なぜ「違和感」をメモしようと言い続けてきたのか
玉置さんは、これまでメモや議事録を取るとき、「自分が感じた違和感をメモしよう」と教えてきたと言います。
ただ、AIが登場する前は、それが難しかったと振り返ります。
AI以前だと、やっぱり自分が大事だと思うこととか、固有名詞とか数字とかを優先してメモしちゃうじゃないですか、人の性として。
違和感まで手が回らないんですよね。
ところが今は、議事録をAIが録音して起こしてくれるようになりました。
だからこそ、人が固有名詞や数字を手で書き取る必要がなくなり、ようやく違和感に集中できる環境になったというのが玉置さんの見立てです。
そこで岡島さんが素朴な疑問を投げかけます。「そもそもなぜ違和感がそんなに大事なのか」。言葉にしづらいけれど大事そう、という感覚は、2人に共通していました。
違和感の正体は、脳の「予測モデル」と現実のズレ
玉置さんは、この問いを説明するために整理してみたと言います。出発点は、人間の脳の仕組みでした。
人間は頭の中に「世界の予測モデル」を作っているのだそうです。過去の経験や知識、価値観をもとに、「世の中はこう動く」と予測しているという説明です。
その予測と目の前の現実を照らし合わせ、ズレがあれば修正する。脳はこの営みをずっと繰り返しているといいます。
玉置さんは、ガラスのコップの例を挙げます。
目の前にガラスのコップがあると思って持ち上げようとしますよね。でも持ち上げると「あれ、軽い」って現実のギャップを感じる。
次の瞬間に「ああ、これはプラスチック製なんだ」ってモデルを更新していく。
この「現実とモデルがずれているよ」と脳が感じる瞬間こそが違和感だ、と玉置さんは言います。
予測
過去の経験や価値観から「こうなるはず」と予測する
現実
目の前の出来事と予測を照らし合わせる
ズレ
予測と現実の差を「違和感」として感じ取る
更新
ズレの原因をつかみ、世界モデルを修正する
更新されないまま残る違和感が、いちばん厄介
ガラスの例のように、すぐ原因がわかればモデルは自動で更新されます。問題は、更新されないまま違和感だけが残る状態だと玉置さんは指摘します。
これは事実だけでなく、自分の行動にも起こると言います。信念と違う行動をしたとき、違和感が生まれるのだそうです。
すごく正直でいたいと思っている人が、ちょっと嘘をついてしまったときに、なんかジャリッとした感覚を持つのはわかります?
岡島さんも「めっちゃあります」と応じます。この引っかかりを感じられること自体が、メタ認知が働いている証拠だと玉置さんは説明します。
だからこそ、感じたときに「なぜそう感じたのか」を一度消化しておくことが大切だと言います。そうすれば、違和感の蓄積を止められるという考えです。
玉置さんは、会社を辞める場面を例に挙げます。違和感が積もり積もって、耐えられなくなって「辞めます」となりがちだ、と。
一つひとつ「なぜ違和感を覚えているのか」を自分で確かめ、修正できるものは修正しておけば、その積み重ねは防げるといいます。
怒りや不安も「違和感」だという捉え方
玉置さんは、感情の面でも同じことが言えると話します。怒りや不安は、自分が大事にしている価値観が侵害されたサインだ、というよく言われる話です。
怒りも実は違和感なんですね、不安とかも。自分が確実だと思っていたものが確実ではないと思った瞬間に、その違和感の名前は不安なんですよ。
この見方に立つと、「自分の感情に敏感になりなさい」という言葉の意味も変わってきます。
それは、違和感に気づき、どう扱うかを一度立ち止まって考えること。そうすることで、怒りや不安に苛まれる状態も解消できることがあると玉置さんは言います。
岡島さんは、自分の経験を重ねます。過去に働きすぎて「もうダメだ」となったことがあり、それ以降は早めに手を打つようになったと言います。
仕事してて、なんかおかしいなみたいな時、大体人間関係が多い気はするんですけど。
新しく誰かと働くときに気が重いと感じると、無理をせず休んだり、「この人とは相性が合わないので外してもらえますか」と早めに相談したりするようになったと語ります。
自分の状態をメタに見て調整できるようになった、という実感でした。
違和感の2つの使い道――自分を守る、自分を伸ばす
玉置さんは、違和感を感じたときの対処を大きく2つに分けます。
1つは、自分を守るために使うこと。岡島さんの経験がまさにこれにあたります。
安全とか、自分の尊厳が脅かされているんですよっていうことを認識して、距離を取るとか、環境を変えるとか。
もう1つは、自分を成長させ、アップデートするために使うことです。
仕事で引っかかった箇所は、進めるうえで必ず足かせになる部分のはずだと玉置さんは言います。自分の世界モデルと一致していないからです。
そこを突き詰めて原因を探っておかないと、仕事の途中でつまずいてしまう。だから違和感は成長のヒントになる、という整理です。
安全や尊厳が脅かされているサインと捉え、距離を取る・環境を変える・提案するなどで身を守る
世界モデルと現実のズレの原因を突き止め、自分の認識をアップデートするヒントにする
AI時代、世界モデルは日々ずれていく
玉置さんは、いまはとくに違和感が大事な時代だと言います。AIによって、世の中の当たり前がどんどんアップデートされているからです。
例として挙げたのが、冒頭でも触れた議事録です。すべての会話が録音・記録される状態に近づくと、コミュニケーションの形も変わると言います。
発言に気をつけるあまり、自由な意見交換がしづらくなったり、角を丸めた言い方ばかりになったりする。そうした変化は容易に想像できると2人は話します。
