スタートアップ向け番組に「ビビっている」ゲスト
番組冒頭、佐俣さんは「ハートに火をつけろ」らしいテンションの高いイントロで遠山さんを紹介します。
一方の遠山さんは、事前にいくつか回を聴いてきたと明かします。
いや本当にこれ、毎回そのテンションで喋ってるのかな、ってかなり疑心暗鬼で今日ここに来たんですけど、本当にそのイントロで入ってたんで、ちょっと若干引いてるっていう。
佐俣さんは、この番組が想定するリスナーは起業家やスタートアップ関係者が中心だと説明します。
そのうえで、あえてスタートアップの外にいる人を呼んでいると語ります。漫画家やミシュランで星を取る人、慶応の塾長など、佐俣さんから見て「一番スタートアップしている人たち」に焦点を当てているそうです。
番組の人選も、データを見て届ける相手を考えるのをやめ、佐俣さん自身が「今熱い」と思う人を呼ぶ形に変わったと話されています。
コロナ明けのゲリラライブと、渋谷の大移動
佐俣さんは、CANTEENの代表として遠山さんを紹介します。10代、20代にカリスマ的な人気を持つヒップホップアーティスト、Tohjiが所属するレーベルとマネジメントの機能を持つ会社です。
佐俣さんが最初にTohjiを知ったのは、コロナ明けに渋谷でおこなったゲリラライブでした。とんでもない勢いで人が駆け寄っていたと振り返ります。
遠山さんによると、これは当時所属していたクルー、Mall Boyzの2枚目のEPを出すときのローンチ企画でした。
当時はさまざまなアーティストが「ああいうことがしたい」と言っていた時期だったといいます。Only UがMIYASHITA PARKにファンを集めてMVを撮ったり、kZmが渋谷のライオン像の前でゲリラライブをおこなったりしていました。
コロナの時の鬱憤じゃないけど、密かにレイブとか僕らも日本橋の地下でやってたりしたんですけど、そういうのを密かにやらなくなってOKになった時の、アーティストの鬱憤みたいなのが「みんなやりたい」ってちょうど言ってた時期で。
企画は、恵比寿のBATICAという狭いライブハウスに「先着100人だけ」を入れる内容でした。インスタで謎解きのようにヒントを少しずつ出していったといいます。
ヒントは、Tohjiがこれまでワンマンをやった「ゆかりある場所」でした。その結果、彼が有名になったWWWの前に2000人ほどが集まってしまったそうです。
そこから「本当は恵比寿のBATICAだ」と分かり、山手線とタクシーと徒歩、どれが早いかを競うように全員が明治通り方面へ大移動しました。
ただ当時は情報の分断が大きく、Twitterのメイン層には何が起きたのか伝わらなかったと遠山さんは話します。
佐俣さんはヒップホップの古参ファンとして、今の10代、20代が熱狂する音楽を追えていなかったところにこの光景を見て衝撃を受けたと語ります。
そして、その熱狂の一部がCANTEENに集まっているらしいと気づき、興味を持って近づいていったと明かします。
スタートアップへの転職と、CANTEEN設立の経緯
佐俣さんがCANTEENに関心を持ったきっかけは、カルチャー系の会社を営む妻から話を聞いたことでした。
ここで遠山さんは「公式謝罪をしたい」と切り出します。会社を作った2019年8月より前に、実はスタートアップへの転職活動をしていたというのです。
なんかスタートアップっていうのがあるらしいと。よく分からんけど、事業会社に行きたいけど、ちっちゃいっていうか手触りあるビジネスっていうのは学びたいと思って、スタートアップがいいんじゃないかと思って受けてたんですよ。
その転職活動の流れで、ANRIのパートナーである直子さんとも会っていたそうです。
遠山さんは当時のヘイ(現STORES)を受けたものの「お前おもろいけどお前のポジションはない」と落とされたと振り返ります。
その後、COUNTERWORKSに入社します。同社の三瓶さんは、佐俣さんがフリークアウトを立ち上げた際に採用した元リクルートの営業だったといいます。
ところがTohjiの勢いが止まらず、遠山さんはCOUNTERWORKSの仕事を週5時間ほどしかできないまま、4カ月ほどで辞めて独立します。
僕の綺麗な経歴上は、外資の代理店にいて、Tohjiに出会い独立したってことになってるんだけど、そこの間にCOUNTERWORKSに在籍してただただ迷惑をかけたっていうのがあって。
佐俣さんは、この話を初めて知ったと笑いながら面白がっています。
「然るべき時に然るべきことが起きる」
佐俣さんは、CANTEENは「作るべくして作った」というより、Tohjiのサポートのためにできた会社なのかと尋ねます。
遠山さんは、その順番が絶妙だったと答えます。イギリスの大学院から帰国後、周りのクリエイターや編集者と作業や寝泊まりができるスタジオを、神宮前や駒場東大前で借りていたそうです。
そのスタジオの契約が切れたタイミングで、遠山さんは「現実が変わらなすぎる」と感じ、あえて月30万円の部屋を借ります。
家賃を払うために人を入れ、副業でやっていたものをまとめてチームにしようとしたときに登記したのが、ちょうどTohjiのアルバムを作った頃だったといいます。
