クルミドコーヒーと、その独特な空間
rennyさんが、影山さんの経営するお店で自己紹介からインタビューを始めます。
はい、投資家のrennyです。僕がですね、東京の神保町と蔵前でやってます、一棚の本屋Reading As Investingという本屋をやってるんですけれども、こちらで取り扱わせていただいてる本、『ゆっくり、いそげ』、それから『大きなシステムと小さなファンタジー』の著者、影山知明さんにインタビューをしたいと思っております。影山さん、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
それでは最初に、影山さんの自己紹介と、このお店の紹介をしていただけますでしょうか。
僕はですね、東京の国分寺というところで、2008年からクルミドコーヒーというカフェを経営しております。2017年からは胡桃堂喫茶店を隣の駅でも始めて。加えて言うと、2020年からは分寺寮という町の寮を経営してきたりもしてまして、その三つの拠点を東京の西の方でやっているものになります。
僕、今日こちら2階なんですかね。実は一度しかお邪魔してなくて、その時は地下のお店にご案内していただいて。今日初めてお邪魔して、こんな感じになってたんだって。これはこういうふうな形にしようって、どういう狙いでこういう設えになったんですか?
よくお店のことを称して、ちょっと絵本の中に入ったようなとか、森の中に入り込んだようなって言っていただけることあるんですけど、これはどっちかっていうと本当に苦肉の策でこうなったようなところありましてね。
苦肉の策。
最初にこの建物を設計した建築家の方が、商業施設の設計みたいなことはほとんどご経験がなくて。半地下と中2階っていうのが建物にあって、ほぼツーフロア分の高さがこのお店に来てて、天井高が4メーター50ぐらいあるっていう、ちょっと不思議な作りなんです。一見良さそうなんですけど、やたら空調代がかかりますし、ホールのスタッフも一人じゃ賄えないし、カフェ経営にはとっても向いてない作りなんです。
ただ、垂直方向にちょっと空間が広いというところをむしろ生かして、スキップフロアっていうんですかね、木の中のうろを巡って登ったり下りたりできるような、そんな作りに結果的になったっていうところですかね。
じゃあこれ結果的に狙ってというよりは、この土地の制約条件から、こういう風に結局落ち着いたっていうような感じなんですかね。
そうなんです。
コンサル、VCから、カフェ経営へ
影山さんがカフェを始める前のキャリアと、その頃に抱いた問題意識を語ります。
このカフェを始められたのが2008年10月でしたっけ。それまでのキャリアといいますか、ここに至る経緯ってどんな感じだったんでしょうか。
大学を出て最初に勤めたのがマッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティングの会社でして。
今や学生に大人気という。
らしいですね。僕の当時はまだまだそれほどでもっていうところだったんでね。そこに三年勤めまして、その後、マッキンゼー時代の先輩に引っ張られる形で、投資ファンド、中でもベンチャーキャピタルと呼ばれる新しい事業への投資とその経営の支援をする仕事を。こっちは長らく、なんだかんだトータルで13年ぐらいやりまして。
途中、国分寺に実家があったんですけど、その実家を建て替えるっていう時に、2階から上をシェアハウスにして、1階をカフェにしてってことでクルミドコーヒーを始めたっていう、そんな経緯でしたね。
『ゆっくり、いそげ』が生まれるまで
ここから、rennyさんの本屋で扱う2冊の話へ。まず1冊目『ゆっくり、いそげ』が生まれた背景を聞きます。
ちょっとこの2冊をそれぞれどんな本か、影山さんの方からご紹介していただけますでしょうか。片方の『ゆっくり、いそげ』が2015年、『大きなシステムと小さなファンタジー』が去年の12月、2024年12月ということで。
まず2015年、もうだから10年前ですね。これはお店を始めて6年、7年っていうタイミングで書いたんですけど、もともと自分の仕事としては経営コンサルティングとかベンチャーキャピタルとか、大きな資本主義の中でビジネスとしていかに稼ぐかっていうことをサポートする仕事をずっとやってたわけですね。
その面白さ、醍醐味みたいなのももちろん感じていて、僕自身は資本主義っていうものをとっても大好きというか、とても大事な可能性ある仕組みだなと感じているタイプなんですけど。ただ、今のグローバル資本主義みたいな形はちょっと行き過ぎてるなっていうことも同時に感じていて。