ここで重要なのは、「今は喋った内容が録音される時代だ」と世界モデルをアップデートし、それに順応しようと行動できるかどうかです。
違和感を放置しておいたら、どんどん世界が変わっていってるのに、自分のモデルはビフォーAIのまま。
モデルが更新されないままだと、違和感を覚える場面が増え、思い通りにいかない、結果が出せないという無力感につながっていくと玉置さんは言います。
無力感は侮れない――違和感を放置した先にあるもの
玉置さんが「一番恐ろしい」と挙げたのが、この無力感でした。
人間は無力感に耐えられない、と玉置さんは続けます。だからこそ、歪んだ形でそれを埋めようとする動きが出てしまうと言います。
X上で匿名で誰かを攻撃するとか、私は無力ではないっていうことを歪んだ形で証明しようみたいなムーブに出てしまう。
岡島さんは、この話に強く反応します。言葉になっていると気づきやすい、とも話しました。
「こういう時はやばいぜ」って言葉で知ってると、違和感があった時に「あ、これ当てはまるじゃん」って思えそうだなと。
玉置さんも、チェックリストのように「この怒りは無力感の裏返しではないか」と考えられる、と同意します。
さらに玉置さんは、インターネット以前の時代を引き合いに出します。
まだお茶の間があった時代ですよ。みんなが一台のテレビを囲んで、限られた数のコンテンツを消費してた時代ですよね。
コミュニケーションの方法や情報の集め方が変われば、生き方や思想まで変わる。いまはその変化のタイミングにいるからこそ、普通にしていても自分の世界モデルは日々ずれていくと玉置さんは言います。
相談が減る時代に、失われるものをどう補うか
岡島さんは、具体的な場面を挙げて確認します。新人が「自分は仕事ができる」というモデルを持っていて、実際は違ったとき、無力感につながるのではないか、と。
玉置さんは、学生時代に成績が良かった人の例で応じます。社会人になって仕事ができないと感じたとき、モデルを組み替えられるかが分かれ目だと言います。
「私は勉強が得意なんだ。仕事は経験値がないからできないことがあっても当たり前だ」って、ちゃんと自分のモデルを組み替えてあげると、無力感を得ずに済むじゃないですか。
玉置さんはさらに、AIによって「相談」というコミュニケーションが減ることの影響を挙げます。
AI以前は、本当に知りたいから人に相談する機会が多かった。しかしAIがあると、その機会がぐんと減ると言います。
相談には、知りたいことを知る以外の副次的な効果があった、というのが玉置さんの指摘です。
相談に乗った相手は、相手のことを応援したいとか、親身に思うとか、人間的な感情や距離感を調整する役割もあったんですよね。
たとえばスタートアップの起業家が投資家に相談し、応援したい気持ちを持ってもらう。そうした関係の築き方も減っていくと言います。
だからこそ、応援やリレーションをどう築くか、代替手段を考えなければならなくなる。これは誰にとっても影響がある変化だと玉置さんは話します。
そしてこの変化は、大きく一気に来るのではないと言います。
違和感に気づくコツ――まず「大事だ」と思うこと
岡島さんが、対処のコツはあるかと尋ねます。玉置さんの答えはシンプルでした。
そもそも違和感を大事だと思っている人は多くない。だから、まず「違和感は大事だ」と思うことがスタートだと言います。
違和感に気づこうって思うことがスタートだと思っていて。自分でフラグが立った瞬間に、より気づきやすくなるじゃないですか。
玉置さんは、車を買おうと思うとその車種が多く走って見える現象を例に挙げます。意識するだけで気づく量が変わる、というわけです。
岡島さんは、これを「カラーバス効果」と重ねます。
気づいたら、立ち止まって考えてあげること。その場では難しくても、「あのとき違和感を覚えた」ことを留めておくのが大切だと玉置さんは言います。
玉置さんは、経営者が部下の案に対して言う「なんか違うんだよね」も例に挙げます。現場からは嫌がられがちな反応です。
今は言語化できないんだけれども、私は違和感を感じていますっていうことを、まあ厚かましくも表現してるわけじゃないですか。
違和感はその場で言語化できないもの。もし言語化できてしまえば、それはもう違和感として認知すらされない、という説明です。
だからこそ、プロジェクトを成功させたいなら、違和感があることを伝え、放置せずに言語化する努力をすべきだと玉置さんは言います。
なんで自分は違和感を感じているのかをちゃんと共有して、それをチームに伝えないと、うまくいかないのを放置する形になっちゃいますよね。
岡島さんは、前回話した5W1Hの考え方とつなげます。不安やモヤモヤ、怒りを感じたとき、なぜそうなったのか、誰が何をしてどう感じたのかを分解すると、言語化しやすくなるのではないか、と。
玉置さんは、違和感を「自分をアップデートするヒント」と捉え直せば、むしろ欲しくなるはずだと言います。
岡島さんは、この回を通じて自分の見方が変わったと語ります。仕事から生活まで、幅広く効いてくる考え方だと驚いた様子でした。
まとめ
違和感は、脳の予測モデルと現実がずれたときのサインです。それを放置せず、自分を守るためにも、伸ばすためにも扱えるかどうかが、変化の激しいAI時代の分かれ目になると2人は話しました。
- 違和感は「自分の世界モデルと現実がずれている」ことを知らせる脳のサイン
- 更新されないまま残った違和感が積み重なると、ストレスや無力感につながる
- 怒りや不安も違和感の一種で、大事にしている価値観が脅かされているサインと捉えられる
- AIで当たり前が変わり続ける今、世界モデルは意識せずとも日々ずれていく
- まず「違和感は大事だ」と思うこと自体が、気づきやすさを大きく変える第一歩