これ僕の人生常にそういう感じなんですけど、「然るべき時に然るべきことが起きる」みたいなのが結構あって。転職っていうことと、あるライブを見て手伝わせてくれと言ったタイミングと、アルバムを作るタイミングと、自分が法人を作るタイミングが全部パンパンパンパンって重なって、「これやんないとやばいわ」みたいな感じで始まった。
複数の出来事が同時に重なったことが、CANTEEN誕生の実際の引き金だったと話されています。
「草原」に「食堂」を作るという思想
佐俣さんは、なぜCANTEENが若い世代から支持を集める人たちの集まる場所になっているのか、本人の考えを尋ねます。
遠山さんは、当時のパワーがあったことに加え、自身の「文化」や「都市文化」の定義が関係していると答えます。鍵になるのは「創造の連鎖」、つまり再帰性だといいます。
僕がこう定義する「アート」って、それを見たら前の日には戻れないみたいな。もう本当に世界の見え方が変わっちゃうとか、自分が何か作らないともうモヤモヤしちゃうとか、そういうものがアートだと思ってて。
遠山さんは、見る側のアイデンティティや「自分が何者か」という問いを投げかけるものがアートだと語ります。そうした志向を持つアーティストと組むから、他のレーベルとは違うコミュニティのようなものが生まれると考えているそうです。
佐俣さんは、それを矮小化すると「溜まり場」的なものだと言い換えます。自身もフリークアウト時代、六本木のボロボロのオフィスに佐藤さんや直子さん、三瓶さんと集まっていたと振り返ります。
そのオフィスでインターンしていた子たちの方が先に成功していったといい、「やっぱりいい場所だったんだな」と感じると話します。
遠山さんは、今のオフィスがまさにその機能を果たしていると説明します。YouTubeで世界のDJがオフィスでプレイするスタジオラジオを収録したり、併設の音楽スタジオで働く横で制作する子たちがいたりする状態です。
最初のオフィスは、ワンルームマンション2つの壁がくり抜かれた変わった物件で、Mall Boyzの子たちが寝泊まりしていました。2019年末から2020年頭は「毎週末5現場」というほどの熱量だったといいます。
会社名のCANTEENは「食堂」を意味します。遠山さんがイメージしているのは大学の食堂で、同じ場所にいる人たちの帰属意識のようなものです。
設立時には、周りの編集者たちとワークショップをおこない、自分たちがいる場所を「草原」と定義したといいます。
草原には建物がない。塔が建ってないから、みんなどこへ行けばいいかわかんないんだけど、みんなテント張って暮らしてる。いうことなんで、「ここに一個食堂があったら、みんな飯食いに来たりとか」。
遠山さんは、草原にひとつだけ食堂があると、地図やサークルの案内ができ、緩やかなつながりが生まれると語ります。全員が所属するわけでも固い繋がりを持つわけでもない、それが都市文化の理想の形だと考えているそうです。
塔がなく、みんながテントを張って暮らす。どこへ行けばいいか分からず、繋がりが生まれにくい状態
草原に一つある集まる場所。地図や案内があり、全員が所属しなくても緩やかな連帯が生まれる
ファンも一緒に作る、CANTEENのエコシステム
遠山さんは、この思想があるからこそ、お客さんを「ザ・お客さん」として扱わないと語ります。人が大移動するようなライブも、それ全体が「作品」だという認識です。
鍵になるのは、やはり再帰性です。何かを作り、それを解釈する人がいて、その人たちがプレイリスト作りや自分なりの解釈という小さな創作を繰り返す。それによって都市文化が特異なものになっていくと説明します。
口を開けてパクパク待ってる消費者みたいな、内側が空っぽの瓶みたいなことをファンとして想定するんじゃなくて、「もう一緒に作るんです、みんなで」と。
その結果、ファンだった人がやがて作り手側に回るエコシステムが生まれていると遠山さんは話します。
たとえば、CANTEENがコロナ期にやっていたレイブに客として来ていたLILYAは、元はインターンでした。DJとしてイベントのオープニングを任されるうちに上達し、Boiler Roomに出演してバズり、アーティストになったといいます。
他にも、昔のライブを見ていた人や、所属アーティストの活動からインスピレーションを受けて創作する人が、ファッションやスタイリストのチームに加わるといった形で、緩やかなエコシステムができていると話されています。
まとめ
CANTEENは、Tohjiをはじめとするアーティストのマネジメントを起点に、ファンも一緒に作り手になる緩やかなコミュニティを育ててきた会社です。遠山さんは、その根底に「草原に食堂を作る」という都市文化の思想を置いていると語りました。
- CANTEENは10代、20代に人気のTohjiらが所属するレーベル兼マネジメント会社
- 転職活動やアルバム制作、法人登記が重なる「然るべき時」に会社が生まれた
- 会社名CANTEENは「食堂」の意味で、草原に集まる場所を作るという発想が根底にある
- ファンを消費者ではなく共同制作者と捉え、再帰性を重視している
- 元インターンや元ファンが作り手になるエコシステムが自然に育っている
