話題の「ワークライフバランス」、そもそも古い言葉?
この回のテーマは「ワークライフバランスという考え方をそもそもやめよう」というものです。きっかけは、高市首相の演説で「働いて働いて働いてまいります」という言葉が話題になったことでした。
玉置さんは、あの演説の中の「ワークライフバランス」は、強いコミットメントを表現するための言い回しにすぎなかったのではないかと見ています。
結局ワークライフバランスを前提とするような働き方では、国家的な課題には十分立ち向かえませんっていう捉えられ方になっちゃいますよね
岡島さんは、知り合いの厚労省の官僚がすでに体を引きちぎれるほど働いている例を挙げ、これ以上「もっともっと」と求める空気への違和感を口にします。
そこから玉置さんが、そもそもこの言葉がいつ生まれたのかを調べた話に移ります。
1970年代から2000年代へ、意味が変わり続けた言葉
玉置さんによると、ワークライフバランスは元々アメリカで1970年代、フェミニズム運動が台頭した時に生まれた言葉だといいます。フェミニズム運動 ── 女性の権利や社会進出を求める運動。1970年代のアメリカでは第二波と呼ばれる動きが広がり、家庭や職場での平等が大きなテーマになった。
当時は「女性が社会進出すると家庭が犠牲になる」という前提があり、「いや、両立できるのでは」という問いから生まれた言葉でした。
その後、意味は時代とともに変化していきます。
玉置さんは、インターネット以後は家庭の中に仕事が侵食し、生活のためではなく自己実現ややりがいを求める価値観が広がったと整理します。
もうすでにアメリカではその頃から、ワークライフバランスではなくて、ハーモニーとかワークライフインテグレーションみたいな言われ方をしてきているらしいんですね
日本のワークライフバランスは、なぜしっくりこないのか
日本でこの言葉が広まったのは、内閣府がワークライフバランス憲章を策定した2007年からだと玉置さんは説明します。
その目的は少子化対策、生産性向上、女性活躍の推進でした。玉置さんは、これは言葉が生まれた1970年代ごろの考え方だと指摘します。
今の日本は、インターネットやスマホで生活に仕事が侵食し、価値観もやりがいや成長を求める2000年代以降のアメリカと同じ状況にあります。そこに1970年代の発想を持ってきているのが、日本のワークライフバランスだというのです。
つまり、高市首相の言うワークライフバランスも30年前の意味合いのものであり、今の私たちにはワークライフインテグレーションの方がしっくりくる環境やマインドになっている、というのが玉置さんの見立てです。
ワークとライフを分ける前提が、そもそも問題では?
玉置さんは、ワークとライフを分けるという分類そのものを疑います。例として挙げたのが、ゲームをクリアした時と仕事で得る達成感の違いです。
ゲームをしていてクリアした時の達成感と、仕事で得る達成感って、そんなに違いますか?
岡島さんは「完全に一緒派閥」だと即答します。玉置さんも、喜びや達成感、充実感といったポジティブな感情は、得た経路や手段が違うだけで同じ性質のものだと話します。
問題は、ワークライフバランスが語られる時、仕事からはポジティブな感情が得られていない場面が多いことだと玉置さんは指摘します。
フォーカスされているのがストレスや徒労感、疲労感であるために、「働きすぎは良くない」という話になってしまうというわけです。
岡島さんも、「たくさん働きましょう」という言葉が怒られがちなのは、仕事がマイナス前提で語られているからだと同意します。
解像度を上げれば、仕事の中にも「ミクロな喜び」がある
玉置さんは、仕事を大雑把に見れば楽しくないかもしれないが、解像度を上げれば楽しい瞬間があると話します。何かがきっちりできた時の喜び、やろうと思っていたことが終わった喜び、予想通りになった喜びなどです。
岡島さんは、他の顧客のポッドキャストの切り抜きで「こうやったら当たるのでは」と狙って再生数が伸びた体験を挙げ、これがゲームよりアドレナリンが出ると語ります。
これゲームとかよりよっぽど、めちゃくちゃアドレナリンが出るというか。これが楽しいから、ちょっとあんまりゲームとかは僕できなくなっちゃったんですけど
玉置さんは自身が単純作業も好きで、工場のラインでひたすら同じ作業をするのも嫌いではないと明かします。そうしたミクロな喜びがあるから、ワークを「喜びが得られないもの」とは捉えていないのです。
YouTuberの「好きなことをして生きていこう」という解像度でいくと、ほとんどの人はそんな仕事をしていません。玉置さんは、もっとミクロな喜びに注目すれば、仕事は嫌なことばかりではないと言います。
ただし、本当に一ミリも喜びが見つからず苦痛でしかないなら、職場を変えた方がいいとも付け加えます。同じことをやるのに、仕事だとテンションが下がる人がいるのはなぜか、という問いに、玉置さんはワークとライフを同じ質のものと見る視点を示します。
休息と回復は「バランス」ではなく、最初に確保するもの
