他人に先取りされた「クリスタルジム」
この回では、実際に商標を他人に取られそうになった事例が紹介されます。取り上げるのは、吉本興業ホールディングスが出願した「クリスタルジム」です。
クリスタルジムは、マヂカルラブリーの野田クリスタルさんが運営するジムの名前です。野田クリスタルさんは筋肉を鍛えていることで知られ、そこからジム事業を始めたと説明されます。
このジムでは、あまり食えない若手芸人をそこで働いてもらうといった、公益的な取り組みもされているといいます。
そこからなんかジムをやるって言って。あの、あまり食えない若手をそこで働いてもらったりとか、いう、ちょっと公益的なこともやってるんですけど。
ところが、吉本興業がいつもの通りいろんな区分で出願したこの「クリスタルジム」は、拒絶されてしまいました。
なぜ拒絶されたのか
拒絶の理由は、クリスタルケイやクリスタルキングといった名前が似ていたからではありません。他社の出願と似ている、という拒絶理由でした。
その他社とは、全く関係のないワンインターナショナル株式会社です。この会社が「クリスタルジム」を先に出願していたのです。
大文字小文字の違いはあっても、読み方は同じでした。この読み方の一致を、商標の世界では「商呼」と呼ぶと岡村さんは説明します。
ワンインターナショナルの出願は、個人指導のフィットネストレーニングや運動施設の提供といった、いわゆるジムの役務について取ろうとしていたものでした。
このタイミングは、野田クリスタルさんがYouTubeでクリスタルジムを発表した直後だったと小林さんは指摘します。便乗した形ではないかと考えられる、という見立てです。
発表からおよそ3ヶ月後に他社が出願していた、という時系列になります。
登録前に阻止する「情報提供」
この先取り出願に対して、吉本側が行ったのが「情報提供」という手続です。正式には刊行物等提出書という、わかりにくい名前の書類だといいます。
これは異議申立てや無効審判に近いものですが、決定的に違う点があります。登録される前に行うという点です。
参考物等提出書ってちょっとわかりにくい名前の書類なんですけど、まあこれはいわゆるいつも言ってる異議申立てとか無効審判とか近しいもので、何が違うかっていうと登録前にやるんです。
異議申立てなどは登録された後の手続で、一度通ってしまったものを覆すことになります。情報提供は、登録される前に「登録するな」と阻止しに行くものです。
吉本の運営部が他社の出願に気づき、この情報提供を行ったとみられます。証拠として、YouTubeの再生数やテレビ番組、Yahoo!ニュースなど多数のメディアで話題になったことが示されたようです。
これを受けて審査官も拒絶理由を出しました。クリスタルジムが有名だと認定したり、不正な目的での登録ではないかと判断したりしたのです。
その後、ワンインターナショナル側は特に反論せず拒絶査定となり、繰り上がりで吉本興業が「クリスタルジム」を登録できました。
ええ話やないの。防がれるものが防がれたのかなと。
登録後だと覆すのは難しい
ここで小林さんが強調したのが、登録前と登録後で難しさが大きく違うという点です。
異議申立てや無効審判のように登録後に覆す場合、「有名である」という主張には、もっと厳しい証拠が求められるといいます。
登録される前に止める手続。比較的緩く認められやすく、特許庁も問題のある登録を通したくないため一旦拒絶を打ちやすい。
一度登録されたものを覆す手続。売上や広告費、市場シェアといった数字が必要で、使用期間が短いと認められにくい。
登録後に有名性を認めてもらうには、売上がいくら、広告費をいくらかけたか、市場シェアはどうかといった数字が問われます。使用期間の短さも不利に働きます。
クリスタルジムは発表から出願まで3ヶ月ほどしかなく、そのレベルで有名性が認められるのは、全国的なCMでもない限り難しいと小林さんは話します。
だからこそ、他社の出願をしっかりウォッチングしておくことが大事だと小林さんはまとめます。理想は自社で先に出願しておくことですが、費用などの事情で難しい場合は、せめて他社の出願を見ておくべきだといいます。
反省を生かした「大西ライオンゴルフ」
この一件を受けて、吉本興業はその後しっかり対策を取っているようです。
例として挙げられたのが、大西ライオンさんのゴルフ事業です。大西ライオンさんはスコアが60台という腕前で、池袋でメンバーシップ制のゴルフ事業を展開しているといいます。
この「大西ライオンゴルフ」については、吉本興業がきちんと商標を取っていたと小林さんは調べた結果を明かします。クリスタルジムの反省を生かした形です。
しっかり取っているというね。素晴らしい。心配ないさと。
一方で、野田クリスタルさんの「野田ゲー」についても、確か取られていたのではないかという話も出ました。ただしこちらは実際にゲームを出して売っており、クリスタルジムより前にきちんと出願していたのではないか、と推測されています。
まとめ
早い者勝ちの先願主義のもとでも、他社に先取り出願された商標を取り戻す道はあります。鍵は、登録される前に情報提供という手続で止めることでした。
- 吉本興業の「クリスタルジム」は、無関係のワンインターナショナルに先に出願され、一度は拒絶された
- 野田クリスタルさんのYouTube発表直後に出願されており、便乗とみられる時系列だった
- 吉本側は登録前に情報提供(刊行物等提出書)を行い、審査段階で他社の登録を阻止した
- 登録後の異議申立てや無効審判では売上や広告費などの数字が必要で、覆すのは格段に難しい
- 理想は先に出願すること、難しくても他社の出願を継続的にウォッチングしておくことが重要
