撃するインセンティブが弱まるという理屈です。
1位票を集計
過半数を取った候補がいれば当選。
過半数がいない場合
最下位の候補を除外し、その票を次の順位へ振り分ける。
過半数に達するまで繰り返す
幅広い支持を得た候補が勝ちやすくなる。
ただし、この仕組みには大きな前提があると木原さんは付け加えます。デジタル化が進まない限り実現が難しい、という点です。紙で5位まで書かせ、それを繰り上げながら集計するのは、アナログではあまりに大変だからです。デジタル化が進んだ地域だからこそ、この方式で既存の課題を解決できているというわけです。
デジタルの力でそういう既存の課題を解決している。めっちゃいいなと僕は思ったんです。
選挙を「イベント」から「継続」へ変える発想
小笠原さんは、順位付投票は良い仕組みだと認めつつ、それでも選挙が「イベント」である限り制度疲労は残ると指摘します。そこで出てきたのが、より踏み込んだ発想でした。特定のタイミングで一度だけ投票するのではなく、常に意見を取り続けるという考え方です。
たとえばマイナンバーなどを使い、日々「この政策はいい」「この議員の行動はいい」と加点方式で評価できるようにしておく。そうした声を常に集め、あるタイミングで代表が入れ替わる。そんなイメージです。AIが普段の声を拾い、「あなたはこの人を支持しているけれど、本当にこの人でいい?」と問いかける未来も語られました。
選挙前に情報を集め、そのタイミングのイメージで一度だけ投票する。組織票が発言力を持ちやすい。
日常的に政策や行動を評価し続け、声を集め続ける。AIが意向を拾い、確認してくれる。
小笠原さんは、選挙をイベント化するからこそ組織票が生まれ、団体が発言力を持つのだと分析します。皆で大きく仕組みを立ち上げ、国中に広げる必要があった昭和のような時代にはそれが機能した。しかし今は、票の数で何かを優遇するタイミングではないのではないか、という見立てです。
費用の面からも「変えられるところまで来ている」と小笠原さんは言います。総選挙は一回およそ800億円と言われ、平均すると2〜3年に一度行われている。二回分ほどの費用を投じれば、それなりの選挙システムは作れるのではないか、という試算です。そうして選挙費用が4分の1になれば、10年ほどで回収できる計算も立つと語りました。
大学の授業評価に潜む同じ構造
話は選挙から、大学の入学試験や授業評価へと広がります。木原さんは、入学試験も本来は同じ構造を持つと指摘します。受験シーズンに向けて一発勝負で勉強するのではなく、学習期間の成長プロセスがデータ化され、それが評価される方が学生にも大学にも都合がいいはずだ、という考え方です。かつて文科省も共通テスト移行時に複数回受験の構想を掲げていたと触れられました。
より身近な例として挙がったのが、大学の授業改善アンケートです。京都芸術大学では全14回の授業が終わったタイミングで実施しているといいますが、小笠原さんはこれに疑問を呈します。
ほぼ最後の印象やから。印象で評価してあげるのやめてって思いながら。
卒業制作などで厳しく向き合った結果が、最後の印象としてアンケートのネガティブ評価につながることもある。目の前の学生に真剣に向き合うことが、必ずしも良い評価に結びつかない可能性がある、という指摘です。ここにも、一発のタイミングで評価する「イベント型」の弱点が現れています。
小笠原さんは、評価するなら毎回の授業ごとに取るべきだと主張します。その根拠として持ち出したのが、大学の単位に必要な学習時間の考え方でした。
つまり学習という行為において重要なのは、この自学自習を促せたかどうかだと小笠原さんは言います。毎回の授業ごとに評価を取り、時系列で「どこで下がったか」「どこで上がったか」を教員にフィードバックする仕組みなら意味がある、という提案です。継続的に、常に取る。ここでも選挙と同じ発想が繰り返されます。
デジタル化を阻むのは技術ではなく意思
木原さんは、AIやデジタルの相性が「一般的に良くない」と言われる場面があるものの、それは提供する側のリテラシーの問題ではないかと述べます。選挙も同じで、有権者のことを思えば思うほど、あえてデジタルではない方法を選んでしまう。「紙で書かないとダメ」「スマホ投票なんて無理」といった発想が、結果として仕組みを変えられない構造を作っているという見立てです。
これに対し小笠原さんは、選挙の語源から論を起こします。もともと選挙は多数決の話ではなく、推薦や「推しを持ち上げる」ことに近いものだった。それを国民参加の形にしたことで多数決になったが、人数が増えると仕組みが複雑になっていった、という整理です。
エストニアが20年前からネット投票を実現できたのは、人が引き上げてシステムでやるしかなくなったからだと小笠原さんは説明します。逆に言えば、人手でできてしまうからこそ、多くの国は従来の方法を続けているだけ。だとすれば、変えるかどうかは意思の問題に尽きる、というのが結論でした。
最後に木原さんは、選挙の語源にあった「推し」の話を現代につなげます。推し活と選挙は、まさに同じ構造ではないか、という指摘です。分断が生まれ、死に票のような問題も起きる。しかもアイドルを育成する側が意図的に分断を生む施策を打つこともある。AKBの総選挙ファンの投票でメンバーの順位を決めるイベント。小笠原さんが、選挙の「推しを持ち上げる」という語源と重なる例として挙げた。を例に、選挙と推し活が地続きであることが語られました。
まとめ
今回は、投票日を目前にした視点から、選挙制度とデジタル化の関係を掘り下げる回でした。死に票や分断という具体的な課題から出発し、順位付投票のような技術的解決策、さらには「常に意見を取り続ける」という発想へと話は展開しました。
そして選挙も大学の授業評価も、「一発のイベントで評価する」構造に共通の限界があること。デジタル化を阻んでいるのは技術ではなく、変えようとする意思であること。この2点が繰り返し語られた芯だったと言えそうです。時事のテーマでありながら、働き方や学び方にも通じる示唆が詰まった対話でした。
- 現在の小選挙区制には「死に票」と「分断」という課題があり、後者はSNSで可視化され大きく見えている。
- 順位付投票(RCV)は死に票を減らし、幅広い支持を必要とすることで分断を抑えるが、実現にはデジタル化が前提となる。
- 選挙を一度きりの「イベント」から、日常的に意見を取り続ける「継続」型へ変える発想が語られた。
- 大学の授業評価も一発のタイミングで印象評価されがちで、毎回・時系列で取る方が学習の本質に合う。
- エストニアの例のように、デジタル化を阻むのは技術ではなく変えようとする意思の問題である。
