「凪の日」に気づいた小さな怒りの正体
収録の冒頭、小笠原さんが「今日はすごい凪の日で」と切り出します。普段は自分の中に小さな怒りがあり、それが仕事の推進力になっているというのです。ところがこの日は、その感情が一切湧いてこない。会話の中でいつもなら反論したくなる場面でも、言葉が出てこない自分に気づいたと語ります。
普段こうやっぱりちっちゃい怒りみたいなものが、なんかあるんですよ。
小笠原さんは、自分の価値は「現状に対する怒り」から生まれる推進力にあると考えてきたと言います。ロケットの一段目のブースターのように、最初にガッと勢いをつける役割。しかしそれが凪になると「自分は無価値なのでは」とすら感じてしまうのだそうです。
興味深いのは、この凪が中学生の頃から続く定期的な現象だという点です。月に一度ほど吐くほどの偏頭痛が来ることもあり、凪の時は体調の不調はないものの、気持ちが前のめりにならないといいます。本人にとって怒りは、探究心と並ぶ「燃え方」の一つなのです。
アンガーコントロールは本当に必要か
木原さんが「イラついた時に切り替えるスイッチはあるのか」と尋ねると、小笠原さんはアンガーコントロール怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング。6秒待つ、その場を離れる、合言葉を唱えるなどの技法が知られている。のようなテクニックは特に使っていないと答えます。ただ「表現として抑えている」ことは自覚しているとのこと。
ここで二人が投げかけたのが本質的な問いです。6秒抑えただけで収まるものは、そもそも怒りと呼べるのか。冷静に「6秒考えよう」とスイッチを入れられる時点で、それはすでに理性的なのではないか、と。
6秒ぐらい抑えただけで収まるのって、怒りなんですかね。
そのスイッチが入るぐらいの怒りは、そもそも怒りじゃないかもしれないですよね。
怒りが衝動だとすれば、それを抑えるのは前頭葉の働きです。前頭葉が活性化するスイッチを自分で入れられる人は、すでにかなり理性的だという指摘には説得力があります。テクニックの前提として、ある種の冷静さがすでに必要なのかもしれません。
良い怒りと悪い怒りの分かれ道
話は「怒りの方向」へと進みます。木原さんは、多くの人はそもそも凪であるか、怒りを内に秘めているだけだと言います。仕事にそれほどの熱量を持って取り組む人ばかりではない、と。小笠原さんも、燃え方は人それぞれで、探究心でもいいと応じます。
そのうえで小笠原さんが例に挙げたのが、「わからない」ことへの怒りの向け方です。わかっていない自分に対して怒り、わかることで解消しようとする人は、いろいろなことを早く学べる。一方で、わからないことそのものに怒り、「説明が下手だ」と相手に矛先を向ける人がいる、と指摘します。
「わかんねえんだよ、これじゃ」と、理解できない原因を説明する側のせいにする。矛先が他者への非難に向かう。
まだわかっていない自分に向け、理解することで解消しようとする。怒りが学びと行動につながる。
小笠原さんが組織における怒りを肯定するのは、その怒りが「必ず行動に結びつく」場合です。現状がこうなっていない、という怒りを、その原因をなくす行動へと転換できるなら、組織の中で怒りがぶつかってもいい、というのが持論です。
ただし、木原さんが釘を刺すように、こうした「怒りを認め合う組織が良い」という考えは、人によっては良くない方向にもいく危うさがあります。怒りの応酬そのものを是とするのではなく、あくまで行動と解決に結びつくかどうかが分かれ目だと言えるでしょう。
感情をごまかさず、根本をなくす
怒りの多くは、実は認識の違いから生まれる、と小笠原さんは指摘します。自分の認識が間違っていたと気づけば、怒りの原因そのものが消える。社内で川原崎さんに突っ込まれて「あ、そっか」と収まるケースが8割方だという実感が、この考えを裏づけています。
ここから二人が導き出したのが、この回の核心です。怒りを6秒間グッと抑えるのがアンガーコントロールなのではなく、怒りの元になっている問題そのものを解決することこそが本当のコントロールではないか、という視点です。
怒りみたいなのは、その根本をなくさない限りは、やっぱりごまかしてるだけ。
感情を抑えるんじゃなくて、業務を変えることによって根本がなくなる、対象がなくなるってことですね。
この日「業務が増えている」ことへの怒りを例に、小笠原さんは自分の感情を抑えるのではなく、業務そのものをなくすことで怒りを消すべきだと語ります。二人は半ば冗談で「アンガーコントロールはDXで解決だ」という本のタイトルまで盛り上がりましたが、その裏には、感情の抑圧より仕組みの改善で根本を断つという一貫した思想が流れています。
まとめ
怒りは単に抑え込むべき厄介な感情ではなく、現状を変える推進力にもなり得る、というのがこの回の見立てです。ただしその怒りが行動と解決に結びつくかどうかが重要で、矛先を他者への非難に向けてしまえば組織を消耗させるだけになります。
大切なのは、感情を6秒間ごまかすことではなく、怒りの根本原因を見極め、認識を改めるか仕組みを変えて対象そのものをなくすこと。凪の日を珍しく過ごした小笠原さんの穏やかな語り口だからこそ、普段の熱量の意味が逆に浮き彫りになった一本でした。
- 小笠原さんにとって「小さな怒り」は仕事の推進力であり、それが湧かない「凪の日」には自分の価値が揺らぐように感じる。
- 6秒待つなどのアンガーコントロールは、スイッチを入れられる時点で理性的であり、本当の怒りには効きにくいのではという問いが提示された。
- 怒りは「どこに向けるか」が肝心で、行動と解決に結びつくなら組織の中でぶつかってもよい。
- 怒りの多くは認識の違いから生まれ、認識を改めれば消える。感情を抑えるより、業務や仕組みを変えて根本原因をなくすことが本質的な解決になる。
