番組タイトルの意外な由来
公開収録は、まずアンリさんがずっと言いたかったという番組テーマの秘密から始まりました。「ハートに火をつけろ」というタイトルの元ネタについてです。
実はこのタイトル、L'Arc〜en〜Cielのライブツアーから取られていました。それに気づいたのが、これまでゲストのけんすうさんだけだったといいます。
これ誰にも突っ込まれたことがなくて、けんすうしか分かってくれなかったんです。
ライブツアーから取ったらもう終わりですよね。アルバムとかですらないっていう。曲名でもない。
アンリさんによれば、番組の感想をエゴサーチすると、いまだにこのライブについての投稿が多く、検索のノイズになるほどだといいます。
二人はここから、かつてのビジュアル系バンドの話へと脱線していきます。会場の反応も見ながら、盛り上がる二人と、少し置いていかれる会場という空気が伝わってきます。
昔ビジュアル系やってた人たちが今会社員とかやっているので、その人たちの動きを追って、「執行役員になってたよ」とかを話し合っているっていう。
その後、しびれを切らしたのか、ゲストのけんすうさんのほうから質問コーナーへと話を切り出しました。
一番情熱を感じた人とは「怨念じみた狂気」
最初の質問は、アンリさんがこれまで出会った中で一番情熱を感じた人についてでした。
今までお会いした人の中で一番情熱があるなと思った人、感銘を受けた人がいたら聞きたいです。
アンリさんはまず、情熱にもタイプがあると整理します。テンションの高さと情熱は別物だという点です。
「インターフェイスで元気」っていうのと「情熱がある」は違うっていう、大事なところ。
その上で、アンリさんが最近よく話すのが「怨念じみた狂気」という表現です。柔らかい人なのに、なぜそれをやるのかという理由を突き詰めても、そこに大きな動機がない、というタイプを指しています。
例として挙げられたのが、Notaの洛西さんや、Reluxの篠塚さんです。篠塚さんはトラベルの仕事から起業し、もう一度トラベルで起業した人物として語られました。
あんだけ穏やかそうでロジカルに話す方なのに、なぜトラベルをやってるかというところに大きな理由はなくて。
なぜやるのかという理由すら、もはや自分の存在の前提条件になっている。アンリさんはそこにこそ本物の情熱、いわばマッドさを感じると話します。
人のハートに火がつくタイミング
続いての質問は、起業家のハートに火がつくのはどのタイミングか、というものでした。質問者は普段、小学生から高校生に授業をしており、子どもたちの点火のきっかけを探しているといいます。
ハートに火がついている起業家はどのタイミングで火がついたのか。子どもたちに火をつけるきっかけを知りたいです。
二人はまず、明確に「ここで点火した」と言える人はあまり思い浮かばない、と正直に答えます。
けんすうさんは、劇的な理由を求めがちな点に注意を促しました。例として、スクーの森さんの起業のきっかけを挙げます。
すごい劇的なことではなくて、「テレビで見てあ、これだと思った」とかでも立派な理由になるよねっていうのがあるので。
アンリさんは、点火した人ばかりが注目されすぎて、若い人が「点火しなきゃ」と焦ることへの懸念を語ります。自分自身も学生時代に仕事にしたいほど熱中したものはなかったといいます。
火がつくの遅い人もいるので、なんかこれ一概に若い子に「こう、した方がいいよ」って言い過ぎるのも怖いなっていう。
さらにアンリさんは、「何者かでなくてはならない」という呪いやプレッシャーが、かえって人を歪めてしまう危うさにも触れました。
何かを見つかったふりをしちゃうこととかも怖いな。
アンリさん自身も、2006年ごろは「学生起業家を応援する仕事をしている」とインタビューに答えていたものの、当時はその職業が日本に確立しておらず、モヤモヤしていたと振り返ります。そうした宙ぶらりんな感覚を、子どもは持っていていいのだと話しました。
プロジェクトの始め方は「まず自分で作り始める」
次は、お菓子の家でギネス記録を取りたいという質問者からの、プロジェクトの最初の一歩についての相談でした。
お菓子の家でギネスを取りたい。いろんな人と協力しないと達成できないが、動き出しとして最初に何をしたらいいか。
ここで、二人の対照的なスタイルが浮かび上がります。まずけんすうさんは、人を巻き込むより先に、自分で作り始めることを勧めました。