玉置さんは、ライフとワークはフラットに見ていい一方で、休息や回復は別次元のものだと区別します。ワークライフバランスという言葉には心身を酷使しないというメッセージが含まれていますが、それはバランスを取るものではないと言います。
仕事やライフを詰め込んだ後の残りを回復に充てるのではなく、まず回復と休息を確保し、残ったもので何をするかを考える方がヘルシーだ、というのが玉置さんの主張です。
岡島さんは、玉置さんの考え方を取り入れて火・木・土に何も考えずジムに行く「ロボット」と化した経験を話します。回復を先に無理やり確保しないと、仕事に時間を使ってしまい、数ヶ月で調子が悪くなると振り返ります。
玉置さんは、ここで多くの人が誤解しがちなストレスの仕組みを補足します。
玉置さんは、刺激で一時的に生理的変化が起こるのは正常だが、ストレス反応が長く続いて回復の時間がないと、体に慢性炎症が生じてよろしくないと話します。
だからこそ、楽しいことであれ仕事であれ全部ストレスであり、刺激のない回復の時間をブロックしておかないと、「やらなきゃ」と「やりたい」に全部食われてしまうと語ります。
時間は「量」ではなく「質」で考えて、色で塗り分ける
玉置さんは、ワークとライフを時間で量的に分ける発想ではなく、質的に考えようというのが自分の主張だと言います。8時間働いて8時間眠るという量の話ではなく、睡眠も質が大事だという例を挙げます。
そこで、岡島さんのワークライフインテグレーション具合をチェックする方法が紹介されます。辛いことや楽しいこと、回復をそれぞれ色に置き換え、24時間の枠を塗り分けてみるというものです。
岡島さんは辛いことを紫や暗い青、楽しいことをオレンジや黄色、回復を緑と答えます。玉置さんは、この色で一日を塗ると一枚の絵になり、面積の比率やリズムが一目で見えると説明します。
玉置さんは自身の一週間を塗り分けた図を共有します。色分けは次のようになっていました。
- 家族・友人・楽しいこと=黄色
- 睡眠・回復・リラックス=緑
- 運動・勉強など自分の資産を増やすもの=ピンク
- 思考に集中する時間=水色
- 作業・会議など仕事の時間=濃いブルー
- 家事・雑用・事務など名もなき仕事=グレー
岡島さんは、玉置さんが平日の朝に必ず2時間の思考時間を取っていることに驚きます。玉置さんは、運動やインプット、家族や友人との時間を先に確保し、全部トップオフした後で残りの使い方を決めていると話します。
自分の「バランスを取るもの」を見つけ、先に確保する
玉置さんは、仕事も「思考」「作業」「会議」のように細かく分けており、何を先に確保すべきかは人それぞれだと言います。自分の場合はアウトプットとインプットのバランスや、思考の時間へのこだわりがあると明かします。
岡島さんは、ワークライフという括りは大雑把すぎて、謎の二項対立を突きつけられているように感じると話します。要素を細かく刻む方が、自分の状態をコントロールしやすいという気づきです。
玉置さんは、生活や人生は点描画のようなもので、粗く見れば緑の葉っぱでも、解像度を上げれば茶色や黄色や赤が混ざっていると例えます。それが自分の望みと合っているかどうかが大事だと言います。
岡島さんは自分の場合、寝ている以外はほぼオレンジかもしれないと明かします。漫画家の友人が集まるDiscordで通話しながら作業することで、仕事の時間と友達との時間のレイヤーが重なっていると話します。
同じ要素が重なるような時間の作り方、使い方を、自分の場合してるなと思った
岡島さんは、仕事が基本的に楽しく、作業の比重が大きいため、会社の仕事はお風呂やジムの行き来、歩きながら考えるといった工夫をしていると語ります。
40歳ほどの先輩から「そのうちできなくなるぜ」と脅されるという岡島さんに、玉置さんは「ならないですよ、全く」と否定します。
玉置さんは、たとえ苦痛に近い作業でも、職場の人間関係が良く、みんなで慰め合い励まし合える環境なら感じ方が変わると話します。同じ仕事でも、そうした環境を選んだり、コミュニケーションを取る工夫をしたりできるというわけです。
いかにその紫とかグレーの時間を楽しい時間に変えていくかみたいなことを、やっぱり自分でしていくんだと思うんですよね
まとめ
ワークライフバランスという言葉は時代とともに意味が変わってきており、日本の使われ方は今の環境と価値観にしっくりきていません。ワークとライフを二項対立で分けるより、時間を質で捉え、回復を先に確保しながら要素を細かく見ていく方が、自分の状態をコントロールしやすいという回でした。
- 日本のワークライフバランスは1970年代ごろの発想に基づき、今の環境と価値観にはずれがある
- 喜びや達成感は仕事か生活かに関わらず同じ性質で、解像度を上げれば仕事にもミクロな喜びがある
- 休息と回復はバランスを取るものではなく、時間の中から最初に確保するもの
- 時間は量ではなく質で捉え、辛い・楽しい・回復などを色で塗り分けると一目で状態が見える
- 自分が「バランスを取るべきもの」を見極め、先にトップオフしてから残りの使い方をデザインする





