詐欺集団の摘発ニュースとマーケティングの接点
話の出発点は、当時ニュースで話題になっていた詐欺集団の摘発でした。富山さんによれば、いわゆる闇バイトSNSなどで募集される犯罪の実行役アルバイト。特殊詐欺の「かけ子」や強盗などに使われ、匿名性の高いアプリで指示が送られる手口が問題化した。の大元とされる組織が、ミャンマーと中国の国境付近で摘発されているといいます。
富山さんは、その規模を「数万人規模の村や町のようなもの」と説明します。旅行に誘われて現地に行った日本人の高校生などが半ば拘束され、詐欺の手法を教えられて電話やメールをかけさせられる。帰る手段を失い、そこで生きていくしかなくなるという構図です。摘発によって、数千人規模の逮捕や、拘束されていた外国人の解放が進んでいると紹介されました。
山田さんは「詐欺にはアンテナが張っていなかった」と正直に認めつつ、これをチェックしていない人は「黄色信号」だと警戒感を示しました。そして、この詐欺の話がなぜマーケティングと結びつくのか、という核心へと話が進みます。
詐欺と企業活動の根本的な違い
富山さんが問題視するのは、詐欺集団のやっていることに「かなりマーケティング要素がある」と語られる風潮です。代表例として挙げられたのが、緊急性や希少性を煽る手法。「今やらないともうダメなんですよ」という言葉を作り、相手の逃げ道をふさいで選択を誘導する。山田さんはこれを「邪悪なマーケティング」と表現します。
問題なのは、こうした手口がSNSなどで「すごい」と賞賛されることがある点です。自分や身近な人に被害が起きていないため、画面の向こう側の話として手放しに称える空気が生まれてしまう、と2人は指摘します。
しかし富山さんは、詐欺とマーケティング(企業活動)は根本的に違うものだと強調します。詐欺は一方的に相手をだまして金を巻き上げる行為。一方でマーケティングや起業は、自分たちにお金が入り、サービスを受けた側も幸せになる、つまり全員が幸せになることを目指すものだという整理です。
一方的に相手をだまして金を巻き上げる。奪う側だけが得をする。
自分たちにお金が入り、サービスを受けた側も幸せになる。全員が幸せになることを目指す。
ただし、この理想と現実の間には、詐欺まがいのマーケティングをしている領域も少なからず存在するのではないか、という懸念も同時に語られました。
代理店・ダイレクトマーケティングに潜むグレーゾーン
富山さんが「山田さんが代理店で働いていた頃、どういう規範で判断していたのか」と尋ねると、山田さんは「めちゃくちゃある」と応じました。特に多いのがダイレクトマーケティング広告から直接、購入や申し込みといった具体的な反応(レスポンス)を得ることを目的とした手法。効果測定がしやすい一方、不安を煽る訴求に傾きやすい側面もある。の場面だといいます。
お金や容姿など、ユーザーの不安を煽る訴求は反応を取りやすい。しかし、明らかに汚い歯から異常に白い歯へと変わるホワイトニング歯を白くする施術・商品。ビフォーアフターを極端に見せる広告表現は誇大広告として問題になりやすい。のクリエイティブなど、「本当にそこまで効果があるのか」という誇大広告実際よりも著しく優良・有利であると誤認させる広告。景品表示法などで規制の対象となる。にあたるものは非常に厳しく扱われたと振り返ります。
どんどんユーザー側に「あなたの今がまずいんですよ」と訴求していくのは効果的なんだろうけど……という部分はありましたね。
山田さんによれば、判断基準の半分は「良心の呵責」や「ブランディングの矜持」といった曖昧なもので、もう半分は法律でのNGだといいます。ただし実際には、法で縛られている部分の方が多かったという実感が語られました。
富山さんは、法律に触れる場合は法務部や弁護士が「NG」と判断できるが、そうでないグレーな場合はどんなプロセスで制御できるのか、と疑問を投げかけます。締め切りが実際にはないのに「この割引は今月いっぱい」と作り出す煽り文言なども、誰がどの基準で抑えるべきか堂々巡りになる、と2人は認めました。
この点について山田さんは、第一次・第二次と戦略的な意図があってキャンペーンを区切っているなら納得がいくが、「ただただ金を取るためだけ」になっていくと疑問が生じる、と線引きの難しさを語っています。
インフルエンサーが持つ「権威」の危うさ
山田さんは、インフルエンサーマーケティングSNSで影響力を持つ人物に商品を紹介してもらう手法。フォロワーとの信頼関係が効果を左右する。は「グレーの半分のライン」にいると指摘します。当時メイク・化粧品の分野にいた経験から、効果検証で明確に差が出たといいます。
フォロワー数が非常に多くても「お仕事」としてこなした投稿は効果が薄く、逆にフォロワー数が一定でも本人が本当に良いと思って発信したものはちゃんと届く。雑にやるならフォロワー数百万の人に配れば早いが、「それって誰のためになっているのか」と問いかけます。
フォロワー数が非常に多くても、「お仕事」として惰性でこなした投稿。
フォロワー数は一定でも、本人が本当に良いと思って発信したもの。
話は「権威」の話題へと展開します。富山さんは、詐欺で「警察が」「銀行が」と権威を利用するように、インフルエンサーが推しているから真実だろうと信じてしまう心理には共通点があると指摘しました。