人を巻き込むのを最初にやる人って結構失敗しがちというか。自分でずっとやってて、「なんかもうこれ助けなきゃ」みたいになった方がいい。
一方でアンリさんは、自分は誰かに助けてもらわないと進められないタイプだといい、ゴールだけを決める人間だと語ります。二人は、それぞれの得意なリーダー像に合わせればよいと整理しました。
アンリさんは高校生の頃の気づきも紹介します。仲のいい友達5人で修学旅行の行き先を誰も決めなかった経験から、「決める役割の人がいない空間」があると知ったといいます。
でも決めるって役割の人がいない空間ってあるんだって高校生の時に気づいて、それ以来あの適当に決めるみたいな役割やってるんですよね。
質問者が来月末に1メートルほどのプロトタイプを作る予定だと話すと、けんすうさんはそれを後押ししました。口で言うだけでは警戒されるが、実物があれば信頼されるからです。
まず自分で作り始め、危なっかしさを見た人が自然に協力してくれる状態を作る
自分はゴールだけ決め、優秀な誰かに助けてもらう前提でキャラを立てる
ユーザーを巻き込むアプリの仕組み
続いては、アプリのユーザーをどう参画させるか、という質問です。金銭的なインセンティブがないと情報をシェアしてもらえないのでは、という悩みが語られました。
ユーザーが体験談やレビューを前向きにシェアしてくれる、有効な仕組みやコミュニケーション設計を初心者向けに教えてほしい。
けんすうさんの答えは、ユーザーに「自分たちが作った」と思ってもらうことでした。リリース前から開発の様子を発信し、意見を聞きながら作る形にするのがよいといいます。
それのまあ手柄をお客さんに渡すっていうのをやると、「あの機能作ったの自分なんだ」と思うので、まあ頑張って拡散してくれたりするんですよね。
フィードバックの手段も、専用ツールを埋め込む必要はなく、Xのリプライなどでよいとアドバイスしました。あくまで、お客さんが作っているサービスだという感覚が鍵になります。
UGCを生む設計は「ユーザーを主人公にする」
さらに専門的な話として、UGC(ユーザー生成コンテンツ)をいかに生み出すか、という質問が続きました。
使っているユーザーが発信したくなるような、UGCが生まれやすい全体的な設計について意見がほしい。
けんすうさんの答えは明快でした。ユーザー自身が主人公だと思える設計にしないと、投稿は集まらないというものです。
ゴッホの絵も、昔は絵だけを写真に撮って投稿してたけど、今は自分がそこに入って、映えるような絵しかシェアされてない。ゴッホの絵の隣にいる自分が主人公だから。
けんすうさんは自身の事例も挙げます。「私を構成する5つのマンガ」というサービスは600万〜700万人が使ったといいます。それが自分の話だからこそ、広く拡散されたと語りました。
「私が好きなマンガ」だったらやっぱちょっと弱いし、「おすすめなマンガ」だったらもう投稿しない。あくまで自分を知ってもらうためのツールとして漫画を紹介するまで行くと、すごいやってくれる。
アンリさんも、MBTIや動物占いを例に挙げ、自分の話だと思ってもらえる設計の強さに同意しました。
投資教育と「働くことの楽しさ」
金融業界2年目の質問者からは、二つの質問が投げかけられました。一つはけんすうさんのキャラクターの誕生秘話、もう一つはアンリさんへの金融教育に関する問いです。
まずキャラの話。けんすうさんは18年前、ロケットスタートという会社を立ち上げた際、5分ほどで作ったキャラをプロフィールに使い続けているといいます。今はバージョン9か10ほどになっているそうです。
20年ぐらいプロフィールで使ったら浸透するんじゃないかと当時思って、今18年目です。あと2年。
続いて金融教育です。質問者は、NISAなどをめぐり「インデックスファンドに投資しておけば仕事を頑張らなくてもいい」という風潮に危惧を感じていると話しました。
アンリさんは、「稼がなくていい」という話は寂しいと語ります。労働を苦とお金の等価交換とみなす風潮は、大人全体の責任だと述べました。
その上で、金銭的な労働からの解放はAIが目指すゴールに近く、その世界観自体は否定しないといいます。ただし、そこで労働は楽しみのためのものになるはずだと話しました。
「給料ゼロでもやれる仕事」とか、「楽しいからやってる」っていうのを大人がもっと発信するのとセットで金融教育をしないと、辛いことから解放されるために投資をしよう、になる。それって誰もハッピーじゃない。