かつて自分が片棒を担いでいた資本主義の、別の形っていうのがあるんじゃないかって。今のビジネスのやり方を突き詰めていっても、なかなか人が幸せになれないっていうふうな感覚がありましてね。
それはいつ頃からそういうお考えを。カフェを始められる頃なのか、それともベンチャーキャピタルで仕事をされている頃から、何かそういう種をお持ちだったのか、そこら辺いかがなんですか。
それはもうベンチャーキャピタルやってた頃からで。創業間もない起業家の方に、本当に早い段階から我々資本参加したりしてましたから、当初はすごくピュアに自分の理念、自分の思い、困っている人を助けたいとか、
今時でいうとミッションとかパーパスとか、そういうような感じですよね。
そこに忠実に計画を立てて実行していくんですけど、だんだん僕らのような株主も増え、借り入れも増え、ステークホルダーが増えみたいにしていくと、そういった思いよりも先に、まずは今月この目標を達成しようとか、今年は年間いくらの売り上げを達成しようとかいう、その数字の意識っていうのはどうしても先に立ってきちゃう。
どっかで思いっていうのが二の次になって、気がつくと社長以下みんながお金のために働いているっていう状況を目の当たりにしてきたんですね。だから、これが資本主義の力学だなって。みんながお金のために働かざるを得ない状況になっていくってことから、人間をどうにか解放できないかって、そんなことを思ってたっていうところですね。
なるほど。で、そういう問いをご自身の中にお持ちになったのが、本の形になっていったのが、この1冊目ということになるんですかね。
そうですね。かつてVCとか経営コンサルティングの世界で、こういうやり方が正しいとされている経営の手法があるわけですね。それに疑問を感じていたので、お店を始める時に、少なくともそうじゃないやり方、今常識とされてないやり方っていうものを自分なりに選んでやっていこうって決めてたんですね。やっていくうちに、成果が出た部分、課題が見えてきた部分があったので、そういう自分自身の経験談に基づいて、経営や経済の新しい形ってものを提案できないかっていうのが、この1冊目の本になったわけですね。
「植物が育つように」というメッセージ
1冊目のあと、査読版『続・ゆっくり、いそげ』を経て2冊目へ。その核になったメッセージを語ります。
そこからほぼ10年で、昨年12月に『大きなシステムと小さなファンタジー』を世に出されたわけですけれども、実はその間に一冊、『続・ゆっくり、いそげ』というのがあって、今回の2冊目につながったと思うんですけれども、この2冊目がどういう本なのか、ご説明いただけますか。
『ゆっくり、いそげ』のサブタイトルが「カフェからはじめる人を手段化しない経済」。これは未だに僕の中にある大事な思いなんですけど、一方で人を手段化しない経済って、じゃあもっと積極的な定義をするとしたら何なのかっていうのはずっと思ってたんですね。
最初なかなか1冊目の時点では自分の答えが見つかってなかったんですけど、それ以降、自分なりに一つたどり着いたメッセージが、植物が育つようにお店や街を作っていけないか。
植物。
あるいはもうちょっと広げて言うと、命の形とか、命の自然の理みたいなもので経済社会を作っていけないかっていうことが、僕なりに目指したい形なのかもってことを思うようになりまして、それを一旦形にしようということで出したのが『続・ゆっくり、いそげ』。だからサブタイトルはまさにそういう表現になってましてね。
この骨格とかメッセージっていうのもかなり残っている部分もあると思うんですけれども、それ以外の部分、この結構分厚い本になってますんで、どういうふうなところを『続・ゆっくり、いそげ』からさらに加えていかれたんですかね。
まず『続・ゆっくり、いそげ』がちょっと不思議な出版形態で、僕ら査読版って言い方をしてきたんですけど、要はデモテープみたいな本なんですね。もともと章構成のイメージがある中で、一部の章までしか書かずに出している。その章分に関しても十分な検証をやり尽くしたっていうところではない、ちょっと粗っぽい状態で出した。