山田さんは、最近多いというNTTを装った詐欺を例に挙げます。突然かかってきた電話で自動音声が「未払いなので情報を教えてください」と流れ、番号を押させて名前と誕生日を言わせる。その個人情報がログイン情報として悪用されるという手口です。富山さんも、警察・銀行員・警察と次々に電話をかけて畳みかけ、「保証金を移した方がいい」とお金を移させた途端に奪う手法を紹介しました。
山田さんが最も危険視するのが、個人事業主のインフルエンサーが「与信チェック」をせずにクライアントワークをするケースです。受託した案件の大元が詐欺集団だった、依頼元の会社が飛んでしまった、といった事件がインフルエンサー周りで実際に起きているといいます。
企業なら必ず行う相手のチェックを、個人の場合は仕組みがないまま仕事を進めてしまう。その結果、詐欺に加担するつもりがなかったのに「片棒を担ぐ」ことになる。しかもユーザー側も、騙しに来ていない相手だからこそ引っかかってしまう。この構図を山田さんは「強烈だ」と語りました。
社会の情勢が生む「即物的にお金を稼ぎたい」心理
2人は、化粧品のように「この製品は今年一年で売り切る」といった究極的なマーケティングをする領域があることにも触れます。成分がどんどん変わる中で、長い顧客関係よりも短期での売り切りを狙う商品も存在する、という指摘です。
そして山田さんは、こうした構造の背景には社会の情勢があると見ています。今の価値観として、お金をできるだけ短期で多く稼ぎたい。SNSを開けばハイブランドを身にまとった人ばかりが目に入るが、実際には買えない。そのギャップが、詐欺やマーケティングの土台に組み込まれているというのです。
富山さんは、ネットを使えば個人でも「一人あたり千円の利益でも百人集めれば十万円」という規模のことができてしまう、数打てば当たる構造を指摘します。それを「すごいマーケティング」と称える人もいるかもしれないが、実は「みんながやらないこと=倫理的にしてはいけないこと」を全部突っ込んでいるのではないか、と山田さんは問いました。
さらに山田さんが懸念するのは、詐欺が「すごい」と称賛される風潮が広がると、正当な企業のマーケティング活動までもが「邪悪なもの」「騙しに来ている」と捉えられ始めることです。いいものを伝えたいだけなのに疑われる。その悪循環が起きうると2人は危惧しました。
短期で稼ぎたい社会の情勢
SNSで見えるハイブランドとのギャップ、コンプレックスや劣等感が刺激される。
詐欺まがいの手法が「すごい」と称賛される
倫理的にしてはいけないことに人が引き込まれていく。
正当なマーケティングも疑われる
「騙しに来ている」と捉える人が増え、悪循環が続く。
闇落ちしないための判断基準
「詐欺とマーケの大きな違いは何か」という山田さんの問いに、富山さんは自身の基準を挙げました。家族ができてから、子供に自分がどんな仕事をしているかをある程度説明できるかどうか、を線引きにするようになったといいます。
山田さんはこれを、より共感しやすい言葉に広げます。子供に限らず、家族や親しい友達、自分がものすごく信頼している人に対して、やっていることを胸を張って説明できるか。後ろめたくて見せづらい、怪しい人だと思われそうだと感じるなら、それは要注意のサインだという整理です。
もう一つ、山田さんが繰り返し語ったのが「コツコツしかない」という視点です。目の前で今すぐ百万円欲しい、という即物的な発想には無理がある。漫才の賞レースの賞金も、彼らが二十年以上積み重ねてきた結果であって、ノーリスク・無積み重ねで大金を得られることは滅多にない、と例を挙げます。
富山さんも、ある手法で一気にお金が入ってきたとしても、一旦立ち止まって「これは本当に正しいことなのか」を見極める必要があると応じました。最後に山田さんは、届ける相手が誰で、どんな生き方をしている人なのかまで想像することこそがマーケターの仕事なのかもしれない、と締めくくります。詐欺集団の村を作った人物にも何か事情があったのではないか——そこまで考えることが、闇落ちしないための想像力につながる、という余韻を残しました。
まとめ
詐欺とマーケティングは、緊急性や希少性を煽る手法、権威を利用する構造など、表面上は似た要素を持ちます。しかし、詐欺が一方的に奪う行為であるのに対し、マーケティングは全員が幸せになることを目指すという点で根本的に異なる、というのが2人の共通認識でした。
とはいえ、その境界にはグレーゾーンが広がっています。誇大広告、実在しない締め切り、与信チェックを欠いたインフルエンサーの受託——気づかぬうちに片棒を担ぐリスクは誰にでもあります。だからこそ、信頼する人に胸を張って説明できるか、そして「コツコツ」か「即物的」か、という問いを自分に向け続けることが、闇落ちしないための道しるべになるのかもしれません。
- 詐欺は一方的に奪う行為、マーケティングは全員が幸せになることを目指す活動という根本的な違いがある。
- 緊急性・希少性を煽る手法や権威の利用は、詐欺と詐欺まがいのマーケティングに共通する要素。
- 与信チェックの仕組みがない個人事業主のインフルエンサーは、知らぬ間に詐欺の片棒を担ぐリスクがある。
- 「短期で稼ぎたい」社会の情勢が、詐欺と過剰なマーケティングの土台に組み込まれている。
- 信頼する人に胸を張って説明できるか、「コツコツ」か「即物的」かが、闇落ちしないための判断基準になる。