二人はさらに、いわゆるFIREで幸せになった人を見たことがない、という話で盛り上がります。
ファイヤーした結果、社会との接点がなくなって、やることがなくなって、また働き始めるっていうのが一番いいコース。労働辞めることで不幸になった人の方を多く見ますね。
アンリさんは、山田進太郎さんが1年間世界旅行をした例を挙げつつ、周囲では1ヶ月で限界が来る人もいると語りました。社会と接続されていることの幸せと、断絶されることの苦しさを、みんなに伝えたいと話します。
モチベーションに頼らない働き方
40〜50人のチームを率いる質問者からは、長く続けるための自分と周囲のモチベーションの保ち方が問われました。
5年10年と一つのことに熱中する中で、自分や近くの人たちの熱を落とさないために意識している点があれば聞きたい。
アンリさんは、人間は飽きるものだと率直に語ります。飽きたら、会社の中のテーマ自体を別のものに更新していくのだといいます。
「自分」っていう生き物と、「自分をコントロールしてる自分」っていうものを一緒に意識しながら、自分のモチベーションに餌を上げてるっていう感覚でやってたりする。
一方でけんすうさんは、そもそもモチベーション否定派だといいます。モチベーションで仕事をする人は、それがなくなると辞めてしまうからです。
けんすうさんは、多くの人が意志と気分の高まりとやる気を混同していると指摘します。それらをすべて「モチベーション」とひとまとめにするから話がややこしくなる、という整理です。
「ウィル」っていう「意志」と、「テンション」っていう「気分の高まり」と、やる気の話を混ぜた結果、やる気出ないとモチベーション低いと思っちゃうみたいなバグが生じる。
けんすうさんは、ある大企業の経営者から聞いた言葉も紹介しました。社内で全部データを取ってみたが、モチベーションとパフォーマンスは何も関係なかった、というものです。
モチベーションって口に出す人が仕事できたことあんまないイメージありますね。
番組の「どでかい目標」
最後の質問者は、この番組の1年後の「どでかい目標」を掲げてほしいと投げかけました。
「ハートに火をつけろ」の1年後のどでかい目標を掲げてほしいです。
アンリさんは視聴者数を追うことにはあまり関心がないといいます。むしろ、この番組は自分の趣味として続けるのがいいと考えているそうです。
本当に想像しないような人と、その「何の情熱なんだ」って話をしたいなっていうのは。
目標として挙がったのが、起業家ではない、普段メディアに出ない人をゲストに招くことでした。ラッパーや、売れている漫画家に実際にオファーしていると明かします。
けんすうさんが「ラルクのハイドさん」を挙げると、アンリさんは、それが実現したら最終回だと笑いました。もし真正面から不快感を示されたら番組が終わってしまう、という掛け合いです。
でもそこで真正面で不快感示されたらこの番組終了なんですけど。やっぱハイドに怒られたら終わっちゃう。
最後は、想像もできないような人をゲストに呼ぶこと、そしてもし大事故が起きたら二人で反省会をすること、という着地でこの回は締めくくられました。
なお、この回は初めての公開収録でした。アンリさんは、リスナーのリアクションがリアルタイムで分かり、触れてはいけないビジュアル系や漫画の話題があると分かって勉強になった、と振り返っています。
まとめ
1周年の公開収録は、番組タイトルの意外な由来から始まり、情熱の正体、プロジェクトの始め方、UGC設計、投資教育、モチベーション論まで、けんすうさんとアンリさんの掛け合いで幅広く語られました。共通していたのは、劇的な理由や強いモチベーションを前提にしない、地に足のついた見方です。
- 情熱は「元気さ」ではなく、理由すら存在の前提になった「怨念じみた狂気」に宿ると語られました。
- プロジェクトは、まず自分で作り始めるか、ゴールだけ決めて巻き込むか、自分のキャラに合わせて選べばよいとされました。
- UGCは、ユーザー自身を主人公にする設計にしないと投稿が集まらない、というのがけんすうさんの持論です。
- 投資教育は「稼がなくていい」ではなく、「働くことの楽しさ」とセットで語るべきだと話されました。
- モチベーションは意志・テンション・やる気の混同で、それに頼らず仕事をする方がよいと提案されました。