でもそういう状態だからこそ、読んでくださった方からいろいろフィードバックももらえるんじゃないかって思いがあったんです。実際、メールにしたら100通ぐらいとかですかね。この本にいっぱい書き込みをして、その本を送ってくださる方もいたりとか、そういうコールアンドレスポンスを積み重ねていく中で、この本に込めようとしているメッセージがより高まっていくんじゃないかって、そういう思いだったんです。
なので、査読版の先にいつか完成版を出すってことは、あの時点からイメージあったわけですけど、思いのほか時間がかかりましてね。それで昨年の12月にようやく形を見たということになる。
どんな人に届いてほしいか
2冊の読者像の違いと、影山さんが本に込めた最後のメッセージへ。
僕の本屋の売り上げという意味では、『ゆっくり、いそげ』は非常にたくさんの方が買ってくださっていて。この2冊の本、影山さんはどんな読者をイメージされて、こういう人に届いたらいいなとかってお持ちですか。
そういう点では、『ゆっくり、いそげ』はとってもはっきりしていて、うちのスタッフ向けに書いたっていう気持ちが強いんです。お店で働いてくれてる仲間が、両店舗合わせて今30人ぐらいいるわけですけど、普段そういうビジネス書とか経済書は必ずしも読まないタイプのメンバーが多いんですね。でもこれなら読めるっていう本にしたいっていう気持ちがありまして。結果的に10年経っても、未だに多くの方に読んでいただけてる本になってるなと感じてるんですけど。
それと比べて、2冊目の『大きなシステムと小さなファンタジー』は、もっと、今、大きなビルの中で、グローバル資本主義の中心で頑張ってるけれど、どっかで報われない思いとか、ある種の生きづらさを感じてるような人にも読んでもらいたいと思ったし、人生の道すがらでうまくいかないことがあって、なかなか自分を発揮できてないなと思うような方にも読んでもらいたいと思ったし。
だからその分ちょっと守備範囲が広い本になったと感じてるんです。本のマーケティングでいうと、読み手のイメージ、ペルソナがはっきりしてた方がわかりやすく流通していくって側面はあると思うんですけど。でもこの本はそういう届き方というよりも、いろんな人がいろんな人生の局面で開いてくれて、その全体480ページのうち、刺さる部分が変わっていくような、そういう本になるといいなというふうには思ってるんですけどね。
最後に、これを手に取ろうとしている人に、こういう言葉に響いたらこの本を手に取ってほしいとか、そういうようなことがもしあればいただきたいんですけれども。
特に2冊目の本のタイトルにも込めてる部分なんですけど、今本当に社会全体がちょっと窮屈に。
いろいろありますもんね。最近起こってることでもね。
何かあればお互いもう分断し、ぶつかり合い、喧嘩しっていうこともある。働いている人もそうだし、学校に通っている子供たちなんかも含めて、ある種のこうあらねばならない、そこから逸脱したものはこぞって叩かれるっていうような、ちょっと窮屈さを感じていましてね。でももともと人っていろんなことをしでかすし、一人一人の命の形だって、いびつなわけじゃないですか。そんな規格通りにはできてないわけですよね、人間ってね。
そういった枠組みみたいなことから、もっと自分を解き放ってのびのびやろうよって。一人一人がのびのびやれたら、それは回り回っていろんな人の力にもなれるし、そういう人たちが関わり合いの中で生まれる可能性もあるって思ってましてね。僕らはクルミドコーヒーや国分寺という街で、それをひたすら16年間実践してきたっていう気持ちでいるもんですからね。
そういう、何か自分をもう一度見つけたい、もう一回自分を発揮したいって、そんな風に感じる方には、ぜひ読んでもらえたらいいなと思いますね。
はい。影山さん、どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
まとめ
資本主義の内側で長く働いた影山さんが、人を手段化しない経済のかたちを「植物が育つように」という言葉で語ってくれました。1冊目『ゆっくり、いそげ』はお店のスタッフに向けて、2冊目『大きなシステムと小さなファンタジー』はもっと広く、生きづらさを感じる人にも届くように書かれています。窮屈さから自分を解き放って、のびのびやろうよ、というメッセージが印象的なインタビューでした。
- VCやコンサルの現場で感じた「お金のために働かざるを得ない力学」が、著作の出発点になっている
- 『ゆっくり、いそげ』はスタッフ向け、2冊目はより広い読者を想定して書き分けられている
- 「植物が育つように」「のびのびやろう」という、命の形をした経済のイメージが2冊を貫いている
